54話 二重の防御を打ち破れ!
「ち、しゃらくせえ場所に来ちまったな」
「そうだな。誰が悪い?って言うと全部あいつのせいだな、ブラス」
「そうだぜ、ザッサー。シザースが来なかったのは後で仕置きしねえとな」
PKであり、PKギルド『烏合乃衆』のメンバーでもあるブラスとザッサーは揃って同じ円に入り、揃って同じ場所へ転移されていた。
目の前には金に煌く鎧を着た男。
情報によれば、とてつもない防御力、そしてプレイヤーを一撃で殺す攻撃力を持っているらしい。
「だがまあ所詮、お前が殺してきたのはどこぞの中学生だって聞いたぜ? しかも対人戦の経験がない奴らだとか。そんなんに勝っちゃっていい気になってないよな?」
と、ザッサーが鎧の男を指さして挑発する。
「あれ……? お前高校一年生だとか前に言ってなかったっけ?」
「うるせえ、お前に至っては、新人にも殺されることあるじゃねえか! 俺と一緒につるみだしてからは少しは殺せるようになってきたけどよ……」
「ああ、俺の二つ名とお前の二つ名、相性が良くて助かってるぜ」
「ブラス……よせやい、照れるじゃねえか」
「ザッサー……」
「ブラス……」
ブラスとザッサーは互いに見つめ合いだす。
「あー、おほん。ちょっといいか? てめえらは俺と闘いに来たんだよな? この『五行同盟』金担当、『金属光沢』のオルナイフ様とよ」
そこでようやく鎧の男――オルナイフが口を開いた。……顔すらも鎧に包まれ口を開いているのかは分からないのだが。
「さあ、来いよ? お前らが弱いと見下した中学生15人の攻撃を受けきった俺の自慢の防御力。見事ぶち抜いてくれるんだよなあ?」
挑発に挑発をオルナイフは返していく。それは安いものを買ったから安いものを売り返しただけであったのだが、見事に二人は挑発を受け止めてしまった。
「ようし、見せてやるよ。『二重構造』」
「ああ、お前の二つ名、俺が支持してやるぜ。『現状維持』」
ブラスの身体を薄い半透明の膜が覆う。それをザッサーの二つ名の能力により緑色がかる。
「突撃じゃあああい!!」
「行ってこいブラス!」
ブラスがオルナイフ目掛け突撃する。その無防備な突撃にオルナイフは呆れながら、
「なんだそりゃあ……」
1本の針を手に持つとブラハ目掛け飛ばした。
それは1つでプレイヤー1人のHPを消し飛ばすには十分な威力を持つ針。
「ど、りゃぁぁぁぁ」
だが、その針はブラスの身体の手前、薄い膜にぶつかるとそのまま弾かれ地面に落ちた。
「おう? どういうもんだそりゃあ」
オルナイフは感心したような驚いたような声を出した。
感心は彼の防御力の高さ。驚きは相手の能力がまだ分からないからであった。
「へっ、説明してやんぜ」
と、ブラスの後ろからザッサーが説明を始める。
彼はすでに勝った気であった。
なぜならこの二人の二つ名のコンボを打ち破った者は自分らのギルドの団長くらいしかいなかったからである。副団長ですらこれには手を焼いていた。
「まず、ブラスの『二重構造』はこの薄い半透明の膜だ。一回限りだがどんな攻撃でも無効化できる。こいつはその一回だけで十分と思っていたらしく、それで突撃しては2回攻撃されて死んでいたんだが、俺の『現状維持』でそれは大きく化けたね」
「こいつの『現状維持』はそのものの持っている性質の変化を防ぐ。つまり、俺のこの膜の防ぐって性質は変化しない。壊れずに防ぎ続けるのさ」
ザッサーの説明をブラスが受け継ぐ、互いに互いの二つ名をオルナイフに自慢するように。この無敵のコンボを破れるものなら破ってみろと。
「そうか……で?」
「へ?」
「これだけか? これだけで俺の防御力がどうにかできるとおもっているのか? 確かにお前らの防御力は称賛物だ。だが、それだけであれば俺の防御力は突破できまい」
ブラスが剣を振るう。だが、それはオルナイフの鎧に容易く弾かれてしまう。
「それは……いつか攻撃しまっくていれば死ぬに決まってるじゃねえか!」
「そ、そうだそうだ!」
オルナイフからの攻撃を防ぐことですでに勝った気でいたが、実は相手の防御力のことを忘れていた二人。
防御力はほとんど同列。むしろブラハの方が絶対に破れない分、優勢でもあった。
「おいおい……。言っておくがな、防御力はこれで同じだとしても攻撃力に関しちゃあ、俺の方が上だってこと、忘れてないよな?」
「へっ、それだって俺に効かないんじゃ意味がないぜ!」
と、ブラハは粋がるも、
「ああ、お前ならな。だが、その無敵の防御をつくってくれている仲間はどうだ?」
オルナイフはザッサーの方を見やる。
「あ、やべ……ザッサー逃げろ!」
ザッサーは慌てて駆け出すも、オルナイフは手に針を持つと振りかぶる。
「これで終わりだな」
オルナイフの投げた針が背中に刺さりザッサーのHPは0になった。
「ザッサー!? よくも……」
ブラハはオルナイフを睨みつける。
「これでお前のその防御膜も無敵なのは一回だけになっちまったなあ? じゃあ死ねや」
「ぐぎゃ」
こうしてPKギルド『烏合乃集』の下っ端であるブラハとザッサーは噛ませ犬のごとく命を散らしていった。
「なんでえ、つまんねえの。どこかにもっと熱い戦いのできるやつはいねえかなあ」
ただ1人となったオルナイフはそう独り言ちる。
今の相手は防御力に関しては良かったが、他が駄目であった。攻撃力もそうであるが、何より品格も知能も。
「ならば我が相手いたそう」
そう言って現れたのは黒い鎧を着た男。
「……誰だお前」
「名か。今はトワイスとでも呼んでくれたまえ。二度目の、生の途中である」
「ふーん、トワイス、お前は強いのか?」
オルナイフは問う。強者との闘いを今、彼は望んでいた。先ほどのような者では満足できない。
「強いかどうかは貴様自身の目で確かめると良い。まあ我はすでに一度負けた身だ。絶対的な強者ではない」
「そうか。なら今日は二度目の敗北だ!」
オルナイフが針を投げつける。
「やれやれ……闘いを求めるか。貴様は怪物のような男だ」
トワイスは地面に両手を当てると、そのまま何かを抜き出した。
地面から抜き出した2つの黒きものはトワイスの手から離れると、針に向け各々の爪で弾き飛ばした。
それは、黒いコウモリとトカゲであった。
「『竜魔激突』」
と、トワイスは己の二つ名を口にする。同時に弓矢を取り出し、鎧と同じ黒い兜を被る。
「かつての我の名を冠したアスタロトというこの弓、そして我の二つ名『竜魔激闘』を以てして貴様という怪物を退治してやろう」
黄金に光る鎧を着たオルナイフ、そしてそれに対峙する暗黒の靄を纏う鎧を着たトワイス。
見た目だけでは悪と善ははっきりしていた。
しかし、破壊する者と守る者では見た目では測れることはない。
「お前の力も怪物じみていることを期待しているぜ」
オルナイフの言葉を合図にして互いの二つ名はぶつかり合ったのであった。




