48話 五行同盟火木土
【ウォークライ南】
そこはかつて森であった場所。だが、今はそこに木は1本たりとも正しい状態で立ってはいなかった。
「あづいあづいあづいあづいあづいあづいあづい」
男は燃えていた。男の触れるものも燃えていた。木に手をつけば木が燃え盛る。男が草原を踏みしめれば火が燃え移っていく。
火は伝染し、新たなものへと燃え移りその勢いを増していく。燃え尽きることはない。ここには燃えるものがたくさんあるのだから。命を燃やして火は栄えていく。
「なんだ、すでに死に体ではないか。魔法使いどもを連れてきたが、どうやら出番はなさそうだ。儂だけで十分であろうな」
そう周りに誇張しているには禿頭の大男。
袈裟を羽織ったその姿と禿頭から彼の職業は僧侶であると誰もが分かってしまう。
だが、回復を得意とする僧侶であるにも関わらず彼の手には彼の身長に迫るほどもある1本の槍がある。
「儂のこの槍と『怨霊大敵』があればあのような化け物、さほどのものでもないわ」
男の名前はゲンプク。僧侶という職業の上級職業にあたる僧兵という職業である。回復と攻撃を同時にこなせる僧兵はアンデッド系モンスターに対して多大なるアドバンテージを取ることもできる。浄霊スキルというアンデッドモンスターに特攻効果のあるスキルは通常モンスターには効果が薄い。だが、ゲンプクの二つ名である『怨霊大敵』は相手に強制的にアンデッドの属性を付与させる能力を持つ。
敵をアンデッドにしてアンデッド特攻効果のあるスキルを持って滅する。それがゲンプクの闘い方であった。
「『怨霊大敵』! そして、『ホーリーソウル』」
ゲンプクは相手にアンデッド属性がついたことを確認すると勝利を確信した。
ゲンプクの槍は錫杖の先端を槍に改造したものであり、元々がアンデッドに対して特攻効果がある武器であるため、そこにさらに僧兵の浄霊スキルにより特攻効果を付け足した槍はアンデッドに対して凄まじいほどの攻撃力を示す。
「行くぞ!」
一瞬で距離を詰めゲンプクは流れるような槍捌きを見せる。正確に燃えている男の心臓を捉え、突き刺す。
「ふんぬっ」
持てる全ての力を込めてゲンプクは炎の男に槍を突きさした。
「ぬうっ!?」
だが、その突き刺した槍に手ごたえは感じない。
「……儂の槍が!?」
槍を引き戻すと突き刺した先端が消えてなくなっている。
「あづいあづいあづいあづいあづい……すべて燃えてなくなればいいのに」
炎の男が手を伸ばす。ゲンプクは慌てて下がろうとするが、袈裟に指先が引っ掛かると、そこから炎が燃え移った。炎はすぐにゲンプク自身にも燃え移ると全身を焼いていく。
ステータス異常は火傷。だが、その熱量は明らかに普通の火傷程度ではない。瞬く間にゲンプクのHPは減っていく。
「『ヒール』、『ディスブラスト』」
回復系スキルをし、火傷を治療する。だが、身体からは炎を消えず、すぐに火傷のステータス異常が戻ってくる。
「っ!? 誰か、水魔法を使える者はおるか?」
「はい、私が!」
ゲンプクの他にいたプレイヤーが名乗り出た。女性の魔法使いのようだ。
「すぐに儂の炎を消せ! この炎を消さぬ限り自然には消えぬようであるし、火傷状態を消すこともできぬ」
女性はすぐに威力の少ない、水量だけが多い水魔法をゲンプクに浴びせた。
「かたじけない。……貴様ら、心してかかれ。こやつは尋常でないぞ」
先ほどの互いの一撃ずつの攻撃から――相手にとってあれは攻撃と呼べるのかすら怪しいが――ゲンプクは相手の方が己よりも力量でも能力でも全く太刀打ちできないことを悟った。
恐らく消えた槍の穂先は信じられないほどの熱量で溶かされ蒸発させられたのだろう。
「……水魔法を遠距離から放て。あやつは接近戦では無敵かもしれぬが遠距離攻撃はできぬと見た」
ゲンプクの言葉に数人の魔法使いたちが水魔法を放っていく。
水と炎がぶつかる。圧倒的な水量と圧倒的な熱量がぶつかり、水蒸気爆発が起きる。
辺りは白く染まり、時間とともに消えていく。
「あづいあづいあづいあづいあづい!!!! ちっともこの熱は収まらない!!!!」
爆発の後にはただ一人、今だに燃え続ける男だけが立っていた。
燃え続ける男の名前はヴェルフ。五行同盟の火担当であり、プレイすること自体に苦しみを覚えている男。
「だ、誰か……俺の身体を冷やしてくれ」
なぜこうなってしまったのか。その原因は彼には分からない。その原因の一端が彼自身にもあるのだから。
【ウォークライ東】
ここはウォークライの中でも森の奥深く。辺りには木々が生い茂っている。それ自体は森ということもあり、何ら不思議ではない。
木々にプレイヤーが刺さっていることを除けば。
「うむ、モズの速贄とはこういうのを言うのだろうか。……いや、彼らの死体なぞ私にとっては経験値とアイテムを譲渡してくれるが、そこに残るには私への憎しみくらいであろう。後に私にある利益は微塵もない」
プレイヤー達はまだかろうじて生きている。だが、そのHPは徐々に減っていき、その命を吸っているかのように木々は大きくなっていく。
木々の中心にいる人影。その人影から声が発せられたおかげでかろうじてそれが人であり男であると分かる。
その人影にはヘルメットや鎧といった防具らしきのは身に着けていなかった。その代わり、その人物には木々が巻き付いていた。その木々は身体を締め付けているわけではなく、まるで外敵から守るかのように全身を覆っていた。
「植物というものは偉大だな。ここが森の最奥ということもあり私の力が最大限発揮できた」
森の木々全てが男の武器であり防具であり味方であった。
枝を槍のように尖らせ敵を刺し貫いていく。
幹を並べ敵からの魔法を防ぎ、相手の進行を妨げる。
自在に、思うがままに木々を操ることが男の能力。たったそれだけのシンプルな能力であるがゆえに強い。
「……このまま負けられるか。『瞬間加速』」
死にかけていたプレイヤーの一人が無理やり木から身体を抜き、男の元へと一瞬で詰め寄る。一時的にAGI値を数倍にまでする二つ名を持つ彼はその勢いを殺さずに剣を振るう。
ガキン、と音がして剣が木に阻まれた。
剣は男に巻き付く木の半分まで刺さったところで止められた。
なぜ、と彼は思う。『瞬間加速』によっ振るわれた剣は例えステータス値でのATKが少なくても十分な威力を発揮してくれる。例え木の直径が分厚くとも所詮は木。断ち切れるはずであった。
「確実に、倒せる威力だったのに……」
「自然は雄大で偉大だ。貴様が思っている以上に、な」
男はプレイヤーの足元を指さす。
プレイヤーの足元は根が張り巡らされ、プレイヤーが移動した場所だけが踏み潰されていた。
「その根は踏まれると自動的に踏んだプレイヤーの足に捕まるよう命令しておいた。貴様が気づかぬほどの力であるが、それでも貴様は自分が思っている以上に遅かったぞ」
プレイヤーの足には細かい根が張られ、動きを止められていた。根はどんどん太くなり足に絡まり始める
「ではな」
足元から上ってきた根がプレイヤーの全身に絡まりそのまま一気に締め付けた。
「あ……が……」
僅かに残っていたプレイヤーのHPが全て無くなり、プレイヤーはポリゴンとなった。
「ああ、我が娘よ。どこにいるのだ……」
【ウォークライ中央】
ウォークライ中央はかつて木々の迷宮というオセのいた森である。ボス部屋のある森の中央に向かえば向かうほど仕掛けられた罠により被害者が出るという最悪に近い迷路であったが、今や岩と砂だけとなってしまっている。
「ふむふむ、やっぱりダメダメですねー。私の想定した威力の半分も出せてませんよー」
その岩と砂の中で一人の十代半ばほどの少女が砂に文字を書いている。それは一つの計算式であり、他人には理解できない、彼女だけに意味がある文字と数字である。
「うーんと、ここをこうして……ああ、あそこの式をここに入れればいいんですね!」
悩んでいた彼女であるが、解決したのかパアっと明るい表情を見せる。
先ほどまでの計算式とどこがどう変わったのか分からない。いや、始めからそれが計算式であったことすら確かなことではなく、ただの彼女の落書きであったと言われても不思議ではないほど形も大きさも不規則である。
「はぁっはぁっ。よくも、俺の仲間を!」
彼女の目の前に現れたのはおよそ20人ほどのプレイヤー達。彼らは彼女が街を岩と砂に変えたときに一緒に砂の中に埋められ殺されたプレイヤーの所属するギルドメンバー。
「『キングオブナイツ』というギルドを知ってるか? 俺はそこの団長をやらせてもらっているギリストだ。俺の仲間の剣士の敵、取らせてもらうぜ」
「んー。『キングオブナイツ』ですかー。知らないですねー」
「そうか、ならば今日を持って知るがいい。貴様を倒したギルドとしてな!」
ギリストの後ろにも剣を構えたプレイヤー達が並ぶ。
「お前が殺したのは俺のギルドの中ではレベルでも経験でも弱い奴らばかりだ。今ここにいる、こいつらこそが我がギルドの精鋭。そして『キングオブナイツ』は一番強い者が団長になるのがしきたり。この意味が分かるよな?」
女が殺したのはあくまで雑魚であり、ギリスト含め今ここにいる者達は質が違う。そうギリストは言っているのだ。
そして、女を殺せると算段もついていた。
「『万物切断』」
ギリストの二つ名は『万物切断』。その名の通り、剣で斬れないものはなく、抵抗という概念を消し去るという能力を持つ。
「俺に続け!」
ギリストが駆け出すと『キングオブナイツ』の他の面々も続けて駆け出す。剣に炎を纏わせたリ、剣を伸ばしたり形状を変えたり、両手にそれぞれ全く同じ剣を持ったりと剣に関する二つ名の持ち主ばかりである。
「ああ、丁度今完成した魔法式を試すチャンスじゃないですか! あなた方はいい人ですねー。私の実験台になってくれるなんて」
少女は杖を握る。
それは杖頭が豹の頭を模した杖であった。
「■■■■――。『サンドカーペット』」
それは本来であれば直径数mの砂浜を数mの深さで相手の足元に出現させる砂魔法であった。発動までに時間がかかり、さらに数mという熟練のプレイヤーならば避けるのも容易いその魔法は大型のモンスター相手にしか通用しないものであった。
だが、彼女はその魔法を発動する直前に聞き取れない言葉を使った。
魔法を発動するのに呪文は使わない。魔法名さえ言えばそれで発動できる。
そうであれば、彼女の意味不明の言葉はなんであったのか。
「なっ!? この規模の砂魔法だと……」
それは『サンドカーペット』が発動されることによってその言葉の意味が理解された。
1㎞にも及ぶ砂浜。そして……深さに上限いや、下限はなかった。
「お前ら、なんとかして沈まないようにしろ!」
「無理です! 俺の二つ名じゃあどうすることも」
「俺もです!」
「俺も!」
近くから無理という言葉が聞こえてくる。中にはすでに沈みきってしまい死んでいるだろうというプレイヤーさえいる。
「畜生! 『万物切断』」
押し寄せる砂の波を切るが、再度砂が押し寄せギリストを砂の奥深くに押し込めようとしてくる。
必死にプレイヤー達はもがこうとするが、それはかえって沈むスピードを速めるだけであった。
「んー。実験は終了です! 大成功でしたー」
最後に背伸びをして少女は去っていった。
後にはただ砂浜が広がるのみである。
いやもう楽しいですね。こういうの書きたかったんですよ~
ちなみに挑んだ人たちが再出演するとしたら一週間後以降ですので、まあそのままどこかへと行ってしまうかも……思い出したら書いてみます笑




