46話 離脱と名乗り 五行の始まり
「――ということがあったんですよ」
場所はゼギエルにあるギルド『フレクション』のホームでもある同名の喫茶店。そこでリュウキとシズネは今回のクエストの報酬の件で相談しに来ていた。
死亡すら回復できるアイテムはどのくらい重要なのか、いつ使えばいいのか。ダラーク達ほどそれを知っている者はいないであろう。なにせ全プレイヤーの中で最も死線を潜り抜けてきているのだから。
「そうか……予想できる報酬のしょぼさからパスしていたが、そんなモンスターがいたのか。おいお前ら、さっそく行ってこようぜ!」
だが、ダラークの興味は報酬よりも三つの試練で闘ったモンスターに向いていたようだ。
アザリカとジュガがそれを抑えつけ、ようやく鎮まるが、ソワソワしている様子は子供のようだ。
「はいはい、いつか行くのなら今はリュウキ達の話を聞きましょ? それでそのアイテムだけど、私はボス戦に無理に使わなくてもいいと思うわ」
「そうだな」
「まあ、好きにしたらいいさ」
アザリカからは予想外の言葉が飛び出て、ダラーク、ジュガも同意する。リュウキは攻略組である彼らは攻略を有利に進めるであろうこのアイテムを使うことを望んでいると思っていた。
「え? いいんですか? だって……」
「……珍しいアイテムのはず」
貴重であるからこそ使い時を聞きに来たのだ。それを好きに使えなどと言われても、リュウキにはどう使えばいいのか分からない。
「お前らが自分の力で取ってきたアイテムを俺らが使えと命令するわけないだろ。そんなもんなくても全部倒せばいいだけ。死ななきゃいいだけだ」
「ダラークさん……」
「それにいつか俺らはそのアイテムのある場所まで行くんだぜ? ついでにクエストを受けるくらい何の苦でもねえ」
それからは三つの試練のモンスターの特徴などを話させられ、最後に、ティアンヌの病気を治せたことを知るとアザリカはふうーっと安堵をするかのように息を吐いた。
「そう……なら『メディックフラワー』さえ手に入れればいいのね。時間が掛かっちゃうのがあれだけど」
「そうですね。2.3日しないと発生しないっていうのは時間的にもかかります」
「ん~、そっちもそうだけど、一日でクリアするなら夜までかかるってこと。夜中までだとさすがに実生活に支障でちゃうし」
確かに、リュウキ達がクエストを達成できたのはほとんど深夜に近い時間帯。マカに至っては完全に法律で定められた時間外になってしまっていた。
「……と、そうだマカなんですけど」
そこでマカにあった出来事をリュウキは思い出した。本日マカがいない理由を。
今日の放課後、マカが泣きついてきた後に起こった出来事を。
「実はこのクエストでマカが10時を過ぎてしまいまして……」
「確か小中学生は10時以降は禁止だったな」
「はい。なので罰として超えた時間×日数分ゲームができなくなってしまったんですよ。今回は3時間なので3日間ログインできないって嘆いていました」
何事かと帰宅したリュウキもマカにつられて慌ててしまったが、よくよく話を聞いてみれば当然の結果であった。むしろ罰は軽いほうではないだろうか。
「まあそんなわけでして、マカはしばらくできないんですけど、」
「……私たち、来週から試験期間」
と、シズネが横から挟む。
リュウキ達が通う高校も、マカの通う中学もマカのゲーム再開の翌日から試験期間に入るというわけで10日ほど、DNOへのログインはできなくなることになる。
リュウキとシズネはクエストの報告とともにその旨を伝えに来たのであった。
「そうか。まあ勉強も学生の本分だわな」
「なあダラーク。なら俺たちもちょうどいいんじゃないか?」
「そうね。この子たちには言ってもいいんじゃない?」
と、そこでアザリカがダラークに言い、ジュガもそれも肯定する。
「……? ダラークさん達も何かあるんですか?」
「ああ。俺たちのリアルでの仕事がな。ちょうどお前らのいないのと同時期に一週間ばかし出張みたいなもんがあるんだ。俺ら三人で行くからどうしても攻略が進まなくなりそうだったんだが……お前らもいないとなると余計に進まなさそうだな」
そう言ってダラークは笑う。
だが、リュウキとしては自分たちがいないだけでそんなに影響があるとは思っていなかったため、いやいやと首を振る。
「俺たちそこまで強くもないですよ。一週間なら俺たちよりは先にゲームに戻ってるんですね。攻略、間に合いそうなら手伝います」
「おう、期待してるぜ」
こうしてリュウキ、マカ、シズネという第一のプレイヤーボスであるアスタロト攻略の鍵となったプレイヤー達、そして最前線の要であるダラーク達3人がDNOを留守にすることとなった。
自分こそが最強と謳う者、この隙に好き勝手行動し始める者、帰って来た時のために鍛錬に勤しむ者、何も変わらない者など様々であるが、最も多かったのは、今のうちに攻略を進めておこうというプレイヤーであった。
ダラークを慕っている、妬んでいる、避けている、対抗心を抱いているなど動機はともかくとして、彼らは一週間というダラーク達の留守の期間にボスを発見するところまでは行ったのであった。
あくまで発見だけであったのだが。
ウォークライという街はドーナツ上になっており、中央にもモンスターの跋扈するフィールドはある。中央こそがプレイヤーボスのいる木々の迷宮であり、街はそれを囲うようにして作られていた。そしてさらに東西南北、ウォークライの周りにはそれぞれ木々でできたフィールドがあった。
迷宮を進むのは1つのパーティー。本当はギルド単位で挑んでおり、いくつものパーティーで来ていたのであるが、どれも初見殺しの罠により壊滅させられてしまった。場所さえ分かっていれば対処はできるので、次回からはもう引っかかることはない。
「よし、今日は様子見だけだ。できるだけ粘って攻撃パターンを探るぞ」
「「「「「おう!!」」」」」
もはや6人だけであるが、一番バランスの取れたパーティーであり、最も結束力の高いパーティーである。それもそのはずでギルド長であるシバを中心として、彼がゲーム開始当初から組んでいたプレイヤーで構成されたパーティーであるからだ。
迷路の最奥にある木でできた重厚な扉をゆっくりと開けると、そこにはこじんまりとした部屋があった。
「……?」
シバは首を傾げる。
こんな狭い場所では闘えないではないか。自分達は6人であったからまだは入れたが、これはおかしい。
「まさか……バグか?」
部屋の大きさの設定に異常が生じているのではないだろうか。それならばすぐにでもGMに連絡を……
『バグじゃないよ。これは僕がつくった部屋。僕がそんな馬鹿なことをするわけないじゃん』
どこか子供のような口調で、男女どちらともとれる中世的な声が部屋中に響き渡る。
『ここまでご苦労様。だけどね、僕ことオセを倒すのはここじゃない。今日は帰るといいさ。明日から始まる。地獄ってやつがね』
声は部屋にいる6人だけではなく、DNOをプレイしている日本サーバーのプレイヤー全員に聞こえていた。
「なあ――」
『おっと、質問は受け付けないよ。明日になってのお楽しみ。ああ、NPCはちゃんと避難させておくから安心して。死ぬのは君達だけだから』
口を開いた盗賊職の男を遮り、オセと名乗る声はそのまま消えていった。
情報が少なすぎる中、飛び交ったのはNPCが巻き込まれるほどの何かしらの災害のようなものが来るのではないかというものであった。
地震や大竜巻など、プレイヤーボスという選ばれし二つ名であればできるのではないか。戦闘職のプレイヤーはともかくとして、非戦闘職のプレイヤーは少なくともウォークライから離れていたほうがいいのではないか。何も分からないまま、デマと真実か分からない情報が交錯して翌日の朝になった。
彼らの憶測は半分当たっていた。これから来るのは災害のようなものである。ただし災害そのものではない。災害のようなプレイヤー……いや、プレイヤー達であった。
突如ウォークライに現れた5人の男女。それぞれがその場にいたプレイヤー達のHPを奪っていく。
北では何をされたのか分からずプレイヤー達が死んでいき、
西では攻撃しても決して倒れない敵に絶望し、
南では全てを燃やされ、
東では身体中を貫かれ、
中央、プレイヤーボスを発見した迷宮では全てが埋もれた。
彼らは自らをこう自称する。
「我らは『五行同盟』。オセ様より頂きしこの能力で貴様らに鉄槌を下す! ボス攻略は我ら全員を倒すこと。しかし貴様らにそれができるか? これは我らが復讐劇である!」
後に最悪で災厄と言われた5人はここから始まった。
ここからしばらく主人公たち、そしてダラーク達はでてきません
一般の雑魚 (ではないけど)の闘いをご覧ください




