45話 完治
第一の試練である『テジュ・ジャグア』という犬型のモンスター。このモンスターにとって斬られることは自身の攻撃性を増すための恩恵とさえ思わせていた。傷口から頭部を増やす二つ名『多頭猟犬』によって身体中から頭を生やし、最後には火さえ噴いてきた『テジュ・ジャグア』は最後には全身を大岩により押しつぶされ息絶えた。
第二の試練では『ライフル・フェゼント』という鳥型のモンスター。鳴いたら自身へと銃弾を撃たれると言う『雉声銃声』デメリットしかない二つ名を相手の背後から撃たせることで自身への攻撃と見破らせないようにし、なおかつその銃弾でプレイヤーへとダメージを与えていた。『ライフル・フェゼント』の気を逸らすことで最後にはその銃弾を胸に当てさせることができた。
そして第三の試練では相手に見せず言わせず聞かせない『三猿封印』という二つ名でリュウキ達三人を同時に苦しめた『スリーピースモンキー』。一体を倒すたびにその封印は更に強くなり呼吸や頭痛さえ起こさせた。
それぞれの封じられた感覚はそれぞれの特性を封じるのには十分であり、たった一つの感覚を封じられることで三人は何もできなくなってしまった。
もしシズネがテイマーではなく純粋な魔法使いであったならば、きっとここで死に戻っていただろう。
これら三つの試練を乗り越えたリュウキ達はタロー山の山頂に辿り着いた。
リュウキは耳鳴り、シズネは呼吸困難、マカは頭痛と『スリーピースモンキー』の二つ名の後遺症が未だに残っている。
「さすがにもう、いないよな?」
「お兄、大丈夫だよ。だって試練は三つって書いてあったし、それに……もう闘っている時間もないよ」
あたりはすっかり日が暮れ、それどころか山の中は完全に暗闇と化している。
手持ちの光を灯すランタンのようなアイテムを使っているが、それでも少し先は見えづらい。
「……マカはもう時間過ぎてる。……確か10時にはゲームをやめないといけない」
改定案により小中学生でもVRゲームをやっていいとなってはいるが、それも夜の10時までもこと。それ以上過ぎてしまうと規定違反により何らかの罰則が与えられる。
「……だ、大丈夫だよ! それにもう過ぎてるならこれ以上遅くいたって関係ないよね!」
「いやそれ全然大丈夫じゃないけど……まあいいか。どうせこのままログアウトしても納得できないだろ?」
「うん! さすがお兄。私のこと分かってるぅ」
ランタンによる微かな灯を印に道を進み三人は山頂へと辿り着いた。
人の気配もモンスターの殺気もなく、とりあえず三人は安堵する。
「お花、お花……あれのことかな?」
マカが一本の巨木を指さす。
幹の太さだけでリュウキの背丈ほどはあるだろうか。
鮮やかな緑色の葉を枝という枝全てに生い茂らせ、葉によって重みを増した枝は地面へと垂れ下がり山と一体化していた。
「どれだ? よく見えないけど……」
「……あれ。……木のてっぺん」
シズネの指さした方向――巨木の頂上には緑に溶け込むようにして一つの花があった。
「あれは……登れるかな」
巨木の高さは20mほど。生身ではなくレベルの上がったステータスであれば可能であるのかもしれない。
「よし……やってみるぞ」
リュウキに木登りの経験はないが、上手く足を引っかけ、ある程度の高さまで登ると枝を伝い上へ上へと上がっていく。
「思ったよりも簡単だな……っと、うわっ!?」
右手に掴んだ枝が思っていたよりも細く、体重をかけると折れてしまった。
かろうじて左手で支えられたおかげで落ちることはなかったが、リュウキの額には冷や汗が垂れていた。
「ん? この枝もアイテムボックスにしまえるのか」
リュウキは折れた枝を見る。
巨木の枝というどう使うのか分からないアイテムをしまうと再び木登りを再開する。
折れない枝を探しながら少し体重をかけ、大丈夫そうであれば次の枝に移り、足をかけ花を目指す。
「お兄、もうちょっとだよー」
「……――」
マカが声を張り上げ今の位置を教えてくれる。
シズネは声が小さすぎて何を言っているのか聞こえない。
「……後で何を言ってたのか聞いてみるか」
マカの指示のもと、右へ行ったり左へ行ったり前へ進んだり後ろへ戻ったりと位置を修正しながら登ること30分。
「ちょっと真上に手を伸ばしてみてー」
「こうかな」
リュウキが手を伸ばすと何か柔らかなものに触れた。
「それ! それがお花だからそのままちぎってー!」
いやちぎっちゃだめだろ。そう思いながらリュウキは花の根元を探す。
枝葉を掻き分け視界に花を入れると、細めの、だがピンと気丈に咲いている花の茎を見つけた。
「ごめんな。だけど、病気の人がいるんだ」
なるべく丁寧に花の根の部分からを引き抜くと『メディックフラワー』というアイテムとなってリュウキのアイテムボックスへと収まった……その瞬間、緑色に染まっていた木が一瞬にして桃色に変わっていった。
「さあ! はやくしないと!」
そろそろ日付の変わってしまう時刻だ。
こんな時間に人の家を訪ねるなどマナー違反どころの話ではないが、訪ねる先に病人がおり訪ねる者がそれを治す薬を持っていれば話は別であろう。
山を駆け下り、街の中に入りナターリア家を目指して歩く。夜中に街中を走ると憲兵がすぐに駆け付けるらしい。
「……リュウキが木から落ちたせい」
「お兄があんなとこでガッツポーズなんかするから」
リュウキは『メディックフラワー』をゲットするとその日の一日の大変さをようやく実感し、その感動と達成感、そして見事に咲き誇った花に見とれたことにより思わず枝から両手を離しガッツポーズをとっていた。そのおかげでバランスを崩し見事に落下。HPは危うく危険域を超え死に戻るところであった。
「……本当に面目ない。そういえば、シズネは俺が木登りしてるとき何ていっていたんだ? 実は声が小さくて何も聞こえなかったんだけど」
するとシズネは顔を赤く染め
「……それは……言わない」
と、そっぽを向いてしまった。
「いや、どんなこと言ったんだよ!」
「……恥ずかしい」
「しず姉これでもお兄のこと応援しようとしてたんだよー。お兄もそれで納得しなって」
シズネの態度によってますます何を言ったのかリュウキはますます気になるが、今はそれよりも、だ。
「はやくティアンヌさんの病気を治しに行かないとね」
もはやマカがゲームをできる時間の制限はとっくに迎えている。だが、それとは別にティアンヌは今なお病気により苦しんでいるのである。もっともその病気も『メディックフラワー』により治せるわけではあるのだが。
「本当に、ありがとうございました!」
真夜中での訪問になってしまったが、ティアンヌをよほど心配していたのだろう。ナターリアはリュウキ達の姿を見ると家の中へと入れてくれた。
ティアンヌの近くまで来ると『メディックフラワー』を使用してティアンヌの病気を治しますか? というアナウンスが流れ、迷わず使用すると答えた。
使用するを選ぶと『メディックフラワー』は消え、土気色であったティアンヌの顔色は元の生気のある顔色に戻ったと言うわけである。
ティアンヌの体調が良くなるのと同時に、民間クエストであった『エルフ少女への訪問』ならびに『万病に効く花』はクエスト解決という扱いになった。
「これはお礼です! 余ったお花からつくったお薬と、私たちエルフが使う杖です」
そう言ってナターリアがクエスト報酬として渡してきたのは薬と杖。薬は瓶に入っており、いくつかの錠剤であるようだ。効果は一粒につき状態異常(10秒以内であれば死亡状態も)と体力の全回復となっていた。
「死亡ってことは死に戻りも回避できるってことか」
「ボス戦にも使えるね!」
そのような効果のあるアイテムはまだ見たことがない。貴重なものなのであろう。
ダラーク達にも伝え、使用するタイミングを計らなくてはいけないという結論に至った。
そして杖であるが、これはもちろんシズネが装備することになった。
二つ名持ちであるモンスターとの連戦であったクエストの報酬であるためか性能は良く、魔法、スキルの使用MP微減少という効果も付いていた。
「……砂魔法がこれで使いやすくなる。……それに、テイマースキルも」
「岩魔法だけじゃ闘えないしね。テイムモンスターの回復はテイムスキルだけでしかできないんだっけ」
「……そう」
シズネの主な攻撃手段は強力な威力を誇る岩魔法によるものだが、それを支える砂魔法やテイムモンスター達への支援スキルもある。それらはMPを使うものであるため、考えなしに使うことはできない。無限に使えないからこそ節約できる手段というのは重要であり有用だ。
「今日は寝ようか……明日も学校あるし」
時間は日を跨ごうとしている頃。翌日も学校があることを考えるとそろそろ就寝しないといけないだろう。
「しず姉、今日泊まってってよ!」
「そうだね。今から帰るには外は暗いだろうし。一応連絡はしておくとしても」
恐らくであるが、シズネが家にいなくてもシズネの両親は何も思わないであろう。リュウキはそれを知っている。だが、万が一でも心配しているならば連絡しておかなければならない。
「……それじゃ、マカの部屋で寝る。……メール後でしておくから大丈夫」
「やったー! 久しぶりにしず姉と寝られる!」
ログアウトした後、リュウキは両親に少しばかり説教をされ(マカはされていない)、翌日に向けてすぐさまベッドにもぐりこんだ。
翌日の午後、授業も終わり帰宅したリュウキを待ち受けていたのはマカ。それはいつものことであるが、様子はとても慌てていたものであった。
「どうしようお兄! ログインできない」




