44話 第三の試練
またも広い場所に出て、第三の試練と書いてある立札が見えてきた。
残りは一体だけ。この試練さえ乗り越えれば『メディックフラワー』を手に入れられる。
「シズネ、ラビとアリアを出しておいて。マカも二つ名を。俺も今回は最初から全力で行く」
「……ん」
「よーし、8本全部使うよ! MPも十分あるし!」
シズネの隣に赤と黒が混ざった毛皮のウサギと一人の美しい少女のような機械人形が召喚される。久しぶりの闘いにやる気を見せている。
マカは剣を8本空中に放り投げる。剣はそのまま空中で止まり浮遊し続ける。8本全てをマカが使うことはあまりない。MP消費はもとい、使うのにとてつもない集中力を必要とするからだ。
白い煙が辺りに立ち込める。
三人は煙を凝視する。そこから何かが飛び出してきてもすぐに反応できるように。
煙が薄くなると三体の小さな影が浮かび上がる。
「三匹か……一人一匹で行こう」
三匹で出てくるという事はコンビネーションが優れているということだろう。ならばそれを崩せば倒しやすいはず。
「「「ウキャキャキャキャキャ!!」」」
現れたのは三匹のサル型モンスター。
見た目も大きさも同じ彼らであるが、一つだけ違う点がある。
「マスクで口を塞いでいるのと、アイマスクで目を塞いでいるやつ、そしてヘッドホンで耳を塞いでいるやつか」
「……三猿みたい」
「日光東照宮のー? 一昨年くらいに行ったなー」
日光東照宮にある三猿。それぞれが目、口、耳を押さえ見ざる、言わざる、聞かざるを示している。悪事をしないようにという意味が込められているようだが、このモンスターに限っては違うだろう。
「散るぞ!俺は右、シズネは左、マカはそのまま真っすぐだ!」
「ウキャキャ」
「キャキャキャ」
「ウキャウキャ」
それぞれサルが分かれていったリュウキ達三人に襲い掛かる。
まるで待ってましたとでも言うように笑っている。
「ウキャー」
リュウキの前のサル、『スリーピースモンキー』が自分の耳につけていたヘッドホンを投げつける。ヘッドホンはまるで意思があるかのように宙を舞い、避けようとしたリュウキの耳に装着する。
「外れない、か……」
周りを見るとシズネにはマスク、マカにはアイマスクが付けられている。
「これがお前らの二つ名ってことか。……俺が一番マシかな。耳が聞こえなくても闘えるし」
耳が塞がれると音が聞こえない。だが、それだけである。闘いに置いて多少は不利になるかもしれないが、それは仲間との連携が必要な時くらいであり、一人で『スリーピースモンキー』の一匹を倒すのであればそこまで困ることではない。
だが、シズネとマカはかなり不利になってしまっている。
シズネは口を塞がれている。魔法を唱えるための口を。これでは魔法抜きで闘うしかない。
マカは目を塞がれている。剣を浮遊させ相手に向け飛ばす彼女にとって目を塞がれるということは攻撃そのものを封じられたと言ってもいいくらいだ。
「まず、俺が倒して二人を助けにいかなきゃ……」
こうなると分かれたのが仇になってしまった。
連携し合い、互いの封じられた箇所を連携し闘った方が良かったのかもしれない。
「じゃあ行くぞ。お前を倒して俺は先に進む!」
リュウキは『スリーピースモンキー』に向かって走る。リュウキから見える相手のHPはとても低く、恐らく悪鬼と化した腕や足で攻撃すれば一瞬で決着が着くだろう。
「これで、終わりだ! 『サイドクロウ』」
リュウキはスキルを使う……身体が倒れる中で。
「あ、れ……?」
身体が傾く中でリュウキは首を傾げる。
そしてリュウキの耳に大音量が響いた。
「ぐ、うぉぉ……」
甘く見ていた。相手の能力を。なぜ耳を塞ぐのにヘッドホンを使われたのかを。
「そういえば、音を出すこともできるんだよな。超音波で三半規管を狂わせられるってことか……」
『スリーピースモンキー』は第三の試練のモンスター。苦戦こそすれ楽勝だと思うことは間違いの二つ名を持っているのだ。
『三猿封印』という二つ名が『スリーピースモンキー』の二つ名である。三猿はそのままモンスターを表し、相手の三つの感覚を封じる。その際に使われるのはマスク、アイマスク、ヘッドホンであり、リュウキはこのうちのヘッドホンにより聴覚を封じられた上で平衡感覚を狂わされた。
そしてシズネは、
「(……魔法が使えない。……だけど、私はテイマー。……リュウキが事前に言ってくれたおかげでこの子たちがここにいる)」
シズネのテイムモンスターであるラビとアリアがシズネを助けようと『スリーピースモンキー』に攻撃を仕掛ける。
ラビはそのスピードを生かした攻撃を、アリアは多彩な武器を使った攻撃をする。
「ウキャ、キャ?」
反撃されるとは思っていなかったのか『スリーピースモンキー』は慌てて逃げ回る。
「逃がしませんわよ! シズネお姉さまとマカちゃんに着けられたその汚いマスクを外しなさい!」
アリアの片腕が変化したマシンガンからいくつもの弾丸がばらまかれる。
『スリーピースモンキー』は必死に避けていくが弾丸は休むことなく撃ち続けられていくため段々と追い詰められていく。
「グルゥゥゥ」
そして、その先にはラビが待ち構えていた。
HPが減っていないため『赤黒毛皮』は発動していないが、スピードを乗せたまま『スリーピースモンキー』の腹目掛け体当たりをする。
『スリーピースモンキー』はたまらず後ろに吹っ飛ばされアリアのマシンガンの餌食となった。
「(……これで解放され……てない!?)」
『スリーピースモンキー』のうち一匹を倒したのにも関わらずマスクは外れない。
それどころか増々締め付けられ、呼吸さえ苦しくなってきた。
「(……リュウキ、マカ、早く倒して)」
二人はそれぞれ闘っている。シズネはラビとアリアに目配せをし、倒れるように座り込んだ。
「うー、見えないよぉ……」
マカの二つ名は剣を浮遊させ相手へと飛ばすこと。それだけに空間把握能力が必要となる。これまでは視覚から得た情報を脳内で処理することで操ってきた。マカの脳であれば8本であっても少し集中すれば操れるが、本来であれば1本が限界のプレイヤーが多い。
ずっと見ていなければ剣の位置を把握できず、詳細な場所が分からなければ動かすこともできないという念動系の二つ名は人を選ぶとさえ言われていた。
マカがこの二つ名を使えたのはその天才的な頭脳があってこそであったのだが、アイマスクによって視覚を封じられた今、その頭脳を発揮することができない。
「うーん……どうしよう……」
幸いなことに『スリーピースモンキー』はマカにアイマスクを付けてから何もしてこない。
剣が浮いたままなのを警戒しているのか、近づきすぎて気配を察知されるのを恐れているのか……。少し距離があるためマカには『スリーピースモンキー』の位置を把握できていなかった。
「マカちゃん。助けに参りましたわよ」
「あ、アリアちゃんの声だ! アリアちゃん、おサルさんの場所分かる?」
「ええ、もちろん。まず剣はマカちゃんの真上にあります。それをマカちゃんから見て右30°の位置に飛ばしてください。剣先は相手の方に向いているのでそのままでいいですよ」
「おっけー!」
言われた通りの位置にある剣を言われた場所に飛ばす。
言葉通りの行動を取っただけであるが、それだけにアリアに対して信頼を置かなければできないことだ。
「キャキャ!?」
飛ばされた剣に片腕を斬り落とされ、『スリーピースモンキー』は大きくHPを減らす。切断箇所からの出血は酷く、時間とともにHPが減っていく。
「次はマカちゃんの頭上から左15°の位置にある剣をマカちゃんから見て右15°の位置に飛ばしてください」
「うん!」
アリアの言葉通りに飛ばされた剣は『スリーピースモンキー』の頭を串刺しにし、HPを0にした。
「(目隠しをされた状態で良かったかもしれませんわね。こんなのマカちゃんには見せられませんわ)」
『スリーピースモンキー』も残るは一匹。
「う、頭が……」
マカが頭を抑える。アイマスクが万力となって頭を締め付けているようだ。
「マカちゃん大丈夫ですか!? ああもう、早く倒してくださいリュウキさん……」
アリアは未だ闘っている男を睨みつける。周りからはただ聴覚を封じられただけの一番状態の軽そうな仲間を。
「ラビ、ちょっとだけあいつのことを頼めるか?」
「グルゥ」
ラビが『スリーピースモンキー』の元へと駆けていく。
リュウキはラビにこの闘いを任せたわけではない。ただ、このふらつくような状態とヘッドホンから流れる大音量に慣れる必要があった。
「もう音の方が大丈夫だけど、やっぱりふらつくのは慣れないか……」
リュウキは片膝をつく。もう立っているのですら辛くなっていた。
「ラビ、あいつをこっちまで誘導してくれ!」
「グルルゥ!」
ラビが『スリーピースモンキー』を追っていく。『スリーピースモンキー』自体には大した戦闘力はなく、『三猿封印』を使って相手の感覚を封じてから攻撃していくため、このようにテイムモンスターなどがいると途端に弱くなる。
「キャキャキャ」
ラビに追われた『スリーピースモンキー』がリュウキ目掛け走って行く。
『スリーピースモンキー』はならばリュウキを倒そうと爪を光らせる。
「……俺と勝負だサル! 『ナックルリボルバー』」
倒れそうになる身体を支えながら手数の多いスキルを使う。『スリーピースモンキー』はそのいくつかに当たり、吹っ飛ばされていく。
「……こうしてお前が動かないなら今の俺でも当てられる。『サイドクロウ』」
倒れ動けなくなったところをリュウキの攻撃で止めを刺され、『スリーピースモンキー』最後の一体が倒された。
それと同時にリュウキ達に着けれれていた拘束具が外れる。
「……何も聞こえない」
大音量での音楽はリュウキの鼓膜にダメージを与え、しばらくシズネとマカの声は聞こえなかった。
今回のモンスターはどちらかというと後衛向けの能力を持ってますね。
ちなみに一人で闘おうとするとかなりやばいことになります




