42話 第一の試練
ウォークライ近くにある山の一つにプレイヤーには絶対的に割に合わないと言われている山がある。3体のネームドモンスターを倒した先に手に入るアイテムは全てのステータス異常に効くとされており、HPも一瞬で全快すると言われている。
万病に効く花、それだけ効くと3体のモンスターを倒す労力に見合うかもしれない。だが、それはあくまでもNPC、それも戦闘職についていない者たちに限られる。
プレイヤーのHPは時間をかければ回復する手段はいくらでもあるし、たとえ死んだとしても死に戻り地点から復活するだけだ。ステータス異常についてもステータスを見て落ち着いて対処することができる。毒なら解毒剤を、麻痺でも解麻痺の薬がある。ステータス異常に合わせた薬を使えばステータス異常は治るのだ。
似たようなアイテムも回復スキルもたくさんある上に、入手手段がもっと楽であるため万病に効く花『メディックフラワー』にプレイヤーたちは見向きもしなかった。
そのため『メディックフラワー』の咲く山、タロー山に関する情報は皆無と言っても良かった。時間の少ないリュウキ達にはそれでも調べられる時間はなかったわけだが。
タロー山は森林が多く先が見づらい山である。足元には深い草が生えており、気を抜くと足を取られそうになる。
モンスターが一体も襲ってこないのは元々いないからなのかそれともネームドモンスター達により統制されているからか……どちらにせよ無駄な時間と体力を使わずに済んでいることにリュウキ達は安堵する。
「第一の試練、か」
三人は広い草原に出た。木でできた立札があり、そこに第一の試練と書いてあった。
「モンスターは1体ずつ出てくるのかな? 全員で一気に倒せばすぐ終わるよね!」
「マカ、焦る気持ちは分かるけど落ち着こう。あまり急ぎすぎてこっちの一人でも死に戻るようなことがあればそれだけ山頂に辿り着くのが難しくなる」
「そうだね……うん、よし、ゆっくりと急ごう!」
「……それ、結局どっち? ……あ、来たみたい」
あたりに煙が立ち込める。
前方が煙で埋まり何も見えなくなったとき、突風が吹き煙が晴れた。
「グギャゥゥゥゥ」
「また犬か」
「でも今までのどの犬のモンスターよりも大きい!」
「……大きいだけじゃなくて、強い」
車ほどの大きさの犬型モンスター、名前は『テジュ・ジャグア』というそのモンスターはかつて闘った『マッドドッグ』や『ウルフ』などの犬や狼の姿をしたモンスターとは比べ物にならないほどの大きさ、そして威圧感を放っていた。
「私から攻撃してもいい?」
「ああ、シズネは防御力を上げる魔法を使ってくれるか?」
様子見をするならばマカの飛ばす剣で攻撃をし、反撃を防ぐためにシズネの岩魔法を使った方がよい。
「まずは4本くらい!」
「……『ロックプロテクト』」
マカが剣を飛ばし、シズネが自身とリュウキ、マカの周囲に岩を浮遊させる。
「グギャ!?」
離れた距離から攻撃されるとは思っていなかったのだろう。『テジュ・ジャグア』は4つの傷を受け驚いたような鳴き声を出す。
背中、腹、右腕、額を斬りつけられたことでリュウキ達は相手が思っているよりも弱いのではないかと思い始めた。
「もしかして、そんなに強くないのか?」
プレイヤーボス戦を経験し、転職をし、二つ名のレベルも上がった。思っているよりもリュウキ達は強くなっているのではないか。そう錯覚してしまった。
「……? ……何か様子が変」
ズボリ、という音がし『テジュ・ジャグア』の傷口が盛り上がる。すでに血は乾き、そこから肉が出てくる。見た目はすでに相当な醜悪さ。見ていて気持ちのいいものではない。
「グ、グギャアアアアア!」
肉が盛り上がり、形を作りやがてそれは犬の頭となっていく。
「悪趣味なモンスターだな……」
「気持ち悪い! 早くたおそ!」
「……HPは減ってるから気にしないで攻撃した方がいいのかな」
マカの攻撃によってHPは1割ほど減っていた。見た目の大きさほど防御力やHPが高いわけではないらしい。
だが、その醜悪さは先ほどよりも明らかに違う。傷口であった箇所はすでにそれぞれが犬の頭が生え涎を垂らしている……背中、腹、右脚、額からである。
「……もう一回剣を飛ばすね。今度は8本で」
マカが再び剣を飛ばす。そのうちの何本は新しく生えてきた犬の頭の方へと向かう。無意識に頭を潰したいと思ってしまったのだろう。
尾の付け根や足などいくつもの箇所に先ほど以上の数の剣が飛ばされる。その中に大元の頭の額に生えた頭に向かっていく剣もある。
「な!?」
新たに生えた頭に向かって行った剣。それはことごとく口で受け止められていた。
受け止められなかった剣によってHPは減っているが、また新たに傷ができている。
「そして頭が生えてくるってわけか」
新たに頭が6つ生えてくる。これで計10の犬の頭が増えたことになる。
『テジュ・ジャグア』の二つ名は『多頭猟犬』。傷から頭を生やす能力を持つ。ダメージを負うことは普通のモンスターには、いやプレイヤーでもそうだがメリットはない。
ダメージを蓄積するような二つ名とは違う。あのような二つ名は瞬間的に爆発的に能力を上昇させるからだ。『多頭猟犬』はどちらかというとアリアの『全点突破』に近い。とはいえ、『全点突破』は武器が壊されていくのに合わせて攻撃力が上がるが、『多頭猟犬』は傷を負うごとに頭を増やし攻撃箇所を増やしていく。それぞれは独立した動きをするため次第に死角は存在しなくなる。
「うー、気持ち悪い! 『スラッシュバーン』!」
高速回転する剣が『テジュ・ジャグア』の身体を切り刻む。
「あ、おいマカ! それは駄目だって!」
『テジュ・ジャグア』のHPが減るたびに身体から新たな頭が生えてくる。
回転していたため傷はかなりの数になり、数えきれないくらいの頭が新たに誕生した。
「マカ、俺のほうがこの敵は相性がいいはずだ。斬撃よりも打撃系のスキルなら切り傷は増えない!」
それは正解であり、だがリュウキが行うのは不正解であった。
「『サイドクロウ』」
リュウキの拳が『テジュ・ジャグア』の腹を狙う。
残り少ない『テジュ・ジャグア』のHPをさらに減らすため、渾身の一撃を放つ。
「グルルゥ?」
しかしそれは阻まれる。いくつもの咢によって。
「ぐっ!?」
突き出した拳が、腕から先が口の中へ消えていた。
幸いというべきか、リュウキの腕を噛んだ頭はまた別の頭に噛まれ、その頭はさらに別の頭に噛まれ……それを繰り返したせいで腕を噛みちぎられるほどのダメージはなかった。
「グギャウ!!」
『テジュ・ジャグア』の目が光る。
何かをする前兆のように。
「ど、け!!」
リュウキは慌てて腕を無理やり引きずりだし下がる。腕は千切れてはいないが傷だらけだ。『テジュ・ジャグア』とは違ってそこから頭は生まれてはこないが。
シズネ達の元まで下がったと同時に『テジュ・ジャグア』の口から火が迸った。
「……『ロックプロテクト』使っておいて良かった」
「だな」
全ての頭が火を吐いているため火は炎となって襲い掛かる。だが、浮かんでいた岩が火を防ぎ、熱だけがリュウキ達を炙る。
「シズネの岩魔法が一番良いってことか。頼む」
「……ん。……『ロックインパクト』」
シズネの岩魔法による大岩が『テジュ・ジャグア』の頭上に浮かび上がる。
『テジュ・ジャグア』の背中の頭がそれを見て避けようとするが、手足に生えた頭が邪魔で上手く動けていない。
「グギュギャァァァァァ!!」
新しく生えていた頭ごと『テジュ・ジャグア』の全てを潰して大岩は止まる。
「よし、次に行こう」
ここはまだ第一の試練。
立ち止まっている時間などないのだ。
モンスター名、ケルベロスにしようかと思いましたが、こっちにしてみました
ありゃ、投稿ボタン押すの忘れてました笑




