41話 両親
「おかあさーん! ただいまー」
ウォークライ中央よりもやや南側。木造りの家が並ぶ住宅街の一角にナターリアの家があった。周りの家よりも少し小さめだが、丁寧に掃除をし大事に扱っていることが分かる外装。そのドアを勢いよく開いてナターリアは家に飛び込んで行った。
「あらあら。今日はずいぶん元気が良いのね。何かいいことでもあったのかしら……そこにいるのはお友達?」
家の中にいたのは10代後半と思わしき女性。
ナターリアの様子を見て微笑んでいる。
「あのねあのね、あそこのお兄さん達にモンスターをテイムするの手伝ってもらったの! このラルド、飼ってもいいでしょ?」
ナターリアは召喚したラルドを見せる。
ラルドはナターリアの手から飛び出すと女性に向かって飛びついた。
「そうね。あなたももう立派なエルフの民ですし、このラルドと一緒にウォークライを守れるよう強くなるのよ?」
「うん!」
ナターリアは元気よく頷いてこちらを振り向いた。
「私のお母さんです。お母さん、このお兄さん達がリュウキさん、シズネさん、マカさんです」
「皆さん、娘のために良くしていただいたみたいで……本当にありがとうございます」
女性は深々と頭を下げた。
「私はナターリアの母、ティアンヌと言います。父のほうはまだ帰っていないのですけど……とりあえず中に入ってください」
ティアンヌに促されて家の中に入る。
「おっ邪魔しまーす。おお、綺麗なおうちだー」
マカがいの一番に入り、リュウキとシズネもそれに続いていく。
こういうときは臆しないマカの存在をリュウキはありがたく思う。遠慮しないが、それでいて礼儀知らずではないため相手に失礼を働かない立派な妹である。
「今お茶も入れますから、座っていてください。ナターリア、手伝ってくれる?」
「はーい!」
ティアンヌとナターリアの持ってきてくれたお茶とお茶菓子を食べ、これまでのリュウキ達の冒険を肴にし会話を弾ませた。
ティアンヌもナターリアもウォークライから出たことはないと言う。他の街がどのように発展しているのか、それだけでも楽しそうに聞いていた。
「ただいまだぞ!」
2時間程が経ったころ、玄関が開き一人の男性が入ってきた。
「おや? お客さんだぞ。ナターリアの友達だぞ?」
「そうですよ。ナターリアのお手伝いをしてくださったみたいです」
独特な話し方のある男性はナターリアの父、ジョルノ―と名乗った。
日々の食事の材料を狩ってくるのが彼の主な仕事らしく、今日は鳥を数羽狩ってきたらしい。
「今日は鳥のソテーを作りましょうかしらね。あなたたちも良かったら食べていくかしら?」
「ではお言葉に甘えさせていただきます」
「リュウキさん、お母さんのご飯はとってもおいしいんですよ!」
「へえ、それは楽しみだな。今日は昼飯もそんなに食べていないし、余計に期待しちゃおうかな」
「あら、お口に合うといいんですけど」
しばらくして出てきたのは予告通り鳥のソテーであった。だが、ただのソテーではなく、鳥はギリギリまでにしか火を通していないためとても柔らかく、果物と野菜を使った自家製のソースをかけた一般家庭の料理を超えたものが出てきたのだ。備え付けにある少し硬めのパンはそのまま食べるもよし、鳥と一緒に食べるもよし、ソースを吸わせて食べてもおいしいものである。
会話をしているさなかにこのようなことが起こった。
それは、リュウキ達が明日どこに行こうかを決めているという話をしている時であった。
「よければ明日からも毎日、ほんの少しの時間でいいのでここに顔を出しにきていただけませんか? 娘も喜びますので」
リュウキ達に『エルフ少女への訪問』というクエストのアイコンが出てきた。
民間クエスト――それも『少女の友達』というクエストをクリアしていることが前提なのでチェインクエストだ。クエストをクリアすることでそれに関連するクエスト、さらに次のクエストを総称してチェインクエストといい、報酬は全てのチェインクエストが終わった後に貰える。時間と手間がかかる代わりにクエストの報酬はかなり良いらしい。
「ええ、いいですよ。俺たちもナターリアとはもっと話したいしね」
「本当に!? じゃあ明日からね! 約束だよ!」
「……(ぎゅっ)」
シズネがはしゃぐナターリアを抱きしめる。ナターリアも嬉しそうに抱かれるままになっている。リュウキ達にラルドをテイムを手伝ってもらってことで随分懐いていた。
『エルフ少女への訪問』というクエストの詳細を見ると6日間毎日ナターリアの家を訪れることがクエストのクリア条件となっていた。これならウォークライを起点として動いていればクリアできる。それにこれから起きるリュウキ達にとって大切な学校の行事にも一週間なら間に合う。
「それではそろそろ今日は帰ります」
ナターリアの幼少期の話をティアンヌ、ジョルノーから聞いているうちにリアル世界へと戻らなければいけない時間となった。ナターリアは恥ずかしそうにしていたが、その様子を見てシズネがさらに強く抱きしめていたのは言うまでもない。
「もう帰っちゃうの!?」
「ナターリア、また来るからね! そしたらまたあそぼう!」
おそらく一番仲良くなったのはマカだ。年が近いせいか、妹であるマカにとっては年下の女の子といいうのは新鮮なのだろう。積極的に話しかけナターリアと打ち解けていった。
「うぅ……また明日来てくださいね?」
「……絶対来る!」
「ああ、明日も来るよ。またお話しよう」
ティアンヌとジョルノーも頭を下げ見送ってくれる。
リュウキ達はそのままログインをし、リアルへと戻っていった。
「こんにちは!」
翌日の午後にリュウキ達は再びナターリアの元を訪れていた。
本日は手土産を持っての訪問である。
「ティアンヌさん、これを」
「あら、焼き菓子ね。嬉しいわ」
そういうティアンヌの顔はあまり優れていない。
「どこか悪いんですか?」
「少し体調が悪くて……でも休めば治ると思うわ」
ならばあまり迷惑をかけられないなとリュウキ達はそのまま帰ることになった。ナターリアは渋っていたが、母の体調を心配する気持ちが勝ったようで最後にはまた明日、と約束の指切りをマカとしていた。
「では、また明日」
予想外に時間が余ってしまったのでリュウキ達はマカの新たな剣を作る素材を集めることにした。
マカの二つ名の能力の利点としていくつもの武器を装備できるという副次効果がある。ならばそれぞれ違う性能の剣を装備すれば必要なときに使い分けられるのではないかと考えたのだ。
「これで今日のノルマ分は集めたかな」
「ティアンヌさん心配だな。お兄、明日は何か果物もってこ!」
「……風邪ならリンゴとかがいい。……ウォークライは果物が豊富」
「そうだね。なら午前中は果物探しだ」
翌日になり、リュウキ達は果物園で果物狩りをした。とはいえ、モンスターは普通に襲い掛かってくる。その中でいかに果物を傷つけずに採集できるかがこの果物狩りの基本である。他にも目利きなど必要なものがあるが、それはもっと熟練した者たちにしかできないこと。果物狩りを楽しめればリュウキ達にとっては満足な結果となる。
「このくらい集まれば十分だな。そろそろ行こう」
リュウキ達が訪れた先に待っていたのは椅子に座り立ち上がるのさえ辛そうなティアンヌの姿であった。
「だ、大丈夫ですか!?」
思わずリュウキはかけよって支えようと手を伸ばす。
「え、ええ。ゆっくり休んだのだけれど……だいぶ疲れが溜まっていたのかしらね」
「……これ、リンゴとか果物たくさん持ってきたから食べて」
「あ、あら。こんなに頂いていいのかしら……今切りますから……ウッ」
立ち上がろうとしてティアンヌはそのまま倒れこむ。リュウキがかろうじて受け止めれたが、ティアンヌの身体は思っているよりも軽かった。
「ベッドで寝ててください! 果物は俺らで切っておいておきますから」
シズネが果物を切ってティアンヌの部屋に運んで行ったときにはティアンヌは気絶するように寝ていた。
起こすわけにもいかず、ナターリアに起きたら果物を渡しておくように言い、三人はそのまま帰ることになった。
「ねえお兄、しず姉。明日はお薬さがそ。疲れに効くやつ」
「あ、ああ。そうだね」
リュウキはこう答えるが内心では本当に疲れからなのか?という疑問が渦巻いていた。
さらに翌日。
「リュウキさん、シズネさん、マカさん! お母さんが起きてこないんです!
ナターリアの元へ薬草や下位ポーション、解毒薬など様々なアイテムを持っていくとナターリアが泣きながら飛びついてきた。
「……とりあえずこれを」
持ってきたアイテムを使うがどれも効果はなかった。
「……リュウキ、クエストが増えている。……『エルフ少女への訪問』の他に『万病に効く花』が」
「……本当だ。『メディックフラワー』というアイテムをティアンヌさんに使えば治るってことか」
新たにクエストの画面に出ていたクエスト、『万病に効く花』によればウォークライの近くにある山の頂上にしか咲かない花だけがティアンヌを治すと書いてある。
辿り着くためには3体のモンスターを倒さなければならないらしい。
「ん? 『エルフ少女への訪問』はまだ続いてるのか」
リュウキはまだクエストが続いていることに気づいた。ならば明日も明後日も明明後日もナターリアに会いに来なければいけない。
偶然か必然か、モンスターは3体。そして残り日数は3日。
「……3日以内に花を持ってこなければいけないんだろうなあ」
やれやれ、とリュウキは思う。
どうしてこんな目に合わなければいけないのか。
「ティアンヌさんはどうしてこうなったのか。どうせ運営がクエストのために病気か何かにしたんだろうけどさ」
「せっかく仲良くなれた人が苦しんでいるのは許せないよね!」
「……すぐ取りに行こう」
リュウキ達3人は立ち上がる。
「ナターリア、いい子で待っててね。すぐお母さんを楽にしてあげる薬を持ってくるから」
「……よろしくお願いします!」
家を出るときに後ろを振り返るとナターリアは何時までも頭を下げたままだった。それだけ母親を心配しているのだ。
「3日なんてかけられない。今日中だ。今日中に3体のモンスターを倒してやる」
そして花を持ってくるのだ。ナターリアを笑顔にするために。




