40話 エルフ
DNOではプレイヤーの選べる種族はヒト種のみである。とはいえ、DNO自体にはヒト種以外の亜人などの種族が存在する。それぞれに得意不得意、覚えられるスキル、ステータスの偏りがある。だが、それでもプレイヤーはヒト種以外を選ぶことができない。選択の余地なく人種になってしまうのだ。
これは二つ名が決まる前に種族が決まってしまうとさらに難易度が上がってしまうからである。
例えば、物理攻撃を上昇するような二つ名を得たとする。だが、魔法攻撃に特化した種族であった場合、そのプレイヤーは物理も魔法もそこそこしか闘えない中途半端なプレイヤーになってしまう。
他にも生産に向いた二つ名であるのにも関わらず、DEXの低い種族になってしまえば目も当てられないことになるであろう。
そのためステータスの平均的なヒト種を最初から設定する他なかったのだ。
ではヒト種以外の種族はどこにいるのか。実はそれらの種族は新たに通行可能となった先々の街にいる。
ここウォークライの街では森というコンセプトに合わせてエルフが住む町となっていた。
エルフ、それは魔法に長けた長寿の種族であり、他にも自然を愛するという特徴がある。見た目は誰も彼もが男女等しく見目麗しく、すらりとした長身である。まるで時間が止まったかのような、見た目と実際の年齢が食い違うような存在。
そのエルフがウォークライには当たり前のように存在し、当たり前のように暮らしていた。
実は、機械都市でもあるゼギエルではドワーフがいたのだが、こちらはずんぐりむっくりとした大ひげを蓄えた小柄な男であったためヒト種のNPCと思われていたのだ。ドワーフのつくる武器防具は性能が良いのだが、それに気づくプレイヤーはいなかった。
エルフをヒト種や他の種族と区別するのに見た目の美しさ以外に耳で判断することができる。ヒト種にはない尖った耳。一般にエルフ耳と呼ばれるそれを見たプレイヤーの誰もが心躍った。
「(絶対にお近づきになるぞ)」
と。
「お兄、エルフさんに話しかけてきてもいい?」
初めて見るエルフにマカは飛びつこうとうずうずしている。だが、その目線の先はエルフの幼女。マカならギリギリ許されるかどうかであるが、リュウキは同様にしたら最悪垢BANものである。
「待てマカ。気持ちは分かるけど、その前にギルドに行こう」
「……リュウキにしては珍しい」
そんなに欲望に忠実に動いたことないけど、とリュウキは心の中で訴える。
「ギルドで受けられるクエストには民間クエストがあるだろ? そのクエストを出しているのは……
「そっか! エルフさんがクエストを出しているかもしれないから……エルフさんと仲良くなれる!」
まあそこまで上手くいくかは分からないが、ここで抱き着きまくるよりはマシだろう。
リュウキはそこまで考えての発現だったのだが、リュウキまでもエルフ好きになってしまった感がある。本当はマカのためであったのだが。
マカは見知らぬもの、人に対しては多大な興味を示す。まだ見ぬケモミミやそこらを歩いているエルフなどに興味をそそられないわけがないのだ。
「冒険者ギルドはどこの街でも一緒だな……いや、受付の人が違うか」
受付嬢はウォークライらしくエルフが担当していた。どのエルフも美女、美少女であるためプレイヤーによる行列ができている。
「お兄! 並ぼう!」
「……リュウキ、はやく」
「……はいはい」
クエストは受付嬢を介さずともクエストボードと呼ばれる大きなボードから受けることも可能なのだが、リュウキ達は受付に並び、一つのクエストを受けた。
「エルフのテイマーがモンスターをテイムするのを手伝ってくれ、か」
それは仲間にテイマー系の職業がいるときに受注できる『少女の友達』というクエスト。
「あの……よろしくお願いします!」
「……よしよし」
「か、かわいい!!」
クエストの依頼人はナターリアというエルフの少女。見た目はマカよりも幼い10歳ほどの少女で、実年齢はもう少し上なのだが、エルフでいう精神年齢は10歳だという。白いワンピースを着て清楚なお嬢様然としたナターリアの頭をシズネは撫で始める。マカは飛びつこうとしていたが、ナターリアが怯えた表情をしているのを見てリュウキが止めた。
「それで、どんなモンスターをテイムしたいんだ?」
クエストの説明によればウォークライ付近のモンスターであるらしいが、その詳細は載っていなかった。
「えっと、犬さんです」
「犬系のモンスターか……」
リュウキの頭をよぎるのはかつて闘ったモンスター、『マッドドッグ』である。汚れた犬と狂った犬はどちらも手ごわく、どちらもテイムしたいとは思えない見た目であった。
「『グリーンドッグ』って言って、滅多に見ることはできないモンスターで……でもでも、すごく可愛いんです!」
よほどテイムしたいのだろう。ナターリアからはその熱意が伝わってくる。
先ほどまでの怯えた表情はどこかに消え、今はとびきりの笑顔で『グリーンドック』というモンスターの可愛さを語っている。
「よし、分かった。今日はまだ明るいし今から行こうか」
「……ラビもリュウキに手伝ってもらってテイムできた。……今度は私の番」
「そんなに可愛いんだ、『グリーンドック』って。私も見たいな!」
少女の願いを無下になどできるものか。リュウキもシズネもマカもこのクエストを、少女の願いを引き受けた。
「はい! ありがとうございます!」
「いたぞ! あっちに行った」
「……ここは封鎖済み」
「よーし、こっちにおいでー」
『グリーンドック』を探し始めて数時間、4人は一向に見つけることができていなかった。代わりに『ブルードック』という『グリーンドック』よりも簡単に見つかるモンスターがいたのだが、こちらは絵の具の青を塗りたくったかのようなあまりきれいではない色をしていた。ナターリアもこのモンスターは嫌ですと首を横に振った
日が落ち始め、また明日にしようかと街へと向かっていたときに緑色の犬が飛び出してきた。
翡翠色をした透き通った色をしたその犬こそが『グリーンドッグ』である。
「あ、あの犬です!」
ナターリアの言葉をきっかけに3人は駆け出した。
リュウキが『グリーンドッグ』を追跡し、ナターリアの方へと追い込む
シズネは砂魔法で『グリーンドッグ』の足元を崩し身動きを取れないようにしておく。
マカはナターリアの近くで攻撃をされないように守る。
「『ファイアボール』」
ナターリアの火魔法が『グリーンドッグ』に放たれる。
リュウキは内心、エルフって火魔法使っていいの? とか、森で火ってやばいんじゃない? とか思っていたが、それとは関係なく『グリーンドッグ』のHPは減っていく。
「『テイム・バレット』!!」
ある程度HPが減ったときにナターリアのテイムスキルが発動し、『グリーンドッグ』はナターリアのテイムモンスターとなった。
「やった! みなさんありがとうございました!」
ナターリアは『グリーンドッグ』について語っていたときよりも笑顔である。
これだけでもこのクエストを受けて良かった、そう思わせてくるほどの。
「……さっそく、だしてみて」
シズネが『グリーンドッグ』を召喚するよう指示する。はやく撫でまわしたいのだろう。
「はい。 出てきて、ラルド!」
翡翠、つまりはエメラルドから名前を取ったのだろうか。すでに決めてあったようで召喚するときにナターリアは『グリーンドッグ』の名を呼ぶ。
「ワン!」
ラルドは召喚されるや否や勢いよくナターリアの胸元に飛びつき顔をペロペロと舐め始めた。
「アハハ、くすぐったいよ」
「……私も」
「私もモフモフしたい!」
シズネとマカが恐る恐る触り、ラルドが嫌がっていなそうなのを確認するとナターリアとともに翡翠色の体毛を撫で始める。リュウキはその様子を微笑まし気に見ていた。
さすがに男がこんな場面で混ざれない。
しばらくするとナターリアがリュウキの存在に気づき、だらしなく緩んでいた顔を正した。
「じゃ、じゃあ街に戻りましょうか。……その、リュウキさんたちは明日の夜はお暇でしょうか?」
「うん、特に用事はないけど」
しばらくはボスに挑むようなこともないはずであるし、今の目的はエルフたちと仲良くなることである。この街にいることこそが用事であろう。
リュウキが暇であることを伝えるとナターリアはパァっと顔を輝かせ、
「でしたら、明日は私の家に来ませんか? 私の家族を紹介したいです! ご飯も食べて行ってください!」
これにリュウキ達は二つ返事で了承した。
エルフ? 好きだよ
ロリエルフ? もっと好きだよ




