38話 悪鬼と夜叉と悪魔 後編
【リュウキ視点】
アスタロトの元へは特にデーモンからの妨害はなく辿り着くことができた。いや、アスタロトからは矢が飛んできていたが、威力が低いため、直接的なダメージにならず無視し続けた。
「よくぞ我の元へと来たな! 我は弓使い、そして貴様は格闘家。遠隔戦に秀でた我と近接戦に秀でた貴様ではこの距離は我には不利だ。だが、貴様に易々とやられては未だ闘う我が竜魔たちまでもが消えてしまう。だからこそ、我が配下が貴様の仲間を倒し、貴様を倒すまで我は時間稼ぎをさせてもらおう」
「……あなたが俺を倒すって選択肢はないんだね」
二つ名レベルが10まであるということは職業レベルもそれなりにあるはずだ。ならばステータスも俺とは比べ物にならないほど高いはず。
俺一人くらい倒せるんじゃないかな? いや、倒されるつもりはないけど。
「ふむ。この弓はな、名を必毒の弓と言ってな。必ず命中し、必ず毒を与える代わりに攻撃力は1になるというものだ。毒になっている者にはほとんど意味をなさない武器なのだよ」
「なら、装備を変えればいいんじゃないか? 少なくとも、そのくらいの時間はあったはずだ」
俺は近接戦は得意だ。だけど、それ以外はほとんどできない。遠距離攻撃なんかは全くと言っていいほど。だから、俺がアスタロトに向かっているときに毒状態の俺に毒攻撃なんかしていないではやく別の弓に取り換えていればよかったはずだ。
「この弓は我が誇りにして我が呪いの根源。我がアスタロトでいるための武器なのだよ」
後半は何を言っているのか分からないが、なるほど、呪いの武器……外せない武器というわけか。
「じゃあとっとと終わらせてもらうぞ。あなたを倒して次の街へ行く。それが俺たちの望みだ」
「1ヶ月か。随分と長ったな。恐らく我は今回、そうでなくとも近いうちに攻略されるだろうな。我の手の内もほとんど出し尽くした。だがな、覚えておくといい。我は72いるうちのプレイヤーボスの中でもまだまともな二つ名だということに」
「何を……?」
「では、我の最後の切り札だ! 毒にすでになっている貴様に我の毒矢は効かぬと言ったな? だが、毒に毒を重ねることはできるのだぞ!」
アスタロトは続けざまに矢を5発、放ってくる。
それらは全て俺に命中し、HPから5の値が減っていく。
毒の状態は、毎分毒のレベルに応じたダメージを負うのだが、この毒は少し強めで毎分10減る。もちろん決定的なダメージではないため、俺がアスタロトに5分かけたところでデーモンと闘ったときに減った俺のHPの200から50減るだけ。
「そらそらそら! どんどん放っていくぞ!」
恐らくスキルを使っているのだろうけど、矢の連射速度が非常に速い。とはいえダメージは少ない。
「『サイドクロウ』」
アスタロトとの距離は近い。矢がいくら撃ち込まれようとも近づいてこちらが攻撃すれば相手の方が大きいダメージを負う。
だが、さすがに1ヶ月を生き残ったボスプレイヤーか。俺の拳を弓で受け止めるとそのまま押し返してきた。
「……ダメージは1じゃなかったの?」
「貴様に与えられるダメージはな。だが、ATKは貴様以上にはある。レベルによる差だ、それは気にするな。ATKは筋力にも影響する。貴様と我が力比べをすれば我が勝つのは必然」
押し返したことで再び開いた距離からアスタロトは矢を放つ。
「そんなもの、効かないってさっき自分でも言ってただろ? すでに毒状態の者にはほとんど意味をなさないって」
「言ったな。だが、ほとんど、だ。毒状態の貴様にこうやって地道に毒を注入し続けることで……ほら、そろそろだ」
毒によるダメージがHPから減っていく……20もの数値が。
「毒のダメージが増えている……だと!?」
ステータスを確認すると毒ではなく猛毒というステータス異常になっていた。
【毒】
1分ごとに毒のレベル×10のダメージ
時間の経過、解毒ポーション、解毒魔法、プレイヤーの死亡により治る
毒のステータス異常の解説は確かこうであったはずだ。
【猛毒】
毒を執拗に受け続けたために身体全体に毒が回った状態
1分ごとに毒のレベル×10のダメージが2倍になっていく
時間の経過、解毒ポーション、解毒魔法、プレイヤーの死亡により治る
毒とは違い猛毒の説明はこうなっていた。
俺が毒矢を受け続けたことが原因みたいだ。
「プレイヤーボスである我には貴様のHPの残量が見えているぞ。貴様の残りの命の残量は180。今20のダメージを負い、次の1分後のダメージでは40のダメージとなる。貴様の命は3分。3分後には貴様は死ぬ運命にあるのだ!」
1分後に40のダメージを受けてHPは140。
2分後に80のダメージを受けてHPは60。
そして3分後に160のダメージを受けてHPは0になるってわけか。
「俺が一人で闘っているならね。確かにあなたを倒すのは俺が任されたよ。でも、ダラークさんは……俺の仲間たちは俺に全てを丸投げしたわけじゃない」
俺に光が降り注ぐ。これは回復魔法。桜さんがかけてくれたのだろう。
HPは全快し、270まで戻る。
「ぐっ……だが、まだ猛毒がある。いくら回復しようとも貴様に与えられた猛毒はいずれ貴様のHP全てを吹きけとばす程のダメージとなる。それまで……」
そこでアスタロトに魔法が降り注いだ。
見ればこの部屋全体の魔法が雨あられのように降り注いでいる。センザさんかな? あの人の二つ名は広範囲に向けて攻撃できるらしいし。
だが、魔法によるエフェクトが終わると無傷のアスタロトが立っていた。
「低級な魔法など我には効かん。猛毒は今の貴様らが手に入るポーションでも下級の解毒魔法でも治せん。貴様が毒で倒れるまで我が生きるくらい、それくらいならできよう」
そうか、だけどその作戦は俺が毒になっていることが前提なんだよな。
「ねえ、俺のステータス異常もあなたは見れるの?」
「ああ、見れるぞ。貴様が猛毒であることも……猛毒が消えているだと!?」
俺のステータスには異常は何も表記はない。猛毒も、毒もだ。
「今回の攻略のメンバーにはあなたたちの特性にそれぞれ対抗できるように色々な二つ名を持っている人が選ばれたんだ。攻撃をいくつもに分裂させる能力、攻撃を全て反射できる能力、速度を低下させる能力とかね。今大きな盾を持っている人は『不動守護』と言って、動かない限りはDEFに大幅な補正がかかる能力だ。そしてその後ろにいる女性、彼女はあなたがいるからこそ、ここにいる。彼女は『瞬間回帰』。ステータスの異常もバフもデバフもHP、MPの増減も全てなかったことにできる能力。猛毒を治す必要はない。猛毒をなかったことにするのだから」
アスタロトは固まっている。甲冑のせいで表情は見えないが驚いているのだろうか。
「は、ははは。いやな、猛毒のこともそうだが、今この瞬間に我が配下が2体ともやられたよ。デーモンもドラゴンも、な」
「あなたにまだ切り札はあるの?」
この人は直接戦闘よりもサポートや絡め手を得意とする。
まだ油断はできない。
何よりも、アスタロトは普通に闘っても強いのは先ほどこちらの攻撃を受け止めたことで分かった。
「いいや、もう我にやれることはないさ。仮に貴様を倒せたとしても他の貴様の仲間を全員相手にはできない。ならば貴様らに敬意を称して貴様の攻撃を素直にこの身で受けるとしよう」
そう言ってアスタロトは両腕を広げる。
「さあ我を滅するがいい。我を倒せば背後の扉が開き、次の街へと移動できるであろう。この部屋もいずれは無くなりただの街と街をつなぐ洞窟へとなるはずだ。貴様らはよく我を研究し、よく闘った。第一のボスとしてこれほど喜ばしいことはない」
「あなたはこの後どうなるんだ?」
「さあてな。それは運営が決めることよ。我には見当もつかない」
俺は『瞬間回帰』で消えてしまった悪鬼の手足を再び出す。
「最大の攻撃をするがいい。それで我のHPは無くなる」
「……また、あなたに会えるなら会いたいものだよ。今度は一緒にプレイしてみたいな。『チャージブラスト』」
右手に力を込める。
「我もな……実は貴様らプレイヤーと一緒に普通に遊びたいと思っていたのだよ」
それがアスタロトの最後の言葉だった。
俺の拳がアスタロトの腹に突き刺さりフルに近かったアスタロトのHPを全て消し飛ばした。
『おめでとうございます。プレイヤーボスであるアスタロトは攻略されました。残り71のボスもぜひともこの調子で倒してください』
最後に、そう機械音が頭の中に響いたが、仲間たちの歓声にかき消された。
ボス戦なのに会話しかしていない……
これにて1章終わりです




