37話 悪鬼と叉と悪魔 中編
デーモンのステータスは悪鬼となった俺や夜叉となったダラークさんよりも少し上程度。そのくらいならを俺とダラークさん、アザリカさんの三人で抑えるには十分な戦力であった。
攻撃に関してはダラークさんの方が上。
相手の能力はアザリカさんによって封じられたも同然。
AGIは……たぶん俺の方がの方が上かな。
デーモンが三人よりも優位にあるものはボスに準じたモンスターならではのHPの多さ。デーモン一体は実はドラゴンを相手にするよりもはるかに楽なはず。
大した特殊攻撃もなく、範囲攻撃がないためプレイヤーには一人一人直接攻撃をしなければならず、硬い皮膚も圧倒的な大きさも、多いとはいえHPが膨大と言えるほどではない。速さだけが取り柄の、それさえもAGIに特化したプレイヤーほどではない中途半端な強さを持つモンスターであった。
身体のどこからか出てくる腕に注意しておけばいい、それだけであった。しかも腕は1本だけ。アスタロトの召喚するモンスターはドラゴンにだけ気を付ければいいと攻略サイトではよく言われていた……今この時までは。
「……俺が相手しよう」
そう言いだしたのはダラークさんだった。
「だけどあんなの……三人でやったほうがいいんじゃないですか?」
デーモンが俺と同程度のAGIなら俺は決してあいつのことを見失わないはず。速さに関わるAGIの値は動体視力さえも補正されるからだ。
「あんな速さ、ダラークさんよりAGIが高い俺でさえほとんど見えなかったんですよ!」
「ああ、言い直そう。俺だけじゃない。俺と、アザリカで相手をする。その隙にリュウキ、お前はアスタロトを倒しに行け」
「あれをやるってことね。……いいわ、私とダラークなら確かにあいつを倒せるかもね」
アザリカさんもダラークさんの言葉を肯定する。
だが、その肯定を否としたのは他ならぬダラークさんだった。
「いいや、あくまで相手をするだけ、だ。倒せるかどうかはあのデーモンがどこまで強化されているか分からないから言い切れねえ。だが、アスタロトなら倒せる。リュウキ、お前にもだ。そしてアスタロトさえ倒せればデーモンも消えるはずだ」
ダラークさんは誰よりも戦闘を好んでいた。だけどそのダラークさんが、ダラークさんでさえ倒せるか分からないと言う。
「勘違いするなよ。アスタロトよりも強いデーモンと俺が闘いたいだけだ。……お前がもたもたしてるうちにデーモンを倒しちまうかもな」
「……フラグ立てないでくださいよ」
だけどそこまで言われたら行かないわけにはいかないな。
俺が早く倒して、この闘いを終わりにするしかない。
「援護はできねえからな。回復はともかく魔法は効かない。だから、あいつを倒すのはお前自身の力だ。さあ行ってこい!」
「はい!!」
俺は駆け出した、アスタロトの元へ。
「■■■■■■■■■」
「おっと」
「行かせないわよ!」
背後で剣が何かにぶつかる音が聞こえる。
振り向きたい気持ちを押さえて俺はアスタロトの方へ一刻も早く辿り着くために足を動かす。
【ダラーク視点】
「じゃあアザリカ、頼むぜ」
「確か今までは成功率が30%ほどだったわね。まあそれでもあなたなら、あなただからこそ今回は成功させるのでしょうけれど」
今からやることは失敗すれば俺がまともに闘えなくなる策だ。
自信過剰でもなんでもなく、俺がこの空間で一番強いプレイヤーで、一番強いモンスターはデーモン。ドラゴンはジュガたちに任せてあるから恐らく大丈夫だろう。あいつらもやるときはやるからな。
「『サイトシェア』」
俺の視界にいくつもの線が浮き上がる。線は合計で5つ。その中の一つが濃いのが分かる。その濃い線に向け俺は拳を突き出す。
「■■■■■■■■■」
その拳は突如目の前に現れたデーモンに突き刺さりダメージを与える。
よし、上手くいったな。
『サイトシェア』はアザリカの『初見看破』の固有スキルだ。アザリカとジュガにはボス戦前にはレベルを5にしておけと言ったんだが、ジュガは間に合わなかった。4にはなったようだが、砲弾の命中率が上がっただけというドラゴン相手にはそこまで意味のない強化になってたな。
だが、昨日ようやくレベル5になり発現したアザリカの固有スキルはこういったボス戦では有効なものだ。
アザリカの『初見看破』にある攻撃の予測を仲間にも与えるというスキル。一日漬けだがまだ俺には使いこなすことができなかった。予測する攻撃の数が多すぎてどれを取捨選択すればいいのか分からなくなった。いくつもの戦はこれから相手が移動する位置や攻撃する箇所で、その中で一番確率が高い場所が濃く現れる。そこを攻撃するか、そこから離れれば相手の行動を先回りできるってことだ。
アザリカはこんなものをよく使って闘っていたなと思ったが、なるほど、ステータスの差を埋めるにはちょうどいい。
「■■■■■■■■■……?」
まさか攻撃するつもりがされるとは思っていなかったんだろう。デーモンは首を傾げている。
再び俺の視界に線が浮き出る。
俺は迷わず濃い線に向け蹴りを放つ。だが、
「■■■■■■■■■」
デーモンは濃い線とは別の場所から攻撃を仕掛けてきた。
「……ちっ」
「だから、あくまで確率だからあまり頼りすぎないでよ。ダラークにはダラークのやることがあるでしょ」
アザリカがデーモンに剣を振るう。俺は剣を使わないからか、アザリカの剣技は美しささえ覚えてしまう。こんなこと、本人には言わないけどな。
斬られつけてデーモンの動きが止まったところにセンザの魔法が降り注ぐ。
センザの二つ名は『分裂千雨』。攻撃をいくつもに分けて放てるという能力であり、魔法を放てばそれはまるで千の雨粒のようにデーモンへと降り注いでいる。攻撃の威力自体は千に分割しているわけではなく、二つ名のレベルが上がれば上がるほど一つの威力も上がっていく。
……いずれは魔法を一つ放てばそれが威力はそのままで千の魔法に変わるらしいから恐ろしい。
とはいえ、まだレベルは4であり、威力は一つの4割ほど。どちらかというとドラゴンのほうに行かせても良かったが、あちらには一撃にかける能力やカウンター系の能力を持つやつらを向かわせたからな。
「■■■■■■■■■」
避ければそれだけ被弾率が上がることを悟ったのかデーモンはその場から動かない。
アスタロトの方にも千の魔法のいくつかは当たってると思うが、あの防具に打ち消されているだろう。
やがて、魔法の雨が降り終わるとデーモンはセンザたちの方へと走り出した。今の魔法が厄介だと思ったようだ。
「私もいるのを忘れないでちょうだいね」
そこをアザリカが止める。さすが俺とは違い一か月以上『初見看破』を使い続けてきたやつだ。完全に先回りしていやがるぜ。
「さて、そろそろか」
デーモンの動きがようやく俺にも見えてきたぜ。
俺の『雪国夜叉』は特段ステータスの補正が大きいわけではない。
「まったく、今回はやけに時間がかかったわね」
「しゃあねえだろ、あのデーモンが途中からステータスの2倍なんて強化されたんだからよ。まあおかげで楽しめた」
デーモンの動きは目に見えて遅くなっている。これこそが俺の二つ名、『雪国夜叉』の能力である速度の低下だ。時間の経過とともに徐々に遅くなっていくからかなり時間がかかっちまったぜ。嬉しい誤算なのは、相手の強化がAGIのみ低下した状態のステータスが2倍になっていた点か。元は60程度のAGIが俺の能力により40くらいには低下していた。それを2倍にされて80ってとこだろうか。もうちっと高いかもしれないが、それでも元のステータスが2倍じゃなくて助かったぜ。
「ここまで遅くなれば使えるぜ、俺の固有スキルが。『アイス・プリズン』」
デーモンの頭上から氷柱が降り注ぎ、檻へと形成される。
「■■■■■■■■■」
デーモンは檻から出ようと叩きまくるが、無駄なこった。
「お前ごときじゃ壊せねえよ。ただのキックやパンチじゃな。壊したければスキルを使うんだな」
AGI特化のデーモンが2倍になったステータスなら確かにATKもそれなりに高くなっているだろう。
だがな、その檻はATKが高いやつが、二つ名を使って、ようやく壊せるような代物だ。
何の技もない特徴もないお前の攻撃じゃ、腕を身体のどこからでも出せる程度の攻撃じゃ壊すことも、ひびを入れることすらできねえよ。
氷柱の檻がデーモンのHPを削っていく。
追い打ちのためセンザの魔法も降り注ぐ。
「■■■■■■■■■」
「ようやく、倒したのね」
デーモンを最後に俺自身が殴ることでHPを0にした。俺なりの手向けってやつだ。最後まで檻を壊そうとしてたその気概は認めよう。
「倒してもいいってフラグは俺には効かねえよ。俺は最強最悪のPKだぜ?悪党に常識を問うなってんだ」




