36話 悪鬼と夜叉と悪魔 前編
【リュウキ視点】
デーモンとアスタロトを同時に相手にすることになったけど、やっぱり強いな。
「お前ら、まずはデーモンから仕留めるぞ。アスタロトはとりあえず無視しとけ。センザは魔法で牽制しててくれ、桜は回復だったな。任せたぞ」
アスタロトを狙わずにデーモンから倒しに行く理由、それはやはりデーモンの存在が邪魔であるからだ。
デーモンが決して弱いから先に倒すのではなく、むしろプレイヤーであるアスタロトはデーモンよりも、ドラゴンよりも戦闘能力では弱いと言われている。
アスタロトの攻撃は弓矢であるが、その威力はそこまで高くない。命中率が良い程度だ。だが、矢に毒を塗っているらしく、矢が刺さったプレイヤーは毒のステータス異常に陥る。時間とともに微量ながらダメージを受けていくために早いうちに毒を治さないといけないわけだが、矢は無尽蔵に飛ばされてくるため治しても治しても毒にされる。今まではドラゴンとデーモンに足止めされているうちにアスタロトの毒でHPを大幅に削られていたらしい。
ダラークさんとアザリカさんは矢を拳や剣で撃ち落とし、ジュガさんにいたっては装甲で弾き返していたとか。俺にはできないやり方だな。いや、悪鬼の部分ならできそうか。
アスタロトは直接的な戦闘力がないが厄介なため先にアスタロトを倒し、毒がない状態でデーモンを倒す方が良いのだが、そのデーモンがアスタロトを守ろうとプレイヤーの前に立ちはだかっている。ドラゴンに威力のある魔法を使える者を割り振ったため、デーモンを相手にしている者たちは近距離に特化した者が多い。それは相性的にもそうした方がよく、素早いデーモンには魔法が中々当たらないのだ。
「俺が一番てめえと相性良いからなぁ。しっかりと相手させてもらうぜ?『雪国夜叉』」
ダラークさんの二つ名の能力が発動されると同時に辺りの気温が下がっていく。
時間とともに敵の速度を下げていく二つ名は確かにデーモンを相手にするには丁度いい。敵ではない俺たちの速度は変わらないらしいし。
「俺はセンザと桜を守っておく。盾職はAGI型には闘いづらいしな。受け取ってくれ、『贈答付与』」
大きな盾を持ったケイジさんがローブを着たセンザさん、外套を羽織っている桜さんの方まで下がり、二つ名の能力を発動する。その効果で俺の身体に力が湧いてくるような感じがした。
『贈答付与』という二つ名は自身のステータスの一部を仲間に与えるという能力らしい。一時的であり、この戦闘が終了すれば効果が切れるうえにセンザさんはステータスを与えているためにそこだけ0になるというサポート向け能力だ。
「これなら……『悪鬼変身』」
俺の両腕両足が黒い鬼へと変わっていく。いつものことだけど、この状態になると身体が軽い。
「■■■■■■■■■」
デーモンはこちらを指さし何やら言っているようだがその意味が分からない。
「ハッハッハ。きっとお前が鬼になったから挑発してるんだろ。鬼と悪魔、仲が良さそうには思えねえしな」
「それを言うならダラークさんだって夜叉じゃないですか。確か夜叉も鬼でしょ」
「まあ俺は白くなってるからな、鬼に見えないんじゃないか?さあて、決めたとおりに動くぞ。俺とアザリカ、リュウキで悪魔退治といこうじゃないか」
デーモンの大きさは人間と同じくらい。そのため人数が多すぎても味方が邪魔になってしまって闘いづらくなる。三人がダラークさんたちの決めた上限だ。
「■■■■■■■■■」
デーモンが2本の腕で俺とダラークさんに打撃をしてくる。同時にアザリカさんには回し蹴りを。
「……格闘家と同じ闘い方か」
剣などの武器は使わずにデーモンは自らの身体を武器にして闘ってくる。
「こいつ相手ならPvPと同じ要領でやりゃあいいから楽だぜ」
「『初見看破』……ダラーク、右に避けて!」
アザリカさんがそう言うと同時にダラークさんは右に跳んだ。ダラークさんのいた場所にはデーモンの腕があった。すごい連携だ。いつか俺たちもあんな風に闘えるかな。
「デーモンの攻撃自体に特徴はねえ。だが、あいつには腕がもう1本ある。……身体の中を自由に移動しているがな」
俺とダラークさんに向けていた拳、それとは別の拳がダラークさんに向けて攻撃を仕掛けていた。
「まあ私の二つ名ならどこから来るか分かるのだけどね」
身体の中を自由に移動するためどこから腕が生えてくるのか分からない。突然顔から生える、背中からでも足からでも、腕から生えてくることもあるらしい。だから紙一重で攻撃を避けても新たに生えてきた腕に攻撃されて死んでいったプレイヤーが数多くいるらしい。
「俺の二つ名、アザリカの二つ名はお前の長所を消し去るには相性が良すぎるのさ」
だが、どこから生えるか分からない腕も、どこから生えてくるか分かれば大したことはない、ただの腕だ。そこでアザリカさんの『初見看破』が有効らしい。
「とっとと終わらせようや。『雪国夜叉』で上がったステータスにケイジからもらったATK。これでお前のステータスとの差はねえぞ。その腕もアザリカがいればそこまで脅威じゃねえしな」
「■■■■■■■■■」
デーモンがこちらに拳を振りかざすとダラークさんはそれを避け逆に殴り返す。蹴ろうとすればその足をアザリカさんが斬りつける。
それを繰り返すことでデーモンのHPは見る間に減っていく。
……俺、出番ないな。ほとんど二人がかりで倒せそうだ。
デーモンは焦るように単調な攻撃をするがその全てをダラークさんとアザリカさんがいなしていた。
ダラークさんとアザリカさんが多少のダメージを負おうものならすぐにでも桜さんが回復をし、少しでもデーモンが隙を見せようものならセンザさんが魔法を撃っていく。
「情けないな。それでも我が配下か?」
ヒュン、と音もなく矢が飛んできてアザリカさんの肩に刺さった。
「くっ!? さすがに避けきれないわね……」
矢が飛んできたのはアスタロトのいる方向。
「当然だ。我が矢は必中。威力を捨てた代わりに必ず当たるのだから」
アザリカさんはその能力の特性上、遠距離攻撃に対してはかなり強い。来る場所が分かるのだから避けられるのだ。だが、そのアザリカさんが避けられないのは……
「あいつの武器防具は未だプレイヤー間では確認されていない効果付きのものだ。弓はATKを1にする代わりに必中になる効果。そして防具は一定以下の魔法を打ち消す効果がある。一定ってのはそうだな、シズネの『ロックインパクト』くらいじゃないと通じねえな」
それはかなりのズルじゃないか?威力の高い魔法は総じて命中率が悪かったり速度が遅かったりと、大型のモンスター相手じゃなきゃ使えないようなものばかりだ。
「気ぃ引き締めてけよ、あいつはいつも途中から参戦してくるけど……そっからがこの闘いの本番だ」
デーモン以外にも矢に気を付けて動くとなると……なるほど、かなりの集中力を使いそうだ。
「デーモンよ、我の配下らしい働きを見せよ。そら、我の固有スキルを受け取れ『グロウアップ』」
アスタロトがスキルを使うとデーモンの身体が一回り大きくなる。そして次の瞬間には……
「キャアッ」
背後から悲鳴が聞こえ振り返るとデーモンの拳を盾で防ぐケイジさんの姿があった。後ろにはセンザさんと桜さん。間一髪、守り切れたみたいだけど、どうやら後衛から潰そうとしたようだ。
……やばい、今の動きほとんど見えなかったぞ。
「おいおい、何だよそのスキルは……初耳だぞ」
「貴様らがこの壁を使ったからな。この壁を使ったときだけ使用しようと決めていたのだ。ステータス2倍の効果がある我の固有スキルだ。残念ながら我自身には効果がないが……今の貴様らには十分すぎるだろう? さあ、デーモンに蹂躙されるといい! 言っておくが……骨は拾わんからな」




