29話 関わり
ライフ工場は完全に倒壊し、今は平地となっている。かつて建物であった部分は地下に埋まってしまっている。
その地下から連れ出した少女――『クラッシュタイラント』の娘である人を模した機械人形にリュウキ達はアリアと名を付けた。
解き放ってくれと言われてここまで連れてきたが、さてどうしたものかとリュウキは悩む。このままたださよならするのも後味が悪いというか、世間を知らない女の子を放り出すようなものである。それは人としてやりたくはない。例え相手が人でなくとも、機械人形であろうとも、モンスターであろうとも、だ。
アリアを表示するのは他のモンスターと同様、赤い文字で『ドールマター』と表記されている。NPCであれば青文字で名前があるのでアリアは確実にNPCではないことが分かる。
「モンスター……なんだよな」
リュウキは改めてアリアを見てみる。
一見すると普通の女の子だ。さらさらとした長い金髪と白い肌はまるで外国の人形のようだ。今は座っているため身長は分からないがそこまで小柄ではない。リュウキと同じくらいであろうか。だが、身体の節目節目で継ぎ目や明らかに人体にはないようなものがある。
『私はモンスター?あなたたちはプレイヤーと呼ばれる存在?私はこれから自由になる?』
「そうだよ。君の父さんの『クラッシュタイラント』からお前が外の世界に出すように託されたんだ。その、『クラッシュタイラント』は……」
『父が待機モードになっているのは知っている。』
アリアの親ともいえる『クラッシュタイラント』を停止とはいえ倒し、アリアから引き離してしまったのはリュウキ達である。
だが、アリアは気にしていないとでもいう風に『クラッシュタイラント』が今は動いていないという事実を述べる。
『だが、私たち機械は半永久的ともいえる時間を生きている。いずれ出てくるならその時に会えれば問題はない』
「そうか……」
と、そこでアリアは立ち上がる。
今までは地面に寝転がり、座り、自分の身体の状態を把握していたのだが、おもむろに立ち上がるとそのままリュウキ達に背を向けて歩き出した。
『私には目指すべき場所はない。だから示してほしい。北へ行けばいいのか、南に行けばいいのか、東に行けばいいのか、西に行けばいいのか。山を目指すのか、谷を目指すのか、川を目指すのか、海を目指すのか、草原を目指すのか、街を目指すのか、村を目指すのか、この世の果てでもいい、私の目指すべき場所を教えてほしい』
「……アリアはやりたいことはないの?」
シズネが問う。
『ない、と言ったら間違い。私は人を観察したい。人を知りたい。私の父は人を下として見ていた。私はまだ人を知らない。だから、知りたい』
自分の意志がないようで、そこだけははっきりとアリアは告げる。
目的は有るが、目的地はない。だから、目的の為にどこに行って何をすればいいのかと三人に尋ねた。
人を知るならば街や村をお勧めしたい。だが、アリアはモンスターとステータスにはっきりとモンスターであることが示されている。モンスターが人前に出ること、それはすなわち狩るか狩られるかを意味する。人を知るには人と関わるしかない。だが、その関わり方が闘いの中だけというのは、結局は『クラッシュタイラント』と同じ道を歩むことになってしまう。
「あ、じゃあさ!」
マカがうーん、と悩む素振りを見せた後に手を上げる。
「一緒に来てよ!」
「一緒にって、俺たちとか?でも、アリアはモンスターだから……」
マカは両手を広げやれやれと芝居がかった仕草をする。
「お兄は分かってないなー。しず姉は分かるよね?」
「……私のテイムスキル。私のテイムモンスターとしてならアリアは人波の中でも自由に行動できる……私と一緒にいることが条件だけど」
そう、これならばアリアは人と親密な関係性を持って関われる。だたし、完全な自由とはいかないが。
『あなたたちが構わないのなら私は構わない。それが一番最適な方法だと私も判断している。……あなたたちは迷惑ではないのだろうか』
「それなら大丈夫だ!だってみんなアリアが仲間に加わることを歓迎しているんだから」
言い出したのはマカ。そしてアリアをテイムすることで戦力的にも強化されるシズネ。リュウキはもちろん、ここにいる三人はアリアが仲間になることを否とは言わない。
『それならよろしく頼む。おそらく私の性格、人格は一度リセットされるだろう。だが、この記憶だけは、生まれて一番最初の嬉しい記憶だけは残る。……生まれ変わった私をよろしく』
「ああ、よろしくな。シズネ、頼むぞ」
シズネがテイムスキルを発動する。
モンスターのテイム方法はその効果ゆえに種類は少ない。大きく分けて3つだ。
一つはモンスターへの止めとなるときに使うことでテイムできる『テイム・バレット』や『オーバーテイム』のようなスキル。
一つはすでにテイムされているモンスターを人から、あるいはアイテムとして譲り受けることで自分のテイムモンスターとすること。
そして最後に……
「……『フレンズ・テイム』」
プレイヤーとモンスターが互いに認め合い、モンスターがテイムモンスターになることを望んだときにだけ使えるスキル。確実にテイムできるがモンスターと心を通い合わせること自体が難しいためあまり知られていない。
『個体名アリアは少しばかり自己改革のため寝ます。一日経過後に目覚めるためそれまでお待ちください』
そう言ってアリアはシズネの中へと入っていった。
「これでライフ工場は攻略できたってことでいいのかな。それじゃあ……」
「……ギャブーさんのところに行こう」
「あ、すっかり忘れてた!」
「今から向かえばギリギリ間に合う!ダラークさんのおかげで邪魔されないし、モンスターは最小限だけ闘おう」
午後7時を回っており、ライフ工場からまずゼギエルに戻るまでが30分。ゼギエルからガラクサまでは2時間ほど。マカのことを考えれば全速力で急がなければならない。
「よし、いこー!」
マカがまず走り出し、リュウキ、シズネが続く。
三人が運よくモンスターと遭遇せず、ガラクサへと着いたのは9時半になったときであった。
アリアのステータスは次話ですかね~




