27話 四点突破
『特別クエストが発行されました。【工場地下の主を倒せ】受注しますか?Yes/No なおNoを選択した場合には工場入口に移動します』
リュウキは迷いなくYesを選択する。【工場地下の主】、この巨大な機械を倒せばいいだけだ。
「やってやるよ」
目の前には二段重ねのHPカーソル。そしてネームドモンスターを表す名前。
『クラッシュタイラント』、それがこの機械型モンスターの名前だ。
よく見れば形は歪。左右は非対称でそれぞれ腕も足も太さ長さが違う。
継ぎはぎの機械巨人。それがふさわしいだろう。
しかし、左右非対称とは決して弱いということではない。左右で全く違う構造をしていることだってあり得る。特にこのような機械であれば……。
「シズネ、マカ。陣形はいつも通りだ。俺が前で様子を見るから、あいつの動き、能力を見極めてくれ!」
シズネの冷静さからの観察力、マカの天才ゆえの思考はリュウキにはない。そんな余裕もない。リュウキができることは少しでも長く足止めすることだ。
「『悪鬼変身』」
ネームドモンスターはどれもが二つ名を持っている。『ブラッドラビット』の『赤黒毛皮』然り、工場の仮のボスともいえる『エッジワイヤー』にだって『自在長縄』というロープ状の物を自由自在に操れるようになる能力を持つ二つ名が与えられていた。
プレイヤーの持つ二つ名とネームドモンスターの持つそれの違いは一つ。
プレイヤーの二つ名は完全にランダムであるがゆえにプレイヤー自身が二つ名に振り回され二つ名に相応しい闘い方を求められるという点。
ネームドモンスターの二つ名は全くの逆。ネームドモンスターに相応しい、もしくは足りない点を補うような二つ名を与えられる。
プレイヤーは二つ名により闘い方を狭められるが、ネームドモンスターは広がりより強くなる。
『クラッシュタイラント』の二つ名は『四点突破』。4つの工場設備を強力な武器へと変える能力である。
プレス機は挟まれたら即死の圧殺機へと。
発電機はスタンガンのようなものへと。
溶接炉は火炎放射器へと。
ベルトコンベアは敵を締め上げる鎖へと変化していく。
『我の武器はどれをとっても貴様らにはもったいないものばかり。せっかく見せてやったのだ。全て堪能してみせろ……おっと、貴様らは3人だったな。これでは我の武器は1つ余ってしまう。フハハハハ』
1つの武器で1人殺すには十分。そう言いたげな言葉にリュウキは静かに息を吸って吐く。
全てを吐き切った瞬間、リュウキは走り出した。
『クラッシュタイラント』よりスタンガンのようになっている腕が伸ばされる。スタンガンと言ってもそれは比喩のようなもので、実際に流れている電流、電圧は比にはならない。触れれば防御力の低いリュウキは即死であろう。
『クラッシュタイラント』の腕がリュウキに迫る中、それを6本の剣が止めた。
「お兄、電気は私の方が相性が良い。先に行って!」
「マカ……頼む!」
『クラッシュタイラント』の腕からいくら致死量の電気が流れようとも触れているのはマカの剣のみ。触れているというのはこの場合、電気が伝わるのが、だ。空中に浮遊する剣はマカが触れずとも操れる剣である。剣に電気が伝わろうともマカの身体には全く流れてこない。
スタンガンもとい全ての武器は直接付いているわけではなく、ネジやボルト、釘、クランプなどで繋がっているのみ。とはいえ、それがいくつも重なっているから強固になっている。
「なら、1つ1つ壊していくだけだね!」
幸いにして操れる剣の数は増えている。
後はどれだけ自在に、独立して動かせるかだ。
「少しでも早く壊せばそれだけお兄の負担が減るんだもんね。頑張らなきゃ!」
この闘いの鍵ともいえる作業が始まる。
片腕が塞がれた今、『クラッシュタイラント』から鎖が放たれる。絡まり捕まったら最後、そのまま締め殺される武器である。『クラッシュタイラント』の身体中に鎖が巻き付いているため、どこを壊すということはできない。
「ならワイヤーと同じだ!『サイドクロウ』」
両拳を使い、伸ばされてくる鎖を叩き折る。鎖に頑強さはない。『エッジワイヤー』のワイヤーと同じだ。ワイヤーは貫くことに特化していたらしいが、こちらの鎖は捉えることに特化している。ならば捉えられる前に壊してしまえば問題はない。
問題はないのだが……。
「っ⁉しまった」
1本の鎖を壊してのだが、続けざまに放たれた鎖がリュウキの右腕を捉えた。ちょうどスキルと使い終わったときに伸ばされていたがゆえに避けることはできなかった。
そして、戸惑っているうちにもう1本の鎖が飛んできて左腕も捉えられる。
「……リュウキ!」
シズネの声が飛んでくる。珍しく焦っている声……ではない。恐らく手を貸そうかくらいだろう。
「鎖は大丈夫だ。それよりも、新しい魔法の準備を。この巨体なら嵌ると思うよ!」
「……了解」
「……両腕を封じられたからって格闘家にはまだ足があるんだよ?『ネリチャギ』」
右足を思い切り上に振り上げそのまま回す。その円上にあった鎖は瞬く間に千切れていく。
「……鎖はきりがなさそうだな」
『クラッシュタイラント』の使う武器のうち鎖だけが一番弱いものとして設定されていた。捕まっても即座に壊せば逃げられるためだ。とはいえ、一定以上の攻撃力がないと壊せないわけであるが。その代わりに鎖には伸ばされた鎖とは別の耐久値が設定されていた。それは『クラッシュタイラント』のHPそのもの。つまりは本体を倒さなければ鎖は伸ばされ続けるということだ。
「シズネ、頼むぞ!」
「……『サンドカーペット』」
『クラッシュタイラント』の身体が揺れる。歩いたわけではなく、傾いたのだ。足元は砂に変わっており、そこで『クラッシュタイラント』は足をはめていた。
リュウキの『悪鬼変身』はレベルが上がるごとに悪鬼の部分が増えていった。
マカの『舞空剣技』は操れる武器の種類、数が増えていった。
ならばシズネの『地底神王』は?レベル2では何の変化もなかった。だが、レベル3になったときにその変化は起きたのだ。
岩魔法に続く新たな魔法の習得。それが『地底神王』のレベルが上がるごとに起きていく強化であろう。レベル3で新たに覚えたのは砂魔法。直接的な威力はないが、こうして足止めなどに役立つ。
『エッジワイヤー』が相手では小さくて『エッジワイヤー』が全て砂に埋まってしまうため使うことはできなかったが、この巨体であれば片足を沈めれば十分。それだけで相手は動きにくくなるはずだ。
『おのれおのれおのれ。人間ごときが厄介な魔法を』
そしてガキンと音とともに『クラッシュタイラント』のHPが2割ほど減った。
「お兄、しず姉。やったよ!」
見ればスタンガンを搭載した方の腕は完全に壊れていた。
リュウキを捉えることに躍起になり、シズネの砂魔法に意識を向けられていて気づかなったのだ。
『……痛覚がないことが仇になるとはな』
見れば圧殺機の方もすでに壊れかけている。同時に分解されていたのだろう。
『この小娘、何者だ。そのような力は普通であれば使いこなすことは困難なはず。我の腕1つなら無理やり納得できよう。だが、同時に2か所を複数の武器で攻撃するなど……』
「私?私はお兄としず姉の妹だよ!」
『……そうか。家族、というやつなのだな。我の家族は我らが娘のみ。全力で守らせてもらうぞ』
『クラッシュタイラント』の身体は攻撃されるたびに部品が剥がれ落ちていく。そして落ちていく度にその部品の大きさによってHPは減っていく。
リュウキの打撃、シズネの岩魔法、マカの剣によって残りのHPバーは2段あったのが今は残り1段目の3割ほど。
『我の命も残りわずか。ならば我の最高の攻撃を見せてやる』
『クラッシュタイラント』の身体から鎖が抜け落ちていく。鎖は、全ての武器はHPと同じであるが、鎖はその中でも中心ともいえる武器。それを無くした今、『クラッシュタイラント』のHPは1割と切ったどころではなくなっていた。
『我の武器を1つずつ無くしていくというのは良い策であった。だが、我は機械だ。エネルギーを使う先が無くなれば他の武器に回すことができる。受けてみよ我が最後の攻撃を!』
『クラッシュタイラント』の二つ名は『四点突破』であるが、その真の力は数が減っていくことにある。武器が1つ無くなるごとに『三点突破』、『二点突破』となり最後の1つになったときには『一点突破』となる。その威力は他の武器と合わせて4つ分のエネルギー。
かつて溶接炉であった火炎放射器であるが、今は砲台となっていた。ただし、ジュガのそれよりも10倍の大きさの砲口だ。
腕を近づける必要はない。高い位置からミサイルを落としに落とせばいいだけ。
『さらばである。強き人間達よ。貴様らの強さは我が認めてやろう。燃焼性の爆弾だ、派手に焼け死ぬがよい』
砲弾がいくつも装填されているのだろうか、砲台となった腕が膨れ上がる。今にも爆発しそうなくらいに。
「ああ、さよならだ。ただし、お前がな」
砲弾の発射とともに『クラッシュタイラント』の腕は爆発し、同時にHPは全て消え去った。
火炎放射器と爆弾は違うよ、思ったかもしれませんが、作者はナパーム弾のつもりで書きました。確かつながりがあったはず……。だからそこは見逃してください
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