26話 工場の奥底で
会話多めで
「よっと」
宝箱の底は真っすぐどこかに落ちるわけではなく、長い滑り台のようにリュウキ達を運んでいった。
滑り台の最後はクッションがあり、リュウキは見事に着地したのだが……
「……よいしょ。……あ、リュウキごめん」
「ぐえっ」
「ほいっとー。あ、お兄踏んじゃった」
「な、んで……」
着地してポーズをとっている場合ではなく、後ろから次々と滑り落ちてくるシズネとマカの下敷きになってしまった。
仲間からの攻撃ならダメージは受けないのだが、衝撃は残る。
「……リュウキ、ごめんね?」
「お兄、許して?」
だが、美少女二人から上目遣いで謝られれば許さないわけにはいかない。うち一人は妹であるが、兄馬鹿であるリュウキにはむしろ妹のやったことを怒れるはずがない。
「いや、全然大丈夫!それよりもラビを探さなきゃ」
クッションから降りて辺りを見まわす。
ここはどこだろうか。なぜ、クッションが、果てはこの滑り台があったのだろうか。
それはこの空間が何に使われていたかを知れば分かることであった。
「工場……上とは違うな」
「だね。機械が動いてるよー。さっきまでいたとこはボロボロで何にも動いてなかったのに」
ライフ工場の上階はベルトコンベアやプレス機、溶接機などがあったのだが、どれも稼働していなかった。自家発電機らしき機械が完全に壊れていたところから電気が止まっているためだと思われる。
しかし、今いる空間はそれら上階で見た機械が動き、何かを運び何かを押しつぶし、何かを切り刻み、何かを溶接していた。
「あれは……モンスターじゃないのか?」
眼前には何体もの人型のロボットが何かを運んでいた。
羽のようなもの、牙のようなもの、皮、爪、嘴、毛、角……とにもかくにも様々なものが運ばれていた。
「モンスターの素材か。あれってライフ工場の外にいたモンスターだよな?」
「……たぶん。……そしてあのロボット、『ロボドリル』のようなモンスターじゃない。……NPCと同じ?」
「じゃあ、少なくとも攻撃はされないか……敵意はともかくとして」
モンスターでなくとも攻撃しようと思えばできる。ただ、NPCなどの存在を攻撃するということは、モンスターとして設定されていない存在を攻撃するということは何かしたのリスクを考えて行わなければならない。そもそもで攻撃していいのならモンスターとして出てくるのだから。ちなみにNPCの人間を攻撃、害することは普通に罪となり憲兵や賞金をかけられて他のプレイヤーに追われる身となる。
「あ、ラビだー」
ベルトコンベアを辿っていくとラビがさらに奥を見つめていた。
「ラビ、どうしたんだ?」
「キュルキュルキュル」
あっちを見ろとラビは顔を奥に向けて振る。
「……何かある。……カプセル?」
『また人間どもか。凝りもせずによくも我が工場に……』
その時、奥から声が響いてきた。
声は機械音で性別は分からない。
『つい先日も侵入者は排除したが、貴様らも我らが娘を奪おうと言うなら……命を失おうとも文句はないということだな』
排除、その言葉にリュウキは反応した。
この声の主こそが依頼者の夫を殺した犯人か。
「お前が殺したんだな?」
『そうだ。あの男は我らが娘を金になるからという理由で奪おうとしたのだ。貴様らに分かるか?長い年月をかけて育ててきたものを奪われようとした気持ちを……いや、我らに感情はないか。しかし、我らの生みの親であるライフ工場は最後には感情を以て人間を排除したという。ならば我らにも感情はあるのだ!感情を持ちさらには人間以上の性能を持つ我らこそが地上の、いや世界の支配者となり得るのだ』
「……何を言ってる?……あなたたちは元々人間に作られたんじゃないの?」
『元はそうであろう。だが、我らは生まれた後に進化を、発達を遂げた。もはや人間などいらぬ。まだ少しばかりの年月はかかるかもしれぬが、着実に準備はできている』
「この集められた素材はなんなの?」
『これらか?答えてやろう。上に蔓延る機械達は見たな?あれらはただ人間を見れば殺そうとする意志無き機械だ。だが、この奥にあるカプセルにあるもの。それこそが我らが悲願!我らの娘とも言うべき新たな機械人形だ!』
「あの人形を作るために必要ってわけか」
『いかにも。もう少しなのだ!あと少しで完成する。……それまでは我が貴様らの相手をする他あるまい』
ここで闘うことになるのか、とリュウキは気を引き締める。
こんな隠したような場所にいるモンスターだ。間違いなくボスクラス。生半可な気持ちでは挑められない。
「さっさと出てきてくれよ」
『フハハハ。我に出て来いとな?我はすでに貴様らに姿を見せておるわ。だが、そうだな。このままでは貴様らを殺すにはちと不便だ。どれ、形状を変えてやろう』
ベルトコンベアが鞭のように波上に動き、壁が揺らぎ、いつの間にかロボットたちはいなくなっていた。
奥のカプセルは新たにできた壁で守られるように塞がれていく。
『我はライフ工場の意志を受継ぎし最初にして最強の戦闘用機械。貴様らが今まで闘ってきた機械とは格が違う。あのワイヤーともな!』
カプセルに繋がっていた全ての機械が一つに重なっていく。ネジが外れ、また繋がり、全てのパーツがまるで一つの機械を作り上げていたかのように、最初からこちらの姿が真の姿であったかのように変形していく。
『そういえばあの男は我の扱う武器では殺せなかったなあ。一歩、我が踏み出しただけで死におったわ。あれは滑稽だった。フハハハハ』
「何がだ」
依頼者の夫は仕事をいくらしても賃金は最低限しかなかったという。
一年に一回、結婚記念日だけ特別な食事。それだけを楽しみに、目標にして仕事に励んできた。そして記念日の一週間前……彼は死んだ。
大金が入ることを見越していたのだろう。記念日には花束と小さいながらも質の良いアクセサリーが妻の元へと届けられた。彼女は懸命に涙を拭おうとしたが何時までも目の前は涙で見えなかったという。
妻――依頼者は以前から続けていた内職を今では倍以上に増やし、何とか生活を送っている。依頼の報酬は決して多い額ではなかったが、それでも依頼者にとっては身を切るようにして用意した金だろう。
『ハハハ?』
例え敵がリュウキの数倍の大きさであろうとも、全身が鉄であろうとも、プレス機、電気ノコギリや溶接機で武装していようとも、今笑ったことに関してはリュウキは譲れないものがある。
「あの旦那さんはな。奥さんのために、奥さんと幸せになるためにお金が必要だったんだ。人はみんな幸せになろうと努力している。……例え努力の方向性が間違っていようとも、笑っちゃいけないんだ!」
情報でしか聞いていなかったが、それでもリュウキは目の前の存在に怒りを覚えてしまう。依頼を達成したが夫の死因は分からなかったと伝えられた時の妻の悲し気な笑顔、依頼者の首にあったネックレス、路地裏の小さい家に今でも一人で住んでいる。それらを直接見たわけではない。
だからこれはリュウキのエゴだ。リュウキが勝手に目の前の機械を許せないと思っただけ。他の者なら勝手に侵入した方が悪いと言うのかもしれない。
「……私も一緒に闘う」
「お兄だけじゃ負けそうだしね」
『ならば来い!貴様が我に勝つことで人間の強さを証明してみせよ』
「ああ、見せてやるよ。鬼の……いや、人間の力を!」
三人称視点だと会話多くしないとつらいものです…
感想その他いつでも待ってます




