23話 ライフ工場
おお、ブクマが付き始めてる
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【ライフ工場】
かつてゼギエルという街を支えている工場があった。ゼギエルはまぎれもなく産業、それも工業に特化している街ではあるが、発明発見はともかくすでに確立された技術に人手を割くなどという余裕はなかった。周辺の街への技術提供、新しい武器防具の開発、次の代への世代交代。とてもじゃないが、既存品など作ってはいられなかった。
そこで開発されたのが技術者たちがありったけの労力と金と技術を以てして作り上げた一つの工場であった。先を見据えるなら安いものだと誰もが納得した。
その工場は機械を生み出し続けた。単純な作業から力作業、人が活動できないような熱量を持った場所での作業をするためのロボットたちを。
その工場は決して休まなかった。ロボットたちは消耗品であるのに対し、工場だけは止まってしまうとゼギエルの工業が止まってしまうからだ。
その工場は悲鳴を上げ続けた。あちこちから軋む音がしていた。だが、工場に依存しきっていた者たちは目に見える箇所だけを修理して休ませることはさせなかった。
その工場は限界であった。屋根は吹き蹴飛ばされ、塗装は剥がれ、ネジは外れ、柱は折れ、オイルは漏れ、電線は途絶え、全体が傾いていた。
その工場で起こったことは報復、だったのかもしれない。いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも動きが悪いと蹴られ罵られ壊すぞと脅され例え心が無かったとしても奴隷よろしく、いや、奴隷よりも最悪な環境で動かされ続けた工場はついに人に復讐を果たした。
ガス漏れ、と一部では噂されていた。猛毒のガスが漏れたことにより工場に近づいた者は誰もが死にゆくことになると。死の工場と恐れられもはや誰もその工場からロボットが送られてこないようにと願っていた。
数十年が経ち、とある整備士が全く同じ部品をなるべく多く使用しなければいけない仕事を受けた。だが、なるべく多くというその数は最低でも一万。それも全く同じという依頼であればほぼ不可能に近い。そして彼は思い出す、ある工場のことを。
噂には聞いていたがあの工場のロボットならば一万の部品など簡単に作れるのではないだろうか。それにその間に自分は違う仕事ができる。ガスというのもすでに消え去っているだろう。
彼はさっそく工場に赴いた。念のため、ガスを防ぐマスクを装備して。
「あなた……本当に行くの?あの工場は私の祖父たちの世代はみな近づくなって言うのよ」
「なあに、もうだいぶ昔の話だ。爺さんたちだって大袈裟に話を盛っているにすぎんさ。それにこの仕事が片付けばかなりの大金が入ってくる。……お前に楽をさせたいんだ」
「あなた……」
一週間後、彼の死体が発見された。工場の付近であったが、死因はガスによるものでなく、何か鈍器のようなものに押しつぶされてのことだった。
「夫は、工場に行くと行ったんです!それに身の回りの持ち物は何も盗られていません!野党たちでもないし、夫は殺されるほど恨まれてもいませんでした。どうか工場で何があったのか調べてきてください!」
これが『ライフ工場の真実』というクエストの概要であり、このクエストをクリアすることで妻から次の運営側がプレイヤーとしてプレイしているボスへと至る道のヒントがもらえるのだ。工場ではモンスターと化したロボットたちを闘うことになり、奥には工場のボスらしきモンスターを倒さなければクリアにはならない。
このクエストをクリアしたダラークたちは後にこう語った。
この工場のボスは倒したが、何か納得いかねえ。そもそも鈍器を使うようなやつはいなかった、と。
それでも一応はクリアしたことになり、そのクエストはもうギルドでは受けれなくなった。
ボスモンスターがその巨体で押しつぶしたのだろう、無理やり解釈することで納得するしかなかった。だが、妻の顔は未だ晴れないままだと言う……。
命を生み出し命を育て最後には命を奪う存在となった工場の名はライフ工場。
ボスが倒れた今でもロボットたちは生み出し続けられる。いつ止まるのか、それはこの工場を作り上げた者たちへと向けた呪いのようなものが止めさせてくらないのだろう……。
わずかばかりの心残りのような違和感と純粋にここでの戦闘は経験になると判断したダラークはリュウキたちにこの工場を教えた。機械は当然ながら鉄だ。鉄は人よりも硬い。ここのモンスターをテイムできれば壁となるテイムモンスターとなるだろう。
「……年季の入った工場だなあ」
ライフ工場へと続く道まで、モンスターはほとんどいなかった。近づくにつれ数は減っていく。
「もう全然見かけないねー。あのロボットたちのせいかな?」
マカの指さした先、そこにはモンスターを狩り、工場へと運んでいくロボット型モンスターの姿があった。
「……ロボットの部品?にするって書いてある」
リュウキたちは一応、ここに来る前にライフ工場の情報を調べてきた。
工場の成り立ち、ここで何があったのか、ダラークがボスを倒してクリアしたことも。
「ダラークさん達は俺たちと同じくらいの強さのときにはクリアできたって言ってたら俺らでもいけるって言ってたけど……」
正直、ここに来るまでにモンスターを狩るロボットたちを見てヤバいでしょとリュウキは思い始めてきた。
少なくとも道沿いに出没するモンスターよりは格上。リュウキたちとて三人ともここらのモンスターには遅れをとらないとは思うが、これらよりも一段階強いモンスターならばどうなるか分からない。
「しかも、一体二体じゃないよなあ……」
「お兄、さっきから弱音吐きすぎ!私としず姉がいるんだよ!」
「……鉄でも私の岩魔法なら押しつぶせる」
そうか、とリュウキは思い出す。ジュガの『重機戦車』をシズネは岩魔法で打ち破った。マカの剣だってダラークたちが倒せたのだから通らないはずがない。彼らは魔法の類は使っていなかった。ならば剣や拳で倒したのだろう。同じような編制の自分たちなら苦戦はするかもしれないが、太刀打ちできないなんてことはないはずだ。
「じゃあ、行くよ」
ライフ工場の正面にある大きな扉に手をかける。
重厚なその扉は昔は自動で開いていたのだが、今となっては手動以外では開かない。
ここはATKが最も高いリュウキの出番だろう。
「ふぬくくくっ」
「お兄がんばれー!頑張ったらちゅーしてあげるよー!」
「いらないよっ」
「……リュウキ、がんばって」
「おう!……ぐうっ」
全く扉は開かない。押して駄目なら引いてみよでもなく、スライド式でもない。
単に力不足、ATKが足りていないだけであった。
「だけど、俺が駄目ならもう手詰まりだよな……こんな序盤から使うのもなんだけど、『悪鬼変身』」
リュウキの手足が黒く染まっていく。
これで出せる力はおよそ倍以上。これで駄目なら本当に駄目だ。
「うおおおおおっ!!」
ギ、と錆びついた音がした。
「……リュウキ、もうちょっと」
ギギギギギと扉が軋む音がし、バンと一気に扉が開かれた。恐らく扉の重さによって開かなかったのではなく、扉が錆びついて動かなかっただけであろう。
「よし、入ろう」
額の汗を拭いながらリュウキは言う。
「でもお兄、何で三人で押さなかったの?それなら開いたんじゃない?」
扉は大きい。三人で押せるスペースは十分にあった。だが、ここは俺が、とリュウキが一人で押していたのだ。
「それは……」
格好つけたかったなんて、とても言えなかった……。
さあ次回から……闘えるかな?




