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二つ名オンライン  作者: そらからり
1章 二つ名
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17話 岩と鉄

ちょっと場面転換があります、何回か

 シズネは現在PVP時に発生する結界の中にいた。

 結界外の音は聞こえない。まるでそこだけ世界が切り離され、別世界からリュウキたちのいる世界を眺めているかのような不安を覚えさせる。


「そう不安がるな。俺か嬢ちゃんのどっちかが倒れればここから出られる。……今は闘いを楽しもうや」


 ジュガはダラークたち三人の中でも振り回されることが多かった。

 闘いを純粋に楽しみ、気に入った相手にはとことん情をかけるダラーク。

 ダラークを追いかけ、本来は苦手であったゲーム内でトッププレイヤーの一員となったアザリカ。

 この二人となぜジュガは一緒にいるのか。それは腐れ縁であり幼馴染であり友人という繋がりからジュガもDNOの世界に入った。

 ジュガの役割は戦闘を走るダラークとそれを追いかけるアザリカを行き過ぎないように抑制することであった。彼のことを二人がどう思っているのか、それはジュガは聞いたことがない。もしかしたらめんどくさいやつだとでも思っているのかもしれない。それでも彼は二人に着いていく。


「走る二人を守るのは俺の役目だからな。『重機戦車』」


 ジュガの身体が変化していく。足はキャタピラに、二本の腕はそれぞれ砲台へと。それに伴ってジュガの身体は見上げるほどの大きさになっていく。

 身に纏っている重厚な鎧と、変化した身体が合わさりジュガは1台の戦車となっていた。

 リュウキと同じく変身系の二つ名。だがそれはリュウキの二つ名よりも、より身体が人間離れしていた。リュウキとの違う点、それはリュウキの変身後は身体の構造が変わることがないことに対し、ジュガは生物ですらないものに変身したということだ。

 人に翼が生えたとき、すぐに飛べるだろうか。人に尻尾が生えたとき、すぐに動かせるだろうか。同じ生物であるはずなのに人は人にない部位を容易に動かせない。ならば、人ならざる機械を身に着けたとき、人は容易に動かせるのだろうか。答えは否、であろう。キャタピラになった足を今まで通りに動かせるか?砲台となった腕から砲弾を撃ち出せるか?

 身に余る強さを手に入れたジュガは闘いにおいて経験値よりも力に慣れることに重きを置いた。始めはでくの坊であった。次にレベルに劣っている者と同程度には闘えるようになった。そして同レベルの者並みに闘えるようになった。修練の果てにジュガはダラークが隣を任せるほどまでに成長した。

二つ名がレベル1の時は足がキャタピラになるだけであった。

 レベルが2になったときは手が砲台になった。

 そしてレベルが3になった時に……


「悪いが俺が戦車状態になってもMPは使用されない。MPが使われるのは攻撃時だけだ。嬢ちゃんはさっきの戦闘じゃ二つ名を使ってなかったようだけど、使わなきゃ俺に攻撃が通用すると思うなよ?」


「……もう攻撃していい?」


「お、おう。何だ、嬢ちゃんも中々のバトルジャンキーなのか?」


「……違う。……『ロックバースト』」


 爆弾を破裂させたかのごとく、ジュガの眼前に現れた岩が弾ける。一つ一つが銃弾並みの速度で、ジュガの身体中に散らばる。一か所ならば耐えられるダメージであろうとも、それが全身に広がればダメージも痛みも計り知れないものとなる。


「ぐ、ぐおおおおおお」





「や、やったかな」


 シズネの岩魔法は二つ名によりさらに威力が高められている。しかもそれをMP消費なしでだ。威力が高い魔法はそれだけMP消費が激しい。だがシズネの二つ名はそれを無視できる。

 この魔法はリュウキは初めて見るが、見ただけで威力の高さを思い知らされる。リュウキのHP、防御力ならば数発当たればそれだけで致命的であろう。


「まだ、だな。あの嬢ちゃんの魔法の威力は高そうだが、それだけでやられるくらいなら今の最前線にはあいつはいねえよ」


 ダラークは知っていた。ジュガの努力を。

 ダラークは見ていた。ジュガが慣れない武器と身体を扱う姿を。

 ダラークは認めていた。ジュガの強さと精神力を。


「あいつがあの二つ名を使いこなすために一か月、何をしてきたか俺は知っている。昨日今日始めたお前らが簡単に倒せるようなやつだと思うなよ?」





 岩が爆ぜたことにより起こった土煙が晴れ、シズネは気づく。まだ結界が解除されていないことに。そしてジュガの体力が全くと言っていいほど減っていないことに。


「……ブラッドラビットみたい」


「ああ、お前らあれと闘ったのか?あんなん倒せるのはそれこそ最前線のやつらくらいだってのに……。まあこの威力、そして後の二人が嬢ちゃんと同じくらいの強さだってんならそれも頷けるか……。とんでもねえ新人だ。だが、それでもこの威力なら俺の装甲は突破できねえ」


 『重機戦車』のレベル3でジュガが得たのは人を超えた防御、戦車の装甲であった。鎧を着こんでいるため見た目からは分かりづらいが、その皮膚は鉄へと変化していた。

 鉄は岩では壊れない。岩を逆にはじき返すのみだ。


「……むう」


 シズネは別に出し惜しみなどしてはいなかった。なるべく速度の高い、それでいて威力の高い魔法は『ロックバースト』を使ったのだが……。


「……威力が弱すぎた?……なら『ロックインパクト』」


 シズネの今覚えている中で最も威力の高い魔法。ダメージ軽減のあったブラッドラビットのHPさえ4割以上削る岩魔法。

 一度頭上に大岩を出さなければいけないという難点があり、避けられてしまう弱点があるが、シズネは避けないだろうと確信していた。

 ジュガは恐らく防御に絶対の自信を持っているはずだ。


「……私の魔法と、あなたの装甲で勝負!」


「……そこまで言われちゃあなあ。しゃあねえ、受けてやるよ。嬢ちゃんの魔法をよ!」


 ジュガは両腕の砲台を頭上の大岩に向ける。


「俺のMPを持ってけ!」


 一発一発が先ほどの『ロックバースト』よりも明らかに威力の高い砲弾が大岩に突き刺さっては爆発していく。一つの爆発では大岩を崩すには足りないが、少しずつ岩が削れていくのは目に見えていく。

 砲弾を撃つたびに大岩が小さくなっていき、ジュガに到達するまでに半分にまで減る。


「うおおおおおお」


 ジュガが大岩を受け止める。キャタピラが悲鳴を上げ、砲台がひしゃげ、わずかにHPが減っていく。


「……どらあっ!」


 ついにはジュガの持つ大岩はジュガにより投げ飛ばされる――シズネの元へと。


「……『ロックシザース』」


 シズネは速度のある魔法で投げ飛ばされた大岩を迎撃する。二つの岩は相殺し、砕け散る。


「やるじゃねえか。だが、嬢ちゃんもあれだけの魔法を使ったんだ。もう手がねえだろ。俺もあと数発しか砲弾は撃てねえが、魔法使いと近距離でも闘える俺、どっちが有利か分かってんな?」


「……さっきの魔法」


「ああん?」


「……さっきの『ロックシザース』は本来は『ロックインパクト』なんか砕けるほどの威力はない」


 『ロックシザース』は速度重視の魔法。ゆえに威力重視の『ロックインパクト』を砕くことはできなかった。そうシズネは言う。


「そりゃあ俺が投げたほうの岩は俺が小さく砕いちまったからだろ?我ながらよく削れたとは思っているが……」


「……私の二つ名、まだ使ってない。……MPを使うとこの後のモンスターとの闘いの時に困るから使ってなかった。……だけどあなたに見せてあげる、私の全力」





「なあ兄ちゃん、リュウキとか言ったか?あの嬢ちゃん二つ名使ってなかったってマジか?」


「本当ですよ。言っておきますけど、一番強いのって俺じゃなくてシズネですよ?」


「はあ?だってあの嬢ちゃん、魔法使いってのは分かってたけど使ってたの岩魔法だけじゃねえか。あれだけ連発すりゃ二つ名使ったってもう手遅れなんじゃねえのか?」


「……そもそもでシズネは魔法使いじゃありません。彼女はテイマーです。それと、シズネの二つ名、名前こそ言いませんが、あいつは岩魔法に関しては何回でも使えます」


 ダラークは絶句する。魔法使いでなくても確かに魔法はスキルさえあれば使える。だが、それでも魔法使いじゃなければあの威力は普通は出せない。


「……パッシブでINTに補正かかってんのか。そんでテイマーか……前衛つくるなら確かにそれもいいが、魔法使いならもっと威力高く出せてたぞ?」


 テイマーでもINTは他の戦士や格闘家などと比べれば高い。だが、それでも魔法を使う本職よりは低くなっている。

 だが、それでもシズネの二つ名があれば別であった。


「いいんですよ。見ててください。たぶん、シズネのMPが減ったってことは二つ名のアクティブのほうの能力を使うみたいですから」




 シズネはMPが減っていくのを感じていた。今ある130ほどのうち100が無くなる。


「……『ロックバースト』」


 ビュン、と先ほどの『ロックバースト』の倍の速度で魔法が放たれる。


「ぐわあっ⁉」


 魔法の速度に反応できず無防備に岩が身体に食い込んでいく――鉄であるはずの身体に。

 一つ一つの威力が先ほどよりも明らかに高くなっている。


「……私の二つ名『地底神王』のパッシブスキルは岩魔法ならMPなしで発動できる。……そして、アクティブスキルは岩魔法の威力を上げる」


 二つ名のアクティブスキルのほとんどはMPを消費する。『地底神王』はつまり、MPを消費して岩魔法の威力を上昇させていた。MP1につき、1%の上昇。シズネは100を消費した。つまりは、先ほどの2倍の威力。ジュガの装甲もさすがに耐えられなかった。


「だが、それでも俺のHPはまだかなりある……。二つ名の能力と戦士という職業のおかげだけどな。嬢ちゃんは今のでかなりMPを使ったってのは俺でも分かる。今のをもう一度できないだろ?」


 シズネの残りのMPは30ほど。確かにもう一度同じ威力の『ロックバースト』は使えない。『ロックバースト』なら。


「……岩魔法を通常の威力で使えばMPは関係ないってさっき説明したの忘れた?……『ロックインパクト』」


 再びジュガの頭上に大岩が降る。


「ちっ」


 さすがに避けようとするが、一度目の『ロックインパクト』を受け止めたせいでキャタピラが思うように動かない。……このままでは当たる。


「ならばっ」


 残るMPを全て砲弾に変える。

 バララララララッと次々と砲弾が大岩に当たっては爆ぜていくが、10発としないうちにMPが底をつく。


「ちくしょぉぉぉ」


 周りからすれば一瞬だが、ジュガ本人にはゆっくり大岩が自身を飲み込んだように感じた。同時にジュガのHPが2割を切ったことをシステムが伝えてきた。


2割以下で決着という設定です

実際はHPはほんの少し残っていたってとこですかね

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