15話 『ウルフ』
DNOの開発者の一人がガラクサ草原を創造するときに課したテーマは4つあった。
「恐怖」に対する「勇気」を
「戦闘」に対する「経験」を
「未知」に対する「観察」を
そして、「軍団」対する「協力」をこのガラクサ草原でプレイヤーに学んでほしかった。
「勇気」も「経験」も「観察」も「協力」もこれからDNOをプレイするためには不可欠であるから。特に設定されているボス級のモンスターは個人で闘えるようなものではない。
DNOに設定されているボスは開発者によるプレイヤーであり、その強さは一般プレイヤーが協力しなければ倒すことはできないほど。
「そうだ、それでいい」
暗い部屋の中に一人の男がいた。部屋で唯一光を発しているモニターの前で男は画面を食い入るように見つめている。
モニターには『ウルフ』が出現するガラクサ草原にいたプレイヤー全員が一丸となって『ウルフ』を全滅させた映像が流れていた。
実力に不安のあるプレイヤーは数人がかりで『ウルフ』に挑み、全体攻撃のできるプレイヤーは一人で数匹まとめて『ウルフ』を倒していた。
ここで男が注目しているのは『ウルフ』を倒したことなどではない。他のプレイヤーを見て行動できている者がいるか、そこだけを見ていた。
そして数人、赤の他人であろうプレイヤーを助けながら行動するプレイヤーを発見した。二つ名も戦闘向けだ。これならこの者たちが次の街へ行けばボスも倒せるだろう。強く設定しすぎてしまったボスも。
彼はプレイヤーに対して干渉できることはわずかだ。こうしてDNOを始めたばかりのプレイヤーから有望な者を見つけて密かに心の中で応援することが趣味であるが、彼の唯一といっていいほどの許された干渉はプレイヤーにとっては害になりかねない。
「彼らならいずれは私を超えてくれるかもな……」
男はモニターの画面を切る。これ以上他の者に興味はないとばかりに。
「ようやく……終わったぁぁぁ」
『ウルフ』の群れが現れてから30分。それだけの時間をかけてガラクサ草原から生きている『ウルフ』はいなくなった。
二つ名を使わずとも倒せる敵ではあったが、今いる場所は新規プレイヤーの開始地点である。闘っている間にもどんどん新規プレイヤーがログインし、『ウルフ』に襲われる。
一人二人くらいなら苦労せずに助けることもできるが、例の改正案のせいで今は少年少女が後から後から押し寄せるようにログインをしていた。
胸に希望を抱き、ログインをしてきた純粋な子供たちは突如襲い掛かるモンスターへの恐怖で足がすくみ、餌食となろうとしていた。モンスターに人を襲う理由があるのかは分からない。そうプログラムされているからなのか、人を殺すことでモンスターとしての本能でも欲求でも満たされているのか、人を殺すことで食事の代わりとなっているのか……少なくとも襲われる側からすれば関係ないのだが、『ウルフ』の牙は新たに現れた獲物に突き立てられようとしていた。
「ウグルルラァッ!」
「キャァッ――」
歪に曲がりくねった歯が腕に食い込む――黒い靄が纏わる腕へと。
「大丈夫?」
間一髪、『悪鬼変身』を使ったことにより速度が上昇したリュウキは『ウルフ』に攻撃されかけていた少女を助けることができた。だが、それで終わったわけではない。こちらに向かえばあちらで、あちらに向かえばまた違う場所で初心者と思わしきプレイヤー達が『ウルフ』によりHPを減らされている。
明らかにリュウキ一人では……いや、シズネとマカを含めても手が足りない状況であった。
「……リュウキ、大きな魔法で纏めてやっつけたい」
「……いや、駄目だ!他のプレイヤーまで巻き込んじゃう!」
すでに新旧プレイヤーと『ウルフ』は入り乱れて下手な全体魔法でも使ってしまえば助けるはずが止めとなってしまう可能性がある。
「マカは二つ名を節約しながら倒してって。使う時はあまり一匹に固執しないで多数に使ってみて」
「了解だよお兄!」
マカはリュウキ達の元を離れて他のプレイヤーを助けに向かう。
今日始めたばかりだが、すでにリュウキ達と遜色ないほどの実力を身に着けていた。
「相手はあんまし強くないはずなのに……数が多いだけなのになんでこんなに手間取ってるんだ⁉」
その理由は他のプレイヤーたちにあった。お互いを牽制し合う余り二つ名を使用せず闘っているため時間がかかってしまっていた。
この非常時に、後先を考えて行動してしまっているために、今をおろそかにしてしまっていた。
「……駄目だ。いくら何でもこの数を二つ名を使っているのが数人くらいじゃ……」
そして手間取るプレイヤーがいればそれだけ『ウルフ』が能力を使用し始める。
「ウオオオン」
「ウオオオ!」
「ウオオオオオオオオオ」
遠吠えによりまたも『ウルフ』が増え始める。
いくら倒してもきりがない。もはや諦め逃げ出そうとするプレイヤーまで出始める始末である。
「……しょうがない。……リュウキ、出来る限りは闘おう。……救えるだけ救おう」
シズネの言うとおりにするしかない。このまま闘えば助けられるプレイヤーはいるはずだ。例え何人かが犠牲となろうとも。
諦めるしかないか。そうリュウキが思ったとき、
「おお、あの子の二つ名めっちゃすげえぞ」
「てか、こんな大勢の前で二つ名使うとか……いや、これが正しいのか?」
「俺も始めたばっかの頃は助けてもらったな。……よし、あの時の恩を返すか」
手足にしか効果がないリュウキの二つ名と違い、マカの『舞空剣技』はマカを中心として周りに剣が浮遊する二つ名で、他のプレイヤーにとってもそれが二つ名であることが丸わかりだ。
そして、可愛らしい少女が率先して闘う姿が男たちに火をつけた。
「解放せよ『連撃五部』」
「当たったらごめんな、『風下煙火』」
「幼女は俺が守るぜ!『百人小人』」
剣が爆ぜ、煙が惑わせ、小さな小さな小人達が新規プレイヤー達を守る。
「『大型転位』。範囲攻撃できる人はこっちに来て!」
散らばっていた『ウルフ』たちが一か所へと集められる。
「休みなさい。『長期休暇』」
『ウルフ』たちは時間が止まったかのように動きを止める。
二つ名を使い始めたプレイヤーにとって『ウルフ』なぞ敵ではない。
瞬く間に『ウルフ』は数を減らし、10数分後には一匹もいなくなっていた。
「あの、ありがとうございます!」
「みなさんお強いんですね」
「俺もあんな風に闘えますか?」
助けられた新規プレイヤー達は口々に感謝の気持ちを述べていく。
礼を言われた方も気分よく答えていく。
「なんだ……みんないい人ばっかだな」
「……うん。……リュウキ、素材はこれで達成だよ?……ギャブーさんとこに行く?」
「はやく装備つくってもらおー!」
まだ周りは『ウルフ』を倒した喜びに浸っていた。そしてその倒すきっかけとなったのはリュウキ達三人であるのだが……その後の二つ名のオンパレードが効果も見た目も派手過ぎたために埋もれてしまい、ほとんどの者が三人を認知することはなかった。
「やられてしまった人いなくて良かったな」
「……私たちも強くなった」
「私、今日始めたばっかなのにねー」
当の本人たちもそれほど気にしていなかったのが救いであったが……。
リュウキ 格闘家 L12
『悪鬼変身』 LV2
HP 225
MP 71
ATK 63
DEF 28
INT 20
AGI 59
DEX 22
LUK 22
*ATK・AGIに補正
所持スキル:格闘家スキル
装備:スカーレットメイル
シズネ テイマー LV11
『地底神王』 LV2
HP 138
MP 105
ATK 15
DEF 27
INT 53
AGI 12
DEX 51
LUK 35
*HP・MP・ATK・DEF・INT・LUKに補正、AGI・DEXが微減少
所持スキル:岩魔法 テイムスキル
装備:ギャブー印の失敗作(テイマー用)
マカ 剣士 LV9
『舞空剣技』 LV2
HP 149
MP 29
ATK 34
DEF 27
INT 14
AGI 18
DEX 10
LUK 17
*ATK・DEXに補正
所持スキル:剣スキル
装備:ギャブー印の失敗作(剣士用)
ラビ ブラッドラビット LV8
『赤黒毛皮』 LV2
HP 122
MP 28
ATK 26
DEF 14
INT 10
AGI 27
DEX 10
LUK 11
時間がかかったわりにそこまで書けなかった……
ステータスはあくまで目安なので、気にしなくてもいいです。
どのステータスが飛びぬけているかを分かってもらえれば細かい数値は……作者が適当に変えてるだけなので




