14話 失敗して成功して結局失敗をなすりつけられる
『ハンドベア』の最大の特徴はその巨大な手であるが、それが意味するのは攻撃範囲の広さである。2mにも迫るその巨大な手は避けようとすれば他のモンスターの攻撃よりも大きく離れなければ避けられない。
だがその攻撃は単調であり、攻撃速度はそこまで高くない。よほどAGIが低い職業でなければ避けられる速度である――攻撃範囲が広かろうとも。
そのため、多くの初見のプレイヤーは『ハンドベア』の攻撃を無理にでも避けようとする。AGIの低いプレイヤーは盾や剣で受け止める。全ては罠と知らずに。
『ハンドベア』の攻撃に特殊なものがあるとすれば攻撃にあるものへの特攻があることだ。それに当たれば攻撃力が2倍にもなるかという特攻効果。そしてこの効果は『ハンドベア』の攻撃方法に騙されたプレイヤーの多くがその身をもって知ることとなる。
「……多分だけど、プレイヤー自身に当たった時に攻撃力がとても上がるモンスター」
『ハンドベア』は人体に対して特攻する。剣や盾で受け止めたときはわずかに衝撃でダメージを受ける程度。そして本来その程度の攻撃をまともに当たろうと半分減るか減らないかである。だが、特攻が付いた『ハンドベア』の攻撃をまともに当たるとほぼ全損する。
「俺、よく生きてたな」
「お兄は肩に掠ってただけだもんね」
リュウキは運が良かった。防御力がまともに上がっていないリュウキのステータスなど『ハンドベア』の特攻攻撃が当たってしまえば簡単に吹き飛ばされる。だが、肩に当たっただけであったため9割だけで済むことができた。
以上から『ハンドベア』の攻撃はよほど自信のある者以外は避けてはいけない。『ハンドベア』の攻撃の対処法、それは攻撃に対してこちらが武器などで受けることである。確かにわずかに衝撃によってダメージがあるかもしれない。それでも致命的なダメージを負うよりはマシだ。
「……だから、リュウキは格闘家スキルで迎撃。……多分カウンターは駄目」
「カウンターは俺にもダメージがあるもんな。そのダメージが大きくなるかもしれないし」
「……マカは頭に血が上りすぎ。……剣で確実に対処していけばマカにとっては手間取らない相手のはず」
「うぅ……ごめんなさい」
リュウキが吹き飛ばされたことによりマカは後先考えずスキルを使ってしまった。今はマカも血の気が引いて自分がいかに危険な状況であったか分かったらしい。
「……じゃ、もっかい闘お?」
『ハンドベア』は対処法さえ知っていれば非常に闘い自体は楽であった。
攻撃をこちらの攻撃で返しさえすればいいのだから。リュウキは格闘スキルの中でも比較的威力の高い『サイドクロウ』を、マカは剣で受け止めるだけで、恐るべき靭帯特攻たる『ハンドベア』の手から逃れられた。
そしてもう一つ。リュウキは闘っているうちに気づいたことがあった。
「マカ、こいつ攻撃を受け止めたら一瞬だけど動けなくなるみたいだ!」
「そっか!よーし……」
リュウキへと向けられた『ハンドベア』の手をリュウキではなくマカが受け止める。受け止めたことによりできた一瞬の硬直をAGIに優れるリュウキが攻撃する。
「……『ロックシザース』」
再び『ハンドベア』が動き出す前にシズネの攻撃が熊をポリゴンへと変えた。
「よし、もうこのモンスターも大丈夫そうだね。シズネのおかげだ」
「しず姉すごい!」
「……ん。……もう素材も集まったみたい」
シズネは顔を赤くしながらドロップしたアイテムを拾う。
これでギャブーから指示された素材のうち『ハンドベア』から得られるものは集まった。
そうなると次は……
「いよいよあのモンスターか」
「ちょっとだけ見たけど普通の狼みたいだったね!」
「……でも、油断は駄目。……どんな相手か分からない」
北、東、西のモンスターと戦い、残るは南――ゲーム開始位置に生息する『ウルフ』のみである。厳密には『オオハリネズミ』とも闘わなければならないのだが、それはこのガラクサ平原にはいない。第二の街に向かう途中に生息するため、次の街に向かいながら集めることになっていた。
「まだポーションは残ってるしこのまま行ってみる?」
「……私は大丈夫」
「私もおっけーだよ!MPも回復してるから二つ名も使えるし!」
「じゃあ行きますか」
北の『マッドドッグ』は外見が醜悪であり、モンスターと戦っているという実感をプレイヤーに抱かせた。
東の『ブラックラビット』は速度が速く、モンスターの強さ、プレイヤーの戦闘センスを鍛えられさせた。
西の『ハンドベア』はモンスターの攻撃が特殊であり、状況を見極める力を必要とされ、情報収集能力が無ければ勝てない相手であった。
そして南の『ウルフ』。名前はこれまで動物に何かしらの特徴を付けたモンスターたちと違いただの狼。闘った限りはステータスに特徴はなく、攻撃方法も噛みつく、突進のみ。見た目は『マッドドッグ』ほど見ていて嫌なものはない。ステータスの低い『ウルフ』はラビの相手にも丁度良い。ラビ本人も狼を相手に奮戦していた。
だが、それでもリュウキたちは苦戦していた。
「あいつらまた増えた……」
「もう疲れたよー!」
「……大きな魔法使ってもいい?」
リュウキ達があっけなく『ウルフ』を倒し、大したことないのに何で初心者向きじゃないんだ?となっていたところ、一人の初心者らしきプレイヤーが『ウルフ』と闘いだした。
他人の闘いに手を出すのはマナー違反。三人は他のモンスターを探しつつ何時でも助けられるよう注意していた。これでモンスターに殺され、嫌な目に合うというのもリュウキたちにとって寝覚めが悪い。
始めたばかりのプレイヤーはステータスも低ければ武器防具も極めて弱い。ステータス特徴がない『ウルフ』でもさすがに初心者に易々と倒されることはなかった。
戦闘が始まってから手間取っていたプレイヤーであるが、ようやく倒す兆しが見えたようだ。『ウルフ』のHPは残り少しとなり、プレイヤーも攻撃に積極的となる。密かに応援していたリュウキは頑張れと心の中で思いながら別の『ウルフ』を倒していた。
「ウオオオオオオオオン!」
耳を劈くような、フィールド中に聞こえるのではないのかというような遠吠えが響き渡る。
「うるさーい!」
マカが耳を塞ぎ、シズネの顔が強張る。
「……リュウキ、あれ」
シズネの指さす方、それは一つの灰色の塊があった。
塊は段々と大きくなり、姿を変える。横に広がり、やがてそれは一つではなくいくつもの個が集まった群れだと分かる。
その一つ一つが『ウルフ』。ステータスでは取るに足らない相手であるが、その数は百にも迫る。
「誰だ『ウルフ』を攻撃して野放しにしやがった馬鹿は!」
「これだから初心者の開始位置に『ウルフ』を配置する運営は!」
「手の空いてるやつはとっとと攻撃しまくれ!いいか、体力をわずかだって残すなよ。残したらまた呼ばれる」
近くで闘っていたプレイヤー達が口々に叫ぶ。
どうやら『ウルフ』は仲間を呼ぶタイプのモンスター。そしてその呼ばれた数が問題であるようだ。
「俺たちも行くぞ!」
「お兄、二つ名はどうする?」
「いや、今回は使わないでいこう。もしHPがやばくなったら遠慮しないで使ってもいいけど、他のプレイヤーがいるしな。シズネは岩魔法をどんどん使っていいからな」
「……ん、了解」
「はーい!とりあえず手当たり次第に斬ってくるね!」
百の狼とわずか10人ほどのプレイヤーの乱戦にリュウキ達三人が加わった。
それは闘いと呼べるほど行儀のよいものでなく、殺し合いと呼ぶにふさわしいものであった。
リュウキ 格闘家 L11
『悪鬼変身』 LV2
HP 222
MP 70
ATK 60
DEF 27
INT 20
AGI 56
DEX 22
LUK 21
*ATK・AGIに補正
所持スキル:格闘家スキル
装備:スカーレットメイル
シズネ テイマー LV10
『地底神王』 LV2
HP 137
MP 100
ATK 14
DEX 27
INT 51
AGI 12
DEX 50
LUK 35
*HP・MP・ATK・DEF・INT・LUKに補正、AGI・DEXが微減少
所持スキル:岩魔法 テイムスキル
装備:ギャブー印の失敗作(テイマー用)
マカ 剣士 LV7
『舞空剣技』 LV2
HP 140
MP 28
ATK 30
DEF 24
INT 13
AGI 17
DEX 8
LUK 17
*ATK・DEXに補正
所持スキル:剣スキル
装備:ギャブー印の失敗作(剣士用)
ラビ ブラッドラビット LV8
『赤黒毛皮』 LV2
HP 122
MP 28
ATK 26
DEX 14
INT 10
AGI 27
DEX 10
LUK 11
ステータス変更しました




