13話 ハンドベア
『ウルフ』、『オオハリネズミ』というモンスターを狩りに行く必要ができた。
ギャブーの店にリュウキの新たな装備を取りに行き、これからシズネの不足分、それにマカの戦闘スタイルに相性の良い装備を尋ねたところ、その二匹の素材が必要だそうだ。
『ウルフ』は防具に、なるべくたくさんの剣が必要と伝えたところ、『オオハリネズミ』の針なら一度にたくさんの剣を造れるから効率が良いだろうと教えられた。
「……リュウキ、似合ってるよ」
『ブラックラビット』の素材をメインに、赤黒兎の証を使った防具。
本来は黒一色の防具となっていたはずだが、所々に赤を混ぜた防具となった。
「だが兄ちゃん……これの性能なんだけどな。かなりピーキーな性能になっちまった。人によっては失敗と言われてもおかしくないんだが、兄ちゃんは大丈夫か?」
防具によるステータスの補正を見るとATKとAGIが大きく上昇している。だが、それに比べて他のステータスは軒並み低下。極め付けなのはDEFである。全く変化がない。防具であるのに防御力が上がっていなかった。
リュウキの闘い方であれば使えそうであるが、他の者――シズネなどでは到底使いこなせないだろう。
「はい、大丈夫そうです!元々俺は二つ名で手足だけ防御力も上がってますし。それに俺は魔法も使いませんしね」
格闘家スキルは手足での攻撃のため相手の攻撃をこちらの攻撃で相殺することも可能だ。そのためリュウキには硬さや器用さよりも攻撃に反応できる速さ、攻撃を相殺できる攻撃力が必要であった。
「お兄、本当に黒とか好きだね」
装備は軽さを優先させた皮鎧。だが、しっとりとした黒が皮鎧を思わせない重厚さを見せる。そして決して派手ではなく、それでいて艶やかな赤が強さを引き出すかのごとく存在を見せつける。
「ああ、俺の思っていた以上の格好よさだ。ギャブーさんありがとうございます!」
「そう言ってくれると造った甲斐があるぜ。シズネの嬢ちゃんとマカちゃんも素材が揃ったら造ってやるからな」
素直な賛辞に気を良くしたギャブーが照れたのか頭をかく。
「じゃあまた来ますね!」
「ああ、待ってるぜ!」
これから闘うのは攻撃に優れているという『ハンドベア』。リュウキの籠手、それにシズネの装備に必要だというその素材はギャブーが強いというモンスターだ。
ブラックラビット以上の強さは確実。だが、こちらも昨日より弱いはずがない。
新たな装備、新たな仲間たちの強さを確認するには不足はない。
昼飯は昨日と同じ串焼き。リュウキとシズネの話を聞き、マカもぜひ食べてみたいと目で訴えてきたのだ。まあおいしかったからいいかなとリュウキ達も不満はなく、串焼きの屋台の店員と仲良くなりつつ昼食を終えた。
「でっかい熊さんだねー」
今リュウキ達三人の目の前にいるのは一匹の熊型モンスターである。
その名を『ハンドベア』。ハンドと名がある通り、手が特徴的である。その巨体はさることながら、手が異様に大きい。長い爪と一つ一つがリュウキ達の顔ほどもある肉球を携えた掌。
マカが大きい熊だと表現したが、実は本体の大きさは2mと少しほど。それでも背の低いリュウキたち三人からすると巨体だが、『ハンドベア』の手はその本体と同じほどの大きさがあった。
「まずは二つ名ありで闘ってみよう!相手の特徴を見極めて、それから二つ名なしで闘えるように、で」
リュウキの手足に悪鬼へと変わり、マカの頭上に剣が浮かび、シズネが杖を構える。
リュウキは近距離戦に特化し、マカは近・中距離戦を切り替えられ、シズネが遠距離から強力な岩魔法を使うのがこの三人で闘うときに決めた布陣である。ラビは『ハンドベア』の攻撃力次第でしか投入できないためそれまではシズネのそばで待機している。
「こいつが東西南北のうちの東のモンスターか」
北の『マッドドッグ』、南の『ウルフ』、西の『ブラックラビット』に続く東の『ハンドベア』。まだ『ウルフ』は遠くから見ただけで、その強さを確認していないが、他の二種はそれぞれにそれぞれの厄介さがあった。
「……リュウキ、マカ、出し惜しみしないで倒して」
珍しくシズネが焦ったような声を出す。
様子見のつもりで闘おうかと思ったが、それよりも全力で倒すことを優先することをシズネは勧める。
「じゃあまずは俺からだ!」
リュウキは悪鬼の足により上昇した速度で『ハンドベア』へと迫り、黒く染まった拳が無防備な腹に突き刺さる。
格闘家とて何も拳を固めるスキルだけがあるわけではない。
「『ナイフスティック』」
格闘家スキルでは珍しく打撃系ではなく刺突系のスキルで、いわゆる抜き手という技である。貫通力を高めるため、拳を握らずに鋭く伸ばした指を使って身体へと突き刺すのだが、当然悪鬼となったリュウキの手はそれ以上のダメージを与える。
「速さ、防御力はそれほどじゃない……かな?」
『ハンドベア』はリュウキの動きについて来れず避けることもできなかった。そして今の攻撃で体力を2割ほども減らしていた。
「お兄、どいてー」
そして立て続けにマカによる剣の雨が降り注ぐ。
その数は4本。だが、片手剣ではなくすべて両手剣である。片手剣以上の攻撃力を持った剣が4本、刺さっては抜け、刺さっては抜けていく。容赦のない攻撃に『ハンドベア』は嫌がるが、それでも攻撃は止まない。
「……止め。……『ロックシザース』」
最後にシズネの岩魔法が『ハンドベア』に刺さり、HPを全損させた。
「んー。二つ名を使ったからかな?そんなに大したことなかったような」
『ハンドベア』は何をすることもなくリュウキ達の連撃により倒れた。
攻撃に寄っている二つ名を持つ者が三人もいるのだ。実際、『マッドドッグ』も『ブラックラビット』も二つ名を使ったときにはそこまでの敵ではなかった。
「じゃあ次は二つ名なしだね」
「私もお兄と一緒に熊さんの前で斬りかかればいいんだよね?」
「そうだよ。シズネ、ラビも一緒に闘わせてみる?」
「……もうちょっとだけ待って。……まだ『ハンドベア』の攻撃力がどのくらいか分からないから」
確かに、とリュウキは思う。先ほどはいくらなんでも性急すぎた。相手の能力を全く知ることはできなかった。自分たちが強すぎたのもあるのかもしれないが、それでも一発くらいは当たっても良かったかもしれない。
「……でも、自分からは当たらないで。……ラビを闘わせないのは万が一HPが一発で消し飛んだら復活まで長いからだから」
ラビのHP、それに防御力は低い。二つ名である『赤黒毛皮』は防御寄りの能力であるが、それほど身を守れるものではない。
テイムモンスターが死んでしまったら次に復活できるのはテイマーが死んで復活したときのみ。それ以外はログアウトしようと戻ってはこない。
こんなところで死ぬとは考えていないシズネはラビを得体の知れない敵と闘わせるわけにはいかなかった。
「お兄、しず姉、次来たよー」
リュウキは拳を、シズネは杖を構える。
先ほど二つ名を使っての抜き手が2割ほどのダメージだったのだ。今の状態だと……
「少し長丁場になるかな?」
その言葉通り、闘いはおよそ5分続いた。
リュウキの攻撃はヒットアンドアウェイ。攻撃しては攻撃される前に下がり避ける闘い方。
一方、同じ近距離で闘うマカは剣で斬りつけ、相手からの攻撃を剣で受け止めていた。剣での闘いを慣れるために始めた闘い方であったが、その場からなるべく動かないため攻撃頻度も多くなる。受け止めた衝撃が少しずつダメージとなっていくが、それは下位ポーションで回復できる範囲。全く問題はなかった。
シズネも遠距離から定期的に岩魔法を飛ばしている。二人を支援するため、直接的な攻撃よりも動きを阻害するような魔法を使う。攻撃されることはないためこちらも問題はなかった。
問題があったのはリュウキである。攻撃しては避けるを繰り返していたが、5分の集中は幾ばくかの焦りを生んだ。
「やべっ」
「……リュウキ!」
下がるのが一瞬だけ遅れた。そして一撃だけ、初めて『ハンドベア』の攻撃が当たってしまった。当たったのは肩口。そこに『ハンドベア』の振り回した手が当たりリュウキはシズネの元へと吹き飛ばされる。
「……うそだろ」
リュウキのHPは残りわずか1割。いくら防御力が低かろうが、下手をすれば『ブラッドラビット』よりも攻撃力が高いのではないのだろうか。
「――っ!よくもお兄に!」
目の前でまともに攻撃を食らった兄を見て、頭に血が上ったのだろう。防御など考えないかのごとくマカは剣での攻撃を繰り返す。
「『スイングラッシュ』!」
攻撃が止められるまで剣を振り回し続けられるそのスキルは攻撃面では優秀だ。だが、自分ではそのスキルを止めることはできない。
「グァアア」
『ハンドベア』が手を振りかざす。体力は残りわずか。だが、削り斬れない。
「マカ!避けろ!」
だが、スキルによりマカは攻撃を止めることはできない。
「……マカ、そのままその場で攻撃をしてて。……『ロックシザース』」
リュウキの隣から勢いよく飛ばされた岩により『ハンドベア』の体力は無くなり、ようやくその動きを止めた。
「……二人とも、反省会しよ?」
「「……はい」」
リュウキ 格闘家 LV9
『悪鬼変身』 LV2
HP 210
MP 68
ATK 55
DEF 25
INT 19
AGI 53(+15)(+20) DEX 21 (-5)
LUK 19(-5)
*ATK・AGIに補正
所持スキル:格闘家スキル
装備:スカーレットメイル
【スカーレットメイル】
ATK・AGIの補正に重きを置いた防具でとても軽いのが特徴的。わずかだがDEFが下がってしまう。
見た目は赤と黒が入り混じった皮鎧
女子ならうさ耳パーカーもつけることができる(店主のやる気次第)
シズネ テイマー LV8
『地底神王』 LV2
HP 134
MP 94
ATK 13
DEX 25
INT 49
AGI 10
DEX 48
LUK 33
*HP・MP・ATK・DEF・INT・LUKに補正、AGI・DEXが微減少
所持スキル:岩魔法 テイムスキル
装備:ギャブー印の失敗作(テイマー用)
マカ 剣士 LV4
『舞空剣技』 LV2
HP 130
MP 25
ATK 26
DEF 18
INT 10
AGI 15
DEX 6
LUK 14
*ATK・DEXに補正
所持スキル:剣スキル
装備:ギャブー印の失敗作(剣士用)
ラビ ブラッドラビット LV7
『赤黒毛皮』 LV2
HP 120
MP 25
ATK 24
DEX 13
INT 10
AGI 25
DEX 10
LUK 10
反省は大事
ステータスは一応、最後の熊さん倒したときに経験値入ったので上げておきました




