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二つ名オンライン  作者: そらからり
3章 アウトサイダーズ
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112話 孵化

 DNOにとってイベントという概念はこれまで存在していなかった。

 体制が整っていなかったのか、それともプレイヤーがグランドラガンに辿り着くまであえてイベントを行わなかったのかは運営のみぞ知るものである。

 それでもあえて言うのであれば、海外サーバーとの統合こそがイベントの条件であったのではないかと多くのプレイヤーが考えていた。

 イベントは……祭りは参加人数が少なければ楽しみが半減する。ならば爆発的に人数が増加する統合後にこそ行うことで、国家間の闘いとすることでプレイヤー達に競争心を芽生えさせようとしたのではないだろうかとあちこちの掲示板で噂されていた。

 

 また、ある掲示板ではオセを攻略するところまではチュートリアルであり、グランドラガンにプレイヤーが辿り着いたことでようやく本編に入ったからこそイベントが始まったという推察もあった。しかしそれは無いだろうと多くのプレイヤーは一笑に付す。なぜなら、オセを始めとしたプレイヤーボスはどれもが一筋縄ではいかない強敵ばかりであったからである。

 第一のボスであるアスタロトさえ攻略に数か月かかっていた。

 これがチュートリアルならば、これから先どれだけ時間がかかるのか。どれだけ強いボスがいるのか。

 楽しみといえば楽しみであるが、倒せる見込みがあるくらいのほどほどの敵が一番だ。

 そう多くのプレイヤーは考え、この掲示板から去っていった。





 イベントの開始に近づくにつれ詳細が告知され始めてきた。

 日程は週末土日の2日間。時間は朝9時から夜19時まで通して行われる。


 休日に設定され尚且つ朝昼帯であるため多くのプレイヤーが参加するだろうと見込まれている。難易度レートを100までに分けたのはそういった多くのプレイヤーを振り分けるためでもある。

 尤も、内実はレートは10刻みでしか変わっておらず、99を選んだプレイヤーが91にならないとも限らない。人間は無意識的に選びやすい数字というものがあり、逆に選びにくい数字も存在する。それらの数字のレートに人数が偏らないよう、調整のためにもレートは10刻みで固定されていたのだ。


 そして、週末前最後の平日である金曜日。

 ついにイベントの内容が公開された。

 攻城戦。それがDNO初めてのイベントである。

 ルールは一言。


『敵国の城を落とせ』


 これだけであった。

 報酬やその他必要になるであろう情報は一切無し。

 フィールドは何処なのか、結局のところ参加人数はどのくらい集まったのか、モンスターはいるのか、特有のルールはあるのかなど運営に問い合わせは多数あったがそれに対する返答は


『始まったら探してください』


 という全てのプレイヤーに平等なものであった。

 




「いよいよ今日か」


 迎えた土曜。

 リュウキ達はソワソワとした表情でログインしていた。


「今日だね」


「……たくさん待った」


 マカとシズネも今か今かと待ちわびている。

 

「一週間、卵のお世話をしてきた甲斐があったね!」


「……マカは何かやったっけ?」


「やってなかったー……。っていうことは卵は私の妹じゃない!?」


「そもそも兄妹じゃないよ。アリアみたいに人型ならともかく」


 卵から産まれるのだから、動物系であることは間違いないだろうとリュウキは思う。


 土曜日。それはリュウキ達にとってイベント当日というだけでなく、地下世界からのお土産である卵の孵化日でもあった。


「……後5分だって」

 

 その言葉に一同はシズネの抱える卵を覗き込む。

 シズネが両手で抱えるのがやっとな程の大きさの卵は、グランドラガンに来ていた鍛冶師であるギャブーに藁編みの籠に入れられていた。


「ふむ。生き物を育てることは良いことだ。生命を学ぶ良い機会になる」


 卵を囲んでいるのはリュウキ、シズネ、マカであるが卵の話を聞きつけて集まったのは他にもいた。

 竹田はマカに誘われてやってきたクチだ。隣にはセットのように剣客が不機嫌そうに立っている。


「……なぜ我がこのような場所に。まあよい、マカには先のクエストでの恩がある。見届けるくらいのことはしよう」


「なんだ剣客。何時になく面倒くさそうな顔しているな。もっと楽しめよ」


「……ダラーク、恥ずかしいから止めて。そうやって色々なプレイヤーに絡んでは煽っていくから私とジュガが後々疲れることになるのよ」


「まあアザリカが言って止めるならとっくに止めているけどな。好きにさせておこうぜ。互いに知らないわけじゃない仲なんだし」


 シズネのテイムモンスターになる予定である卵の孵化鑑賞会。

 その会場はダラークの経営する喫茶店のグランドラガン支店であった。

 どれだけ金を貯めこんでいるのか、ダラーク達はグランドラガンに辿り着いたその日には支点の契約を済ませたらしい。


 その会場にいるメンバーといえばリュウキ、シズネ、マカは勿論のこととして、会場の主であるダラーク、アザリカ、ジュガの三人に加えて、マカに呼ばれた竹田と剣客、そしてリュウキ達の知らない少女が1人の計9人であった。


「そういや剣客もギルドを作ったんだったっけな」


「やむなしにだがな。我がその長で今は不在だがサンという女PKがその補佐だ」


「あの剣客がなー。変われば変わるもんだ。昔は孤高こそが高みへ繋がるとか言っていたくせに」


「……ふん、その気概は今でも変わらん。だが、他の者と関わることでの強さもあると分かっただけ。我は孤高と関わりのどちらも高みを目指すことでより遥かな高みへと昇り詰めるのだ」


「それで、そいつもギルドの仲間ってやつか?」


 ダラークが剣客の傍らにいる少女に指さす。


「こいつか。……実は我も良く知らん」


 剣客はそう吐き捨てる。


「あ、私ですか? はいはーい! 私はセラです。サン姐さんが週末はお仕事があるみたいなので代わりに出ることにしました。どうぞよろしくでーす!」


 セラという少女はそのまま一礼する。

 一つ一つの仕草が計算されて行われているのではないかと思わせるような、流れるような動作であった。


「……セラよ、他のギルドの者はどうしたのだ?」


「ええとですねー。ブラスさんとザッサーさんは加入条件を満たせなかったのでそれぞれまだPKを続けているみたいです。なので少し遅れてシザースさんだけがイベント参加予定みたいですね。シザースさんの遅刻理由は……妹さんの小学校の送迎だそうです。土曜日なのに大変だー……って、剣客さんギルドのホームメッセージ見ていないんですか?」


 ひとしきり話し終えた後にセラは剣客にもう、と頬を膨らませた。それは年相応の微笑ましいものであったが、やはりどこか計算されたものを匂わせる。


「……あ、もうすぐ」


 剣客達以外にもマカと竹田が話し込んでいる中、シズネがそう小さく呟いた。

 その声はリュウキにだけ届いているようで他の者は騒々しく未だ話している。


「みなさーーん! もうすぐってシズネが言ってますよ」


 そのためリュウキが声を張ることとなった。

 朝から大声は喉に悪い。


 ぞろぞろと再び卵の周囲に人が集まっていく。


「……私が卵をタップすればいいみたい」


 そう言った直後にシズネは躊躇いもなく卵に触れた。

 何の前触れも無かった。


 そういえば、と卵が光る中でリュウキは二つ名を与えられた際もこんな感じだったなと思い出す。

 その結果、シズネの二つ名は最高のものとなっていた。

 光が収まると、シズネの抱く籠の中には一匹の青い生き物がいた。


「……ドラゴン?」


「竜、かな」


「りゅーだー!」


「こいつは強く成長しそうだ」


「へえ、珍しいのが出たな」


「あら、可愛い」


「生き物……であることは間違いないね」


「飛ぶのだろうか……」


「私もテイマーやってみようかなぁ」


 コバルトブルーの色をしたドラゴン。


「……名前どうしようか」


「うーん……青いドラゴンか」


「青龍か」


「ドラゴネット」


「テュポーン」


「ウロボロス」


 口々にコバルトブルーの色をしたドラゴンの名前の候補が周囲から挙げられていく。

 リュウキは神話上のドラゴンの名前が挙がる度に反応していたが、シズネが全く表情を変えなかったため自分の気持ちを押し殺している。


「……マカ」


「なーに? シズ姉」


「……マカが決めていいよ。……一番楽しみにしていたのはマカだから」


「いいの!?」


「……うん」


 じゃあね、じゃあね、とマカが頭を悩ませている。

 それを見て周囲もピタリと候補挙げを止める。


「サファイア! この子の名前はサファイアにする!」


「……うん。……ピッタリな名前だね」


 シズネが設定を始める。



 サファイア ブルードラゴン LV35  

       『蒼色剣山』  LV1

 HP  500

 MP  420

 ATK 145

 DEX 56

 INT 200

 AGI 99

 LUK 60


『蒼色剣山』LV1

アクティブスキル:水と氷の属性を持つ針を自在に生やす。

パッシブスキル:噛みついた相手のAGIを微減少させる。



「……こんな子」


「全体的に高いな」


 シズネがリュウキとマカにサファイアのステータスを見せる。

 それは同レベル帯のプレイヤーと比べても遜色ないほどの数値であった。


「たのもしいね!」

「キュウン!」


 マカがサファイアに手を伸ばすとサファイアも嬉しそうにマカへと首を伸ばす。

 人懐こい性格のようだ。マカに撫でられて目を細めている。


 そして二つ名も攻撃的なものになっていた。

 まだその能力を直接見てはいないが、属性を持った針の攻撃だけでなく通常攻撃で速度を減少させるという効果まである。


「今日のイベントで早速活躍してもらおうか」


「……後でラビとアリアと顔合わせさせないと」


 この場ではすでに人が溢れているため、そしてダラークや剣客といったバトルジャンキーにあまり会わせたくないという理由もあってシズネはラビとアリアを召喚しないでいた。

 男でさらに闘いが好きである2人はアリアの天敵だろう。


「お、そろそろ良い時間だ。モンスターの孵化ってやつも見られたことだし今日はツイてるぜ」


「……それがフラグにならないといいわね」


「そもそもこいつと一緒にいて何もなかった日なんてないだろ。悪運だけが強いんだダラークは」


「うっせえ」


 現時刻は8時50分。イベント開始まで残り10分である。


 開始と同時に別フィールドへと送られるらしいので、参加の申し込みをしたプレイヤーは全員転送されていく。


「お前ら勿論、レートは100にしたよな?」


「一応は。でも、91から100のどこかにされるんじゃなかったでしたっけ?」


「それは99までだぞ? 100だけは別だ。純粋に自分が強いと思っているやつらがうじゃうじゃ参加するからな」


 それはこの場にいるメンバーの半数が初耳であった。

 しかし、うじゃうじゃと聞いて顔をしかめる者はいない。


「っと、時間のようだぜ」


 全員の体が光に包まれる。

 それは『五行同盟』との闘いの際の転位と非常によく似たもので、だがそれよりも遥かに速い時間で転位は終了した。


「ここは……?」


 見れば先ほどいたメンバーはそのまま同じ位置にいるようだ。

 リュウキはシズネとマカにこれからのイベントについてどのような立ち回りをしようかと相談しようとし、そして気が付いた。


「シズネがいない……!?」


 イベント開始1分経過。

 まだまだ様子見の時間であり、ルールも未だに確認されておらず。

 闘いが始まるのはまだまだ時間がかかることであろうと予想された。


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