111話 PK3人組(偽)
(偽)がいれば(真)もいる
さて、それはどの3人組のことでしょうね……
某月某日
ある意味で世界中のDNOのプレイヤーが待ちわびていた日でもある。
日本プレイヤー達は新たな強敵を、そして日本以外のプレイヤー達は、ようやく日本限定であったいくつかのシステムが自分達にも及ぶと歓喜していた。
サーバーの統合。
それこそDNOが始まって早半年。各国でサーバーは作られたが、それぞれの国内でしか繋がっていなかった。月日が経つにつれ、サーバーは増え、DNOをプレイできる国は増えていったが、それは繋がることの出来ないプレイヤーが増えていったと同義。
発売元が日本産の企業であったため、いくつかのシステムは日本でしかその恩恵は受けられなかった。
たとえばプレイヤーボスの存在。日本のプレイヤーボスはボスがれっきとした人間がプレイしていたのだが、他国ではその中身はただのAIであった。決められた動作しかせず、そして尚且つ難易度は高く設定されていた。日本ではオセが倒された今であるが、他の国ではエリゴスまでであった。
エリゴスの二つ名である『無限弾頭』は更に精密無慈悲にプレイヤー達を射抜き、足を縛りつけ頭を貫き殺していた。配下のボーンソルジャーは一体一体が二つ名抜きの戦闘職の攻略組の平均レベルと同程度の強さを持っている。それが20体。攻略組の大半が固有スキルにまで辿り着いていなければ対処できるはずが無かった。
更にそれを倒してもアムドゥスキアスという巨体のプレイヤーボスがいる。海外サーバーのプレイヤー達はこのボスを倒せずに足踏みしていた。二つ名こそ『金管木管』という金属と木管の楽器を操るという支援系能力であったが、それをアムドゥスキアスは巨体に見合う金管楽器と木管楽器をそれぞれ両手に持ち、音楽による身体強化や楽器による物理的攻撃を繰り出す自己完結型の強力な力の持ち主であった。
これら2体を倒してなおオセが立ち塞がる。
初手のスタートで出遅れている海外サーバーのプレイヤーには大きな課題が与えられることとなったのであった。
そして、サーバーの統合こそ、全世界が望んでいたアップデートであった
日本サーバーは新たなプレイヤーとの出会い。
海外サーバーはプレイヤーボスとの闘いこそ逃してしまったが、新たなステージへの進出の機会を手に入れることが出来た。
メリットがあればデメリットもある。
幸も不幸も誰かが背負うこととなる。
だけど、1つだけ確かなこと。
海外サーバーとの統合が為されたのであった。
サーバーが統合されてから数日後のこと。
イベント開始数日前。
「なあザッサーよぉ」
「どうしたブラスよぉ」
「なんか俺ら被ってねえか?」
「ああ? 俺とお前の二つ名のどこが被ってるっていうんだよ?」
岩場が多いということは死角となるうる奇襲の格好の隠れ場が多いということである。
いつ、どこからモンスターやPKが襲い掛かるか分からない状況で男性プレイヤー2人が呑気に話しながら歩いていた。
「バカだなザッサー。俺達が被っているっていうのはこの口調だよ。見た目こそ俺とお前は全く違うが、もしここが今暗闇にでもなってしまったら第三者には俺とお前の区別なんかつかないだろ?」
「なるほどなぁ。じゃあ何か考えようぜ。……あ、なら語尾とかどうだ? 俺はこれから全てにだぜって付けることにするんだぜ!」
「いいな語尾。それなら俺はザンスとかどうザンス?」
「なんだそれ……だぜ! ヒャハハ」
「頭良さそうザンショ?」
「ザンスじゃねえ、だぜ! どうなっているんだぜ」
「応用ザンス」
などと楽しく話している2人であったが、突然思い出したかのように表情を歪めた。
「ったくよぉ……だぜ」
「何で俺らがこんなことしなきゃいけないザンスか」
「百歩譲ってというか、まあ俺がいることはもういいや」
ブラスとザッサーの後ろで歩いていたシザースは諦めたように言う。
「こんなとこでPKしてこいって、俺はともかくとしてお前らに出来るのか? こんなとこに来るやつらなんて最前線の攻略組だぜ」
「そうだぜ」
「確かに俺ら2人ではすぐ返り討ちザンス」
「……認めるんだな」
実力的には2人でようやく中堅のプレイヤーであれば勝てるくらいのブラスとザッサー。
何せ2人には致命的なまでに攻撃手段が乏しい。
「だがよシザース、お前がいるザンス」
「俺達2人が無理ならば、お前がいて3人になれば」
「「それは俺達3人の勝利だぜ(ザンス)!!」」
暗にシザースに頼ると言っているのだが、シザースはそれには気づかずに素直に受け止めた。
「へへっ何だよお前ら……最近俺のこと好きすぎだろ。まあ前回は俺がいなかったから負けちまったのもあるしな。ようし、今回はどんどん殺してこうぜ!」
「目指すは最前線の攻略組10人殺しだぜ!」
「おう! ……あ、ダラークとこは除いてザンスな」
おー、と気の抜けた掛け声をしてから3人は動いた。
今回3人はギルド『烏合乃衆』の頭領である剣客から、最前線のフィールドでプレイヤーを10人以上仕留めて来いと命じられた。
以前に剣客を弄った罰であると3人は考えていたが、これはギルドへの加入条件。本来は必要のない条件であったはずが、なぜかこうして課せられていた。
失敗すればギルドから追い出される可能性も高い。そう思ってしまったがゆえに3人はこうして実行せざるを得なかった。
まずはソロのプレイヤーから探す。
パーティとソロ。プレイヤーはこの2つのどちらかであるが、実力的にどちらが劣っているかというと、個々であればパーティで闘うプレイヤーであろう。
チームとして闘うならばパーティの方がチームワークを取れるだろうが、逆に言えばソロは1人で闘えるからソロなのである。パーティは1人で闘えない者達が集まった結果である。勿論、パーティのメリットである多様性は、職業や二つ名によって生じた役割というものをきっちりと働かせてくれる。回復に専念できる、攻撃に専念できる、防御に専念できる……専門を持って、それ1つを伸ばすことが出来るのがパーティだ。
ソロは万能でなくてはならない。1人で強敵を倒し、1人でモンスターの群れを倒し、1人で回復をし、1人で守り、1人で……。
1人で全てを出来る者こそがソロでの行動を許されるのだ。
そのようなソロプレイをするプレイヤーにこの3人が挑んで勝てるのか。
それは分からない、としか言えないだろう。
ソロプレイヤーとてピンからキリ。ギリギリで闘えている者もいれば余裕で勝てる者もいる。あるいは負けることが前提の者もいるかもしれない。
いずれにせよ、個々の実力というならばそれこそ劣っているこの3人が、パーティに挑むと数というメリットが打ち消されてしまう。人数の差、数の暴力で勝とうというのが3人の結論であった。
「いよっしゃぁ。これで9人目だぜ!」
「ああ、案外あっけねえザンスなぁ」
ブラスとザッサーが殺したプレイヤーの持ち物を拾い上げる。
さすが最前線にまで来ることのできるプレイヤーといったところか。落とすアイテムも、金も相当なものであった。
回復アイテムを街にまで補充しに……なんてこの3人には必要のないくらいには得ることが出来ていた。
「やっぱりPKてのは美味えだぜ。楽とまではいかないが、モンスターを倒すよりもよっぽど得るものが大きいんだぜ」
「お前ら俺がいなきゃ1ヶ月くらいしかやってないプレイヤーにだって勝てないんだろ。少しは俺を敬えよ」
少し浮かれ気味であるブラスとザッサーにシザースは口を挟む。
が、
「ハッ! シザースだって俺らがいなきゃすぐ殺されちまうだろうザンスが。俺らが時間を稼いでお前が殺す。誰が欠けてたって出来やしなかったザンスよ」
「お、おう……」
思ったよりもまともなことを返されてシザースは何も言えなくなった。
アイテムや金は3人で山分けなのだ。元より文句もない。
文句はないのだが……何故だろう、この2人を見ていると自分の功績が少ないように感じてしまう。
「まあいいか。次のやつを倒してさっさとギルドに戻ろうぜ」
あと1人。
それでギルドへの加入条件を満たすことが出来る。
すでに達成感を得ている3人は余裕綽々といった表情で獲物を探す。
そして、少し先に1人のプレイヤーを見つけた。
「あ、いいのがいるザンスな」
「最後はあいつで締めるんだぜ!」
ブラスとザッサーが我先にと駆けていく。
そこにはなんの躊躇いもない。
「大人しく死ぬザンスよ! 俺達の糧となることを誇りに思いながらザンスな!」
「ようよう! 俺たちは泣く子も黙る、ギルド『烏合の衆』だぜ! 今後とも獲物としてよろしくだぜ!」
ブラスが『二重構造』を。
ザッサーがそれに『現状維持』の二つ名を重ね掛けしていく。
一度しか使えないがどんな攻撃でも防ぐ二つ名である『二重構造』。
物質の持つ現在の状態を維持することの出来る二つ名である『現状維持』。
攻撃にこそ欠けるが、ブラスとザッサーの合わせ技。
これ自体を打ち破ったものはまだ数えるしかいない。
『五行同盟』の一角であるオルナイフですらこのブラスのバリアを破ることは出来ず、ザッサー本人を倒すことでコンビネーションを消し飛ばしただけである。
「後はシザースが来るだけだぜ!」
「おうともザンス! 俺達3人のコンボ技はまだまだこれからザンス!」
ブラスとザッサーが駆け出してしまったことでシザースは後から追いかけてくる形になってしまったが、それでも時間稼ぎとしては十分すぎる壁をブラスとザッサーは作り出している。
今回は、前回オルナイフにザッサーを先に倒されてしまったことを教訓に活かしてザッサーはブラスの背に隠れるようにしている。
「……攻撃しないのですか?」
と、ブラスとザッサーがPK宣言をしたにも関わらず動こうとしないためプレイヤーが口を開いた。
プレイヤー……眼鏡をかけた少女である。
黒を基調としたゴシックドレスを見に纏うその姿はこの荒野において相容れない。
「へっ……まだまっていやがれってんだザンス」
「もし待てないっていうならお前から攻撃してきてもいいんだぜ?」
どうせ効かないのだからと挑発する2人。
「だぜ、だぜ……ザンス、ザンス。五月蠅いですね」
小さく呟く少女。
その声はブラスとザッサーには届いていない。
「しかしお前のその語尾、もう滅茶苦茶ザンスな!」
「お前だってそうだぜ! ちょっとマヌケに思えてきちまったくらいだぜ!」
大声で喚く2人を前にして少女は多少イラつくように、
「ああもう、五月蠅い。……日本人というのは礼節を重んじると聞いていたのですが間違いだったのでしょうか。……まあいいです。どの国も犯罪者というのは相応にしてこのようなものなのでしょう」
「ああ? 誰が犯罪者なんだぜ?」
「おいおいザッサー。PKってのは犯罪者ザンスよ」
「そうだったぜ」
「ハッハッハ」
絶え間ないブラスとザッサーのじゃれ合いは更に少女の心を穏やかでなくする。
「二つ名、『タイプ・ライター』」
少女が自らの二つ名を口にした。
「『タイプライター』? タイプライター……って何だったっけだぜ?」
「あれザンスよ。キーボードと印刷機が一緒くたになったような機械ザンス」
「ってことはつまり……俺たちの悪逆非道を記事にするつもりだぜ? こいつはいいんだぜ!」
「ザンス! ザンス!」
少女は剣を抜く。
それは少女の姿には不釣り合いな大剣。大きさにして少女の身の丈ほどもある。
「『属性・軽減』。……私はあなたたちの能力を軽くする者」
直後、大剣が振り下ろされ2人の人間の断末魔が響き渡った。
その叫び声は『だぜー』と『ザンスー』というどこぞの悪役のようであった。
「……すぐ目を離すとやられるのな」
そしてそれはようやく追いついたシザースの目にも入っていた。
「……手打ちにしましょうか? それとも闘いますか?」
ブラスとザッサーの敗北の瞬間はシザースも見ていた。
それから導き出された結論は、
「また今度、な。俺はそろそろ妹の迎えの時間なんだ。次に会う機会があったらよろしくな!」
「……あなたはまだまともな人間のよう。でしたら名乗りましょう。私はライトライト。次のイベントで私はレート100に参加します。運が良ければそこで、またお会いしましょう」
「そうかい。俺はシザースだ。妹の関わらない日なら大歓迎さ」
こうして、PK3人組は内2人の死で以て謎の少女との邂逅を終えた。
二つ名からして海外サーバーの人間であることは間違いない。
面倒だなと思いながらシザースは妹の迎えのためにログアウトしたのであった。
一応整理しておくと、
ザンス語尾→ブラス
だぜ語尾→ザッサー
これで間違ってたら恥ずかしい




