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二つ名オンライン  作者: そらからり
3章 アウトサイダーズ
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106話 岩の住人達 その3

「木とはこの地球上でも原始の生物であって我々人類はその生き方から学べることは多く――」


「斬撃を残す。それはただの衝撃を残すとはまた違う。心さえ置き去りにさせる程にまで昇華した技は――」


 灯があるとはいえ、ほのかに薄暗い空洞内では足元がおぼつかない。

 街の中枢ともいえる下水道というだけあって、流れる水の量は多く、マカ達の足場まで浸水し、足を滑らせようとぬめらせる。


「木。この一言だけで済ませるには惜しいほどの雄大さがそこにはあり、だが木の一言だけで万人に伝わっていくという素晴らしさもある――」


「剣と刀はそこからして斬り方が違う。武の道を究めようとも刀の道は究められない。鉄がこれほどまでに人間を傷つけることに特化した武器があろうとも――」


 マカは足を滑らせて転ばないよう、細心の注意を足元に払う。

 下水処理施設の階段こそ軽やかに駆け降りて行ったわけではあるが、そこから一歩でも下水道に踏み込めば走ることは敵わなかった。というか、危うく転びそうになった。

 幸い、背後にいた大人2人が両脇から支えてくれたおかげで転倒は回避できた。

 そのことに関してマカがとびきりの笑顔で礼を言うと大人2人は気を良くしたのか、自分の得意分野を語り始めた。

 初めは相槌を打っていたマカであったが、やがて足元のぬめり具合が本格的に転倒を誘うようになってきたため、話を聞いているどころではなくなり、やがて聞くことをやめた。本人的には足元に集中するあまり忘れたといった方が相応しいだろうか。

 大人2人は転ぶこともなくつらつらと自分の話を止めることも無く、マカの反応が返ってこないのは話を聞くことに集中しているからだと勘違いし、続ける。


「あ、モンスターだ。ちょっと闘ってくるね!」


 時折、モンスターが見かけられるとマカは率先して倒しに行く。

 それを大人2人は見送る。その際は互いに睨み合い、語りは中断されるから静かである。

 そしてマカが帰ってくると、


「木を使って回避の訓練を行うというのであれば喜んで私の力を貸そう――」


「剣と刀は少なからず通ずることもある。打ち合うことで我もまた技を磨き――」


 空洞内は再び騒がしくなるのであった。





「私はマカ君を見かけたのでついて来たわけだが、この下水道の先には何があるのかね?」


 モンスターを片っ端から倒し、マップに記された道を半分程過ぎたこと、竹田が尋ねた。


「ふん、何だ貴様は出しゃばってこの場にいるのか」


「悪かったな。私はこの街に到着したばかりで疎いのだよ。剣客君と言ったかね。ならば君には分かっているのか?」


「少なくとも貴様よりはな。下水道は街全ての排水溝から繋がっている。それは道端にあるのも、そして一般家庭も領主の家もだ」


「ほう? 領主の家にでも忍び込もうとでも言うのかね」


「その通りだ。領主は自宅の地下で攫った人間をりょうじ……拷問する悪趣味を持つと聞いた。その挙句に殺すともな。我らはPKはプレイヤーを殺すが無防備なNPCを殺す殺人鬼ではない。PKの仕業と噂されるのも癪であるからこうして領主宅に忍び込みその証拠でも見つけようとしている算段よ。マカ、貴様もそうであろう?」


 性根の優しいマカであるならNPCであろうと一般市民がただ殺されるのを黙ってみているわけがない。道脇にある排水溝を通ることは困難で時間がかかるため下水処理施設から辿っていくという手立てをマカも考えついた。

 そう思い剣客はマカに同意を求めた。竹田とかいうぽっと出の男とは違い、マカは賢く強い。張り巡らされた木の根の罠を破り、強固な木の鎧を巻き付けた竹田を叩き切ったあの一撃は剣客としても闘いたい。そう思わせる程であった。

 だからきっとこの娘であれば自分と同じ思考の末にこの場に辿り着いたのであろう。


「ううん、違うよー」


 だが現実は違っていた。


「私は街の人たちの様子がおかしいなーって思って領主さんなら知ってるのかなーって思って下水処理施設からなら行けるかなーって思って来たんだー」


 剣客が思っていたよりも短絡的な思考の末に辿り着いていた。

 それなら他に行きつく場所もあっただろうとか、様子がおかしいからという理由だけでよくここまで来るなとか剣客は心の中で葛藤するが、それをおくびにも出さず、むしろ自分の心の中を無理やりに捻じ曲げて、


「なるほど、それだけでここに来るとはさすがだ。ともあれ、住民の様子の不審は我も気にかかっていた。領主の蛮行とも結びつけることが出来る。こうして依頼を受けられるということも正解の道筋を辿っていることに間違いないだろう。マカよ、洞察力もそうだが、その直感も中々のものではないか」


 強引にマカを褒めちぎった。


「領主の下へ向かう必要性は分かった。ならば早々に決着を着けに行くのが最善ではないのかね?」


「ほう、ならば貴様はこれからどうする?」


「私達3人の力量に差はそれほどない。マカ君がここのモンスターを1人でも倒せるというのであれば私達でも可能であるはずだ。下水道という水が豊富な場所であれば私も苗木を育てられる。だから、3手に別れてここのモンスターの討伐を終わらせようではないか」


「クエストを終わらせた後に領主さんの家に行くってこと?」


「そうだね。モンスターの全滅というクエストがどこまで関わってくるか分からない。下手をすれば領主宅にモンスターが溢れてくるという可能性もある。慎重に慎重を重ねて行動するのであればモンスターを倒しきり、その後で領主宅を調査しても遅くはないはずだと私は考える」


「ふん、貴様と同じ考えというのは癪だがな。我も同意しよう」


「私もそれでいいよ! クエストが終わったらお知らせが来るよね。来たらこの、領主さんのおうち前に集合で!」


 マカがマップの一点、領主の屋敷を指す。

 下水道の攻略箇所は約半分、つまりはモンスターも半分程度は倒し終わっているということだ。

 これから3人で手分けしたとするならば、そう長くない時間でクエストは終了することだろう。





「56、57……はー、やっと終わった!」


 総数57匹。これがマカだけで倒したモンスターの数である。竹田と剣客と別れる前に倒したモンスターが20匹程度であったことを数えてみれば1人になってから40匹程。マップの半分は進んだからモンスターも半分程度であろうなどとは甘い考えであった。


 計算違いといえば計算違いであった。そして考え違いである。

 下水処理場は人間が活動する場所。つまりは下水道の中でも最もモンスターを駆除しなくてはいけない場所に近い。

 下水処理場から進んで来たわけであるから、そこから進んでいけば下水処理場から離れていく。ならばモンスターもよりそちらに集中するのは道理であった。


「竹田さんと剣客さんは大丈夫だったかなぁ。私よりも更に奥に行っちゃったもんね。……まあ、2人とも私より強いから大丈夫か!」


 奥にいる方がよりモンスターが多い。それを知ってか知らずか竹田と剣客はマカに下水処理施設に近い方の下水道を任せて奥の方へと進んでいった。


「あ、クエストが終わった。ということはモンスターを全部倒せたんだね!」


 一先ずは安堵。

 マカが喜んでいると、新たなクエストが発行された。


『特別クエストが発行されました。【青髭の自宅訪問~突撃お宅の晩御飯~】受注しますか? Yes/No』


「青髭? 何だっけこれ……まあいいや。今すぐに受けなくても大丈夫みたいだから領主さんのおうちに向かおうっと」


 マップを開けば領主の屋敷に繋がる道はすぐそこであった。

 奥へ向かった竹田さんと剣客さんは少し時間がかかるかなと思いながらマカは歩を遅めた。


話が進まない

……おかしいな

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