103話 岩の街
「んー、何もないねー」
街に入って数分後、街の入り口から真っすぐ中央を歩いていたのだが、マカがそう感想を口にする。
「殺風景というか中間地点のためだけにつくられた街って印象だね」
「……回復用アイテムの補充は出来るけど観光はできない?」
マカの感想にリュウキとシズネも同意する。
グランドラガンは発展途上の街というわけではない。
そこにあるのは幾ばくかの商店とプレイヤーが休憩するための飲食店や宿屋。そしてNPC用の住居だけである。
プレイヤーがそこに店を建てるなりすることは可能ではあるがNPCによってこれ以上何かが生み出されることはない。
必要以上に何もない。
グランドラガンはこれで完成された街なのである。
「それで広いわけじゃないのが不思議なんだよね」
「……街の中にも岩があるせい?」
シズネの指す通りグランドラガンは岩の隙間に作られた街といった印象が強く、岩は極力そのままにされ多くは原形を残したまま街に居座っている。
よく見れば飲食店内部にある椅子やテーブルは岩を削ったものであり、その足場は地面と固定されている。
「岩の街、か。ここはそのまま素通りして次のフィールドに行くべきなのかな?」
「えー、もうちょっと見てみようよー。何か面白いもの見つかるかもしれないよ」
「面白いものはあれば俺も嬉しいけど……とりあえずクエストを探すついでに誰かに話しかけてみる?」
「……賛成」
「じゃあ私こっちの方を見てくるね!」
そう言ってマカはどこかへと行ってしまった。
まさか気を遣ったんじゃないか。そうリュウキは思ったが単に街を1人でのんびり見たかったのだろうと思い直す。
まだまだ子供だなとマカの後ろ姿を見ながらリュウキはシズネと歩き出す。
「どこに行く?」
「……リュウキの行きたいところでいい」
「うーん……じゃあまずはその辺でお茶しながら決める?」
「……分かった。……さすがに飲食物はこの街ならではのがあることを期待している。……リュウキ、おいしいお店探してね」
「うっ。期待に沿える店を探して見せるよ……」
幸いにも少し探せば喫茶店らしき店を発見することが出来たため、そこに入る。
店のレベルは外観からは予想できなかったため、運任せである。
「……おいしい」
「それは良かった」
岩の街であるため飲食物に関しては期待は出来なかったが、NPCの店員のおすすめだという岩山を模した巨大なモンブランケーキとさっぱりとした炭酸ジュースは思いのほかシズネに高評価でありリュウキは安堵する。
「……リュウキはもういらないの?」
三分の一ほどを食べたところでリュウキはフォークを置いた。
巨大なケーキであるため2人でシェアして食べていたのだが、リュウキは半分に到達することは出来なかった。
「俺はもういいかな。シズネが全部食べちゃっていいよ」
「……分かった」
シズネは嬉しそうにフォークを口へと動かしていく。
その光景を見てマカがこの場にいなくて良かったとリュウキは思った。
「……この世界のケーキは良い。……いくら食べても現実世界には影響ない」
「脳に直接味覚の信号だけ送ってるんだったっけ。胃には何も入っていないからちゃんと現実でも食べなきゃいけないけど」
「……満腹中枢にも刺激を送るからダイエットにもいいってネットに書いてあった」
「へえ。……でもシズネには必要ないんじゃない?」
シズネの体は悪く言えば貧相なものであり、リュウキとしてはもう少し栄養過多でも良いのではないかと思っている。
食は細くはないはずだが、マカのように毎食お替りはしていない。どこに栄養が行っているのだろうとシズネの体を見まわして、頭を使うのに必要なんだなと理解した。
「……何か失礼なこと考えた?」
「いいや?」
「……そう。……ケーキ、違うのも頼んでいい?」
「……どうぞ」
ビッグホワイトホールという誰がこんな馬鹿みたいな名前付けたんだと言いたくなるようなケーキが更にテーブルに追加される。
本当にマカがこの場に居なくて良かったとリュウキは思う。
マカがいれば更にもう1つケーキを頼んでいたことだろう。そしてリュウキの負担は更に大きかったはずだ。
「この街で誰かに話しかけてみるとして、誰にする? 手あたり次第にでもいいんだけど」
「……この街の冒険者ギルドに行けば一番クエストを受けるのは早い」
2人で巨大なショートケーキのホールを切り崩していく。
フォークを動かしても動かしてもちっとも減らない白い物体にリュウキは耐えきれず新たな飲み物を注文する。
「だね。特別クエストは別として普通にクエストを受けるなら冒険者ギルドが一番早い。転職はもう少しレベルを上げなきゃいけないけど」
「……私はあと5。……リュウキは?」
「俺も5だね。マカも多分同じくらいか」
下級職はレベル30で転職であったが上級職は更に上のレベル40になれば転職可能である。30を超えたあたりから少しずつレベルの上がり方が遅くなるのを感じ始めていたため、この街でクエストを受けてレベルを上げたいとリュウキは思っていた。
「二つ名レベルはまだ上がらないな……」
少しずつだが着実にレベルが上がってきている職業レベルに対して二つ名レベルは相変わらず5であった。
固有スキルがレベルが上がらなければ使えないため、早く上げたいのだが中々上がらない。
「……私は昨日で一つ上がって6になった」
「えー……。まあシズネは攻撃が二つ名を使うことそのものに繋がるから俺より早いのは当たり前か」
「……大丈夫。……きっとすぐ上がる」
と、シズネはリュウキの頭を撫でる。
「恥ずかしいから止めてほしいんだけど」
「……そう?」
シズネが頭から手を離すとリュウキは先ほどまでシズネに撫でられていた箇所をポリポリと掻く。
「そういえば竹田さんって二つ名のレベルいくつなんだろ」
「……最低でも5はあると思う。……けど、未知数。……それにまだ固有スキルと見たことが無い」
「そういえば。マカは知っているのかな。闘った時にさすがに見たはずだよね」
「……気づいていない可能性」
これには否定できなかった。
「職業と二つ名のレベル。どっちも上げるなら一番は冒険者ギルドか」
「……インターネットを見ればその辺りの情報はありそう」
「逆に言えば、情報の無い新しいクエストを探すなら街の人に聞くしかないのかな」
「……また、人気の無いクエストを受ける? ……ナターリアみたいにクエストが連鎖的に発生するかも」
「あの時のか。それもいいかもね。どうも俺たちの行動とか職業によってクエストが発生するってパターンもあるみたいだし」
「……街の人はこういうところの店員さんはともかく住民は話しかけづらい雰囲気がある」
「どうも、受け入れられていない感じだよね」
街を歩くだけで視線を感じ、一挙一動まで観察されている気分であった。
何かを恐れているように。
何かを知られたくないかのように。
「……急にマカを1人にしたのが心配になってきた」
「……マカは大丈夫。……あの子は対人能力は高い」
「それは分かるけどさ。それよりも問題を起こさないかって方が心配」
話しかけづらいなんてことはマカにはないだろう。
だが、話しかけ続けた先にどのようなトラブルを持って帰ってくるか。
それを考えるとリュウキは心配になる。
「…………」
「…………」
やがて互いに話すことも無くなり無言となる。
だがそれによって2人の間の空気が重くなることは全くなく、むしろ心地よいものとして2人を包んでいた。
周囲の客の話し声が響き、それをBGMとしてリュウキとシズネは店の外を眺める。
やがて、どちらからともなく立ち上がると、そのまま会計に向かった。
「……持ち帰りでモンブランケーキを1つ」
「まだ食べるの!?」
読み直して特に内容が無いことに驚きもしない自分に驚く
話がちっとも進んでない




