101話 ホームラン王 前半
地下世界から帰還したリュウキ達が翌日ログインした。
フレンド欄から竹田もログインしているか確かめるが、残念ながら不在であった。
いなければ先に進んでしまって良いと言われているため、リュウキ達はすぐさま出発する。
何せ次の街であるグランドラガンはすぐ目の前。『ツインドリラー』が最後の関門であり、それを倒した直後にクエストが発行されそちらへと移行したが、元々はグランドラガンを目指していたのである。
多少、予定は変わったが目的地に到着することはできた。
「もうすぐだね!」
グランドラガンは岩が多く並んだ地形に存在し、周囲は岩山に囲まれている。
入り口こそ門が作られておりそこから入れるようではあるが、岩に覆われるようにして作られている。そのため見つけにくいのか、他のプレイヤーらしき者達は門からではなく、岩を乗り越えてグランドラガンへと入っている。
「面倒なことをやってるな……」
「……教える? ……ここに門があるって」
しかし、どうしようかと悩んでいるうちに見えているプレイヤー達はグランドラガンへと入ってしまった。
「まあ、あれで入れているなら大丈夫でしょ。俺達も早く入って街を探索しよう」
「探検!」
マカが門を目掛けて走り出す。
一刻も早くグランドラガンを見たいようである。
「おっと!?」
しかし岩をひょいひょいと避けながら走っていたマカだが、急に立ち止まった。
リュウキとシズネが追い付くとそこには二人の男女のプレイヤーがいた。マカの慌てた様子と男女が笑っているところからぶつかりそうになったようである。
「すいません! 大丈夫でしたか?」
リュウキも謝ると同時にマカを見る。すでに反省しているようで落ち込んだ様子を見せている。
「大丈夫だよ。ぶつからなかったしちょっとびっくりしただけだから」
女性のプレイヤーが答える。
男性も笑っているため、どちらも怒ってはいないようだ。
「君達もグランドラガンかい?」
「はい。今日は観光しようかなって」
「二人はグランドラガンに来たことあるのー?」
「ううん、無いわよ。オセが倒されてから少しずつこの岩でつくられたフィールドを進んできてようやく辿り着いたの」
「やっぱり最前線だけあって強いモンスターばっかりだな。俺もこいつも逃げることに長けた二つ名だから何とか逃げ隠れしながら辿り着いたんだ」
リュウキ達は倒しながら進んできたが、この二人はモンスターとの戦闘を回避しながら来たようだ。
「あ、そうそう。俺は枝垂だ」
「私は琥珀よ」
「俺はリュウキです」
「……シズネ」
「マカだよ!」
5人はそのまま会話をしながら門へと向かって行く。
枝垂と琥珀はリュウキ達より年上の大学生のようで、幼馴染であるという。リュウキとシズネも幼馴染というと、そこから会話が発展し話が弾む。
「リュウキ君達はいつから知り合ったの?」
「小学校からです。6年生の時にクラス替えで知り合いました」
「そう、長いんだね。俺と琥珀は中学からだから……もう6年か」
「長いわね。でも、あっという間だった」
「そうだな……なあ、こんな時に言うのもなんだけど、というか今更なんだけどさ」
ふと枝垂が立ち止まり琥珀を見つめる。
リュウキは何だろうと首を傾げ、シズネとマカは期待に満ちた眼差しで二人を見つめる。
「……観客がいるけど、俺はあえてこれを機に言いたい。……あれはそう、三年前だ。俺とお前が文化祭の出し物で『わーわーサラダ』を作った時――」
そこで枝垂の言葉は途切れた。
それを聞いていた琥珀もそれ以上聞くことは出来なかった。
枝垂のも、琥珀のもHPはそれを構成する肉体ごと消滅したからである。
死体さえ残さない。ポリゴンとなる前に別の要因で消滅した肉体はポリゴンとなることすら許されなかった。
「っ!? マカ、下がれ!」
最も枝垂と琥珀に近い場所にいたマカはリュウキの言葉に反応するよりも早く下がった。
マカが飛び退いた瞬間、その空間を棒状の何かが通り過ぎていった。そして、遅れるようにしてブオンと空気を切り裂く音がリュウキ達の耳に入る。
「枝垂さん! 琥珀さん!」
マカが叫ぶが、答えは返っては来ない。
すでに彼らはこの地にはおらず。死に戻っていることこそがその静寂の正体であった。
代わりに別の声があった。
「……外したか。いや、避けられたという方が正しいのか。ど真ん中ホームラン狙いが芯を外してピッチャーフライ……良い球投げるじゃねえか」
岩影からのそりと片手に1本ずつバットを持って現れたプレイヤー。野球選手のようなユニフォームを着たプレイヤーはバットの1本をリュウキ達に向ける。
「ホームラン宣言は確実に狙える時にのみしない? いいや、俺はどの球だって狙うね。当てるのではなく当てに行く。偶然ではなく必然としてボールは観客の手元に送られるんだ」
それぞれ武器を構えるリュウキ達に対してユニフォームを着たプレイヤーはもう1本のバットを手首のスナップを使って振り回す。
手首の動きを特に意識していないのか、バットは不規則に動くため時折岩に当たる。しかし、バットは岩を貫通するかの如く砕き通り過ぎていく。
本当にそこに岩はあるのか。幻ではないのかと目を疑うほどにバットは岩によって動きを阻まれず、ただ過ぎていく。
「PKなのか?」
「ぴーけー……? ああ、プレイヤーキラーか。俺は快楽に身を任せて人を殺すような真似はしないさ。ただ、幸福なやつらを殺すだけの『幸せ潰し』だ」
「……余計に質が悪い」
「ハッ、質とかそんな性質はいらねえさ。いるのは力のみ。幸福は何の力にもならねえ。それに縋る奴らに俺は真の力を見せてやるだけ……特に幼馴染とかいう関係に甘んじているやつらは俺に言わせれば屑だ」
「……は?」
シズネが眉間にしわを寄せ、次の瞬間には
「……『ロックバースト』」
岩の弾丸を撃ち込んでいた。
リュウキから見えたその表情は怒りがありつつも、その弾丸は正確にプレイヤーを狙う。
「そんな練習もやったな……あの時は5つが限度だったが」
5つどころではなく、20程の弾丸がプレイヤーを襲うが、それを難なく両手のバットで打ち砕いていく。
「焦るなよ。牽制にだってなりはしない球はボークだぜ? そんなんで俺は塁に進む気はねえ。俺が塁に進むとき、それは俺が塁に帰る時だ!」
最後の一発をプレイヤーは砕くのではなく、シズネへと打ち返す。
「そら、ピッチャー正面だ」
シズネは防御のための岩魔法を使おうとするが間に合わない。そも、岩魔法の多くは強固である代わりに発動までに時間がかかる。
シズネの顔面に跳ね返された岩の弾丸が激突する――瞬間にリュウキの拳が岩を砕いた。
「シズネ……ここは俺に任せてくれない? 何で『幸せ潰し』なんていうものをやっているのか、俺が直接聞く」
「……分かった」
自分では相性が悪いと判断したのか、それともリュウキを信じているからか、あるいはその両方かシズネは頷く。
自分に任せろとは言ったが、ここは岩が多く他のプレイヤーも通行するグランドラガンへの門の近く。
迂闊にこの場で闘えばシズネやマカ以外のプレイヤーを巻き込むことになる。
他のプレイヤーと共闘してこのプレイヤーを倒すという手段もあるが、そのために何人か犠牲になる。そうした確信がリュウキにはあった。あの枝垂と琥珀を一撃の下に消し飛ばした攻撃の正体がまだ分かっていない。
シズネやマカとの3人で闘うこともできるが、あの一撃が何度も可能であるという可能性が残っているならば、防御力や手数ではなく、攻撃を避ける力が今この場では最も必要になる。リュウキ1人の方が気兼ねなく闘える。
だから、考える。必死に1対1になる状況をつくることはできないかと。
「ねえ、野球が好きなの?」
「ああ? 野球か、嫌いさ。俺の人生の大半を占めて、そして無駄になった。そんなものをどうして好きになれる? 嫌いなやつらを嫌いなもので潰す。それが楽しいから俺は今ここにいる」
「そう……」
しかし言葉の節々から野球の用語を使っているからには、野球を交えた会話の方が通じるだろう。そうリュウキは考え、
「PvPで勝負しよう。この二人には手を出させないし邪魔させない。エース対決だ」
「……いいじゃねえか。それは嫌いじゃねえぜ。受けてやるよ」
バットを振る手を止め、プレイヤーはリュウキの申請したPvPを受ける。
「リュウキって名か。リュウ……ならドラゴンズだな。相手として不足は無え。俺はMr.バッター。かつてホームラン王を目指し、そして挫折した男だ」
そしてリュウキとMr.バッターは周囲とは断絶された空間に包まれた。
明日の昼くらいに後半投稿します
前後半で無理やり収めた




