99話 将軍鎮魂歌
「……『ロックバースト』」
シズネの放つ岩魔法が散弾のようにおにぎり将軍の米粒で固められた体へと食い込んでいく。
HP上であれば微々たるダメージではあるが、岩の衝撃におにぎり将軍は僅かにだが後ろに下がらざるを得ない。
「……後2割」
おにぎり将軍の残りHPを見てシズネは呟く。
ここまで長い闘いであった。
およそ一時間近くになる攻防。
おにぎり将軍の持つ3つの能力をそれぞれ攻略し、尚且つそれを逆手にとっての攻撃をこちらがすることでようやく目に見えるダメージを与えることが出来た。
リュウキが攻撃を引き出し、マカとクラムバーがそれをサポートし、シズネと竹田が攻撃の性質を見極める。
誰かが欠けていたら恐らくここまで辿り着かなかっただろう。
中でも、最も貢献したのは……と、シズネは横でナイフを振るうクラムバーを見る。
「(……得体の知れない能力……どう考えてもまだ何か隠している)」
先ほどからクラムバーは懸命にナイフを振るっているが、それはあくまで牽制に過ぎず、致命的なダメージにはならない。リュウキやシズネ達が倒したおにぎり兵士がクラムバーの前にも立ち塞がったのだとしたら、何かこれ以上の能力が無ければ勝てないはず。
時間稼ぎではない、何かもっと強大な何かを持っていなければシズネ達とほぼ同時感に合流地点に辿り着けるはずはない。
「どうしたんだい? ボクの顔に何か……お米でも付いているのかい?」
「……付いていない」
「そっか」
クラムバーが怪訝な顔でシズネを見ているが、それもすぐさま中断された。
おにぎり将軍のHPが残り1割になったことで獣のような叫び声をあげたのだ。
「ぬうぅっ!? 我が肉体が滅びゆくことは最早防ぐことは出来ぬか。ならば、この生涯最初で最後の闘いを存分に楽しませてもらおうぞ!」
おにぎり将軍は刀を、昆布触手を頭上に掲げ、肉体から発する熱を上昇させていく。
「我が秘技である『酸梅刀』、『弦昆布』、そして……『焼鮭』! これらは『ライス・ボール・ソルジャー』でも完全には至ることの無かった道。だが、我は自身の命を代償として力を得よう……」
おにぎり将軍のHPが減っていく。
リュウキ達が攻撃を加えているからではない。
おにぎり将軍が自身の意思でHPを減らしているのだ。
まるで恒星のように、自身の命を削ることで輝くようにしておにぎり将軍の力は増していく。
「これぞ我が秘奥義! 『混ぜご飯』!」
一見、何も変化はないようであった。
だが、ポタリと昆布触手から垂れた液体が地面を溶かした瞬間にリュウキ達は顔色を変える。
「溶けたってことは……梅の力が刀以外にも使えるようになったってことなのか」
「お兄、見て! 刀が伸びてるよ、あの昆布みたいに」
マカの言う通り、おにぎり将軍の持つ刀はまるで鞭のようにしなやかに伸びていく。
更にその周囲の空間が僅かに歪んでいることからおにぎり将軍本体にしか伴っていなかった高熱が刀に、そして昆布触手にまでも付加されているようである。
「食らうがいい。我が秘奥義を!」
おにぎり将軍が最も近くにいた竹田に刀を振り下ろす。
竹田はそれから逃れようとするが、刀は伸びることでどこまでも追っていく。
「俺が!」
リュウキが竹田を引き戻し、代わりに自らが悪鬼の腕で受け止める。
「くっ……」
悪鬼の腕とおにぎり将軍の刀が僅かばかり拮抗する。だが、それも僅かな時間だけ。徐々に悪鬼の腕が溶かされ焼かれていく。
「その時間で十分!」
しかしその時間で立て直した仲間達が最後の力を振り絞る。
「……『ロックインパクト』」
「ありがとうリュウキ君。我が木々よ、助勢に向かうのだ」
「んー、ボクの役割はこれかな」
「固有スキル、『コレクターズ・ウェポン』」
シズネの大岩がおにぎり将軍の頭上に迫りおにぎり将軍は仕方なしに引くが、それを竹田の木々が足を絡めとる。酸と高熱によって木々から脱出するおにぎり将軍であったが、クラムバーの召喚したテイムモンスターである機械兵士らしきモンスターとマカの固有スキルで巨大化した剣が道を阻む。
「これで終わりだ! 『ナイフスティック』!」
リュウキが貫き手のスキルを使う。
おにぎり将軍の体は酸と高熱が守っている。
リュウキが直接的な攻撃をしたことにおにぎり将軍はニヤリと笑う。
「我が肉体を貫けるものか。その前に溶け死ぬわ」
おにぎり将軍は限界にまでHPを減らし更に酸性と熱量を上げる。
だが、
「鬼の腕だ。そう簡単には焼けないし溶けることは無い!」
リュウキの腕は焼けながらも、溶けながらも形を崩すことなくおにぎり将軍の体を貫ききった。
「な……ぐあぁぁぁ!?」
その雄叫びと共におにぎり将軍はHPを0にし、ポリゴンとなった。
「よし、次行こう!」
HP回復用のアイテムを使いながらリュウキはそう叫び、一同に休むよう諭された。
「じゃあ行くとするかね」
体力的にも精神的にも疲れの取れたリュウキ達はおにぎり将軍の居た位置の奥にある扉を通っていく。
「地図上では次が最も広い空間だねー。ボスがここにいるのかな」
「正直もう闘いたくはないがね。木々はあるが、先ほどの敵でギリギリの勝利であった。あれ以上だと何人か欠落しそうだ」
おにぎり将軍との闘いで最も前に出ていたリュウキは回復することもなく闘っていたせいでおにぎり将軍の発する高熱による微小ダメージが積もり積み重なって残り僅かまで減らされていた。後少し、悪鬼の腕が脆ければそれで死に戻りしていたことだろう。
「さてさて、どうなるのかなっと。あ、あそこの扉じゃない?」
クラムバーが扉を見つけて走る。
「竹田さーん! もう一回あの木の根のやつで向こう側探れる?」
「うむ。やってみよう」
追い付いた竹田が木の根を地中に潜らせる。
「ふむ……ん? 何もいないね。地面からも、空中を羽ばたくことによって生じる振動も感じない」
「それってどういう……?」
「分からないな。全く動いていないわけでもない。何もないのだ。私達が扉をくぐった瞬間に現れる類のモンスターかもしれない。不意打ちに気を付ける、くらいしか言えないな」
竹田の言葉で皆、扉を開ける前から武器を構える。
最悪は扉を開けた瞬間に現れて攻撃される可能性も考えたのである。
「じゃあ、開けるよ」
リュウキが慎重に扉を開けていく。
もしも開けた向こう側でモンスターが攻撃モーションであったならばすぐさま扉を閉めるつもりだ。
しかし、扉を開けて尚その中には何者もおらず、空間内へ足を踏み入れても何かが現れる気配もない。
「どういうことなんだ……?」
リュウキが首を捻る。
「こっち開いてるよー!」
いつの間にかマカが先に続く扉に手をかけていた。
慎重に、と言ったつもりであったが大胆な行動だ。本人からしてみれば1人で先に行かなかっただけ慎重な行動だと言い張るだろうが。
「地図によるとこの先は小さな空間だ。倉庫のように小さいとあるが」
だが、この空間にいても何かが起きることはないと判断し、先に進んでいく。
恐らく闘うことはないだろうということで先頭を歩きたかったというマカがスキップをしていく。
「何が待ち構えていると思うかね?」
楽しそうなマカの横では同様にクラムバーも共にスキップをしている。
「うーん……ポーラ姫と結婚しようとしているネズミが改心して待っているとか?」
「……こちらが戦力を全て潰したから震えているのかもしれない」
リュウキとシズネがそれぞれ考えを口に出すが、それでは納得しきれない部分がある。
竹田はもとより、それはリュウキとシズネにも分かっていた。
「あの空間があったということは元々ネズミはボスとして闘う予定であったということだろう。ならばそれなりに力を持っているということになる。それが奥病にも引きこもるとは思えん」
「……竹田さんはどう思うの?」
「確信はないが、別の用件で何処かへと去ったと考えている」
「別の用件、ですか」
「あるいはポーラ姫に興味が無くなったとか、だな。足止めで戦力は残していったとか」
とにかくとしてネズミの正体が見えない。
一体何をしたいのか……いやそれはポーラ姫との結婚を望んでいたのだろうが、今この場に現れないことが何を意味するのか。
「それもこの扉を開ければ分かることか」
そう遠くない距離に次の扉はあった。
すでにマカとクラムバーは付いておりじゃんけんをしている。
「何をしているのかな?」
「じゃんけんだよ!」
「マカ、それだと分からないよ。何のじゃんけん?」
じゃんけんをしていることくらい誰の目にも明らかだ。
何のためにじゃんけんをしているのかそれを知りたい。
「この扉を開けるじゃんけん! 私が勝ったから私が開けるね!」
言うが早いかマカはよいしょと掛け声をかけながら扉を開いてしまった。
「あ、ちょっ!?」
リュウキはクラムバーにどうして止めなかったのかと睨むがクラムバーは笑うばかり。この状況を心底楽しんでいた。
開けてしまったものは仕方ない。
こうなれば腹を括るだけだ。
何が現れるのか。そう目を凝らしていたリュウキ達にまず情報として入ったのは視覚からではなく聴覚からであった。
「ごめんよ、母ちゃん! 許しておくれよ!」
「いいや駄目だね! 今日という今日こそは仕置きが必要のようだ!」
泣き叫ぶ声をその声の主を叱る声。
扉を開けた先にリュウキ達が見たのは、人間大の太ったネズミと顔に皺を少し浮かべたネズミ、そして二人の老夫婦が椅子に腰かけて茶を飲んでいる様子であった。
???1「ふっふっふ。将軍よご苦労であった。あれだけ力を削がれた今、私の勝ちは確実よ(ワインを口に含む)」
???2「こらっ! こんなところにいたんだね! 大人しく家に帰りな!」
???1「か、か、か、母ちゃん!? 誰だ俺がここにいることをチクったのはぁぁぁ」
的な流れがきっとあったのだろう




