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二つ名オンライン  作者: そらからり
3章 アウトサイダーズ
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98話 将軍生誕歌

「いっぱいつっくろー」


「たくさんつっくろー」


「量産しなくちゃ食べられる~」


「オイラ達が食べられるのさ~


 リズミカルな歌と共に小さなネズミ達が器用に前足でおにぎりを握っていた。

 そこはリュウキ達が進む洞窟の最奥。その部屋の真下に位置する隠された部屋であった。当然ながら地図上には表記されていない。

 その部屋ではネズミ達によって大量のおにぎりが量産されていた。


 米を炊くネズミ。

 炊きあがった米をしゃもじで混ぜるネズミ。

 米を丸めていくネズミ。

 具材となる梅や昆布、鮭を用意するネズミ。

 丸めたおにぎりに具材を入れていくネズミ。

 軽く炙った海苔をおにぎりに巻き付けていくネズミ。


 そうして完成したおにぎりには命が吹き込まれていた。


「ようし、試作品……何号だっけ?」


「誰か覚えていないのかよ~」


「覚える係なんていたっけ?」


「そういえばいなかったような……」


「じゃあ覚えなくていいことなんだよ!」


「つまり何号かも付けなくていいのか!」


 それを見つめる監督役の一回り大きなネズミは思う。

 このネズミ達の知能。それが低すぎる。単純な命令下での仕事はこなすが、この何度目か分からない繰り返しの会話はもう聞き飽きた。


「……いいから黙って手を動かせ」


「はいは~い」


「そうさおにぎりの完成さ~」


 梅、昆布、鮭のおにぎり兵士がいくつも完成し、監督役の前に整列させられる。


「今度はどうかな~」


「おにぎり兵士は贈り物」


「ネズミにゃつくるの難しい」


 総勢18体。各6体ずつつくられたおにぎり兵士は整然とした顔を監督役に向ける。


「我らが主は誰か」


「我らは指示に従うのみ」


「こうして作られた恩は必ず返す」


「それが侍道なり」


 その言葉に監督役は大きく頷く。

 これでおにぎり兵士の製造は何度目であったか。先ほどネズミ達が試作品何号だかを忘れたと言っていたが、それもある意味では仕方がない。


 およそ100回を超えたおにぎり兵士の製造。一度に最低10体は作られるため1000体は作られていることになる。

 しかしながらそれら全ては実戦をする前に生を終えていた。


「また、失敗か……」


 監督役の言葉と共におにぎり兵士はHPを0にしてポリゴンと化して消えていった。


「駄目だ……何が駄目なのかは分からないがおにぎり兵士の量産化は尽く失敗する。米の炊き方はすでに判明している。一粒一粒同じ火入れをすること。米はそれぞれで炊き上げる。水は洞窟に湧き出る水を使う。海苔は近くの海で取れたものから作り上げる……後は何が足りぬと言うのだ」


 おにぎり兵士達はそれぞれ特徴的な死を迎えていた。


 梅のおにぎり兵士は全身を自らの腐食能力によって溶け出していく。


 昆布のおにぎり兵士は全身から昆布を溢れ出させ圧迫死を迎える。


 鮭のおにぎり兵士は中心に埋められた鮭が高熱を発して焼き焦げていく。


「あ、ああ……なぜだ……」


 監督役はおにぎり兵士が居た場所にまで近寄り崩れ落ちる。地面を叩きながら叫ぶ。


「なぜ! あの老夫婦に作れて私に作れぬものなどないはずだ! そもそもでおにぎりに命を吹き込みおにぎり兵士とする技術は私が生み出したもの。ならばおにぎりさえあれば私におにぎり兵士が作れないはずがない!」


 時には目から一筋の涙さえ垂らしながら叫ぶ監督役を尻目にしてネズミ達は次なる作業を進めていく。

 彼らには休みは無い。体力の続く限りおにぎりを作り続ける。

 彼らに出来ることはおにぎりを作ることのみ。元より戦闘用には作られていない。戦闘用を作るために作り上げられていた。


「……ん? 何をしているんだお前ら」


 ふと監督役が顔を上げるとネズミ達は炊きあがった米を等分することをせず一つに纏め上げていた。


「こうやって~」


「大きく作った方が~」


「おにぎり兵士も強くなるはずさ~」


 何を馬鹿なことを。そう言おうとした監督役であったがふと考える。


 おにぎり兵士に足りないもの。それが何かは分からないが耐久力を上げてしまえば……回復力を上げてしまえばHPは0にならず生き続けるのではないか。


「よし、物は試しだ。どの道これ以上何かを工夫することもできない」


 ネズミ達の動きを調整しながら、そうして出来上がったのがおにぎり兵士3体分の米、具材を使ったおにぎり兵士の上位互換とも呼べるおにぎり将軍であった。


 米の水分量を少なくすることで固く握られたそれは米間の粘着性を捨てあえてガッチリと組み合うように作られていた。

 このおにぎりに限ってはおにぎり兵士にあった粘着性による再生力と地面に散らばった際の罠は使えない。しかしながらそれに代わる強固な体を作り上げることに成功した。


「……量産は望めないな。今の作業で大半のネズミが使い物にならなくなった」


 地面には死んだかのようにネズミ達が倒れている。


「だが、これで私は作ることが出来た。おにぎり兵士すら超える一品を。御前は満足されるだろうか……いや、されるに違いない!」


 監督役は拳を振り上げる。


「いきなり実戦というのは難しいか。……私が直に力を見てから、どれだけの実戦に備えられるか判断するとしよう。御前の腹心である私が!」


 この後おにぎり兵士にHPが1になるまで追い詰められた監督役は二度と隠し部屋から出て来なくなり、おにぎり将軍はおにぎり兵士達を纏めるために近くの大部屋へと設置されることとなった。

 リュウキ達が扉の前に到着する10分前のことであった。





「ジェネラル……ソルジャーよりも強そうだな」


「実際に強いだろうね。大きさからして違う」


 おにぎり将軍は刀を抜こうとする。それを見たリュウキはおにぎり兵士具材昆布と闘った時と同様、腕を吹き飛ばすべく、


「『悪鬼変身』」


 悪鬼の腕で蹴り飛ばす。

 おにぎり兵士であれば全くといっていいほど抵抗感を示さずに腕は吹き飛んだ。いかに目の前の敵がおにぎり兵士より強かろうと元となったのがあれだけの脆弱性を見せていたならば、それほど強固にはなっていないはず。

 そう思い腕への攻撃をしたのだが……


「……なんだ、その攻撃は? 我の腕に足なぞ置きおって」


「なに……!?」


 おにぎり将軍はそのまま腕を振り払う。リュウキはその勢いだけで洞窟の壁際まで押し戻される。壁に激突することを避けるため、壁に足をかけて着地するが、足は衝撃で震えている。


「……随分と特性が変わっているようだね」


 リュウキのステータスは周囲から速度特化と見られているが攻撃力においても頼りになると、今日仲間になった竹田も知っている。

 竹田の木による貫通力。恐らくはリュウキの悪鬼の蹴りとそれほど大差ないだろう。

 そのためリュウキの蹴りが通用していないこと、それは竹田の攻撃も通用しない可能性が高い。


「明らかにさっきのやつと性能が違います!」


「……これが能力?」


 否、これは能力ではなくただの製造過程による特性である。

 硬化能力などと考えるよりもおにぎり将軍はステータス値においてDEFを強化されていると考えた方が正しいであろう。


「とりあえず私の剣なら!」


 打撃ではなく斬撃。

 攻撃方法を変えれば通るかもしれないとマカが剣をおにぎり将軍に向ける。

 それを見ておにぎり将軍も刀を構える。


「侍か?」


「違うよ。剣士だよ! 名前はマカ!」


「そうか。ではマカ……尋常な勝負を」


 マカが剣を振り上げながらおにぎり将軍へと向かう。

 おにぎり将軍は無言で刀をそっとマカの剣に合わせて迎え撃つ。

 剣と刀が打ち合う。しかしながらその音は金属と金属がぶつかり合う響くようなものではなく、金属が一方的に溶けていく音であった。


「うそっ!」


「腐食能力だと……」


 マカと竹田が目を見張る。それは先ほど倒したおにぎり兵士の能力であった。

 刀は見る間に溶けるとマカへと振り下ろされる。


「くっ……」


 それ以上斬り結ぶこともできず、さりとてムキになって他の剣を使うこともせずマカは下がる。


「あの能力……確か具材が梅のおにぎりさんのだよね」


「ああ。しかしあやつ……それ以上だぞ」


「うん。……溶ける早さがあのおにぎりさん以上」


 マカと竹田が驚いたのはおにぎり将軍が腐食能力を使ったことよりもその能力の強度がおにぎり兵士のもの以上であったということだ。おにぎり兵士が相手であればもう少し剣は溶けることなく残っていたはずだ。直接触れられなければすぐさま溶けることも無い。そのはずであった。


「……今度は私の番。……『ロックインパクト』」


 マカが後ろに下がったと同時にシズネがおにぎり将軍の頭上に大岩を降らせる。

 避けられるタイミングではない。完全におにぎり将軍の死角から放った。気づいてからでは避ける動作には移ることは出来ない。

 だがその攻撃も……


「ぬうっ」


 おにぎり将軍の全身から生えた昆布触手によって受け止められた。


「うそだろ……」


 おにぎり将軍は完全に受け止めている。おにぎり兵士は辛うじて大岩を受け止めきれず脱出を図っていたのに。


「昆布も強化されているのか……」


「……私の岩でも無理?」


 未だ闘いは始まったばかり。

 しかしこの三度の攻撃でリュウキ達はおにぎり将軍の力が予想外に強大であることを、勝つことがたとえ可能であっても辛勝になるだろうと予想することとなった。


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