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エメラルド・シティ 闇にきらめく宝石の街  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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野獣の生き方 4

 その時、突然ビリーが孤児院に駆け込んで来た。凄まじい表情で飛び込んで来たその様子からは、普段の軽薄さが微塵も感じられない。

 そんなビリーを見て、驚き戸惑う子供たち……だがビリーはそんな視線には構わず、モニカのそばに駆け寄って行く。そして、何事か耳打ちした。

 モニカの目が、すっと細くなる。

「ギブソン、マルコ、それにジョニー……作戦会議だよ。付いて来な。ビリーとマリア、そしてユリとケイ、あんたらには子供たちのことを頼むよ」

 鋭い声で言うと、モニカは出て行く。ギブソンたちも後に続いた。




「ビリーの仕入れた情報によると、連中はもう学校の跡地にいるらしいよ。ギブソンの予想通り、バンディって奴がニコラをさらったって話だ。バンディの他にも、何人かいるらしい……これは厄介だね」

 モニカの言葉を聞き、顔を強張らせるジョニー……ギブソンは彼のそばに行き、拳銃を握らせた。

「いくらあんたでも、今回は素手ってわけにはいかないだろう……持っていってくれよ」

 ギブソンはそう言った後、モニカの方を向いた。

「モニカさん、ニコラの持ち物か何かありますか? 学校跡地にニコラが捕まってるんだったら、オレとマルコが行って助け出します――」

「いや、オレも行く……行って、全員ぶっ殺してやる……でないと、奴らまた子供たちに手を出すかもしれねえ。ギブソン、こいつは借りとくぜ」

 低い声で言いながら、ジョニーは拳銃をズボンのベルトに挟む。その瞳は凶暴な光を放っていた。まるで、バイパーと名乗っていた頃に戻ったかのようだ。ギブソンは不安になり、思わず声をかける。

「おいジョニー……落ち着けよ――」

「オレは冷静だよ。冷静でなきゃ、バンディは殺せねえんだよ……クソがぁ! オレがあの時、警察に引き渡さずぶっ殺してりゃあ、こんなことにはならなかったんだ!」

「ジョニー!」

 今度はモニカが怒鳴りつける。ジョニーはちらりとモニカに視線を移したが、すぐに下を向いた。

「モニカ……今回だけは、オレの好きなようにやらせてくれ。オレが決着をつける……オレでなきゃ、ならねえんだ」

 そう言った後、ジョニーは顔を上げた。そして、ギブソンとマルコの方に視線を移す。

「ギブソン、それにマルコ……すまないが、ニコラを助けるために力を貸してくれ。ただし、バンディだけはオレがとどめを刺す……いいな?」

「ああ……わかった」

 答えるギブソン。マルコも頷いた。すると、モニカがため息をつく。

「しょうがない男だねえ、あんたは……行ってきな。行って、気のすむようにしたらいいよ。ただし、終わったら戻って来るんだ……ジョニー、あんたを必要としている人が、ここには大勢いる。忘れるんじゃないよ」

「……わかった。必ず戻るよ」




 そして今、ギブソンとマルコは小学校の跡地に来ていた。他の地区にある小学校と違い、建物自体はさして大きくはない。一階建てで、あちこちガタが来ている。しかし、悪党連中が潜むには手頃だ。


「マルコ……ニコラが何処にいるかわかるか?」

 小学校から十メートルほど離れた物陰に潜み、尋ねるギブソン。しかし、マルコは首を横に振る。

「わからない……もう少し近づいてみないと――」

 その瞬間、マルコは口を閉じた。校舎から、一人の男が出てきたのだ。男は辺りを見回して、また校舎に入って行く。ギブソンは首を傾げた。奴らの目的は、一体なんなのだろう? ただ単に、ジョニーへの復讐だろうか?


「マルコ、もう少し近づいてみよう」

 ギブソンの言葉に、マルコは頷いた。そして、校舎に近づいて行く……ギブソンは近づきながら、時計をちらりと見る。九時五十分だ。そろそろジョニーが来る。ジョニーが来た場合、奴らはどう出迎えるつもりなのか……。

 不意に、マルコが足を止めた。

「ギブソン、出て来る」

 マルコが小声で囁いた直後……扉が開き、五人の男たちと一人の少年が出てきた。五人は年齢も服装も顔つきも、全てにおいてバラバラだ。一方、少年は縛られた状態で地面に転がされていた。

 そして……。

「おいバンディ! ジョニーの奴は、本当に来るのかよ!?」

「ああ、間違いない。今のあいつは、ガキのお守りをしてるただの腑抜けだ。間違いなく、やって来るさ」

「そいつは楽しみだな!」


 彼らの大声の会話が聞こえてきた。ギブソンは思わず頭を抱える。まさか、ここまでずさんで愚かな計画だったとは……完全に想定外だった。罠を警戒するあまり慎重に動き、結果として時間がかかってしまったのだ。

 しかし、相手がこんな連中なら……。

「マルコ、あいつがニコラか?」

 ギブソンが小声で尋ねると、マルコは頷いた。

「うん、間違いない。どうやって助ける?」

「そうだな……お前、奴らに気づかれないように、あの屋根の上に登れるか?」

「うん、できる」

「じゃあ、そうしてくれ。いいか、オレが合図を送るまでは屋根の上で見張っていろ。オレが合図したら、飛び降りてニコラを助けるんだ」

 ギブソンが言うと、マルコは小さく頷いた。そして音も無く校舎に近づいて行く。

 次の瞬間、凄まじい跳躍力で一瞬にして屋根の上に飛び乗った……。


 一方、ギブソンも音も無く近づいて行く。校舎の陰に身を隠し、バンディたちの動向を見つめる。バンディたちは、相変わらず大声で話していた。ギブソンの目には、ただのチンピラ集団にしか見えない。彼らはいったい、何のためにこんな大それたことをしたのだろう。仮にジョニーに恨みを抱いていたとしても、今さらやるべきことだろうか……。

 理解不能だ。


 その時、向こうからゆっくりと歩いて来る大柄な男……ジョニーだ。ジョニーは怯えた様子もなく、真っ直ぐに歩いて行く。そして、校庭に入った時――

「ジョニー……よく来たなあ。そこで止まれ」

 バンディの声が響く……それと同時に、ジョニーが立ち止まった。

 そして、口を開く。

「お前ら……用があるのはオレだろうが。相手してやるから、ニコラは離してやれ」

 ジョニーの声は、不気味なくらい冷静だった。しかし、バンディはゲラゲラ笑いで答える。

「そうはいかねえな……まずは、お前の鼻をへし折ってやらねえと気がすまねえんだよ……」

 バンディは残忍な笑みを浮かべる。と同時に、男たちがじりじりと動き始めた……ジョニーを取り囲むような形で、大きく拡がって行く。だが、ニコラのそばには依然として一人付いていた。ジョニーに抵抗させまいという意思表示なのだろうか。

 だが、その時――


「おーい……お前ら何やってんだよお? 楽しそうらなあ……オレも混ぜてくれよお……」


 ボロボロの服を着て、酒瓶を持った男が入り込む……ろれつの回らない口調で話しかけてくるその姿に、バンディたちは完全に意表を突かれた。皆の視線がそちらに集中する。そして、ニコラのそばに付いていた男が動いた。

「この乞食が……さっさと失せろ」

 言いながら、乱入してきた男の胸を乱暴に突き飛ばす。

 だが――

「マルコ今だ!」

 ギブソン――ボロボロの服を着て浮浪者に変装していたのだ――が怒鳴る。と同時に、マルコが屋根から飛び降りた。そしてニコラを抱き上げ、校舎の中に消える。

 一方、ギブソンは酒瓶を振り上げ、男の頭に叩きつける。そして、

「ジョニー! ニコラは助けたぞ!」

 叫ぶと同時に、ギブソンは伏せた。ジョニーはその声に反応し、素早く拳銃を抜いた。そして、トリガーを引きながら走る――

 響き渡る銃声。銃弾を受けて倒れる男。だが、倒れていない者もいる。残りは三人……ギブソンも拳銃を抜く。だが――

 ギブソンの目の前に、いきなり男が出現したのだ。ギブソンは拳銃を向け、トリガーを引いた。

 だが、男の姿は消える。

 ギブソンの顔に浮かぶ驚愕の表情。その直後、背後からの強烈な一撃……ギブソンは地面に倒れる。痛みに耐えて立ち上がり、ギブソンは拳銃を向けるが――

 またしても、男の姿は消えた。次の瞬間、背後からの一撃……ギブソンは地面に倒れた。その弾みで、拳銃が手から離れる。

 そして、男がニヤリと笑う。倒れたギブソンめがけて蹴りを放ち――

 しかし、今度は男の方が驚愕の表情を浮かべる……背後から自身の胸を貫通したもの、それは人間の腕だった。

 マルコは腕を引き抜き、男の体を投げ捨てた。




「ジョニー! ちょこまか動くんじゃねえ!」

 バンディが怒鳴り、ジョニーに向かい走って行く。しかし、ジョニーはそれを無視した。もう一人の男に対し、ありったけの銃弾を撃ち込む。銃弾が炸裂し、倒れる男――

 それを見て、バンディは吠えた。

 そしてジョニーに向かい、凄まじい勢いで突進していく……ジョニーはバンディの体当たりをもろに喰らった。

 だが、その巨体を受け止める……さらに、バンディの首に腕を巻きつけ、彼の巨体を腰に乗せ――

 一気に投げた。

 地面に叩きつけられ、うめき声を洩らすバンディ……彼にとどめを刺すべく、近づいて行くジョニー。だが異様な気配を感じ、思わず振り返る。

 銃弾を撃ち込み、殺したはずの男が起き上がっていた。

 そして男は一気に跳躍し、口から粘液のようなものを吐き出す――

 とっさに横転し、粘液をかわすジョニー。粘液は地面に付着し、ジューという音を立てて土を溶かしていく……。

 だが、ジョニーにはそんなものを見ている暇はなかった。横転し、起き上がった瞬間にバンディのパンチが飛んで来る。顔面にまともに喰らい、ダメージはないものの大きくバランスを崩した。

「ブランドル! 殺れ!」

 バンディが怒鳴り、ジョニーを突飛ばす。ブランドルと呼ばれた男は口を開け、強酸性の粘液を吐き出そうとするが――

 その時、轟く銃声。ギブソンが拳銃を乱射しながら突っ込んで行く……弾丸は全てブランドルに命中し、ブランドルは片膝をついた。

 バンディは唸り、今度はギブソンに向かって行く――

 だが次の瞬間、バンディは吹っ飛ばされた……ジョニーの、熊なみの腕力から繰り出されるパンチがまともに命中したのだ。バンディは、歯の欠片を撒き散らしながら地面に倒れる。

 一方、ブランドルは立ち上がった……数発の銃弾をまともに浴びながらも、平気な顔だ。

 しかし、今度はマルコが襲いかかる……マルコの頭上からの一撃で、ブランドルの頭は地面にめり込む――

 ブランドルは、そのまま絶命した。


 一方、ジョニーはバンディの首を掴み、無理やり立たせる。

 そして言った。

「あの時、てめえを殺さなかったのは……オレの最大のミスだ」

 言い終わると同時に、喉を握り潰した。




 その夜、ギブソンとマルコは孤児院にて一泊した。

 翌朝、二人して食堂へと招かれる。そして皆と一緒に朝食を食べた。だが、相変わらず粗末な食事である……ギブソンは思わず苦笑した。ジョニーやビリーの持てる力を上手く使えば、このエメラルド・シティではかなり稼げるはずなのだが……これでは、いくら何でも子供たちが可哀想だ。それとも、モニカはあえて粗末な食事にしているのだろうか……。

 ギブソンがそんなことを考えていると、ジョニーが前に進み出ていた。

「みんな……知っている人も多いと思うが、一応はオレの口から説明する。オレに恨みを持つ一匹のバカが、ニコラをさらった……どうにか助け出せたが、元はと言えばオレのせいだ。本当にすまない……」

 言いながら、ジョニーは頭を下げる。しかし――

「あんたが頭下げたって、一文にもなりゃしないんだよ……その分、きっちり体で返してもらうから、覚悟しとくんだね。ただでさえ、あんたは大食いなんだから……」

 モニカが野次を飛ばし、みんなが笑う。足元をうろついていたロバーツとアメデオですら、嬉しそうな表情になっている。

 だが、続いて出てきた言葉は……ギブソンにとって想定外のものだった。

「……とにかく、今回はこの二人に世話になった。ギブソン、それにマルコ、前に出て来てくれ」

「ええ? いいよ、そんなのは!」

 ギブソンは慌てて言ったが、ジョニーはどうしても引く気がないらしい。ずかずかとやって来て、二人を強引に前に連れ出す。

「ギブソンのことは、みんな知っているな。いつもヘラヘラ笑ってる、愉快なお兄さんだ」

 そう言いながら、ジョニーはギブソンを指差す。すると、みんなが笑った。ギブソンも仕方なく、ヘラヘラ笑う。

「そして……こっちがマルコだ。凄く強いお兄さんなんだぞ。みんな、ちゃんと挨拶しろ」

 ジョニーはそう言いながら、みんなの顔を見渡す。だが、誰も答えようとしない。フードをかぶり、下を向いているマルコの姿は、子供たちから見れば異様な存在であった。

 静まり返る食堂……だが突然、ニコラが立ち上がった。杖をつきながら、マルコの前に歩いていく。

 そして、手を差し出した……。

「マルコ……助けてくれて、本当にありがとう。あなたは、ぼくの命の恩人だ」

 ニコラの声が、食堂内に響き渡る。すると、ケイが拍手を始めた。さらにモニカ、ジョニー、ビリー、マリア……皆が拍手をしている。やがて、子供たちも拍手を始めた。

 マルコは戸惑い、顔を上げて周りを見渡す……その瞬間、フードがずれた。醜い顔が露になる。

 それでも、拍手はやまなかった。


 しかし、ギブソンは一人で浮かない顔をしていた。


 あれは、いったい何だったんだ?

 あまりにも、お粗末な誘拐計画だろうが……。

 しかも、今になってやることか?


 あまりにも杜撰な、バンディの復讐計画……ギブソンは胸騒ぎを感じていた。

 これは、別の何かの始まりでしかないのでは?





 野獣の生き方《完》



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