事件の真相・後編
◎バニラ
「すみません……あなたはバニラさんですか?」
そうだけど……あんたらは何なんだ?
「ボクたちは……ジャーナリスト志望の者です。あなたにお聞きしたいことがありまして」
何をだよ?
「五年前に亡くなった、キーク・キャラダインという警官について聞きたいのですが……」
キーク・キャラダインだと……あいつの何を聞きたいんだ?
「どんな方でした?」
どんな方……まあ、聞いてるとは思うが、あいつは間違いなく悪党だったよ……小物の、な。あちこちで女のケツ触ったり、賄賂を取ったりしてた。だが、不思議と憎めない奴だった。ガロードとも仲良かったしな。
「ガロード? あの吸血鬼のですか?」
そう。聞いてるかもしれないが、あいつはもともと人間だったんだ。それが……あんな化け物になっちまった。キークはな、人間だった頃のガロードと仲良かったんだよ。ガロードが家を買うのに協力してやったり、仕事を紹介してやったりな。
「仕事? ガロードは何をしていたんです?」
ここではな、バトルリングっていう格闘技の試合がある。ガロードはそこの選手だった。で、キークはガロードのマネージャーをしていたのさ。
「格闘技……ですか」
そうだよ。もっとも、ガロードは本名を名乗ってはいないけどな。アルト・アイゼンてリングネームで闘ってた。強かったぜ。で、キークはガロードのそばに付いていた。試合の度に仕事をサボッては、ガロードの身の回りの世話を焼いてたんだ。
「そうですか……」
そうさ。キークはみんなにボロクソ言われてる。クズだのなんだのと……でもな、あいつにはそういう優しい部分もあったんだ。クリスタル・ボーイとも仲良かったしな。
「クリスタル・ボーイ? ドラッグの売人だと聞きましたが?」
そう、ドラッグの売人だよ。それも、大物の……でもな、キークは奴とも仲良かったんだ。ガロードとクリスタル・ボーイとボディーガードの双子、それにキークの五人でつるんで歩いてるのを見たことがあるが、楽しそうだったよ。キークの奴、心の底から楽しそうに笑ってたな……。
「はあ……」
だが、キークもボーイも死んじまった。そしてガロードは吸血鬼になり、エバン・ドラゴと裏切り者のギャリソン、さらにその部下を皆殺し……ひょっとしたら、ガロードはキークとボーイの仇を討ったんじゃないかと思ってるんだよ。
「仇、ですか」
そう。キークは空き巣に入って爆発事故で死んだ……ってことになってる。だがな、あいつがいたのはガロードの家だったんだよ。キークは普段から、ガロードの家に入り浸ってたんだ……空き巣なんかしてないんだよ。これはオレの勘だが、キークは消されたんじゃないかと思ってる。ボーイとキークは、何か知ってはいけないことを知ってしまい消された……そしてガロードも消されるはずだったが、幸運にも生き延びちまった。そしてガロードは二人の仇を討つため、自ら吸血鬼になった。
「なるほど……」
まあ、これはオレの妄想かもしれない。真実はわからないよ。でもな、あんたらに知っておいて欲しいのは……キークは決してクズ警官じゃなかった、ってことだ。あいつが仕事をサボったり、賄賂を取ってたのは事実だ。でもな、いい事もしてたんだよ……少なくとも、ガロードにとっては恩人だったはずだ。それだけは、みんなに伝えて欲しいんだ。
「わかりました。ありがとうございます」
・・・
◎アンドレ
何? アンタたち観光客かしら?
「え、ええ……すみません、あなたがママのアンドレさんですよね?」
そうよ……だったら何? アタシにいったい何の用かしら?
「え、えーと……お話を聞かせていただきたいなあ、と思いまして……」
お話、ねえ……ボクちゃんたちは、一体どんなお話を聞きたいのかしら?
「キーク・キャラダインという人について聞きたいんです……」
キーク・キャラダイン? 教えてあげてもいいけど……じゃあ、逆に聞くわ。見返りは何?
「え……」
何かを得るには、代償が必要よね……ボクちゃんたちは、アタシに何をしてくれるのかしら?
「か、金ですか?」
あのねえ……ボクちゃんたちの小遣いじゃあ、無理よ。それにね、アタシの欲しい物は金じゃなくってよ……知りたい?
「は、はい? な、何でしょうか?」
愛よ、愛――
「失礼しましたあ!」
待ちなさい。冗談よ冗談……教えてあげるから。
「そ、そうですか……」
で、ボクちゃんたちは……キークの何を知りたいのかしら?
「えっと……まず、キークはクリスタル・ボーイやガロードと仲が良かったという話を聞きました。この三人の関係は……」
この三人はね、すっごくいかがわしい関係だったのよ。
「いかがわしい?」
そ、いかがわしい……でもね、仲良しだったのは間違いない。仲間ね、仲間。それも、ただの仲間じゃないの……あれは戦友、かしらね。
「戦友、ですか」
そうよ……あの三人が何をしていたか、アタシの口からは言えない。それに、あの三人のチームワークは最悪だった。特にガロードとボーイは、しょっちゅう喧嘩してたらしいわ……キークったら、うちに飲みに来る度にボヤいてたのよ。
「はあ……そうですかあ……」
そうですかあ、じゃないわよ。ただね、アンタたちの年代にありがちな、なあなあの友情ごっことは違う絆があの三人にあったのも確かね。
「クリスタル・ボーイはなぜ死んだんです?」
あら、アンタたち知らないの……ボーイはね、生きてるのよ。
「え……生きてるんですか?」
そ、生きてる。ただし、植物状態でね……ボーイはエバン・ドラゴの子分たちに拉致されたの。だけどボーイは、あらかじめ用意していた自決用の毒薬を飲んだってワケ。でも、幸か不幸か、ボーイは死ななかった。植物状態のまま生き延びたのよ……。
「自決しようとしたんですか?」
そうよ。仲間のキークやガロードに迷惑をかけないため、自決する……アンタたちみたいなお坊ちゃんにはわからないでしょうね、この覚悟は。
「じゃあ、その仇を討つために、ガロードは――」
待ちなさい。まだ話は終わってないの。せっかちな男は嫌われるわよ……ガロードとキークは、ボーイを助けに行ったの。でも、ドラゴの子分たちに襲われ囲まれ、ガロードは足を撃たれて重傷……ボーイは植物状態で動けない。もう絶体絶命……その時、双子が動いたのよ。
「双子?」
そ。ジョーガンとバリンボー……ボーイのボディーガードだった双子よ。ボーイや、仲良しだったガロードを逃がすために、子分たちに素手で突っ込んで行ったの。
「……そうですか」
双子は全身に銃弾を撃ち込まれながら、野獣みたいに暴れまくった……最終的には数十発の銃弾を喰らいながら、立ったまま息絶えていたそうよ。
「恐ろしい……執念ですね……」
その執念の源は何か、アンタたちに解るかしら? ボーイへの忠誠心と、ガロードへの友情よ。本物の純粋な気持ち……そして、ガロードも人間を辞めたってワケ。ボーイと双子の仇を討つためにね。
「そうだったんですか……全然、知りませんでした……」
アンタたちは、この事件をどう捉えていたのかしら……どうせ、無法者の支配する街で、言葉も常識も通じない化け物が人間を虐殺した、ぐらいの認識だったんでしょ? けどね、この事件はそんな単純な話じゃないの。ガロードだって、生まれつきの怪物じゃないわ……血も涙もある、まっとうな人間だったのよ。確かに、ガロードは自分の意思で吸血鬼になったわ。百人以上のギャングを殺したのも確かね。ガロードの存在自体が、悪なのかもしれない……でも、全てガロードが悪い、アタシはそんな見方だけはして欲しくないわね。
「いや……正直、この話は凄いです。想像もしてませんでした。ありがとうございます」
待ちなさい。自分勝手にイク男は嫌われるわよ……もっと詳しい話を聞きたければ、墓守のギース・ムーンの所に行ってみなさい。ギースは全ての真相を知ってるから……ただし、教えてくれるかどうかは、アンタたち次第だけど。
・・・
◎ギース・ムーン
何だ、お前ら……ここは死者の眠る場所だよ。何しに来たんだ?
「ギース・ムーンさんですね? ボクたちはジャーナリスト志望の者です。今日は是非、お話を聞かせていただきたいと思いまして……」
そうか……オレは話すことなんかない。帰れ。
「え……」
冗談だよ。アンドレの口利きがあったんじゃあ、無下に出来ないからな。あの事件のことか?
「そうです……キーク・キャラダインという人についてお聞きしたいんですが……」
一言で言うなら、あいつはクズだ。
「え……いや、確かに悪い噂も聞いていますが、いい噂も――」
お前ら、あいつの正体を知らないのか? キーク・キャラダインはな……大陸から派遣されたエージェントなんだよ。エバン・ドラゴと同じ目的で派遣されたんだ。
「でも、ガロードやクリスタル・ボーイの仲間だったと聞いてますが?」
キークはな、ガロのことを……いや、ガロードやクリスタル・ボーイを利用していたのさ。言葉巧みに二人に近づき、信用させ、そして任務の邪魔者を消していったんだ……二人に消させたんだよ。
「……本当ですか?」
ああ、本当だよ。なあ、帰ったらキークの経歴を詳しく調べてみろ……エージェントの証拠は出ないかもしれないが、代わりに警官としてのキャリアも、取って付けたようなものしか出ないだろうさ。だいたい、このエメラルド・シティに飛ばされる警官なんざ、大陸でよほどのヘマをしでかした奴……と相場は決まっている。ところが、キークは何もしていないんだよ。
「で、では……今回の事件において、キークはどのような役割を果たしたんでしょうか?」
キークはまず、治安警察の身分を利用して情報を集めた。次に、あちこちに火種を撒いて虎の会とゴメスのファミリーを揉めさせたのさ。その隙に、ドラゴとその子分たちが台頭していった。そう、二人のエージェントは表と裏で上手く動いていたのさ。ドラゴが表立ってギャングを仕切り、治安警察のふりをしたキークが、裏工作をしていたってワケだよ。
「じゃあ、ガロードやクリスタル・ボーイとは……」
結局は、利用していただけだよ。キークという男はしょせん、組織の犬だったのさ……ガロードもボーイも、組織の手駒にされた挙げ句に、人生を滅茶苦茶にされたんだ。哀れだと思わないか? キークの野郎と関わりさえしなければ、ボーイも愚兄弟も元気でいられたかもしれないんだよ……。
「グキョウダイ? ああ、ジョーガンとバリンボーのことですね」
そうさ。オレはキークの野郎が大嫌いだ。奴のせいで、死ななくてもいい善人が死んだ。この街で善人と呼べる、数少ない人間のうちの二人だったのに……ボーイだって、好きでヤクの売人をやってた訳じゃねえ。あいつは病気になった恩人に金を送るため、仕方なくこの街で売人をやってたんだ。そう、みんな好きで悪党をやってた訳じゃねえんだよ。言い訳に聞こえるかもしれねえが、悪党にならざるを得なかったんだ。この事件に関わった人間の中で、一番の悪党はエバン・ドラゴかもしれねえ。だがな、一番のクズはキーク・キャラダインだよ。オレがこの手で殺してやりたかったくらいさ……。
「どうして、そこまでキークを憎むんです? いったい何故、キークにそこまで拘るんです?」
帰れ。
「はい?」
オレの知ってることは、ほとんど話した。あとは自分たちで考えろ。それと……出来るだけ早く、この街から離れろ。
「え……それは一体――」
黙って、さっさと立ち去るんだ。これ以上、オレの口から話すことはない。命が惜しければ、一刻も早くエメラルド・シティを出るんだ。
・・・
◎レイモンド、イーゲン、ダイアン
「な、何ですかあなたたちは!」
なあ、兄さんたち……あんたらはな、知らなくてもいいことに首を突っ込み、色々とほじくり返してくれたな。あの事件はな、ガロードって化け物が街中で暴れた。それだけのことなんだよ……大陸から来たキーク・キャラダインというエージェントが暗躍していたとか、公にされると困る人間が大勢いるんだよ……。
「ボ、ボクたちをどうする気ですか……」
簡単だよ。口をふさぐのさ……永遠にな。ダイアン、イーゲン、全員生かして帰すな。
事件の真相《完》




