生刑
ちょっと息抜き
露出した手足。その他は硬い金属で被われている。
「本当にいいのか?」
手に持っているのは鋭利なダーツ。
「ええ、けっこうですよ。きちんと、抗生物質の点滴も施していますので」
視覚に入らないところから聞こえる冷淡な声。
ドスッという音と共に右腕に熱く激しい痛みが走る。次に左足。痛みと共に遠退く意識。
「好きなだけ投げてもらってけっこうです」
ドスッドスッっと痛みが走り、遠退く意識の中で、冷淡な声は冷淡な言葉を発していた。
河岸 正人二十六歳。会社帰りに幼稚園児三十数名の命を殺害。寝不足のうえに酒気帯び。刑罰、極刑【生刑】を与える。
極刑……死刑より残酷で残忍な【生刑】。奪った命の数だけ生きる事。
拷問、人体実験、生態機能としてのドナー提供は当然の如く、拒否することは出来ない。
食事は一日に四回。ドロドロに溶かした液体を無理矢理口の中に流しこまれ、息が出来ないようにして嚥下させられる。
一日の日課は、朝食後、健康診断、健康管理を目的とした血液検査、肉片の回収、排尿検査、排便検査。昼食後、鉄仮面、手足のない鎧を着用しての人間ダーツ。意識を失うと、鉄仮面の中に電気ショックが流れ、意識喪失を遮断される。三度目の食事後、人体に異常がないかの確認。麻酔無しで腹部を切開され、体内を確認される。夕食事後、アイアンメイデンを除く拷問器具の実験。それらを行われる際、一切の意識喪失は許されない。
刑罰の猶予:三百年。その間、死ぬことは許されず、舌を噛み切るにも、口は開いたまま拘束される。
「腎臓移植可能患者あり」
無機質な声が聞こえる。
「よし、腎臓摘出」
無機質な声達は、麻酔を使わず腎臓を抜き取った。
「脳波に異常あり。自我が崩壊をはじめています」
「電気ショック施行」
「心臓機能低下確認」
「心臓マッサージ機施行」
「呼吸数低下確認」
「人工呼吸機設置」
「自力排尿困難確認」
「人工膀胱開設」
「自力排便困難確認」
「ストーマ開設」
「嚥下状態困難の為、気道閉塞確認」
「咽頭切開し、人工呼吸機にて気道再開」
死にたくても死ねない。死にそうになっても、機械で生かされる。
現在、人工呼吸機・心臓マッサージ機・人工膀胱・人工肛門・気道切開部より流動食の施行。一日に数十回にわたる脳内電気ショックの施行で生きている。
一応、自我は保たれている。望みはただ一つ。
『誰か、殺してくれ』
現在の年齢二百七十四歳。執行猶予の最終日までまだ遠い。
「右腕第二指の壊死を確認」
「右腕切断施行」
「左足第五指の壊死を確認」
「左足切断施行」
『だ、誰か……。ぼ、僕を殺してください……』
本当は、連載でもっと長くしようと思ったのですが、銭湯もほったらかしで、入院中に書いた詩やエッセイ等が、「早くここから出せ!」と急かすものですから、一先ず短編というかたちで投稿させていただきました。
ちょっとした息抜き作品です。