異変の海
おーま-たーせーしました。
リアルでお仕事をぶっとばすためにがんばっております。
お盆前には会社との話し合いとかも落ち着くかと思いますので、そこからはじわりじわりと更新していきたいと思います。
まだ少し更新はゆっくりかとは思いますが、私のほかの作品など暇つぶしにお読みいただけたらと思います。
おれ、お給料が入ったら、本屋さんで「ここからここまで全部ください」ってやるんだ・・・・。
医学書以外でwww
やあやあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。
ここに並べられたる商品はオラバルト発の新商品だ。
使い方は見ての通り。着るか穿くかの簡単なもんさ。
こいつは一枚なら男も女も上も下も全部銅貨八枚だ。
二枚組みなら銀貨一枚ポッキリで、上下セット二組買うなら銀貨二枚にまけておこう。
上下三セット買うなら銀貨三枚だがおまけがどどんと付いてくる。
どうだ、お得だろ?
これはいまやシーリカの王都のお偉いさんまで欲しがるような逸品だぜ。
それを銀貨の一枚で上下が買えるなんてお得もお得お買い得。普通じゃ金貨一枚二枚の世界だ。
なに?そんなに安けりゃ質が悪いんじゃないかって?
ハッ、バカ言っちゃいけねえな。
こいつは軍や娼館、井戸端で集まる奥様たちから深窓のご令嬢、わんぱくボウズにヒゲの凛々しい領主に至るまで上にも下にも広く卸してるような品物だ。質が悪いわけがねえだろう。
よく働いてそうなアンタみたいな屈強な男には、動きを妨げず通気性がいいコイツがオススメ。
太陽の下、月灯りの窓際、昼にも夜にも花咲く見目麗しいアナタのようなご婦人にはコレがイイ。
さあ、買った買った。
悪いが在庫はココにある限りだ。
これを逃したらシーリカはオラバルト辺りまで行かなきゃ買えねえぞ。文句のあるヤツは買わなくていい。そうしてあとで『あの時買っていたならば』と歯軋りして悔やむがいいさ。
さあ買った、さあさあ買った!
―――ってなやりとりがついさっきまで甲板の上で行われていたんだがどう思う?
しかもそれをやっていたのは俺達、もといメイプル達だったんだが、なあ、どう思う?
商魂逞しいと思わないか?
俺達は商人じゃないけどな。
モルガンさんの身を案じてセタを出て、朝一の船を見つけて出発してから早三日。
海の風に当たりながらやってきたのは四つ目の港だ。
思いのほか風や波の具合が良くて、海賊や海の魔物とも遭遇しないでやって来れた。それで予定がずいぶん早まり、心に余裕ができたのは良いことだ。だけどもここは『モルガンさん、無事でいてくれよ』なんて言って遠くを見つめているべき場面であって、オラバルトでの日常ヨロシク
『パンツ、パンツはいらんかえー』
とか販売している場合じゃないだろう。
……というか、ピエタが抱えていた荷物の大半が下着や衣服を作るための生地や道具だったというのは怒るべきなんだろうか?
「これで各地方に【ジパング】の名前が売れる。アタシ達は路銀が増える。客は良い品物が安く手に入って嬉しい。そこに喜ぶ者はいても悲しむ者はいないわ。それって素晴らしいことじゃないかしら、ジュウゴ?」
「否定はせん。だが、肯定したら負けだと思っている」
「何に負けるのよ」
「俺にも分からん」
とにかくもうちょっとシリアスに行きたいところだ。
さて、パンツの話は置いといて、俺達の順調だった旅の航路は後半戦。
平穏そのものでまったく順調だった旅の航路は、港に着いてすぐに発せられた船長の一言から怪しい雲行きとなり始めた。
「お客さん方、突然ですまねえがこの船はケイロスから先へは行けなくなった!船はこのままここで四日ほど待機した後、もと来た航路で引き返す!」
「なに?」
「なんですって?」
「いやいや、行けへんてアンタ……」
「困りますね」
寝耳に水。みんながみんなキョトンとした顔で船の前に立つ船長を見ていた。
船員は荷物を積み下ろしを、客は次の町までの食料などを買い、商人は俺達のように商売を始めようとしていたその最中だ。中には荷物を取り落とす者もいる。
彼らは一度聞き間違いかと互いの顔を見合わせ、そして、言葉が正しく伝わっていたことに気付いてすぐさま顔を赤と青に点滅させはじめた。
「おいおい、ふざけんなよッ!俺は三年ぶりに田舎に帰るんだ。ちゃんと金は払ったんだからいきなりケイロスに行けないじゃ納得いかねえよ!」
「そうだ、そうだ!私もその先のガーリアンまで行かなければならないんだ。もう四、五日で着くという場所まで来て引き返せるか!」
「理由はなんなのよ、理由は!納得いく理由はあるんでしょうね?」
怒号、という表現が近いかもしれない。
船客達が船長を取り囲み、目を剥き牙を剥き唾を飛ばして押し迫る。
船長はそれを太い腕でどうにかこうにか押し返しながら、人の海でもがいていた。
「ま、待ってくれ、理由はある!話をするから離れてくれ!」
さすが海の男。
最初から説明をしていればいいのに、簡潔さを求めるあまり結果や結論が先に来るらしい。
説明するという船長の言葉に客達が距離を置くと、船長は乱れた服を整えながら自身も困っているんだとアピールするように眉をひそめて唸った。
「この先の海には[ハー・イ・マヒ]が出るんだが、ここ最近その数が増え始めているらしく、この船じゃあ通れないんだ」
「ハー・イ・マヒだと?ハンッ、たかが“魚の背骨”じゃないか」
「ちょっと船長、そんな程度なら、護衛をつければどうにでもなるでしょ!」
「ああっ、確かに、確かに言ってることはもっともだ。お客さん方もご存知のように、普段なら漁師がニ~三人いてりゃあどうにか追い返せるような相手だ。だが、今回はその数が尋常じゃねえんだよ!」
再び詰め寄ろうとする客に後退りする船長。
みなさんご存知のハー・イ・チャーン・バブーとか言うのがこの先の海にいるらしい。
魔物の類だろうか?
確かに聞き覚えがある。
「[棘大烏賊]よ、ハー・イ・マヒ。マヒはイカを表す古い言葉ね。通称“魚の背骨”。特徴はその名にもある魚の骨のような棘のついた足の先。先端から腕一本分くらいが骨で、太くて堅くてよくしなるから昔は打撃武器として使われていたのよ。魔物の大きさは平均してアタシくらい。確認されている最大はジュウゴくらいのだったかしら。でっかいイカの魔物ね」
「おー、さすがメイプル」
「物知りやなぁ」
「流石です」
だが、チャーンでもバブーでも無かったのが少し寂しい。
「それで、そいつは危険なのか?あの反応を見る限りは問題なさそうだが」
「そうねえ『常に四~五匹程度で行動し、小舟などを襲うことがある』って本にはあったけれど、あの感じからして一匹ずつの危険度的には特に問題は無いと思うわ。実物を見たことがあるわけじゃないからハッキリは言わないけれど、一体一で追い返すだけを目的にするならアタシでもどうにかできるはず」
「それじゃあ、よほどに……」
「数が多いんやろなぁ」
俺達四人は納得して再び船長を見るが、納得していない人達が未だ船長を責めていた。
やれ、オラバルトから討伐の軍船を出して護衛につけさせろだの、やれ、ギルドで力自慢を雇えだの、追い詰められた客というのはなかなかどうして異世界でも理不尽でいらっしゃるようだ。
―――と、そこで、俺は客達の言葉で周囲の異変に気が付いた。
「あれ?そういえば、どうして港に軍船がねえんだ?地図で見ればもうケイロスは目と鼻の先だってのに、ここにはそれらしい人の姿も見えないぞ」
「……言われてみれば確かにそうね。オラバルトの組織がどういった形で作られているかはよく知らないけれど、こういった場所に軍船ひとつ無いのは変だわ」
「もしここに適切に処理できる人達がいるのなら、魔物が増えて問題になっているのがおかしいですよね」
「せやな。それにパッと見た感じやと……どうも衛士みたいな役割の人らもおらんみたいに見えるし、何かあったんやろか?」
どの国にだって治安を維持するような役割の組織はあるだろう。この国もシーリカも隣り合っているだけあって大差は無いはずだ。それに加えて言えばここは田舎の村じゃない。それなりには大きな港町だ。一般の人達がボランティアで治安維持活動を行っているとかそんなはずはない。
そんな風に考えて、俺達がキョロキョロ辺りを見回しながら首を傾げていると、突然、背後から声がかかった。
「内陸で起きている王族同士の諍いのせいで連れて行かれてしまったんだよ」
「うん?」
「誰っ?」
それは穏やかな、けれど年経た威厳のある声。
「ようこそ、プラブドール最後の港町[アストレア]へ。知りたいこと、行きたい店があればご案内しよう旅の方」
振り向けばそこには、長い白髪を後ろで束ねた立派なヒゲの老剣士が悲しげに微笑んでいた。
△▲▽▼
船乗り達の御用達、酒場[海鳴り亭]。
俺達は船客と船長のやかましいやり取りから離れ、老剣士の案内でその潮の香りをたっぷり吸った店内で遅めの昼食をとっていた。足止めを喰らった俺達のような客がチラホラ見えるが、あまり活気は無い。
俺達が囲む丸テーブルに料理を運んできた給仕があくびをかますくらいだ。
「それじゃあ、ケルビンさんはいなくなった衛士達の代わりにこの街を守っているんですか」
まあ、店員の態度はどうあれ、流石は港町。海の幸はとても新鮮で美味い。
俺が大きなエビにかぶりつきつつ舐りつつ、向かい側の席に着いた老剣士――ケルビン・ドースさんにそう投げかけると、ケルビンさんは赤い果実水をあおると小さく頷いた。
「退役軍人の勝手な奉仕、だがね。有志を募って自警組織を結成して、町のみんなの協力でどうにか治安を維持しているところだよ」
「自警団ですね。そりゃあ大変だ」
「なあに、生まれ育った場所を守るのだ。どうってことはない」
ケルビンさんはプラブドール王国軍の元・中隊長だったらしい。
王都にて長く職務に従事していたが、十年ほど前に体力の低下を理由に退役。
現在は生まれ故郷であるこの町で、家庭教師や停留する船の警備などをしながら生活をしているだという。
「そしてのんびりと余生を過ごす、ハズだったんだがね」
どれくらい前からかはハッキリしないが、王宮内にて始まった二人の王子の兄弟喧嘩が、いまや王国を二分するような内乱状態に発展してしまい、その火種が少しずつ表面に現れて大きくなってしまった。
その結果がこの有様で、あのオラバルトの状況だ。
「しかし、そんな兄弟喧嘩くらいでこんな港町の徴兵までやるとは、他国との戦争でもあるまいし、迷惑極まりねえな」
よそでやれ、よそで。そんなもん。
「兄が長子で側室の子、弟が次子で正室の子、というのが悪かったんだろうな。あのお二人は昔から周囲も含めて仲が悪かった。それでもこんな風に国内を乱すまで発展するようなほどではなかったと思っていたが……ハァ……」
零したため息を拾うように、ケルビンさんが再び果実水をあおる。
とろりとした果汁はなんとも重そうだ。
俺は何も言えずとりあえず次を注いでやった。
ケルビンさんが言うにはここに兄王子・ラウンデル殿下派の配下が現れて、衛士も含め町の守りに就いていた者を連れて行ったのは十日前だという。理由は弟王子派の鎮圧と王都周辺の防衛力強化ため、だそうだ。
だが、それにはケルビンさんを始め多くの人達が納得しなかった。無論、連れて行かれる人達もだ。
当然だろう。
国所属の軍関係者だけならまだしも、民間から雇用され、戦時中以外では国への強制的な徴兵は誓約されていない衛士までもが連れて行かれるのはどう考えてもおかしいのだから。だが、どれだけ抗議しても彼らに聞く耳は無く、怪我をして療養中の人も含めてみんな連れて行かれてしまったんだそうだ。
この町だけじゃなく、他の町でも同様に。
ちなみに軍所有の船が見当たらないのは、その兄王子派のせいらしい。
『弟王子・シャスク殿下がデザインしたものだから、そこに在ればラウンデル殿下に対して不敬』とか意味の分からないことでそいつらが焼いてしまったんだとか。
戦える人がいない。
戦闘用の船は無い。
そのせいで魔物の動きが活発になりだした?
つまりはこの足止め、全部そのバカ兄弟のせいだな。
「カルロ――息子も、今年衛士隊に入ったばかりでまだ半人前にもなれていない孫も連れて行かれた。残されたのは老い先短いジジイと可哀想な息子の嫁、そして、拭うことのできない不安……」
コトンと置かれた空のコップがむなしく音を立て、彼の心の涙を表すようにその縁から僅かに雫をたらした。
「ケルビンさん……」
「あ、いや、すまん。雰囲気を悪くしてしまったな。これでは折角の美味しい海の幸が不味くなる。さあ、気にせず食べて食べて!」
暗い表情を慌てて切り替え、無理矢理笑顔を作ったケルビンさん。
そりゃあ、王族のくだらん喧嘩に巻き込まれた家族は心配だろう。
俺は黙って話を聞いていたメイプル達に視線を送ると、彼の言葉に改めていただきますと応えた。
「うーっし、何を食べようかなぁー」
少しわざとらしいかと思いながらも、努めて明るく振舞い、奥の皿にのった赤茶けた何かの切り身に手を伸ばす。
「これなんだ?イカの煮付けみたいだけど……」
口に入れてみるとやはりイカ独特の風味とソースのような塩気と酸味のある調味料の味が広がった。だけど、食感は食べたことのないトロリとしたとてもなめらかなものだ。
「それは海の盗掘屋[ノゴディップ]の黒檸檬ソース煮だよ。キミ達の旅を邪魔するハー・イ・マヒの親玉、その切り身さ」
「ハー・イ・マヒ親玉?てことは、コレもイカの魔物ってことですか?」
「そうそう。ハー・イ・マヒは通常、同種どうしでしか行動しないから知らない人も多いが、実はその群れは一種の“軍”のようなものを構成しているんだ」
「軍、ですか。魔物が?」
「ああ。ハー・イ・マヒは大抵五匹程度で行動するんだが、その命令系統は群れの中で一番大きなヤツが基準になっていると考えられている。まるで隊長とその部下のようにね。……で、それらが大小複数あるんだが、それらの上にあってまとめる役として、この剣大烏賊、通称[ノゴディップ]がいるらしい。役割的には将軍か……大隊長かな。あとは[トゥハ・トゥハ]と呼ばれるイカの大王的な化け物もいるが、まあコイツはここらじゃ誰も見た人間はいないから、半分おとぎ話か怪談の類だ」
「へえ、コレが」
俺がフォークで刺した切り身。これがその将軍様らしい。
煮ているんだが、どういうわけか硬くなっていなくて、揺らしてみるとつるんでぷるんだった。
なんだかピエタのお尻を思い出す。
「ヤツの大きさはキミが二人分くらいだ。とにかくデカくて刃物のような足が危険だが、結構臆病でなぜか打たれ弱い。なのであまり人前には現れず、海の底で難破船を漁っているらしい。だから―――」
「盗掘屋と呼ばれるようになったと」
「将軍なんて呼べるほど格好よくないからね。お似合いだよ、アッハッハ」
確かに後ろでこそこそ隠れて指示を出すだけ。あとは手の届かないところに退避とか、将軍と言うよりコソドロだ。
「ところで小父様、そのノゴディップは難破船で何を探しているのですか?」
すると今まで黙っていたメイプルが俺の横で、俺の皿に取り分けられた料理をつまみながら首を傾げた。
あざとい。
しかしメイプルめ、わざわざピエタが俺に取り分けてくれたものを取りおって……自分のを食べなさい。
「ん?ああ、ノゴディップやハー・イ・マヒはキラキラ光るものを好む習性があってね。特にノゴディップは調理のときに体内から金貨や宝石が出てきたって話が多くあるんだ。きっと飲み込んで保管しているつもりなんだろうね。しかも、どういうわけか凄く状態が良いんだよ。錆が無い。
……ふむ、そう言えば三日前に様子を見に行った漁師がノゴディップが数匹いたと騒いでいたな。もし本当なら一攫千金も……あ、いや、馬鹿なことを言った。忘れてくれ。金に命は代えられんからな」
「いえ、ためになるお話ですわ。……ちなみに小父様、参考までにお訊ねしますが、現在の群れの感じからしてどれ程危険なのでしょう?」
「ああ、それは俺も聞いておきたかっ―――ん?」
アレ?どうしてだか、嫌な予感がするぞ。
「そうだなぁ、いくら弱いとは言っても魔物だ。安全に処理することを考えたなら王国軍兵士の二百人は欲しいかな」
「へぇ、そんなにも危険なのですか」
「お、おい、メイプル?」
俺は背を這う悪寒にその身を震わせながら、恐る恐るメイプルを見た。
そこにはニコニコと微笑んで話を聞く、月色の髪の少女がいる。
笑顔だ。
薄く、嫌味の無い、聞き上手な人の笑顔。
「なあに、ジュウゴ?」
そう言って、笑顔のまま俺を見上げるメイプルの片目はいつもと変わらない翠色の瞳だったが、今日に限っては何故か金色に輝いて見えた。
そう、例えるならば、ここのお代に支払った“金貨”のような。




