表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神をも喰らうヴァイセント  作者: 文悟
第一章・ヴァイセント
6/73

魂の送り人

連れていかれたのは村から少し離れた場所にある丸太小屋だった。


マーベルさんはそこにノックもせずに入ると「おじいチャン、連れテ来ましタ」と告げた。

俺も促されるままに「お邪魔します」と言って入る。見知らぬ土地なのに、自然にそうやって口に出してしまうのは、やはり彼が日本語を使うからだろう。


小屋の中はあまり物のない、効率だけを求めたような空間だった。生活必需品以外を取っ払ったそれには人間が滲み出ているようだ。


入り口の辺りでキョロキョロしていると、マーベルさんが「こちラへ…」とさらに中へ進むように促してくる。

それに従ってマーベルさんの傍まで進むと、目の前に簡素なベッドで静かに眠るお爺さんがいた。

髭をちょいと伸ばした痩せたその老人は白髪だらけでガリガリに痩せてはいたが確かに日本人で間違いないと言いきれる風貌だった。


「おじいチャン。起きてくださイ。おじいチャンと同じ国ノ迷い人ヲお連れしました」


再度マーベルさんが呼び掛ける。

すると、お爺さんはゆっくりと瞼を持ち上げ、こちらを向いた。


「…ッ!!」


その瞳の黒は俺と同じ色だったが、その眼光は全く異種の鋭さがあり思わず姿勢を正してしまう。


「…お主が…迷い人か…?」


しわがれた声。しかしそれは、老人の出すものとは思えないような威厳に満ち溢れたものだ。

俺は気圧されながら口を開く。


「迷い人と言うものが、お爺さんの仰るものと俺の考えるものとは違うかもしれませんが、[ここではない所から]、[何故やって来たか分からない]というものであれば…そうです」


俺がそう言うとお爺さんは満足そうに目を細めて頷いた。


「それで間違いない。儂も…同じだ」

「………………」


お爺さんは一度目を閉じゆっくり息を吐くと、マーベルさんに自分を起こすように言った。

マーベルさんは無理をするなと言ったが、あの眼光で睨まれては従うしかない。背に手を添えてお爺さんの上半身を起こした。


「…お主は[こちら]に来てどれくらいになる?」

「まだ、一月にもなりません。お爺さんは?」

「そうさな…だいたい…百年くらいだ…」

「なっ!?百年っ!?」


どう見積もっても七十か八十かのお爺さんだ。

このご老体の言うように百年いるとしたらいくつの時からいるんだ?


「驚くのも無理はない…これにはわけがある。だが今はお主が知りたいこと…知っておかねばならないことを話そう。少し…長くなる。座れ」


お爺さんがそう促すと、マーベルさんがソッと椅子を出してくれる。


「先ずは…そうさな…お主が儂と同じ国から来たのはもう判っている。だから、伝えるとしたらここからだろう。この国…いや、この世界は、[我らのいた世界]とは違う世界だ」

「やっぱり、そうですよね…」


漫画や小説でよくある異世界へ飛ばされる物語。

覚悟はしていたが、正直認めるにはキツい。


「この世界は[ヘヴロニカ]と呼ぶらしい。神の作った世界だという…まるでパアデレのような世迷い言だと思ったが…こんな世界に飛ばされ、百年もおれば信じる気にもなる」


お爺さんは口の端をニヤリと持ち上げ苦笑する。


「ヘヴロニカには八つの大陸が在り、我々が住むこの大陸はその中でも一番小さな大陸[トラウディシア]。巨人の足跡と呼ばれている」


まるでゲームの世界だ。

だが、あくまで現実として受け止めなければいけない。


「トラウディシアには三つの大国と八つの小国が存在している。この村があるのは…そうだ、地図を見せよう。世界地図は無いが…」


そう言うとまたマーベルさんが棚からサッと地図を持ってくる。

その地図には確かに足跡と言われたら頷けるような足形が描かれ、足形の中には三つの大きな区切りと小さな八つの区切りが在り、大きな区切りの内の外海に面した二つは山を境に隣り合い、残り一つは少し離れた内陸部にドンッとある。小さな区切りは余ったところに散りばめられているという印象だ。


「この村…ルブルディがあるのはこの東の端にある国[シーリカ]。村は中央に位置するベーテル山の東側麓にある」


細いふしくれだった指が地図の上を動いていく。

時折苦しそうに咳き込むが、マーベルさんは心配そうに背中をさするだけで何も言わない。

俺も心配になり、マーベルさんが言い難いならと無理はしないように俺から言おうとしたが、それを察してかお爺さんは俺を手で制した後に自嘲するように笑った。


「もう…この身の天命があと僅かも無いのは自分自身がよく解っていてな。今無理しようがあとにしようが変わらない」

「おじいチャン!」

「マーベル、真実だ。遅かれ早かれあと少しで儂は死ぬ。ならば最後に先達としてしてやらねばならないことがある。お前にも、村にも、そしてこの男にも…」

「デモ…僕ハ…」

「マーベル、少し外に出ておれ。今から大事な話をする」

「え?デモ…」

「マーベル…」

「わかりマシタ…」


彼にとってもこの老人にとっても互いに大事な人なんだろう。そして、この老人にとっては厳しくすることが愛なのかもしれない。

マーベルさんが肩を落としながらも出ていくのを確認すると、お爺さんは言葉を選ぶようにゆっくり語り始めた。


「…マーベルは良く尽くしてくれておる。それが儂にとっては嬉しくもあり、時に辛くもある」


カサカサに渇いた右手が同じように渇いた左手をゆっくり庇うように摩る。


「…あやつには両親がおらん。まだ乳飲み子の頃にあやつの両親は森に棲む凶悪な獣に夫婦共々喰い殺されてしもうた。その頃、己の死期を悟っていた儂は孤児となったあやつを引き取り、儂の意志を継ぐ者として育ててきた……己の罪滅ぼしのためにもなると、自分に言い聞かせて」


遠くを見つめ、物憂げに黒の瞳が揺れる。


「罪滅ぼし?どういうことです?」

「儂が原因なのだ。凶悪な獣が生まれたのは」

「お爺さんが?」

「…ああ。この世界には魔獣や神獣、聖獣などと呼ばれる人間の強さを遥かに凌駕した化け物がいるのだが、この地方…というよりこの森にはその化け物が大昔から棲みついている。

其奴は人間や森の獣と共存し[神獣]と崇められながら静かに暮らしていたのだ。だが、儂がこの世界にやって来て村に住み着いた後、自由気ままに暮らしていた儂は森で奴に出会い、そうとは知らずに奴を斬ってしまった」

「神獣と言うからにはまずいですよね?」

「あぁ、かなり。だが、そこで殺せておけば問題はなかった。村の人間はどうやら奴に近づくことも忌避するような様子であったし、隠し通せれば問題は無かった。だが、殺せなかった。奴は深傷を負い最早虫の息だったが、儂も死にかけた。闘いは両者の痛み分け。そして、それが最悪の結果を招くことになったと後で知った」

「それが、凶悪な獣を生むということに?」


俺の問いにお爺さんは苦々しい顔で頷く。


「数十年の間はまだ気づかなかった。気づいた時には森の動物がほとんどいなくなっていた。それからさらに数十年で動物はまったくいなくなり、そして……」

「人を襲うようになった?」


さらに眉間に皺を寄せ再び頷く。


「神獣たちについて、奴について、様々な文献を読んで調べ、そして結果が出た頃には何もかもが遅かった。マーベルの両親だけでなく、村人にかなりの犠牲者が出てしまった。儂はマーベルを育てながらも奴の暴虐を緩和するため沢山の家畜を用意し森に放つなど策も練ったが…解決にはならなんだ」


もしかしたら荷車を引いていた人たちはその対策をした帰り道だったのかもしれない。

しかし、確かに凶悪なトカゲはいたが、アレを超えるような奴があの森にいるのか……想像したくないな。

脳裏に焼き付いたトカゲがバクりと食べられるような姿を想像し身震いしていると、お爺さんはじっと俺を見つめ、次に小さく頭を下げた。


「会って間もないお主にこのようなことを言うのはおかしなことだとわかっているが、一つ、頼みがある。聞いて欲しい」

「……聞く、だけなら」


敢えておちゃらけて返す。

頼みというのが予想がついたからだ。


「ふっ……ああ、聞いてくれるだけでいい。儂の身体はこの通りあとは座して死を待つのみだが、奴との禍根を遺して無責任に逝くのは忍びなく、さりとて、奴との決着をつけるほどの力はもう残されていない。村の為にも………マーベルの為にも、しでかしたことの尻拭いはして逝かねば未練が残る。これを他人のお主に押し付けようとする恥知らずでうつけな儂を笑ってくれてもいい。だが、儂が死ぬ前に、同じ国に生まれた同じ迷い人と会える幸運はもうない!頼む!どうか……どうか、奴を討ってはくれまいか!!」


身体中に力が入り、小刻みに震えている。

顔をくしゃくしゃにしながら、涙を目端に浮かばせながら絞り出すように願っている。

一瞬、厳しくも優しい、違う世界に生きる祖父を思い浮かべた。


「わかりました。できるとは言いませんが、化け物退治、お請けします」

「おおっ!やってくれるか!」


「はいっ」そうもう一度答えると、お爺さんは有り難い、有り難いと俺の手を握った。


「では、早速お主に渡したいものがある」


そう言ってお爺さんは枕元から長い棒を取り出した。いや、白い棒ではなく、それは…


「刀?」

「そうだ。儂がこちらにやって来た時に持っていた数少ない品のなかの一つだ」


刀は太い白鞘で細工は少なくシンプルだったが 鞘にぐるりと雷が巻き付いたかのように紅が入れられていてなんとも渋い。

お爺さんは、自らの眼前で危なげなく刀を抜き放つと刀身を俺に見せた。

柄も鞘と同じく白に紅が荒々しく入れられ、斬ることを前提にした刀身には美しい波紋が……。


「あれ?それ、錆びてるんですか?刃の先から鍔の辺りまで所々が赤くなってますよ?」


鞘と同じくやはり、刀身にも紅の雷を巻いたように色がついている。

お爺さんはその問いにニヤリと笑い、刀を正眼に構えた。


「これは、錆ではない。血だ。儂が斬った化け物の血が模様のように染み込んで消えぬのだ。こいつで奴の目や腹や首を切りつけてやった。奴の身体は鉄か岩石かと言うくらい硬かったがそもそも鎧兜でさえ両断できる刀の一撃だ。無傷にいられるわけがない。奴は血飛沫をあげ、その返り血でこうなったのだ」

「とんでもないな…」


刀もこの人も、化け物も。


「とんでもないのはそれだけじゃぁない。この刀、こうなってからというもの、どんなものを切りつけても刃こぼれひとつしなくなった」

「化け物の血のせい…ですか?」

「恐らくはな。そして、儂はこの刀のように少量ではあるが、奴の血を口にしたのだ」

「えっ?じゃあ…」


お爺さんにも刀のような現象が。


「そう、儂の身体は強靭になり、年を取りにくくなった。いまの儂の年齢は恐らく百七十を超えておる」

「百七十!?」

「あぁ、しかも、途中で数えるのが馬鹿らしくなってまともに数えていない」


百年居るからにはそれなりに若い時だと思ったがそれも曖昧になるくらいの年月だ。


「少量を口にしただけでこんな風になるのだから奴の肉でも喰った時にはどんなことになるのやら。想像したくもないな。ハッハッハッハッ。まあ、儂としてはこうやってお主に出会え、この竜神殺しの刀を託すことも出来た。百年も無駄にはならず良しとしよう」


そう言って初めて笑うお爺さん。咳き込んでしまうのでちょっと心配だが、満足げな顔が見れたのは良かったと思う。


「あ、この森に棲む化け物って[竜]なんですか?」

「うむ、そうだ。いや、まだ殺してもないのに竜神殺しは気が早いか?ハッハッハ。昔から化け物退治に使われた刀には斬った物の名がつけられていたからつい、な。許せ」

「いや、気持ちは解ります。できるだけのことはしますしね。それより、竜ってやつは想像上のものでしか知らないもので、特徴や策があれば伺っておきたいのですが」

「ん?あぁ、もっともだ。まず、竜の特徴だか、身の丈は大人五人分はある」


かなりデカいな。でもトカゲくらいか?


「胴も太く、鋭い爪や牙は鉄でも簡単に引き裂く力を持っている」


それは恐い。罠でも仕掛けるか…トカゲみたいにいけばいいが。


「身体は腹や首以外は硬い皮膚に覆われ、それらは山のようにでこぼこしている」


首と腹が弱点かな。トカゲみたいにケガをしてるようであればそこをつこう。


「森に潜むためか身体は深い緑色。寒さには強くないのか日中でないと活動しない」


まるでトカゲみたいだ。攻略の方向性が見えてきたぞ。


「奴はよく知られる竜のように飛ぶことはなく、トカゲのように地を這うように近づいてくる」


ん?あれ?


「先に言ったように、奴は儂との闘いでかなり深傷を負ったはずだ。だが、文献によれば竜は、怪我を他の生き物を喰うことで急速に回復させるのだそうだ。もしかすると今では傷など見当たらぬかもしれぬ…」


まさか…まさかとは思うけども。


「その傷は、右目と首と右脇腹が特に深くなかったですか?」

「さて…どうだったか…いや、脇腹は覚えていないが右目と首は確かに斬った。なぜそれを?お主もしや既に奴に出くわしたのか?」

「あ、あはは…出くわしたというかなんというか。ち、ちなみに、その、血を飲んだことで何か悪いことってありました?天罰みたいな」


冷や汗が止まらない。


「天罰ではないが、こういった神獣や魔獣の血肉を口にした者は強大な力を得る代わりに呪いが降りかかるとされている。儂は量が匙でひとすくい程だったから気になるほどではなかったが、例えば竜なら暴食・憤怒・強淫の呪いがかかるとされていた」


そんなバカなッ!食べちゃったし!

匙でどころか食べちゃったし!

むしろ全身に浴びちゃったし!

何ですか呪いって!代わりにって代わるなよ!


やらかしたどころではない。

つまりはあの熊を一撃で倒したのが竜の力で、つまりは食べても食べても治まらなかったのは竜の呪いだったわけだ。


「どうした?お主、まさか?」

「あ…その…そのまさかで。奴と遭遇したとき、一緒に来ていた父を殺され、一旦は逃げたのですが食べ物もなくあまりにも空腹で、罠を作り、弱らせた所をナイフでこぉザクッと。それで、バラして、食べちゃい…ました」


相手に何かを言わせる隙を与えずに一気に捲し立てる作戦を敢行。

ぽかんとするお爺さん。

怒られはしないだろうか?いや、怒られはしないか。 何せ神獣を倒して欲しいっていうのがお爺さんの望みだし。


するとお爺さんはやはり怒るどころか目を見開いて両手を叩き笑いだした。


「ハッハッハッハッハ!!これは愉快だ!なに?あの竜をすでに殺して喰っていたと?それはいい!この百年でこれ程愉快に思ったことはないっ!!」

「???」

「あぁ、いやすまぬ。くっくっくっ…げほっ!げほっ!げほっ!くくく…」

「おじいチャン!?」


咳き込むのを聞いてマーベルさんが駆け込んでくる。恐らく苦しげな顔を想像していたのだろうが、実際のお爺さんは腹を抱えて笑っていて、マーベルさんは?だらけの顔でお爺さんの背中を摩り、刀も鞘に納めて横にどける。


「無理シちゃだめダよ、おじいチャン」

「なに、無理はしておらん。久方ぶりに愉快な話を聞いたのでな」

「そうナの?でも、とにかク、身体は大事ニ」


大変だなマーベルさん。


「あ、おじいチャン、愉快ナお話シならあるヨ」

「なんだ?お前からとは珍しい」

「うん、さっき竜の森から帰った人たちが、途中で熊ヲ狩って帰っテきたんダ」

「なに?熊が出たのか!?もうどれくらいぶり…いや、そうか…それなら納得だ」


ひとり得心した様子で俺を見るお爺さん。

すると、ニヤリと笑ってマーベルさんに向き直る。


「マーベル。儂からも愉快な話を聞かせてやろう」

「ウン、聞かせテ」

「[竜]が、死んだ」

「ーーッ!!?う、ウソッ!?ホンとに!?」

「ああ。いま、この男から聞いたことに加え、熊が出ということなら間違いない。どうせ、いま広場はお祭り騒ぎじゃろう?この話を持ってもっと、騒がしてこいっ!」

「ウンッ!!!」


大人しそうな印象のマーベルさんが、満面の笑みで大きく頷いて飛び出していく。


少しすると、遠くの方から地鳴りのような大歓声が上がる。

それを二人で聴きながら顔を見合せ小さく笑った。


「永く悩み苦しんだのが馬鹿みたいだ。事はいつの間にか解決し、いい方向に進んでいた…」

「いや、俺はデカいモノを背負こんでしまって、これからが永く悩み続けそうなんですがね」

「ん?クックック。いや、それは゛知らなかった゛儂たちが勝手に背負ったものだ。受け入れろ。なぁに、先達として助言はしてやる」

「まったく…スッキリしたような顔しちゃって」


言い合ってまた顔を見合せ苦笑した。


「しかし、何故動物たちは戻って来たんでしょうかね?」

「それはお主が奴を討ったお陰だ。森に生き物が居なくなったのは奴が手当たり次第に食い散らかしたからだ。それから奴を恐れて奴の縄張りには虫くらいしか居なくなってしまった。そんな奴の臭いや気配が無くなったのを察したのだろうよ。食い散らかしたとは言え全滅したわけではない。他所の山や森に移っていただけだからな」


なるほど。確かに猛獣なんてレベルじゃない、まさしく怪物ってやつが身の回りをうろちょろしてるなんて堪えられんからな。

なら引っ越すのが道理だ。


「でも、不思議です。みんな竜が死んで喜ぶんですね?神獣てことは、ここらの守り神だったんでしょう?」

「そうだな。害獣は減り、動物の統制はあり、山賊や盗賊が近づかない。危険な存在だと解っていても村がここに出来たのはそういう理由があるからだ。奴がまともであった頃は供え物をしたり森を守るに努めた。しかし、それも奴が人を襲うようになるまでの話。害なす化け物…[魔獣]になっては殺す以外に選択は無い」


共存共栄。

それは捕食者と被捕食者との間に生まれる持ちつ持たれつの関係。均衡が壊れれば敵になるのは摂理。


そう得心したところでまた、マーベルさんが戻って来た。そして、俺見る。


「今日の主役ヲ連れてこイて皆が言ってマス」

「主役って、俺?」

「ハイ!熊を倒しタのはアナタでしょう?」

「ええ、まぁ」


竜神殺しに熊殺しか、と笑ったのはお爺さん。

俺は頭を掻きながらすぐ行きますと告げる。

マーベルさんは、先に行って待ってますとまた走って行った。


「では、俺は広場に」

「うむ。行ってくるといい」


そうして頷き合って椅子から立ち上がるとお爺さんは俺に右手を差し出してきた。


「会ったばかりのお主にこんなことを頼むのはおかしいと思うが、儂が死ぬまでに同じ国に生まれ、同じ世界より飛ばされて来た人間に出会う幸運はもう無い。だから一つ、頼みを聞いて欲しい」


俺はその手を見つめて、ニヤリと笑う。


「聞くだけなら」

「ああ、聞くだけでいい。これからお主が何を求め何を成していくかは分からないが、儂の知りうること、そして魂を受け継いで、願わくばいつか儂らの居た元の世界に連れ帰って欲しい……」


切実な願い。

見知らぬ土地で果てる無念。

しかし、その黒い瞳には憂いはなく、広い世界を見るような希望と期待に満ちているようだった。


「出来るとはいいません。ですが、出きる限りはしましょう」


ぐっとお爺さんの手を握る。

枯れた右手は熱く、力強い。

二人はまた強く頷き合った。



「あ、そう言えばこれだけ話しておいて自己紹介してませんでしたね。俺は柄倉重悟。よく年を上に見られますが歳は18になります」

「おぉ、そうだった。年を取るとやりたいことしか思い浮かばなくなる。嫌なものだ」

「もう二百歳近いですからね」

「くくく、違いない。さて、儂の名だが、もしや聞いた事があるかもしれん」


多分、俺が一番衝撃を受けたのは、


「家名はオダ。名をノブナガ。織田信長と申す」


この瞬間だったかもしれない。




織田信長生誕1534年

ライト兄弟有人飛行成功1903年

なので信長が200歳前だと1734年以前の物語となり、その時代は沖縄はまだ琉球王国で飛行機もありませんので辻褄があいません。

ご指摘をいただいたのですが、深くご説明しますと、今後の話の展開にかなり関わりますので、ネタバレになるため言えません。学のない私ではなかなかすり合わせが難しかったため、今後に説明となる仕掛けをもってきますので、それをご期待いただければ嬉しく思います!

ですので、『うん、この作者だからしかたねぇ』くらいで流していただければちゃんとあとで拾いますので、そのほうがお楽しみいただけるかと存じます。また、ご指摘御指南いただいた方々には深く御礼申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ