ブリコーネの異世界道中???
今回でブリコーネの異世界道中は終了です
騎士のみんなとお別れしてから、さらに一年と二ヶ月の月日が流れた。
今までも沢山の試練が待ち受けていたけれども、あれからもとんでもなく危険な目に遭った。
それでも血と涙と汗を流しながら、ウチはついにシーリカ最西端の町[ローデル]に辿り着いたんや。
長かった……長かったで……。
里を出るときには十四歳だったウチも十七歳。
修羅場を潜った体は引き締まり、瞳は強く輝いて、漂う雰囲気は刀剣のように鋭くなった。けれど隠しきれん色気は街行くオトコの視線を釘付けや。
ほら見ぃ、ウチが路上で歌っとるだけで、みんながこっち見よる。
「おい、アレ……」
「ああ、何だろうな……。あんな生き物初めて見たぜ」
「あれじゃないか?ホラ、確か最近この町に来た見世物小屋のさ。王都で流行ってるとか吹聴してた変な生き物いっぱい連れた、あの……」
「ああ、あのブレモンドだかブルマンドだとか言う移動式の小屋で芸を見せたりする一座な。確かにそうかも。………お、コッチ見たぜ」
「そこの奴、さっきからじゃかぁしいわドアホ!乙女に向かって変な生き物とはどういう了見じゃ!どこぞの珍奇で愉快な仲間たちと一緒にすんなボケ。呪うたるぞ!」
「ひぃぃっ!?」
「呪われるぅ!!」
まったく失礼な奴らや。
「仕方ない。ここで路銀でも稼ごう思ったけど、空気が悪いわ。他行くか……」
乙女の悪口言っとった奴らは血相変えて逃げて行ったけど、そのせいで他の人達の視線が痛い。
こう見えてウチは氷細工のように繊細な心の持ち主やからこんな空気耐えられへんわ。
「あ~今夜も野宿かなぁ~」
もうしばらくしたらと日も暮れるし、夜には雨が降りそうな雲行き。
さっさと屋根の有る寝床を探して、今日は早めに眠ってしまうのが良いかもしれへん。
そうしてウチが寝床を探して路地裏を散歩がてらに歩いていると、繁華街から離れた場所の人気のない路地裏で、何とも嫌な声を聞いてしもうた。
「ああっ、イヤァ……。助けて、もう痛いことしないで……」
「怖いよぉ……おかあさぁん……」
「放してよっ、この変態!あたしに触らないで!」
こら、あかん。
どえらくヤバい感じの場面に遭遇してしまったらしい。
ウチの目に、下品な笑みを浮かべた男達が女の子達を冷たい地面に組み敷いて、体をまさぐり、時に平手で打ち据えている異常な光景が飛び込んできた。
服は下着ごと引き裂かれ、まろびでた胸や晒された太股には、痛々しい赤い筋が刻まれている。頬を腫らして涙も鼻水も流して泣く娘もいた。
「なんて惨いことを……」
惨い仕打ちを受けているのは彼女達だけやない。
全部で二、三、四……七人はいるやろうか?
男達の背後にあった三角の妙な幌馬車にもボロ切れを被った女の子と……それに男の子も檻に押し込まれ、馬車に積まれていた。
みんな青い顔して耳を押さえて、暗い虚ろな目で遠くを見ている。
「こんなん……許せるか……」
ウチは考えるより先に駆け出していた。
男の数は四人。
ちと厳しいけど、そんなん言うてられん。
ウチは大声で啖呵を切った。
「オラァッ!この外道ども!悪行もそこまでや!女の子達から手ぇ放さんかい!逆らうようならぶちのめすで!」
「だ、誰だっ!?」
「なんだぁ?」
「どっから声が?」
「あ!下だ、下!変な生き物がいる!」
男達の視線がウチに集まる。
不意を突いたことで意識がウチに向いて、女の子達を捕まえる手も緩んでいるのが見えた。
「今や!逃げぇっ!」
「っ!!」
「いやぁっ!」
「ーーどきなさいよっ!」
「うおぉっ!?」
「ま、待てッ!」
ウチの叫びに即応した女の子達が、下から掬うように男を押し退け、すぐさま逃げ出していく。
男達も手を伸ばし、後を追おうとしたんやが、体勢を崩した分女の子達との距離は開いていて追いつくことはできない。
何より、女の子達が口々に助けを呼び始めたことで、男達は追うことより逃げる方を選択したようやった。
「くそぉっ、人が来ちまう。おい、ずらかるぞ!」
「俺が馬を!“積み荷”は頼んだ!」
「おう!」
慌てふためく男達。
だけど、逃げるなんてことは神様が許してもウチが許さない。
ウチは荷台の縁まで駆け上がって、両手を広げた。
「あかんで。この幌の中の子たちも置いていき」
「くそっ、何なんだこの変なちっこいのは」
「ちっこい言うなやボケッ!!ウチは正義の美少女吟遊詩人ブリコーネや!痛い目見たくなかったら、大人しくお縄を頂戴しいや!」
「なんだぁ?人間みたいに喋りやがって。新手の魔物か?」
「魔物ちゃうわ!どっからどうみても人間で美少女や!」
失礼な奴やなっ!!
「ハンッ、“手のひらに乗るくらいの人間”なんているかよ」
「おるわい、ここに!」
ウチが男の一人と睨み合っていると、別の男から声がかかる。
「おい!人が来る!準備はできたのか?そんな妙な魔物と遊んでんじゃねえ!」
「おお、すまねえ!もうできる!」
男はウチを無視して逃げる用意を続ける。
ああ、ウチもナメられたもんやなぁ……。
「アンタら、大概にせえよ?……ウチはなぁ、大英雄アンカー・サムの孫娘や。[手のひらの勇者]の一族なめくさるボケナスは、剣の錆びにしてやるで!!」
「おぉっし!準備できたぞ!いつでも出られる!」
「よっしゃ、全員、乗り込め!出るぞ!」
「「「応ッ!!」」」
「って、聞かんかいひとの話!」
本当に切り刻んでやろうか。
さすがのウチも我慢の限界や。
後ろの子達も助けなあかんし、ここはもう実力行使や。
ウチは腰の剣に手を伸ばして………
「なあ、大英雄の孫娘とやらよ」
「あ、あれ?あれれ?」
ない!?
「お前、“丸腰”でどうやって俺らを斬るつもりなんだ?」
「あ、うそっ!?まさか、さっき歌ってたとこに剣忘れてきたんーーがッ!」
そうして、慌てるウチはいつの間にか伸ばされた手に気づかず、重い一撃を受けて、意識を刈り取られてしもうたんや。
………
「おい、そんなもんどうするんだ?」
「どっかで新種の魔物だって売りゃ、変わりもんが買ってくれるだろうさ」
「変わりもんってなあ。ここらじゃ面が割れてるし……。どこで売るんだよそんなもん」
「プラブドールとか?」
「そうなるかぁ」
男達は小さな籠にウチを放り込み、一路北へ向かった。




