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神をも喰らうヴァイセント  作者: 文悟
転・ヴァイセントの異世界道中
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ヴァイセントの異世界道中1.5(おまけ)

読者サービス?回。


読まなくても大丈夫な内容。


イチャイチャしたり桃色の雰囲気はいらん、イメージが崩れる、と言う方は回れ右を推奨します。




一応ピエタの状態と呪いについて触れている話でもあります。

宿泊が決まった宿[金の風見鶏(ファンモテア)]は平均よりもお高い宿だった。


そんなお宿で大丈夫か?と我らが財務長官(メイプルさん)にビクビクしながらお訊ねしたところ、


『大丈夫よ、問題ない』


と返ってきたから大丈夫なのだろう。


そう言えばスノクを出る前に臨時収入があったと言っていたからちょっとくらいの贅沢はしても良いってことか。


何よりここは高い宿賃を払うだけあって風呂もあれば大部屋もある。掃除も行き届いていたし食事の質も高かった。


ハンデールでバンドーさんの営む宿[絹の寝床]程ではないがサービスも接客のレベルも高く、俺からしたら『星三つ』だ。


そう言えば俺いっつも思ってたんだけど、星いくつってアレ、高いか低いか判んないよな。




「いちいち料金は高いけど、評価(てんすう)高いわここ。まさか部屋にお風呂場があって、さらに湯にも浸かれるなんて思わなかったわ」

「一階ですけど奥の角部屋ですし、外も木に囲まれた小さな庭みたいになってますから別荘みたいで雰囲気も良いですしね」



かぽーん


と効果音でも付けようか。



俺達は今、風呂の時間を楽しんでいた。



「ピエタ、髪洗って」


「はいはい、喜んで」



取った部屋は一泊に金貨ン枚を請求するような宿の主人イチオシの部屋。バカ広い室内には絵画が飾られ、色鮮やかな花が並び、どこの貴族の屋敷やねんとツッコミたくなる品々が俺達を迎えてくれた。


部屋の奥、窓の近くには大きなベッドが二つ、シワ一つない状態で待ち構えている。当然ベッドはふっかふかのすっべすべだ。


それだけでも感嘆の声が上がるところだが、まだ一つ極めつけがあった。


それがこの室内風呂だ。



「ピエタの姿のこともあるしこれは助かるよな」



ピエタの姿は半分近く狼だ。

手足は人間のそれの形をしているが真っ白の体毛が

腕や足、背中など大部分を覆い、頭頂部にはピンと尖った獣の耳、尾骨の辺りからは太くて長い尻尾が生えている。


不特定多数が入る大浴場みたいなものじゃ人目につくし、貸し切りだって移動にいちいちローブを頭まで被って移動することになるから怪しすぎる。



「私のせいでご迷惑をおかけします」

「別に迷惑なんて思ってないさ。俺の姿だって充分すぎる程に目立つんだから、どっちみち気を遣わなきゃならないし」

「ありがとうございます旦那さま」


ーぺしっー


「あっ……あぅ……すいません、メイプルさん」



メイプルの手がピエタのお尻を叩くと、手が止まっていたピエタは苦笑して洗髪に入る。


手桶に何やら色々入れて混ぜ始めた。



「いやぁ、しかしこっちの世界にもこんな設備を考えつく人がいるとはなぁ」


元の世界じゃホテルに泊まれば大概部屋に風呂……というかシャワールームくらいはあったけど、まさかこっちの世界でそれにお目にかかるとは思わなかった。


「しかも広いし」


四人は一度に入れそうだ。

俺は浴槽の縁に手をかけ顎をのせてふぅと息を吐き出した。


熱さもなかなかで気持ちいい。


そのうえ目の前では美少女が二人、惜し気もなく裸体を晒して洗いっこしているという世の男子諸兄垂涎のシーンを独り占め。


()(かな)()(かな)……」


温泉じゃないのが惜しいところだ。



「湯と薪代で銀貨二枚も取られるってのが痛いけどね」

「まあ、体を拭く布やカモナス液の代金も含まれてると思えば仕方ないですよ。おまけで香油まで付けてくれましたし」



唇を尖らせるメイプルにピエタがまぁまぁと苦笑して返した。


その手は喋りながらも、メイプルの髪を一房一房丁寧にぶくぶく泡立つ液体で洗っていく。


カモナス液とは、カムスと言う実を潰して出てくる汁にモドミと言う海草の煮汁を混ぜた物から作られる石鹸のような物を湯に溶かして戻した液体だ。


その石鹸と言うのがカモナスらしいのだが、かなり高級品で髪には凄く良いらしい。


リンスとシャンプーの混合液みたいなものか?


「痒いところはありませんか?痛かったら言ってくださいね」

「無いわ。気持ちいい」


ピエタは美容師がそうするようにコシコシと頭皮をマッサージしながら髪を洗う。メイプルは言葉通りに気持ちいいのか唇を小さく持ち上げ目を細めていた。


しかし、道中あれこれ争っていた(主にメイプルが一方的に)二人なのに仲良くなるのは早いもんだな。


ピエタなんて何がそんなに嬉しいのか尻尾がフリフリ揺れている。



「そう言えばピエタ、ふと疑問に思ったんだけど、君の高潔の判断基準ってなんだ?」

「え?判断基準ですか?」

「そうそう。ほら、俺は旦那(アレ)だからだろうけど、メイプルにもそうやって普通に触ってるだろ?だからどこまでが許容範囲なのかと」

「う~ん……私にもあまり細かいところまでは判りませんが、【高潔】の呪いが許容するのは自分から触りにいった人かもしくは子供だけみたいです」

「自分からってのは解るけど、子供?」

「はい。意識の無い時でも呪いは発動してしまいますが、何故か子供達だけには突然触られてもその力を現しません。モルガン様はこの血に宿る母性からだろうと解釈されていたようです」

「ピエタ……首の方がかゆい」

「はいはい。ココですか?気持ちいいですか?」

「うん……いい……」



椅子に腰掛けたメイプルの背後で、冷えるだろうに裸のまま膝立ちになって、せっせと世話を焼くピエタ。


なるほど、母性ね。



「こうやって見てると、まるで仲の良い姉妹か母娘(おやこ)に見えるなぁ」


俺は微笑ましいその光景に笑みをこぼし、せめてとピエタの足元に湯を流す。


「私が妹で」

「アタシが姉かしら?」

「ハハッ、そうだな。メイプルのほうが年下だけどなんだかそれっぽいや」


歳以上にデカイ差はあるけど。



メイプルの胸の丘を眺めて、


ピエタの胸の山脈を拝む。



「……阿蘇山とエベレストか……」



大丈夫。

どっちも山というくくりではある。


俺はどっちの山だって好ーーー


「ーージュウゴ」

「ん?何だ、メイプル」

「今、凄く失礼なこと考えたでしょ?」

「……いや。そんなことはない」

「考えたでしょ?」

「いや」

「考えたわね?」

「ごめんなさ、ンガッ!?」



ガコーン!


と室内に音が響く。


メイプルの手から放たれた手桶が滑空し、俺の鼻っ面を捉えた音だ。



痛くはない。

痛くはないが、俺は敢えて湯船に沈んだ。




…………





「デカけりゃ良いってもんじゃないのよ」

「そうですよ。大きいのは大きいので邪魔なんですから」

「ハイ、スイマセン」



二人のお叱りに身を縮ませながら、俺は熱い湯の中で冷や汗をかく。


ピエタの髪と尻尾まで洗い終え、髪を布でまとめると、二人は漸く湯船に浸かった。


広い浴槽なのにも関わらず、メイプルはぷりぷりと怒りながらも俺の作った胡座(あぐら)の窪みに座って、ピエタは俺の左にピッタリと寄り添って湯の中で俺の左手に右手をそっと重ねてくる。


何だか嬉し恥ずかしい、無駄に狭い空間ができあがってしまった。



「………君達、湯船を広く使いませんか?」

「有効に活用しているわ」

「活用しています」



いや、これは色々マズイんだぜ?


折角驚異の精神力を発揮して″我慢″していた″モノ″が皮膚から直にやって来るんだぜ?


肌色で桃色のあれやこれやが俺の精神の城壁を重機で攻め立てるんだぜ?



竜の第三の呪いが『そんなの関係ねぇ、そんなの関係ねぇ』とパイルバンカーで理性を叩いている。



「ドキドキしてる」

「ドキドキしてますね」



メイプルが俺の胸にピッタリと背を預け、俺の右手を自分の心臓の辺りに導くと、


ピエタは重ねた手を動かし指の間に指を差し入れ、握ったり開いたり……ゆるゆると俺の左手を愛撫する。



ちょっと首を動かすだけで、ピエタのビターチョコにのったミルクチョコも、メイプルのクリームの上のピンクストロベリーも視界に収まってしまう。

ご馳走が、何の罠も仕掛けもなく『どうぞ』と差し出されている。



あかん。

これはあかん。


いや、最初から″そのつもり″だったが、今ここではあかんのや。


って、何でエセ関西弁。


俺は必死に『ドキドキなんかしていない』と首を振る。



多分、二人はちょっとからかっているだけだ。

二人して意地悪く(たの)しそうに笑っている。


だが……だが少女らよ、男の欲望もとい竜の欲望なめたらイカンよ。止まらんよ?


メイプルはそこのところよく理解してる筈だろうに。


二人の誘惑(ちょうはつ)には屈しまい。


理性で制してちゃんと部屋まで我慢を……と思っていたのに、しかし、二人は止めとばかりに破壊力抜群の上目使いでこう言った。



「「お好きなだけ(トリーブ・ア・リーベ)」」



カルテオ語で恋人達が囁き合う隠語らしい。



その時には意味は解らなかったが、


その言葉の響きに


我慢や理性など砕けて散った。










隠語として使われた言葉の真の意味は、料理を振る舞う時などに「気兼ねなくどうぞ」っとすすめるために使われる。


神話の中にもちょくちょく使われるため恋人達が使うようになった。


ピエタがなぜ知ってるかって?

彼女だって恋する女の子だもの。

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