ヴァイセントの異世界道中1
日常のお話。
ちょっと大人な世界の会話。
深夜のテンションが私を導いて……。
反省はしている。
後悔はしていない。
2/21(木)…統一教会、魔道協会に触れる文章追加
スノクを出発して二日目の夕刻。
俺、メイプル、ピエタの三人は白砂の大街道をなぞって西側北上ルートを進み、シーリカ王国北西部の町[バシリタ]に辿り着いた。
バシリタの町としての規模は小さく、特にこれといった特色のない町ではあったが、オラバルトへ向かう俺達のような北へ向かう者にとっては最後の町とあってか旅人の姿が多く、随分と賑わっているようだった。
どうやら今日は何かあるらしい。
町の住民達が家の屋根から軒先からせっせと飾りつけをしている。
赤白黄色、色とりどりの布がそこら中で風に揺れているのが鮮やかだ。矢を太くしたような木彫りの像も所々に立てられている。
「祭りかしら。どうやら今夜は早めに宿を取ったほうが良いかもしれないね」
それを見て最初に口を開いたのはメイプルだ。くぴくぴと水筒から水を飲みながら先頭を行き、キョロキョロと辺りを見回している。
スノクで懲りたのか、町に入る前から眼帯は装着済みだ。
「祭りか、確かにそうみたいだな。屋台の骨組みみたいなのを組み立てている人もいるし、やけに賑わってるしな。いやぁ、良い時に来たかも」
「この感じだと明日からじゃない?まあ、楽しむのは構わないけど宿を決めてからね。……なお、お小遣いはアタシがアタシの判断に基づき、アタシ計画に照らして額を決めますので悪しからず」
「ぬぅ……いや……はい」
最近、メイプルがお金に対してさらに厳しくなりました。くすん。
俺がメイプル財務長官のお言葉に肩を落とすと、ピエタはクスッと笑って、『ドンマイ』とでも言うように肩に手を添えた。
「多分これは[旅神祭]でしょうね」
「ライゼンデ?」
おっと、初めて聞く言葉だぞ。
ピエタはそう言いながら道端に立てられた像の先端を撫でると胸の前で手を組み短く祈りを捧げる。
どうやら何か神に関係する言葉らしい。
なお、あの先端を撫でる仕草にムラッとしたのは内緒だ。今は反省している。
「あぁなるほど、[旅神]ね。てことはあの布は[帰り待つ乙女]を表してるのね」
どうやらメイプルは理解したらしい。
俺はさらに知らない単語が増えてさっぱりだ。
「ジュウゴは解らないみたいね。まあ、教えてないし当然か」
「ジュウゴさん、これはシーリカ王国の地方に残る古い言葉、カルテオ語で綴られたある神話に出てくる神様たちの名前なんです」
「神様か。ヘヴロニカ以外は初めて聞くな」
こっちに来てから神様の名前は本でも説法でもヘヴロニカ以外は聞いたことも見たこともない。
てっきりヘヴロニカが唯一無二で信奉されているのかと思ってた。
「この世界で″神″と言えばヘヴロニカだものね。まあでもそれはロンドヒルル語の普及を行った統一教会と魔道協会の文化侵略の影響よ。奴らのせいでどこもかしこもヘヴロニカ信仰一色だけど、ヘヴロニカ以外の神の存在を語る神話や文化は本当なら沢山あったのよ。今となっては関連する書物も少なくなったみたいだし、こういった祭りの中や口伝でしかそれを知り得る場が無くて、祭りの謂われを知らずに参加する者も少なくないでしょうね」
「どの世界でもそういうのってあるもんだな」
統一教会と魔道協会……八大陸のうち六つの大陸に拠点を置き、各国に強い影響力を持つ組織らしい。
統一教会は高度な医学知識や技術の提供を中心に般向けに学舎を作るなどして勢力を拡げ、魔道協会は魔術の才能ある者を集め育成・管理しながら様々な利器の開発や技術提供を行い組織の拡大を図っている。
この二つの組織に共通するのが[魔法]と[ヘヴロニカ]だ。
ヘヴロニカを頂点とし、並び立つ者はなく、全ての神はヘヴロニカの変じた姿であり、必ずヘヴロニカに辿り着く。その下にはかの神の信徒であり子である人間達が在り、才能を研き努力する者は身分の差も貧富の差もなく神の愛し子となれる。
だったかな。
で、その愛し子の中でもより愛され、導き手となれる者達が組織に属する者達であり、魔法使い達だということらしい。
トラウディシア大陸……特にシーリカでは魔術・魔法ってのはメジャーではないけれど、町でよく使用されている時を正確に伝える鐘や時計の他、様々な魔術式の道具が多くの場所で使用されるようになってきているそうだ。俺が驚いた印刷や製紙の技術も協会がもたらしたものらしい。
思想を技術とともに広め、国の基礎である人々の生活の中から塗り替えていく。
それが″キョウカイ″の戦略だということか。
便利になるのは悪いことじゃないけど………。
誰かの思惑によって忘れられ、そして消えていく神……か。何だか哀しいな。
「それでですね、特にカルテオ語で語られる書物には数多くの神様が登場されるんですが、先程メイプルさんが仰った二人の神様はその書物に書かれている中では″旅″の始まりと終わりを司り、どちらも旅人に導きと道中の安全を与えてくれる存在なんです。なんて、偉そうに語りましたけど私も私の居たカホウ村にそのお話とこの像があったから知ってただけなんですけどね」
「へぇ、そんな神様がね。……って、ああ、だからピエタはこの木像を撫でてお祈りしてたのか」
「はい。そういうことなんです」
俺はピエタの撫でていた木像を見下ろす。
矢を太くしたようなそれは話を聞けば矢印のようにも見え、腰より低いくらいのそれら木像はどこか懐かしくも感じた。
ああ、そうか、こりゃアレだ。
「……道祖神だな」
ギリシャ神話とかから出せばもっと格好の良い神様もいるが、この形、懐かしさ、お股のアレのような親近感にさらに旅の神と言えばもう道祖神だと俺は思う。
「ドウソジン?何よそれ」
「ジュウゴさんの国の言葉ですか?」
「ん?ああ、そうだよ。道祖神も旅の神と考えられていてね、形は色々あるけどだいたいこんな風に何かを示すような姿で作られて道に置かれるんだ。俺の居た時代じゃほとんど見かけない物で、あまり知られてない神様だけど、田舎じゃまだ残っていてね……年寄り連中によく話を聞かされたなぁ」
語り終えると俺は瞼を閉じ、遠い故郷をその裏側に描いた。しかし、そこに現れたのは何度か知らずに足蹴にして無茶苦茶怒られた時の、ジイちゃんやバアちゃんの顔。
うへぇ………。
こういう時って良い思い出が甦るものじゃないか普通。
「なかなか興味深いわね。異世界であっても神というものが共通するなんて。結局、どこであっても人間の考えつくものは一緒……ってことなのかしらね」
「不思議なものですねぇ」
そう言って二人は木像の先端を何度も撫でる。
どうやらそうすることで御利益を得られるらしい。
神様嫌いなメイプルがしっかり撫でているのだから俺もそうするべきだろうか?
そっと、手を伸ばすとぺちんとメイプルに叩かれた。
「ジュウゴは触っちゃダメよ。触るならあの高いところにある布になさい」
「できれば、屋根に近いほうでお願いします」
「え、なんでさ?」
旅の安全を守る加護は?御利益は?
俺がキョトンとすると、二人は顔を見合わせ苦笑し、頬を染めながら手招きをした。
そしてヒソヒソ話をするような体勢を作り、そっと耳打ちする。
「……旅の神ライゼは、男のアレに力を授けて導く神様なの……」
「……終着の神エンデは、子宝の神。高みに触れればそれだけ沢山の子を授けてくれるんです……」
お、おぉぅ……そう言うことか。
男性神を導くのは女性が、女性神には男性が手を伸ばせってことか。
いやしかし、まさに道祖神だな。
道祖神は男性神でアレの神様でもあることから子授けなどの面も持つらしいが。これも同じなのか。
なでなでなでなで………
何だか、これはまた、なかなかに……。
「う、うぉっほん!」
俺はわざとらしく咳払いをして、トトンッと後ろにステップを踏むと、丁度いま二階の窓からオバサンが吊り下げた赤い布めがけてビュンと跳躍する。
高さはおよそ三メートル弱。
パンッ
素早く振った掌と布とがぶつかって、乾いた音が軽く響いた。
「じ、ジュウゴ?」
「ジュウゴさん?」
それは一瞬のこと。
目撃した人間もまさかと目を擦り首を傾げているからまあセーフということで。
俺は内心やっちまったと舌を出しながら、二人には笑ってみせた。
「宿、早く見つけないとな」
通りにはさっきより人が増え始めている。
「……ばか。……お風呂はあるかしらね……」
「できたら角部屋が良いですねぇ」
今日のお宿はどこだろう。
三人はアッチコッチと歩き回って、どうにか希望の宿は見つかった。
次回「異世界道中2」
ジュウゴさんの暴食爆発?!
異世界で巻き起こる大食い選手権。
猛者の中に余裕綽々で飛び入り参加したジュウゴだったが、出てきたものはジュウゴの苦手な食べ物で………。
注)
今回登場する道祖神に関してはあくまでもジュウゴ的(作者的)な理解です。
Wikipediaなどを一切使用せず過去に学んだことを総合したモノを出しています。
道祖神は多彩な顔を持つため、これ以外にも考えられる面があり、また、人や他の学術的な観点から観ると違うぞ!と指摘があるかもしれませんが、あくまでそのようなものと受け取って、ご容赦ください。




