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神をも喰らうヴァイセント  作者: 文悟
第二章・百夜の大神
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第二章・エピローグ

あのウィスクム襲撃の夜……後に”スノクの惨劇”と記録される夜から十日。澄み渡る空の下、俺はシーリカ国境の町オラバルトを目指して白砂の大街道を北上していた。


「わぁ、なんて良いお天気でしょう。雲ひとつありません。風もそよそよ気持ちが良くて絶好の旅日和ですね、メイプルさん?」

「……そうね」



旅の相方メイプルはもちろんのこと、モルガンに俺を紹介してくれるというピエタもその道中を共にしている。



「そうだ!私、今朝スノクを出る時にお弁当作ってきたんですよ。ジュウゴさんが食べたいと仰っていたサンドイッチです。お話に聞いた通りには出来ていると思います。余ったパンの欠片は揚げてお砂糖をまぶしてみました」

「おお、それは良いな!もう少し進んだらお昼にしよう。何だかピクニックみたいでワクワクするよ。なあ、メイプル?」

「……そうね」



俺を中心に左にピエタ、右にメイプルが並んで歩いていた。

大中小の影が行く。


ピエタはあの夜に力を解放したせいかさらに身長が伸びて今じゃ百九十センチ以上はあった。外套で隠されたその姿もあの夜の人狼のまま。むしろ進行してピンと尖った犬耳(狼耳?)まで生えている。


これは彼女の宿した狼の血の力なのだろうか?はたまたその力や呪いを抑え込んでいた代償なのだろうか?


彼女を救って封印を施したというモルガンならばその答えを知っているかもしれない。もしかしたら彼女の姿をもとに戻す方法もあるかも。とにかく何とかしてやりたい。



…そして俺も、早くそのモルガンに会わなければ。



両のてのひらを開いて見る。

その中心には赤黒い三センチ大の点が一つずつ刻まれていた。点からは不規則な同色の筋が何本も流れ出し、腕や肩、服で隠れた部分にもツルか稲妻かのような模様を描いている。点は足の甲にもあり、同じ様にして伸びた筋が胸へと集合していた。そして集まった先、俺のこの胸の中心には、大きな紋章のようなものが刻まれている。



コレが何を示しているのか、解らないわけじゃない。

ピエタの身に起こったことを考えたら用意に想像できる。恐らくは俺の体も、彼女のようになろうとしていたのだ。


魔物化。

いや、恐らくは”完全な魔人化”をしようとしたのだろう。


血塗れて隠されていたこの模様は当然洗っても消えず、魔神の呪いを利用しても消すことは出来なかった。


魔神の呪い【服従】で戻せるのはあくまでニュートラルな自分だということなのだろう。

つまり、俺の体はすでに変化したコレがニュートラルになってしまったわけだ。



…あの夜、メイプルが大丈夫かと危惧したのは正しかった。あの時点で俺の体には大きな変化が起きていたんだ。

以前は意識もまともに保てなかったあの状態で動き回り、長時間戦闘を行えたということは、俺の体がそれに耐えられるように進化・・したということだった。



困ったことに、それを裏付けるように俺の能力はさらに強化されていた。


腕力も脚力も明確な差が感じられるくらいに強くなり、瞬発力や反射神経までも向上している。

その上にだ、ウィスクムを食べたらしいのでその影響か、言葉に強く想いを込めるだけで相手を従わせる…なんて無茶苦茶な芸当もできるようになっていた。



望んじゃいないのに、より人間とはかけ離れてしまった。


俺はそう嘆いてため息をついたもんだがメイプルなんかは、



『これからは危険だと思ったらすぐに止める。絶対…絶対によ』



そう言って相方メイプルは顔を青ざめさせていた。



まあ、メイプルがそうなるのも頷ける。


魔人の暴走がどれほどのものかはあの町の破壊の跡を見れば一目瞭然だ。ピエタが暴走してあれなのだから、もしも俺が同じ様に完全に暴走した時を考えたらゾッとするなんてもんじゃない。




そもそも何がいけなかったのか…なんて、そんなこと言うつもりはない。

解ってる。自覚してる。多分ウィスクムを食べたのがいけなかったんだろうさ……うん、間違いない。



はぁ……俺の理性ちゃんと仕事しろ。なんでもかんでも口に入れやがって。そんなんだからメイプルにいつも怒られるんだ。



そう心の中で苦笑してふと右手を見れば、メイプルと目が合った。


その目は『不機嫌です!』と俺を睨んでおり、頬を膨らませている。



あらあらまあまあ、そんな顔をされたらすることは決まっているじゃないか。



ぷに



薄く紅の差したすべすべのモチに指を突っ込むと、想像以上の柔らかさで沈み込んだ。


おやおやまあまあ、気持ちいいじゃないか。



ぷにぷにぷに



つんつんと突っついて遊んでみる。

すると突然メイプルは口を大きく開き、俺の指先をがぶっと噛んだ。



がじがじがじ……



「いたい、いたい、いたい」



いや、痛くはないけれど。


さっきから気にはなっていたがどうやらオモチ……じゃなくメイプルは本当に不機嫌らしい。



「メイプルさんや、どうしたんだね?」

「ふんっ、自分の胸に手を当ててよぉく考えてみなさいよ」



がじがじがじ……



「メイプルさん、お腹が減ったなら揚げパンのお菓子ありますよ?」

「うっさい、駄肉。いらないわよ、話しかけんな」

「わぅぅ……」

「コラッ、メイプル」

「ふんっ」



がじがじがじ……



俺としてはこれから何日も共に過ごす仲間なのだから、三人楽しく和気藹々とやっていきたいのだが、はてさてどうしたものか……メイプルはどうしてもピエタが気に入らないらしい。一方のピエタは外套に隠された”しっぽ”をフリフリ揺らして『かまってかまって』とアピールしているくらいなのに。



「メイプル……」

「……何よ」

「メイプルさん?」

「ふんっ」



ダメだこりゃ。



「胸に手を当ててって……なぁ……」



特に思い当たることはない。

俺はする必要もないが敢えて言われた通りに自分の胸に手を当てて―――ふにょん。



「ぁんっ」

「あ、すまん」



距離が近かった所為で肘がピエタの胸に当たってしまった。

ワザとではないし、慌てず謝り離れようとしたのだが、ピエタは何を思ったのか俺の腕を取って頬を染めながらニッコリと微笑んだ。



「いいえ、”旦那さま”、どうぞお好きなだけ」


「えぇっ!?」



豊満と表現するのが正しい二つのふくらみを差し出すように、ピエタが胸に俺の肘を押し当ててくる。今のピエタは革の鎧を身につけておらず、乳白色の服ごしに伝わる柔らかさがもう天国だ。


しかし、



「な、だ……だぁ…だれがぁっっ……だれのぉぉぉぉ……」



右側から形容できない負のオーラが一気に噴出して、俺はその柔らかさから意識を離した。急激に極寒地獄のような寒さが背筋を走り抜ける。

そちらを見れば目を見開いてわなわなと震えるメイプルが、そっと腰からナイフに手を伸ばしていた。



「ちょ、あの、メイプル!?」



何すんの!?


思わず手を伸ばして止めようとしたが――ぷにょん――



「あぅん」


「あっ」



―――ブチッ




俺が止めを刺したみたいだ。





「誰の旦那様ですってぇぇぇぇぇっ!!?」




地獄の鬼もかくやという怒りっぷりでメイプルが絶叫した。

その怒声には辺りにちらほら気配のあった動物達も慌てて逃げ出していく。


そして俺が止める間もなく、メイプルはピエタに飛び掛った。



「ひゃんっ!!?」

「待てっ!逃げるな駄肉!!」


ナイフをぶんぶん振り回す相手に逃げるなというのは無茶だろう。まあ止まってくれなきゃピエタに当てるのは難しいだろうけど。


「避けるなっ!」

「嫌ですぅ!」


情けない声を上げながらも、案の定ピエタは器用にひらひら体を捻って避けていく。

ピエタの身体能力はいまや抑制されていない魔人のそれなのだから当たるわけがない。もし当たってもメイプルの力じゃ致命傷にはならないだろう。



まあ、コレも交流か?



最初こそ慌てたが、よく考えたら喧嘩にもならないことに気付いた俺は、近くにあった岩に腰掛けて苦笑した。

今のやり取りでメイプルの機嫌が悪かった理由に気づいて呆れているのもある。



「なるほどな、そういうことか」






それは、全てが終ったあの夜が明けてのことだ。







なかなか眠りから覚めないピエタの看護と監視をメイプルから仰せつかった俺は、俺自身が”再起動”のための眠りから覚めてからずっと彼女の傍で見張っていた。

ピエタの監視についたのは彼女の姿が一向にもとに戻ろうとしなかったからだ。


もしかしたらまた暴れだすかもしれない。


そう考えてのことだったのだが、その日の夕方、ちょうどメイプルが夕食を運んできてくれた時のこと、悪い予感が当たってしまった。



「ガァァッ!!…あああっ!?」



突然目覚め暴れだしたピエタがその金の双眸を見開いて襲いかかってきたのだ。

だけど、様子がおかしい。

掴みかかってきたピエタの手に力はなく、驚いて押し倒されてしまったがどうしたのか俺に跨ったまま苦しげに頭を振って呻くだけで、それ以上何かをしようとはしなかった。



「ど、どうしたっていうのよ!?」

「わからない!けど、もしかしたらピエタの意識の方が強く出てるのかもしれない!」



そうあってほしかった。


俺はピエタを押しのけ、そのままベッドの上に押し戻すと、ジタバタと暴れるピエタに組み敷くような体勢で呼びかけた。



「『ピエタ!ピエタ判るか!?俺だ、ジュウゴだ!ウィスクムはもういないぞ!落ち着くんだ!』」



昨夜そうしたように想いを込める。

すると昨夜とは違い、すぐにその眼には穏やかな光が宿る。



「はっ…ハッ……ジュウ…ゴさん?」

「ピエタ、良かった。そうだ、俺だ、ジュウゴだ」

「ウ…ウィスクム…は?」

「もう全部倒したわ。貴女はもう戦う必要がないの。だから安心なさい」


俺の代わりにメイプルが答える。ピエタの額に浮き始めた汗を絹のハンカチでそっと拭き取ってやっていた。



「メイプル…さん?良かった……無事…で」

「ええ、無事よ。そして貴女が守った町の人達もほとんどが助かった」



言葉通りピエタが逃がした人たちの多くは助かっていた。

あくまでも多くはであり、全員ではないのが悔やまれるが。


「そう……でも、私…こんな……ウゥ…」


苦しげに自分の体を見下ろすピエタ。その視線の先には変わり果てた体が見えているだろう。



「安心なさい。聞いた話では貴女は人間を殺さなかったそうよ。誰一人、傷つけていない」

「え?…それは…ほんと…に?」

「そうだ、ピエタ。君は誰も傷つけちゃいない」

「ウウッ……良かっ…た」



その体に人の血と臭いが付着していないことからもしやとは思っていたが、確かに彼女は暴走しながらも誰一人殺すことなく、傷つけることなく、東・南・西と魔物と魔物に寄生された者だけを倒して回っていたらしい。何がどうやってそんな奇跡が起こったのかは分からないが、彼女の恐れていたような惨劇を彼女は起こさなかった。むしろ、スノクを救ったオオカミ女の噂は奇跡の物語として町中で笑顔と称賛でもって語られているくらいだ。


ああ、ちなみにガッソという少年は屋根の上から落とされたけど、あれはかすり傷ですんだからノーカウントだ。

もちろん、俺もカウントには含まない。だって彼女からすれば俺は”魔物”だからな。


「本当に…良かった…」


目の端に涙を浮かべ、微笑むピエタ。

俺はその笑みに力を緩めようとするが、ピエタはハッとして俺の手を掴み、首を横に振った。


「ダメです、ジュウゴさん。……その…まま、私をこのまま……」



――殺してください


苦しげに微笑む彼女の唇から、耳を疑う言葉が零れ落ちた。



「な、何を言うんだピエタ!そんなことできるわけがないだろ!!」

「そうよ!馬鹿なこと言わないで!」

「…メイプルさんは……私…殺そうとしたくせに…」

「うっ…それは……悪かったわよ」

「ふふ…冗談です」



仕返ししてみましたと悪戯っぽく笑うピエタの目は、しかしどこか寂しげで、その目には人生の最後を悟った者の諦観が見える。



「私の…私の意識は…多分もう、もちま…せん。寂しいとか、悲しいとか、苦しいとか悔しいとか……憎くて…憎くて、何もかも壊したくなる。そんな感情が私の中で暴れ回っています。次に…私の意識がなくなっあぁああっ!!?」

「ピエタ!?」

「ちょっと、ピエタしっかりなさい!!」



体の中から何かが飛び出そうとするようにピエタの体が跳ねまわる。牙を剥くその顔には昨夜のような激しい感情が表れ始めていた。



「わたっ、私がっ!私が私でなくなる前に殺してくださいっ!!」

「できない!!そんなこと、絶対に!!」

「そうよ!ジュウゴが大変な思いをして連れて帰ったんだから、アンタも根性見せなさい!!」

「そうさ、頑張るんだピエタ。気をしっかり持て!」

「ウゥゥゥッ……」



抑え込んだピエタの体に力が入り、俺を除けようと動かされたピエタの手指が俺の腕に抉るように食い込んだ。


「っ!!」


万力で挟まれるような痛み。俺の中の焦りが煽られていく。


マズイ……マズイぞ、どうする!?


あの状態のピエタとの戦闘になったらまた止められるかは判らない。もしかしたら今度は殺してしまうことだって考えられる。それだけは絶対に避けなければ。

何か方法があれば…。


方法?


「そうだ、ピエタ、他に方法はないか?!何かその…モルガンとかいう人に聞いていないのか?君がこうなった時に止める方法を」

「方法…うぅっ…?」

「そうよ、なにかあるハズだわ。例えば…そう、アンタもどうせ呪いとか受けてるんでしょう!?そこら辺で逆手に取れそうなやつないの……」

「それだ!無いのかピエタ?そう言えば俺、君の力や呪いについて何も知らなかった。何か使えそうなのがあったら教えてくれないか?!」

「…っ……それは……ありません……」



ピエタは言い淀み、俺と、そしてメイプルを見ると目を伏せ、顔を逸らしてしまった。


無いのか!?


俺は絶望に脱力しそうになるがしかし、メイプルは別の何かを読み取ったようだ。

ピエタの顔を無理やり自分に向かせ、睨みつけた。



「”ある”のね?」

「っ!!?」

「なにっ!?」



嘘は許さない。

メイプルの鋭い視線が、ピエタ目を通して心の中を見透かそうとしているようだった。


すると、数秒の沈黙の後、ピエタは申し訳なさそうに、ゆっくりと口を開いた。


「私を…殺すことは?」

「できない」

「…………」

「時間がないんでしょう?早く教えなさい。私達に殺す選択肢はもう無いの。何でもいいから早く」

「…ううぅっ……メイプルさん……怒りませんか?」



何故メイプル?

俺は首を傾げたが、メイプルはそれだけで何が言いたいか分かったのか『まさか…』と目を剥いた。



「相手は……誰でも。でも、できるなら……ジュウゴさんで…」



そう言ってピエタは俺を見つめる。

その頬は赤いが俺にはさっぱり事情が呑み込めない。



「メイプル?」

「……っ……」



分かっているはずのメイプルにヘルプを求めると、メイプルは何故か俺に視線を合わせず、突然背を向けて部屋の外へと苛立たしげに足音を立てて出て行った。


扉が閉まるその寸前に『一度だけよ』そう言って。



「ありがとう…ございます」

「???」



いや、何が一度で何がありがとうなのか分かりませんが?


置いてけぼりな俺は再度首を傾げた。


誰かそろそろ教えてくれないか。


すると、答え合わせの代わりにピエタが俺を呼んだ。



「ジュウゴさん…お願い…が」

「う、うん?」

「お願いしたいことがあるので、目を瞑ってもらえませんか?」

「目を?ああ、良いけど」



意味は分からないけどあれこれ質問している余裕はない。

ピエタが込める力がどんどん増してきている。


俺は言われた通りに目を瞑る。


「三つ数えたら少しだけ、力を緩めて……」

「えっ?だけど……」

「っ…大丈夫です。…すぐに済みますから」

「わ、分かった」



分かったと言わなければ話は進まない。

指示通り、三つ数える。



「いち、にぃ、さ――」

「んっ……」


さん。



そう数え終え力が緩まると同時、俺の唇はピエタの唇で塞がれた。

拘束から逃れたピエタの手は支えを求めるように俺の首の後ろに回され、俺は少し姿勢を崩してピエタの上に倒れた。

胸と胸が重なる。

唇と唇が食むように動く。

舌が探るように割り入れられ、二度三度俺の舌先を撫でると、ゆっくりと惜しむように離された。


体感した時の流れとは真逆に時間は瞬く程の短さ。


何が起こったのか処理しきれない驚きに目を見開き放心する俺。

その顔を愛おしげに見つめた後、耳元に頬を擦り寄せながらピエタはこう言った。



「≪お願い≫、私の純潔はじめてをもらってください」



カチリと音がする。



「な、ちょ、まさかピエタ?!」

「…雌の狼の血は、番いを奪われたが故か…伴侶を求め……”純潔を捧げた者にその身を一生捧げ続ける”という呪いが宿ります」



>[命令受理]



「そんなっ!?」

「ジュウゴさんの気持ち…考えなくてごめん…なさい…っぅ…」



>[実行]



「でも、私は、ジュウゴさんで……ジュウゴさんが…」




その唇に唇が重ねられ言葉は甘く遮られた。

俺の手はいつくしむように髪をき、背中を撫で、胸を揺らし、尻を撫でて足を優しく開かせる。


ピエタの声は俺の頭には届いていなかった。

ただぼんやりとした意識の中、ただただ優しく目の前の女を抱いた。










「こぉらああっ!待てぇっ!!」

「ひぃいん!!」



目の前ではこの手に抱いた女の子二人がきゃいきゃい(?)と追いかけっこをしている。

微笑ましい。



「だいたい、アンタなにどさくさで抱かれてるのよ!?」

「だって一度は良いって言ったじゃないですか!!」

「そんなの、え…えっちするとは思わなかったから。あ、アンタがちゃんと言わないからでしょ!!」

「メイプルさんが何も言わずに全部分かったって感じで出て行ったんじゃないですか!!」

「う、うるさい、うるさい、うるさーい!!アンタを殺してアタシは進む!!屍を越えて!!」

「酷いですぅ!!きゃぅん!!ジュウゴさぁん!!」



平和だなぁ。



結局はメイプルの不機嫌の根源は、メイプルの勘違いがもたらした。

キスか何かだと思って少し時間を空けて帰ってきたら俺はピエタを抱いていたという顛末だ。しかも真っ最中に戻ってきたから間が悪い。

一度は良いと言ったくせに、あの時は憤怒の呪いが発動した俺みたいに激怒していたのは覚えている。



ああ、飛んできたナイフが刺さったお尻がむず痒い。



「ちょこまかちょこまかとぉぉっ!!」

「ふええぇ…ジュウゴさん助けてください~」



ピエタの呪いは俺の受ける竜の呪いのように三つあった。


一つは目は【百夜】。

百の夜を越えて眠ることなく戦い続けたというその狼の強靭な体力は呪いとなって降りかかった。

ピエタは気を失うなどしない限り百日間眠ることができない体になる。


二つ目は【高潔】。

認めざる他者の触れるを許さず、触れた瞬間に熱を発し、邪な心で触れる者は燃やし尽くしてしまう恐ろしい拒絶の呪い。


三つ目は【純潔】。

捧げた者に生涯その身を捧げ、添い遂げねばならない呪い。例え相手をどんな嫌悪しようとも伴侶として愛し続けなければならない。



百夜眠れないというのもキツイが、女の子としては三つ目はかなり問題だ。

ピエタはモルガンから『道中で恋仲になれそうな奴がいたら一発シてもらえ』と言われていたらしい。

それで暴走しなくなるからと。


乙女に対して随分なアドバイスじゃねえかとは思ったが、実際に何故か解らないが暴走は止まり、ピエタの精神は落ち着いた。

弊害にピエタは俺の傍を離れなくなり、『旦那さま』とか言い始めたわけだが。



「嬉しいやら恥ずかしいやら……」

「ぶっ飛ばす!!!」

「……怖いやら……」



ピエタの言っていた悲しみや苦しみ、憎しみというのは恐らく伴侶を奪われた悲しみからだろう。

モルガンという魔女曰く、番いである雄の狼の血を持つ者が傍に居たなら無条件で大人しくなるそうだから多分間違いない。

だからあんなことを言うのだ。



俺のとはちょっと違うが、どうも魔人となった者は何かを求め、それが満たされない時におかしくなるらしい。

そこら辺もモルガンに会えば何か分かるかもしれない。



「まあ、今は目指せオラバルトか」



道の先を見つめる。

草原や、林や、山の緑が行く手を彩り、さあ早くと言っているような気がした。


気まぐれで占いをする良く当たる占い師。まだそこに居ればいいが。



「『おおぃ!そろそろ出発するぞ!その辺で止めとけ!』」


「は、はぁ~い!」


「ちっ……しょうがないわね…」



ピエタはホッとした顔で。

メイプルは納得いかない顔で。



それでも二人は揃って俺の横に戻ってくる。


ピエタが左に、メイプルは右に。



「さあ、次の町はそう遠くない。日暮れまでには半分くらいは進むぞ」

「お~です!」

「りょーかい」



三人は歩いて行く。


次の町を目指して。








二章終了!


次回からはしばらく番外編や転章のような話が始まります。


ここまでお付き合いいただきありがとうございました!


三章もお願いします!



おまけ(所持能力一覧)……


柄倉重悟


(力)


竜:[身体強化(大)]、[吸収]

人工魔神:[剛力]、[再生(超)]、[身体鋼化(中)]、[魔の雷]

宿魔:[魅了(弱)]、[使役]


(呪)


[憤怒]、[暴食]、[強淫]

[服従(絶対)]

[幻惑(負)]、[心蝕の悪夢]



ピエタ・リコルス


(力)


大狼(雌):[身体増強(大)]、[脚力強化(大)]、[浄滅の炎]


(呪)


[百夜]、[高潔]、[純潔]

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