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神をも喰らうヴァイセント  作者: 文悟
第二章・百夜の大神
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百夜の大神・前編2/2

十分、二十分くらいだろうか。


俺がすべてを語り終えるまでピエタは時々頷きながら黙って話に耳を傾けていた。


異世界から来たこと、竜を倒して食べてしまったこと、家族を探し旅をしていることなどひとつずつ語っていった。自分の力とその代償である呪いについても解る範囲で隠さず。


そして話が終わると、ピエタは目を潤ませながら両の手を組み、ゆっくりと口を開いた。



「見知らぬ世界に飛ばされて、家族がはなばなれなんて…なんという悲劇。ああ、神様、ジュウゴさんのご家族をどうかお守りください…。ジュウゴさんもここまでさぞお辛かったでしょう」

「ああ…まあ、辛いこともあった。母さんや千智チサトも心配だ。でも、いい出会いもあったし、楽しいと思えることも沢山あった。今はメイプルも傍で支えてくれているしどうにかやれているよ。悪い方向のことはできるだけ考えないようにしてきたしね」



母さんたちはきっと生きている。そう信じてここまでやってきた。

俺は二人を探し出すまで、いつまでだって旅を続けるつもりだ。



「強いのですね、ジュウゴさんは」

「強くはないよ、強くありたいだけだ。…これから長い時間を生きて、多くのものを背負い込むことになる。悲しみも苦しみも怒りや憎しみも、時には罪も愛する人も。だから強くあろうとしなきゃ何にも守れないし手にすることもできない…って、なんだか信長さんの受け売りだなこりゃ…」



真似をするなんぞ百年早いとか言われそうだ。



「『強くあろうとしなければ』…ですか。私は恐れてばかりで。ダメですね…」

「いや、怖いと思うことは仕方の無いことだよ」



俺も怖いもの、あるしな。

俺は怖いものは怖いと言える日本人、柄倉重悟だ。



「迫りくる恐怖に逃げ出すことも背を向けることもあるだろう。それは責められないことだけど、肝心なのはどこかで踏みとどまって、向き合い戦おうとすること、その機会を誤らないってことだ……って俺の祖父じいちゃんが言ってた」


なんだ、受け売りばっかだな俺。


「…私にできるでしょうか…」

「できるさ。俺にもできた。だけどまあ、ウィスクムは倒したし、ピエタの場合、一番厄介なものと向き合うことはもう無くなったけどな」

「そう…ですね。村のみんなの、家族の無念も晴らせましたし。あとはこの体と呪いにどう向き合って生きていくのが命題です。ジュウゴさんには本当に感謝してもしきれません」

「俺は、俺がやりたいようにやっただけさ」



そう言ってお互い笑い合う。



ピエタの剣は抜かれることなく危機は去った。

それはピエタにとっても俺たちにとっても一番いい結果だったと言える。


もし彼女の剣が抜かれ彼女が暴走したとすれば、ウィスクムは間違いなく倒せていただろう。

だけど、奴らを倒せたとしても俺が彼女を止められたかどうかは判らない。


どれほどの強さかはわからないが、ピエタという心優しい少女を知ってしまった以上は本気で戦うなんてことはできなかっただろう。まして殺すような方法でしか止められないというのなら、俺に彼女を止める術は無い。



「そうだ、ピエタはこれからどうするんだ?」



もう戦うことは無い。剣も必要ないだろう。



「私は一度モルガン様の所へ帰ります。そして倒したことをお伝えして、救済サルヴァサオンの剣は誰の手にも届かないように完全に封じていただきます」

「そうか。それがいいね」



人の手に渡ったり何かの拍子に剣が抜かれることなどあったら大変だ。


しかし、よくよく考えるとモルガンという人は凄い人だ。こんなとんでもない力を封じてしまうなんて。


ピエタは奇術師と言っていたけど、ゲームなら賢者クラスの魔法使いじゃないかと思う。

暴走したピエタを押さえ込めるくらいだし。



もし、俺のこの力や呪いを押さえ込む術があるなら、是非会ってみたい。



「…なあピエタ、俺も付いて行っていいかな?」

「え?」

「いやさ、もし俺のこの力も封印できる可能性があるなら、会ってみたいんだよ。そのモルガンって人に」



封じることができなくてもそこまで力がある人ならば、元の世界に送還する力や方法を持っているかもしれない。


ピエタは俺の申し出に驚いた顔をしていたが、すぐに微笑んで頷いた。



「ええ、一緒に行きましょう。モルガン様はとても物知りな方です。お屋敷には多くの書物ありました。きっと何か力になってくれるでしょう」

「そうか、良かった。じゃあ、しばらくはこのコンビは継続だな相棒」



俺は出会ったときのように右手を差し出した。



「はいっ!よろしくお願いしますジュウゴさん!」



ピエタも出会ったときと同じように俺の手を握る。





そしてまた二人はあの時のように笑い合って―――






「『―――――――――ッ―――――――』」









そのとき、俺の中に何か嫌な音が響いた。



それは、ガーラの放っていたようなスピーカーから出る不協和音に似た芯に響く音。



瞬間、俺の背筋に悪寒が走る。




「じゅ、ジュウゴさん今何か変な音が…」




空耳じゃない。ピエタにも聴こえたようだ。




「まさか…そんなまさか…」



これはガーラの?

いや、アイツは俺が倒したはず。



「ピエタ、俺が意識を失った後に魔物ウィスクムたちの死体はどうした?」

「え?あ、はい、ちゃんと焼却処分を」

「全部か?」

「はい、すべて駆けつけてきた方々と一緒にすべて」



じゃあ、コレは…?



そこで再び不協和音が響いた。




そのとき―――




「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!?」

「っわぁぁぁ!!何だ、何をする!?」



階下から悲鳴と共に皿が割れる音や何かが倒れる音が響いてきた。

次いで誰かが揉み合っているような怒声。






『わたしと、わたしの”子供たちが”人間どもを食い殺して廻る最高の夜』






最悪の展開が脳裏をぎり、全身が粟立っていく。




「ジュウゴさん!?」



「くそっ!!ピエタ、剣を持て!!まだ終わっちゃいなかった!!」



俺はベッドから飛び出し靴をつっかけると、入り口に立てかけてあった刀を掴み、ドアを蹴破るようにして階下へと走った。



ウィスクムはまだ生きている!!




遠くから鐘の音が響き広がり始める。

鐘は激しく打ち鳴らされ、最大級の危険を告げていた。


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