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神をも喰らうヴァイセント  作者: 文悟
第二章・百夜の大神
22/73

仕事はない?

ハンデールを離れて二十二日。

予想よりも一日、いや半日遅く、太陽が空の頂点に来る前にどうにか次の町[スノク]に着いた。

遅くなったのは食料が思いのほか早く底をついて食べ物を現地調達になったせいだ。

じゃあ、一日くらい我慢すればとも思うだろうがそうはいかない。

第三の呪いの怖さを身をもって体感している二人であればこそ、我慢などという言葉は出なかった。

もちろん、そんなの町に着いたなら別の話。


「なんでさ!なんで俺の分の宿も飯も取ってくれないのか訳を言いたまえ!」

「”アナタが使ったから”よ。理解できたかしら?」

「まだメイプルが持ってたじゃねえか!」

「緊急用よ!それと、”まだ持ってた”じゃないの!”コレしかなくなった”よ。分かるかしら?!」


町に着いて『さあ、ギルドに行こうか』と俺が言った。するとメイプルは『私は宿に荷物を置いて湯をいただいてくるわ』と言ったのだ。当然まだあったのかと喜んで、宿を探し、街の東に広がった宿屋や酒場の地区でそこそこの安さの宿を見つけてそこに決めたまでは良かったのだ。


「俺が『メイプル・キャロディルーナ。一人で』って言われたときの気持ちが分かるかっ?『荷物は置かせてあげる』って言われたときの気持ち想像できるかっ?」

「分からないわ!分からなくて良いもの!何よりごめんなさいね、どちらにせよ一人分しかお金はないわっ!これで私がエッセルを出てすぐに味合わされた絶望感が少しは伝わったかしら、はっはっー!ざまぁみなさいな!おほほほほほーっだ!ほらほら、さっさと稼いできなさいな!ちゃんと金貨で二十枚、稼いで来るまで同じ部屋には入れてあげないわよ!」

「チクショウ!これをやるために我慢してたのか!?…ぬぅぅっ、鬼!悪魔!守銭奴!貧乳!ぺったんこ!ぺったんこ!ぺったんこー!って、抜き身で刀投げるのはやめろぉっ!」

「んのぉ…このぉぉぉ…アタシのぉ……胸のことかぁぁぁぁぁっ!!!」


宿屋の入り口からびゅんと飛んでくる刃と鞘。


とまぁ、怒りの戦士よろしく金の髪を逆立てたメイプルにその一本だけ投げつけられて、俺はいま、見知らぬ世界の見知らぬ大地の見知らぬ町で”ぼっちのバイトさがし”開始だ。



道中のメイプル先生が解説するシーリカ地理講座では、近くに二つの大きい山を抱えるため、採掘で賑わう町なのだと言う。また、温泉が湧くことから、バンドーさんのところみたいな浴場完備の宿も少なくない。しかも天然温泉だ。まぁメイプルのところには無かったようだが。


とりあえず腹が減ったら狩りでもするかと思った。だが、ここでもメイプルの講座だ。


スノクを挟むようにそびえる山の麓の森は、貴族の管理区域になるため狩りを禁止しているところが多いという。見つからなければとも思うが希少な鳥獣の保護を兼ねていたり重要施設の守備の為だったりで、そもそも進入禁止の場所もあるとか。

話によればスノク周辺の村の近くには禁忌の森という場所もあり、そこには近づくだけでも罰せられるとか。


とかとかなんとか。


つまりは地味にギルドに行って稼いで金を手に入れるしかないのか。


「面倒くさい・・・なんて言ってられないよな」


飯は食わなきゃならないし、部屋は取らなきゃならないし、金は稼がなきゃなんだかんだで俺の責任だもんなぁ。


「まぁ、結構広い街だし、ぶらぶらすっか!一日くらいどうってことないさ!」


ハンデールでは見たことのないタイプの人や、見たことのないようなお店、建物が多い。鉱山が有名なだけあってか石造りの建物が並び、細工も屋根に石像なんてつけて凝っている。見て回るには一日そこらじゃ飽きそうにない。


「あ~腹減ったなぁ」


ぐぅるるるる…


俺は刀一本手に持って、腹の”竜”と戦いながら、街をぶらっと歩き始めた。





………………




なぁんて、ことはない。

しばらくぶらぶらしていると、宿から反対側の地区であっけなくギルドを発見した。

看板に『依頼多数!!依頼斡旋所ギルド・スノク』とある。デカ過ぎて見落としようも見間違えようもない。


「ぬうぅ…」


そのまま見なかったことにすることもできたが、父さんとの話を思い出した手前スルーはできず、建物の中へと足を踏み入れていく。


ファンタジーゲーム世界のギルドを思い起こせばギルドと名のつくものには基本的に冒険者の集いの場所で、怪物退治や護衛、トレジャーハントのエキスパートへ向けた難度の高い仕事の依頼が来る場所のイメージがある。

もちろんこの世界だってその通りだろうが、意外にもここでは一般人も仕事を探しているようだった。なんだか職業安定所なイメージだ。


二階建て石造りのその大きな施設に一歩足を踏み入れただけでがやがやと繁華街のような喧騒にのまれそうになる。


「あ~、今回いいのねえわぁ…雑用ばっか」

「面倒なのはやだよなぁ。報酬安くて力仕事とかさ。魔物退治ぐらいあったらいいけどなぁ」

「いやいや、そんなの流れてこないっしょ。そこらは”上”の才能ある奴らにまわされてさ」

「だなぁ。あぁ~いい仕事無いわぁ。人と接するのとか無理だしなぁ」


異世界で聴ける典型的な職安トーク。知りたくなかった社会の現実。ナニコレ怖い。


しかしほんといろんな人がいるもんだ。


炭鉱夫みたいな格好の人やチャラそうなお兄さんたちにはじまり、ちょいと軽めのお姉さん方やそこらで見かけるようなオバちゃんやゴッツい冒険者風の男。あと俺より身長上だろって女の子が革鎧なんて着て受付をしていて驚かされた。まぁ、”がっくり”きたのも無くはない。


壁に厚手のメモ紙みたいなのが乱雑に貼ってあったり、テーブルで何かの冊子を読んでる人もいる。

困った。何をすればいいか分からない。助けてメプえもん!…おっと、メプえもんからは絶賛勘当中だったか。


さぁて、どうしたものか…とキョロキョロしていると、『こちらへどうぞー』と声が聞こえ、思わずそっちを見れば受付のお姉さんと目が合ってしまう。


「受付か。…そうなるよな」


身元確認とか求められたらどうしよう。そんなことに不安を抱きながら、三十代に足がかかったくらいのお姉さんの待つ受付へ向かった。

近くまで行くと、銀行員みたいな格好のお姉さんはこちらを見てニッコリ笑い、前へと来ること仕草で伝える。


「いらっしゃいませ。当ギルドのご利用は初めてかしら?」


ウグイス嬢やエレベーターガールよろしく聴きやすい透き通った声だ。ふわっとしたボブの髪が犬っぽい印象のグラマラスなお姉さんだった。

いかん。見てるとムラッとくる。

少しの間ご無沙汰なだけでこれか。まずいな。


「あっと、はい。てゆうかこの町に来たのが今日初めてで」

「そうなの?じゃあ、あとでここを出て左手のほうに行くと飲食店が並んでいるわ。スノクは温泉卵やそれを使った料理が名物だし、精がつくし、美味しいわよ。是非食べてみて」


いや、いま精がついたら困りますから。


「あ、はい。できたら」


できたらお姉さんも食べたいです、なんて何故か口に出かけてどうにか心に止めた。ぎりぎりセーフ。


「”できたらお姉さんも食べたいです”」

「え?」


ちょっ!!セーフしてねえ!!!

落ち着け!落ち着くんだ!!そしてなんでもいいからフォローしろっ!!ドン引きされる前に!!


「な…かっ…”お姉さんも食べたいです”…か?」

「あ、あぁ!ええ、私も温泉卵好きだもの。食べたいわ」


よし!よくやった!天晴れ!お姉さん笑顔が少しひきつってるが、セーフとしよう。

俺は軽く咳払いしながら冷や汗を拭った。


「そ、そうですか。…あっと、ど、どうすれば仕事がやらせてもらえますか?」

「あ、ええと、こちらに名前を書いて家紋や何か特別な身分を示す印とか持っていたらその横に押してくれる?」

「持っていない場合は受付できませんか?」


身分証にあたるものは持っていない。必要なら諦めてメイプルにすがるしかない。


「いいえ、なかったら無いで構わないわ。ただ、拇印は押してもらうし、人相書きなんかと照合することになるから少し時間をもらうわ」

「そうですか。構いませんのでそれで」

「はい、ではこちらに二箇所氏名と拇印を」


そう言って二枚紙が出される。この世界が持つ文化水準…今のところの俺の認識…ではかなり上質な物だと思う。かなりきめ細かい。


名前の記入欄に、緊張に震えそうな指を表面に出さぬようどうにか抑えながら名前を書いていく。


「はい、できました」

「……はい、承りました…えっと…ジュウゴ、カラクラ…さん?」


″ゅ″のアクセントが…。

ちょっと変だがまあ訂正するまでもない。長くはいないしこんなもんだろ。


「あぁ…、はい」

「少々お時間いただきますので、あちらの壁にある依頼など御覧になってお待ちください。また、お呼びいたします」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」


軽く礼をして奥に下がるお姉さん。

その背中を見送って特に問題無さそうなことを確認すると、俺は小さく安堵の息をついた。


とりあえずは俺のロンドヒルル語の筆記が公の書類…しかも違う地方でも通じるのが確認できて良かった。


メイプルと過ごすようになってから、時間のある時には本を使ったりしながら言葉の再確認や知らない言葉の勉強をしたり、元の世界の言葉と異世界(こっち)の言葉の擦り合わせなど行ってきて、語学力はさらに向上したはずなのだが不安はある。



「さて、どんな依頼があるもんか見てみようかね」


そうひとりごちて壁に向かおうとした瞬間、いきなり横合いから手を掴み上げられた。

高々と。そう、高々と。


「こ、ここ、この人が仲間(パーティーメンバー)ですっ!!!」


掴んだのはさっき視界に入った革鎧の女の子。

”駆け出し”が丸出しな赤毛の短髪(ショートヘアー)で長身の女の子。


「え?お、俺は…」


やってないなんて言いそうになって、今度こそせき止める。


どうやら、リスニングもバッチリみたいだ。

重悟のおバカ度若干調整。また、言語に対しての擦り合わせが行われたことに修正しました。いままで極力現代語にせずストレスがあった分が今後だいぶ和らぐ…かと思います。

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