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神をも喰らうヴァイセント  作者: 文悟
第二章・百夜の大神
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お金はないっ!

ハンデールを離れて十九日。新緑の鮮やかな林を歩いている時のこと。ふと、父さんの言葉を思い出した。


それは、俺が中学生の頃の話だ。


俺の学校では毎年十一月に文化発表会という文化祭のような催しを行っていた。生徒家族の有志による屋台もどきやフリーマーケット、部活の出し物とクラスの出し物と…まぁ、大したものじゃない。


そんな文化発表会での我がクラスの出し物は演劇だった。

演劇だなんて恥ずかしいもの誰がやるか!…なんて、当時思春期まっかりだった俺はあぁだこうだと文句や理由をつけては練習参加を拒否した。


さて、そんなある日、練習に来いとしつこかったクラスの女子と口論になった俺は勢いで演劇のセットを壊してしまった。

バカだったなぁ俺。


散々、責められて引っ込みがつかなくなった俺はわめき散らして練習に参加せずその日も家に帰ったわけだ。


だが、何故か父さんにバレてて大目玉だ。

多分、犯人は千智(チサト)だな。


で、俺は泣きながら謝ることを確約した。だが、父さんは言ったんだ、それじゃダメだって。


「謝ることは簡単にできる。だが、お前はこうなった理由を考え、どう解決するのか伝え、行動で償わなければならない」


それから俺は喧嘩をした女子の家にいき、謝った上でどう償いたいか話し、クラスのみんなにも伝えて、結果俺がクラスの先頭に立って演劇を完成させたんだ。

今でも俺の中に特別強い教訓として残ってる。



「だから、なに?」


メイプルが、仁王立ちをしている。

俺の目の前で、射殺すような目で。

底冷えするような声を発し。


メイプルが、仁王立ちをしている。

俺は正座している。

そんなある日のラララ林の木陰、みなさま、いかがお過ごしでしょうか?

俺です、ええ、いつもの柄倉重悟(カラクラジュウゴ)です。


実は国境近郊の町[オラバルト]に向かう道中、ハンデールから始まる白砂の大街道北上ルートにおいての一つ目の町[エッセル]に立ち寄った際、ちょっとした手違いからトラブルに発展。今、次の町へ向かう途中の林にて、ウチの財務大臣がお冠にあそばされているわけでして。


「あ、あの。だから、悪かったと反省しているのでゆりざがはっ!!?」


降り下ろされた白鞘が眉間に埋まる。竜の耐久力でも地味に痛い。抜き身じゃなくて良かったと思ったが、いや、眉間だから普通に危ない。


「ほう、反省している?″旅の資金を金貨で二十枚も使っておいて″反省しているの言葉で済むと?よし、では、言ってみなさい。納得のいく理由と解決策を。アナタのお父上の有り難い訓示と苦い経験がアナタのなかで活かされているのか試してやるわ。さあ言ってみなさい、このメイプルに対して……」


背景に闇が降りているような、ゴゴゴゴゴ……とでも効果音が描かれているような怒り心頭のメイプルがほら言えよと顎で指示する。


よし、順を追って考えてみよう。そしてどうしたら解決できるのかを探すんだ。


[いつ]

今日のお昼、


[誰が]

メイプルが、


[どうして]

町についたらベッドインして朝までイチャイチャしたため朝ぐったりしていたので、


[どうなった]

なくなった。



「よし、ふざけんな、端折(はしょ)り過ぎだお前ッ!!」

「ぐなたっ!!?」


再び白鞘が降り下ろされた。また容赦なく眉間に埋まり、世紀末な救世主伝の雑魚よろしく蛙のように呻いてしまった。

ちょっと、メイプルさん、普通に痛いです。ナイフで切られたって大した怪我しませんが痛いのは痛いんですよ?


「しかも何でアタシが悪いように聞こえるんだ!アナタでしょうがッ!アナタが『メイプルなんだかキツそうだから俺が買い物してくるよ』とか言って(うそぶ)いて出てったんでしょうがッ!!」


ぐりぐりぐりぐり…いたい、いたい、いたい。


「ち、ちゃん、名誉の為に言うがっ!ちゃんと頼まれた買い物はすませたぞ!?君が余ったら使って良いって言うからッ!!」

「全財産-必要経費=お小遣いって発想はどこから来たんだどこからッ!子供のお使いでもまだ遠慮があるわよっ!!」


だって『財布は旅行鞄の右奥にあるわ』しか言われなかったし『お腹空いてるでしょ?″泡焼(あぶくや)き″って名物があるらしいわ。そこから使っていいから食べてみなさいな』って言って………あれ?


「…………………」

「………?どうしたのよ突然黙って」

「いや、そう言えば『そこから使っていいから』としか言われてないな、と」

「……はぁ…(ようや)く間違いに気付いたか…」


うん。これは俺が悪いな。全面的に。


「いや、すまん!俺が悪かった!次の町でキッチリもとに戻す!」


この通り!と手を合わせて財務大臣さまを拝む。すると、毒気を抜かれたメイプルは『もう良いわ』と腰に手を当てため息をつく。


「無いものをどうにかしろって言うのも出来ることではないし、腹ペコの竜に手綱をつけなかったのは私なんだから…まあ、″おあいこ″ね。次の町はギルドがあるから、頼んだわよっ![竜人(ヴァイセント)]ッ!」


ぺんっと背中を叩かれる。

良かった。許してもらえるみたいだ。

いつものメイプルの笑顔に俺も遅れて笑顔で返す。


「しかし、あれだな」

「ん?なに?」


二人並んでまた歩き出す。

俺は竜革のリュックサックを。メイプルは旅行鞄を持って。えっちらおっちらゆるゆると。


「″泡焼(あぶくや)き″だけに、″泡銭(あぶくぜに)″になっちまったな。ハハハハハ……ハッ!?」


次の町は[スノク]。


「……″()いたような口″を………叩くなあッ!!」


「ふぎゃぁっ!?」


あと二日ほどで着く距離だ。








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