第2章[序]・紫の魔が巣食う村
嗚呼、神様私はどうすれば良いのでしょうか?
私は見てしまったのです。私の父と母が真夜中に家を抜け出し、森の奥の禁忌の場所へと二人揃って何か大きな麻の袋を運んで行く姿を。
嗚呼、神様それだけではございません。森の奥には祭壇があり、そこには大きく不気味な骸が御座いました。人のような姿で、でも頭には二つの角があり、山羊のような牛のような…なによりその大きさは私がもう一人二人といても足りません。渇れ果て朽ちたようなその姿でも震えが止まりませんでした。
そして、私はありえないものをみたのです。
父が何かを喋りかけると骸は突然動き出し、二人が持ってきたものを掴み上げ、大口を開けて一息にペロリと食べてしまったのです。
私にはソレを見てすぐに気付きました。
魔物だと。
嗚呼そして神様、父母に代わり懺悔します。
私の両親があの恐ろしい怪物に捧げたのは恐ろしいことに夕方私どもの村へやって来た罪もない旅人だったのです。
怪物の口から滴る雫に彼の身に付けていた首飾りが混ざって落ちたのです。
恐ろしい…なんと恐ろしいことをしたのでしょうか。
ですが、神様、誓って言えます。私の両親はそんなことができるような悪人ではありません。たとえその日の食事に困っても、野山で罠にかかった仔ウサギを、そっと逃がすような優しい優しい二人なのです。
嗚呼神様、誓って誓って、違います。
私の両親ではございません。
私の愛する父は斧を振り上げ私を襲うことなどいたしません。
私の愛する母は髪を振り乱し私に噛みつくことなどいたしません。
私の愛する父母はあんな濁った紫の眼などではございません。
ああぁぁっ、神様、神様っ!どうか、お救いください!もし、天空におわすなら、今すぐ天より破邪の剣持ち、お越しくださいっ!
助けを求めて村に戻れば、四十と八つの紫の眼が私を待っていたのです………。




