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神をも喰らうヴァイセント  作者: 文悟
序章・ヒトの慟哭 獣の如く
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異界墜ち

序章はあらすじ通りです。

たんたんと森のなかをうろちょろしますので、長いのはいやだな…と思う方は一章まで飛ばしてもだいたい大丈夫です。

気がついたらそこは排気ガスと電飾とに色付けられた毒々しいまでの町並み!


……などとなるはずが、現実は深い森の中。


夢だったと笑いたい昨日が明ける。木の陰にうずくまり、眠れぬ夜を越えて三日目の朝だった。


富士の樹海よりもヤバそうなくらい命の気配がしないここは、もしかしたらもう死後の世界というやつではないだろうかと疑いそうになる。もしそうならばもっとそれらしくしてほしい。


さっさと閻魔か死神かでも出てきてさっさと状況でもしやがれよ……チクショウ………。



「どうしてこうなった?」


深いため息を吐きながら再びぎゅっと我が身を抱いた。目を閉じれば父の姿が浮かぶ。



「重悟!おい、ジュウゴ!!旅行に行くぞ!沖縄だ!沖縄!」



季節は夏。

鬱陶しいくらいにハツラツとした笑顔の父がそういってアロハシャツを買ってきたのはちょうど夏休みを前にしていた時だった。


俺こと柄倉重悟(カラクラ ジュウゴ)の愉快な家族たちは県外で暮らす妹の帰省に合わせ楽しい楽しい家族旅行を随分前から計画していたらしい。


もちろん、愛する家族(笑)が久しぶりに揃うのだから突然であってもやぶさかではない。

俺は二つ返事で了承した。


三泊四日の旅行は大いに盛り上がった。

写真を撮って、海に潜って、美味いもの喰って、観光買い物全開で楽しんだ。


その帰りの道中…安全で快適な飛行機での帰路、その道程。楽しかった旅行は一転、絶望と暗闇に飲み込まれた。


突然機体が揺れ始め、瞬く間に失速。


ふわりと体が宙に浮く感覚が数秒続いたかと思った次の瞬間、意識は途切れ、気づいたら機体の外に放り出されて地面に転がっていた。



あとは思い出すだけでもおぞましい。



怒りと恐怖が心を覆う。


誰か……生きていてくれているだろうか?


機体がへし折れた姿や、あの怪物を見てはさすがに望みは薄いかもとは思ったが、それでもせめて母さんやチサトだけは助かっていてほしい。

独り善がりかもしれないが、そう切に願う。



何気なく空を見上げた。

太陽が木々の隙間からなけなし程度に光を送ってくれている。


《二つ》の太陽が。


これは二日目に気づいたことだった。


太陽が二つある。

月も二つ寄り添っていた。


大きさは大小はっきり違ったが、それは幻覚でも勘違いでもまして目の異常でもなかった。はっきりと二つあった。

……現代日本……俺が知る世界ではありえない。


もし死後の世界でなかったら、これは夢なんだろうか?いや、それも否か。体に刻まれた痛みと傷がそれは違うと言っている。


ならば、素直に知らない土地に不時着したと考えよう。


ではここは日本か?

いいや、答えはやはり『否』だ。


太陽だけじゃなく、他にもおかしいことがある。



それは植物だ。


父と祖父の教育方針からよく山でキャンプ……もといサバイバルすることがあり、植物やその手の知識に関してはかなりの自信がある。

だが、いま自分の周りにある植物はどれも見たことのないものだった。日本はおろか世界にある類いのモノでもないように見える。


つまりここはもしかしたら、地球外かもしれない。


……馬鹿馬鹿しい話だが、漫画によくある異世界なんてことも。


そこまで考えてかぶりを振った。



今はそれどころじゃない。


そう自分に言い聞かせる。


ここがどこかは今は重要じゃない。



サバイバルで培った重要な部分は知識や技術じゃない。それは心構えだ。


窮地に在った時、先すべきは[何が起こったか知ること]ではなく[どうしなければならないかを把握すること]だ。



最終目的は生存者の確認と集結。

それまでに必要な事をピックアップする。


1、自身の生命の維持

2、安全の確保

3、捜索


優先すべきはまず水だ。

食料は最悪虫や草でどうにかなるがこれも安定して得るのが望ましい。


次に安全の確保。

あんなデカいトカゲがいるならばその他の動物もそれなりに覚悟が必要だろう。長くこの場所に留まることになるならば最低睡眠がとれる場所を探さなければ。


そして、それに目処がついてから周囲の捜索と墜落現場状況確認をしなければ。

……というより、がむしゃらに走り回ったから″墜落現場を見つけなければならない″が正解か。



グゥ……グクゥ…


腹の虫が吠えたてる。

早く、早くと。



三日も経てば気にならなかった空腹も気になってくる。


俺は意を決して立ち上がった。




▲△▼▽▲△▼▽▲△▼▽




結論からいえば、半日ほど動き回って水場は見つけることができた。やる気になればできる子だと通知表によく書かれたのを思い出す。

小さな水だまりを覗きこむと汚れた顔の少年がこちらを見ていた。

無造作に切られた髪がイタズラ小僧を思わせる。割りと恵まれているといわれたことのある顔の半分は土や乾いた血で汚れていた。


この顔は妹とよく似ているらしい。


「……っ」


唇を少し噛んだ。

痛みに熱くなった目尻がもとに戻る。



気をとりなおして水の出所を見やれば石と石の隙間からだった。

小さな滝のようにチョロチョロ流れ落ちる過程のそれを両手に掬うとかなり透き通って臭いもなく、なかなか美味しい湧き水だった。漏れでる量は少ないがそれなりに飲めそうだ。


とりあえずここを拠点に動こう。


そう決めて辺りをしばらく動き回り、その日はまた日が暮れた。




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