隙間小話・それは勇者の自業自得
熊さんに出会ったわけではなく。
花咲く、森の道ではあったけれども。
多分そんなことを言ってる場合ではなかった。
「グケェェェェッ!」×二〇匹?
真っ黒い壁が足と鉤爪と嘴をブンブン振りながら迫ってくる。
ほんの数日前に会ったのに懐かしささえ感じる、あのダチョウもどきの、その大群だ。
大小様々だが、どれも馬並みにデカブツなのはご愛嬌。
そんな奴らがみんなして、凄まじく怒っていらっしゃる。
あぁ、それはそうだろう。
ここはそう、あのダチョウもどきの巣のど真ん中なのだから。
いきなりなんの断りもなくひとの家にずかずか入り込んでくる奴がいたらそりゃあキレる。誰だってキレる。
そのうえ、
足下には、
美味しそうな匂いをかもす、
奴らの卵[調理済み]があるのだもの。
「グゲェァァァアッ!!」×二〇羽?
おんどれぁ!なにさらしとんじゃぼけぇぁ!
とでも言っているかのような怒りっぷりだ。
「大変、遺憾に思います」
「ゲギャァァァッ!![許すかボケぇ!!]」
「ですよねぇ……」
聴こえる聴こえる。あぁ聴こえる。完全にヤクザなボイスが聴こえてくる。
じりっ、じりっと迫ってくる。
周囲は既に囲まれて、最早本来なら絶対絶命の状況の筈だった。
「勇者!どうする!?」
「戦うか勇者!?」
「こっちに来た!勇者!?」
「勇者さん!やりましょう!」
ハンデールを守る衛士から選りすぐった8名の男たちが、彼らが[ハンデールの勇者]と呼ぶ黒髪の年若い男に一斉に熱い視線を送る。
こんなピンチだというのに目はギラッギラしていた。
ハンデールの寡黙なる勇者、俺こと柄倉重悟は、勇者の看板に辟易しながら、ベルトに付けた竜牙の鞘から竜血で今なお赤い愛刀を引き抜き逆手に構えた。
「だぁぁぁもぅ!方円陣!!死角を無くせ!!俺が遊撃する!!奴らの相手は無理せず二人一組で対応するんだ!!」
「「「了解」」」×八人。
おもいっきり遊べとでも言われた少年のようなすこぶるいい返事で剣を構え、衛士たちは背中合わせに円になる。
「グケェェェェッ!!」
ダチョウもどきが一羽飛びかかってくる。
「勇者!!」
誰かが叫ぶが、俺は余裕を持って爪と足を避けた。
「っせぃやぁ!」
こいつらは足や腕が落ちようと怯みはしない。
ならば、一刀で息の根を止める。
「キァッ!?」
上から斜め下に避けた勢いを乗せ、体ごと捻るように刃をはしらせると、ナイフの無骨な刃が的確にダチョウもどきの首の根を捉えて、ズバッと切り落とした。
断末魔は短い悲鳴にしかならず、血を噴射しながら首に遅れて体が倒れていく。
おぉ…と、衛士たちが、感嘆の声を上げる。
「グゲゲゲ……グゲゲゲ……」
同胞が無惨な姿に成り果ててもダチョウもどきは怯む様子など見せない。
魔物ってのは全部こうなのか?
深く、嘆きの息が零れる。
「どうして…こうなった…」
そもそも事のおこりは、ハンデールに滞在を開始して、四日目の昼にあった…………。
▲△▼▽▲△▼▽▲△▼▽
コォォォン…コォォォン……
ハンデールの町に昼を告げる鐘がなる。
俺はその音を宿の裏庭で聴きながら、準備した薪に手斧を振り落とした。
スコンッ!と音を立て、薪は一度で真っ二つだ。
「見事なものね」
背後から声がかかる。振り向くことも驚きもしない。慣れた匂いが近寄っていたので既に気づいていた。
「メイプルか。そうだろ?ルブルディの村で刀を振る筋肉と感覚が養われるって言われてイヤってほどやってきたからさ、慣れたもんだよ」
「アナタ、片手でスコスコ力任せにどんどん割っちゃうから意味ないんじゃないの?」
割れた薪をさらに半分にして、斧と薪を片付ける。
近くには綺麗に四等分にされた薪が山積みになっている。
「気持ちの問題だよ気持ちの。それに宿代タダのせめてものお礼なんだ。どんどん片付けてしまう方がいいだろ?」
「まあ、そうかしらね。あぁ、それよりほら、食堂行くわよ」
「あぁ、さっきのやっぱりお昼か」
「今日はホロス鳥を使った料理だそうよ。楽しみだわ♪」
「お高いの?」
「かなりね♪」
それは期待ができそうだ。
コォォォン……コォォォン……コォォォン…
再度鐘が鳴らされる。今度は十二回。
つまり今は昼の十二時だ。
村で過ごしていた時期はかなり曖昧だったが、この町に来てからはこちらの世界でも一日は二十四時間で一時間は六十分、一分は六十秒という考え方は同一で存在していた。これには驚いたが同時に非常に助かっていた。しかし、この文化水準でありながらその正確さはかなりのものだ。
この鐘、毎日…体感で、ではあるが…同じ時間に鐘がなる。
ああ、驚いたといえば一度メイプルに凄い人もいるもんだねと言ったとき、
「あれ、多分魔法式の時計と合わせてるわね」
と何て事はないように返してきたのだ。
凄い!魔法があるのかこの世界っ!いや、確かに信長さんの家にあった本にもそんなような事が書かれていたけど、まさか夢物語じゃないなんて!
とその時はかなり興奮したものだが、直に見ていないせいか、翌日の夜には聞き慣れ冷めた。
今じゃそんなことより昼飯だっ!といったところである。
俺たちは連れだって宿の裏口から入っていく。
室内に入ると掃除をしていたおばさんが、水桶と布を渡してくれた。
汗はかいていなかったが手洗いはマナーだし、顔をら洗えば気持ちが良かった。
おばさんに感謝して桶と布を返却すると、足早に食堂に向かう。
宿にもよるが朝飯、昼飯、夕飯と頼めばすべて宿が食事を用意してくれる。
代金は注文時に払うものや、宿泊料に含まれるもの、泊まる際に細かく取り決めてそれに合わせた金額を別に先払いしておくものやらがある。
ちなみにここは注文時支払い制で、金など大して持っていない俺たちは注文していないのだが、宿の主人であるバンドーさんが気を利かせて無料で三食出してくれるのだ。
ここまでされるとかなり心苦しい。
やたらと気に入られているメイプルは解るが俺までとはかなりの気前の良さだ。
「おっ!来たね、我が勇者と月色の姫君よ!」
食堂に入ると珍しくバンドーさんが中央の一番大きなテーブルを陣取っていた。
その目の前には多彩な鳥料理が並ぶ。
全体的に肉は小ぶりだが、匂いを嗅ぐだけで蕩けそうな薫りに俺のなかの獣の部分が激しく反応する。
「ど、どうしたんですかバンドーさん?そんな旨そうな…じゃない、店主自ら食堂に」
し、鎮まれ俺!
「せっかく、ホロス鳥を仕入れたからね、私も食べようと思ったのさ。だけど独りで食べたって美味しくないからね。三人で顔を付き合わせて食べようじゃないか!…あ、それともお邪魔かな?」
ニッコニッコとしながら手招きをする。
「いえ、そんなことありません。アタシたちもご一緒させてください。ね、ジュウゴ様♪」
人前での変わり身は最早デフォルト。
「ならほら、さぁ座って座って」
嬉しそうにバンドーさんは立ち上がりメイプルの分の椅子を引く。
「…あれが紳士よ…」
メイプルが俺にだけ聴こえるような声でそう呟いたのは、きっと忘れない。
……………………
「どうだったかな?ホロス鳥の料理は」
食事を終えて、ちょっとした間をおいてバンドーさんは笑った。
「大変美味しくいただきました伯父様。貴重な鳥をあんなに沢山食べられるなんて夢のようです♪」
メイプルが品よく口許に手をあてながらうふふと笑う。
「俺もです。故郷にも沢山鳥料理はありましたが、これほど美味しい料理は初めてです」
寡黙な勇者という設定がなかったら大騒ぎしながら貪る勢いだ。ただ、量が足りない。あとで何か買ってこよう。
「うんうん、そうかそうか。そう言ってくれると仕入れた甲斐があったよ。量は用意できなかったからね。満足してくれたならなにより」
バンドーさんは言葉通り嬉しそうに頷いて腹をぽんっと叩いた。
そこで、
「あぁ、でも、ちょっと問題が……」
「ん?何か不手際があったかい?」
俺は、よせばいいのに思ったことを口にする。
礼儀や謙虚さでたまに空気が読めないのが日本人の悪いサガだ。
「バンドーさんは…いえ、バンドーさんだけでなくバンドーさんのお姉さんも、何故、こんなにも良くしてくれるのでしょうか?正直に言えば俺はこのコを助けたくらいで、今は申し訳程度に薪割りなんかをさせてもらっていますが、宿も食事もタダになるほどのことには…」
そこでメイプルの蹴りが脛を打つ。
痛くはないが、その表情からマズイことを言ったのを感じ取った。
「あ、いや、別に有り難いというか、有り難過ぎるというか…。何か恩返ししないと気持ちが割りきれないと言いますか……その…折角の貴重な食材とかはやはりみんな食べる機会をあげるべきかなとか、その…」
と、慌ててフォローを始めるが、そこでバンドーさんは苦笑しながら俺の言葉を手で制した。
「いや、確かになんの説明もなくあれこれしてやっては、おかしく思うのも仕方ないよ。まあ、深い理由ではないんだ。…数年前に妹夫婦が旅行中に魔物にやられて亡くなってね。二人とも私や姉にとって最愛の家族だったんだが、その二人のなれ初めが君たちとほとんど一緒なんだ。だから、どうしても重ね合わせてしまう。ただの自己満足なんだが、君たちに何かしてあげたくてね。それだけさ」
そう言ったバンドーさんは遠くを見るようにしながら儚く笑う。
「…すいません。辛いお話をさせてしまい」
俺はテーブルに手をついて深く頭を下げた。
「いやいや、気にしないでくれ。私が悪いんだ。理由なき善意は大切だが、同時に怖いものだ。話しておくべきだった。あぁ、ちなみに君たちに紹介した大部屋は妹夫婦の部屋だ。客用ではないから気にせず使ってくれ」
「はい。ありがとうございます」
ただ、それでも気持ちが動く。
「ですが、やはり、ハイそうですかとは俺の気持ちが割りきれません。何か、薪割り以外でもお手伝いできることは有りませんか?いつまで滞在するかは分かりませんが、その期間だけでも何かしたいんです」
「そうかい?うぅん…そうまで言ってくれるなら是非もない。…そうだな、じゃあ、何か食材でも採ってきてもらおうかな」
「お安いご用です!何が良いでしょうか?」
そう言うと、バンドーさんは厨房から料理人を呼んで明日のメニューの材料で採ってきて欲しい食材はないか訊ねた。
「そうですねぇ。パツワリ草と、キノコを何種類か。あと、鳥の肉が欲しいですね。出来たら上等なやつ。今日ホロス鳥を食べ損ねた方からの要望や不満が上がりますから」
男性シェフはそのダンディなアゴヒゲを撫でながら苦笑する。確かにあの品を喰えなかったら不満は出るだろう。
「まあ、それはあるだろうな。お客様には我慢を強いるがそこは仕方あるまい」
「[ネグロピコ]でも手に入ったら文句ないんですがねぇ」
「いやいや、[ネグロピコ]は下手したらホロス鳥より入手が難しいぞ。味はホロスより落ちるが味は絶品だ何よりアレは…」
「あのぉ?」
そっと手を上げる。
「[ネグロピコ]ってなんです?」
聞いたことも見たこともない単語は正しく、頭で変換されない。
単語だけなら黒と嘴だ。
「おや?我が勇者は知らないのかい?」
「あ、ジュウゴ様は最近になってこちらにいらしたそうで、あまりここら辺のものについてはご存知ないようです」
こほんっ、とすかさずメイプルのフォローが入る。
よくやった、さすがメイプル。
「そうなのかい?なら仕方ないね。我が勇者、[ネグロピコ]っていうのはね、ベーテル山の南西部の森に棲息する怪鳥なんだ。黒い羽毛に覆われて、羽根は退化し、代わりに鋭い爪がある、首の長い鳥の名前さ」
頭に浮かぶのはダチョウもどきの姿。
「あ、あぁっ!思い出しました!あの馬みたいに大きな鳥の事ですか」
「そうそう。それだよ。我が勇者も知ってたか」
「ええ。…そうか、あいつ、[ネグロピコ]って言うのか。いや、確かにアイツの肉は美味しかったけどさばくのには苦労したな。倒すのには全然苦労しなかったのに、調理するまで時間かかって」
まあ肉は喰える部分が多かったから良かった。
たまには質も重視するのもいいが、量はやっぱり欲しい。
うんうん、と独りで頷いているとまたメイプルが足を蹴ってくる。今度は連打で。
何だよ、と流石に言ってやろうと思ったが、そこで、食堂全体が静まり返っていることに気がついた。
バンドーさんや料理人は目を見開き、他に食堂にいた人も口をあんぐり開けて
メイプルは『ジュウゴのばか…』と小さく呻きながら頭を抱えている。
「わ、我が勇者、[ネグロピコ]を食べたことが?」
「はい。旅の途中、山の麓で出くわしたので、スパッと切って」
「スパッと?」
「スパッと」
「余裕で?」
「余裕で」
そうですと頷くと食堂中からおぉ、とかマジかよ…とか感嘆の声が上がる。
やはり魔物だからだろうか?
だが、あれは確かにデカいし、爪とか危ないが、雑魚もいいとこじゃないか。
「じゃ、じゃあ、我が勇者?明日の夜に出したいから[ネグロピコ]を仕留めて来て欲しいんだ」
「はい。了解しました。任せてください一羽分ですか?人手があれば四羽か五羽か仕留めて来ますけど」
「そ、そんなにかい?じゃ、じゃあ人手は出すからよろしく頼むよ」
「はいっ」
俺はできる限りいい笑顔で返事をして、メイプルを連れだって食堂をあとにする。
そして、仕事をし、部屋に帰って、夕飯食べて、風呂に入って、互いのベッドに潜るのだが、メイプルは拗ねたまま何故か一度も会話をしてくれなかった。
翌日の早朝、部屋に軽快なノックの音が転がった。
俺はさっさと服装を整えて顔を出す。
すると、バンドーさんがニコニコしながら立っていた。
「やあ、我が勇者朝早くからすまない。[人手]が見つかったんだが、[人手]の方々が早く顔合わせがしたいと来てね」
そう言うと横にずれ、次いで軽装鎧を着けた口髭のダンディな衛士が俺の前に立つ。
「私はハンデール衛士隊、隊長のコロンゾ。今日は我々衛士隊の精鋭八人が[人手]となり食材を責任もって運びますので、気兼ねなく狩りをしていただきたい」
コロンゾ隊長の後ろには他の衛士の姿が見える。確かに強そうな顔つきだ。
「つきましては今日は我々が、指示を仰ぐ立場になりますゆえ、現場ではよろしくお願いいたします。我らが勇者殿」
ニッと笑う隊長。そして、今思い出したと言うように懐から紙を一枚取り出した。
「本日向かうのはここから東に一時間ほどの森にあります[ネグロピコ]の巣です」
あれ?何だか嫌な予感。
「いやぁ、しかし、素晴らしい。そんなお若いのに[ネグロピコ]を余裕であしらうなんて」
紙にはネグロピコらしい首の長い鳥の絵が描かれていた。そして、そこにはこう書かれている、
「今日は、ハンデール始まって以来の大仕事になりそうですな!アッハッハッ!」
危険指定獣、指定等級中級、[黒死鳥]
※複数個体と遭遇の場合、戦闘を回避し、自己の生命を最優先すること。また、討伐が必要な場合、軍への要請を許可する。
「………嘘だろ…………」
「今日は、旨い酒が呑めるといいですなっ!ワハハハハハっ!」
部屋の中から『ジュウゴのばか』と聞こえた気がした。
▲△▼▽▲△▼▽▲△▼▽
それから今に至る。
色々自分の言動を反省した俺だったが、森のなかででっかい卵を見つけたせいで反省など忘れ、目玉焼きを作り、現状を作ったわけだ。
……全部自業自得です。
本当にありがとうございました。
「グゲゲァッ!」
「っせあっ!」
もう、何体目だろうか?
一撃必殺で倒しながらも、次々にやってくるネグロピコに精神的な疲労がたまる。
「とりゃっ!」
「なんのっ!!」
「くらえぃっ!」
「ぐあっ!?ぬぬぬ、まだまだぁっ!」
衛士も精鋭なだけあって二人一組ならかなり長く持たせていられるようだが、それでも悲しいかな人間の体力であればもう、あと何体退けられるかといった限界が見える。
最初は二〇羽と数えたものの、ざっと見てもまだ減っていないようだ。
つまり、あとからあとから増えてきている。
かなり厳しい。
しかし、俺だけなら、この状況を打破できる。
本能に身を任せ、本気で暴れたらいい。終わったときには何も残ってないだろう。
だが、だからこそ他人の目がある場所では使えない力だ。見せてはいけない。巻き込んでもいけない。
竜の力は知られてはいけない。
一体、また一体と減らしていくが、次第に一撃で完全に殺しきれなくなっていった。
衛士も目に見えて圧されている。
もう、やるしかない。
覚悟を決めて全身に力をみなぎらせる。
…と、そこで、
「加勢に来たぞぉぉぉっ!!!」
バンドーさんが雄叫びを上げながら木々の合間を縫い、手斧を片手に走ってやってきた。
臭いから考えると、他にかなりの人数の町の男性が一緒だ。
「バンドーさん!?」
「我が勇者!生きていたかっ!もう私の妹や義弟のような惨い姿を見るのは嫌だからなっ!私たちも戦うぞっ!」
「「「「オォォォ!!」」」」
「グゲゲァッ?!グカアッ!」
囲んでいたはずの状況が一変、囲まれたことに気づいたネグロピコは、一気に混乱状態になる。
「しめたっ!!隊長!!衛士をまとめて全員で一体ずつ処理してください!!」
「勇者殿っ!!心得たっ!!」
隊長に指示を飛ばすと円陣を解いてU字の隊形を作り、一体ずつ取り囲んでいく。
「よし!俺もだっ!っしゃぁっ!!」
ネグロピコが複数固まった場所に飛び込んでいく。できる限り死角を作り、一体を右手のナイフで首を落とし、一体には左手を錐のようにすぼませて心臓めがけて突き刺した。
大混戦のおしくらまんじゅうになっていく。
今ならば力を充分に使える。
斬っては突き、抉ってはへし折る。
もちろん自分はノーガード。
多少の傷は肉を食えば戻る。
斬って突き、抉りとって口に含み回復。
「次だ!次はどいつだ!!?」
理性と暴走の狭間で揺れながら大混戦のモンスターハントは進んでいく。
その後、永きに渡って語り種となるこの戦いはネグロピコの森の決戦と呼ばれ、町民有志四十三名、衛士十八名、そして一人の旅人の参加した死闘は人間が勝利したと記録される。
その際多数の軽傷者は出すものの死者はなく、町民は凡そ四十三体のネグロピコを持ち帰り、その夜は町をあげて飲み明かした。
そして、遂に勇者の武勇伝は翌日のうちに[伝説]へと進化するのだが、また、それも彼の自業自得である。
本編の隙間を埋める小話です。
時間の単位や魔法の有無などについてちょっと触れたかったので書いてみました。