プロローグ
惑星表面上に発生した巨大転移反応。直径三十キロメートル、質量にして約十億トンもの物体が転移したと推定されるこのバカげた反応は、衛星上からこの惑星の様子を見守っていた人々を驚愕させた。それは半径十光年にも及ぶ相転移封鎖宙域、惑星自体に施された二万三千層もの次元防護壁が破られ、その内部に入り込まれたという証拠に他ならない。超新星爆発やブラックホールの発生、さらに戦乱に伴う次元異常などにも悠々と耐えられるように設計されたそれは、いかなるものでも突破不可能なはずだった。
それが、誰も気づかない間に破られ内部に巨大な物体が現れようとしている。この惑星の防衛を任されている銀河第四方面師団、特惑防の面々にしてみれば死活問題だ。彼らは青息吐息で空間ディスプレイにはりつき、その物体が姿を現すのを見守る。奇しくも、彼らが造り上げた万全の防御設備は惑星への彼ら自身の侵入をも阻んでいた。例えるならばこの惑星は扉のない金庫に入っていたようなものだったのだ。
「エネルギー消失! 物体の転移が完了したようです!」
「光学映像に画面切り替えます!」
黒をベースに赤と緑の色彩で表示されていた映像が、通常の光学映像へと切り替わった。青々とした草が無限に続く広大な大地が彼らの目に飛び込んでくる。一見すると極めて牧歌的で、巨大なエネルギーが発生した場所とは思えない。それらしい痕跡はほとんど見当たらなかった。彼らが懸念していた事の一つである惑星環境の破壊といったことも発生していない。彼らや彼らの祖先が再生に尽力してきた理想的といってよい環境が保たれている。
計器の故障か――?
変化していない、むしろ変化していなさすぎる惑星の光景を目にした彼らはほっと一息つこうとした。精密機器というのはメンテナンスを十分にしていてもたびたび故障する。今回も、そんな故障の一つだろう。そう思い、何人かの職員が席を立ち本来の持ち場へ戻ろうとした。その時である。
「あれは……都市か?」
今だ画面を注視していた一人が、訝しげに声を上げた。彼の訴えに従い、オペレーターが監視衛星に指示を送る。すると画面の中央に赤竜の旗が翻る勇壮な城とそのもとに円形に広がる壮麗な城下町が映されたのであった――。