Untangle2
1.
こんなに息苦しいのは
どうやら周りが水だらけだったらしいのです
知らずにがぶがぶ飲んでいましたので
おかげで肺は水浸しです
もう少し気付くのが遅ければ
とんだ失態をしでかしたところでしたが
すんでのところで呼吸法を切り替えて
事なきを得ました
しかしながら水の中というのは
不衛生でいけない
どこの水とも分からぬ水が
なんの遠慮も感動もなく
わたしの中に浸みいってくるなど
ならばアクリル板を張り巡らせるがよし
早速寸法を測って四方を陣取り
どこもかしこもぴったり塞ぎました。
2.
そうしてここは
水槽のようです
何もおらぬ水槽のようです
魚も
水草もなにも
さわがにも
ふしぎな巻貝も
あぶくを吐くようなもの達は
何一つもおらないのです
水を濁らすものは
痕跡さえも
何一つ
今は
水はあまりに光を透します
じき
颯たる
金管楽器に
宣言されたように
おびただしい数の輪郭が
水底へと投影され始めている
白々光りながら
浮上していき
視覚的には
ぞっとする位に
汚い
ゆらゆらしているそれが
形を成す前に
口を塞ぎなさい。
3.
ふくむのは唇
零れるのは舌
吐くのは何時も玉
み玉を吐き
み玉を留めて
紡ぐ緒は不浄
溺れる者は
目を円かにして
口を窄めた先より伸ばし
見事な不浄の曲線を描く
そして途切れるのを待つ
溺れる者は
溺れるのが真理でも
身の内を爛々とさせ
同時に腐乱を夢見ている
だから何も違わない
膨らむ舌を噛み切り
ただの肉片なら美しいと
そう言うのと、
不浄の線上で歌うと
そう言うのとは、
何も違わない
『浄不異不浄。』
ことならず
ただ堕涙(だるい。)だけ。
4.
水は澄み
陽の色によく染まって
だいたい機嫌もよろしゅうございます
あちらこちらから
蜜柑の匂いでもするような
所々の水は
もやのように揺らいでいます
揺らいでいるあれは
あれは遊離状態のエステールです
辺りではひっきりなしに脱水が繰り返されているらしく
見るかぎりあれらは
ーdehydrationー
例えばの話
生き物だか死に物だかが
『どうか、』
と言ったとする
受肉されたものたちは
世界から愛され過ぎて鬱血
祝福の声は彼らを縛るから
ずっと離れ離れになりたかった
彼らのお願いごとを聞いた結果として
この水があるとするならば?
わたしも同じように?
無論
とはいえ、わたしが『どうか、』
あるいは『どうか、どうか、』
と言ったかというと
寧ろ初めから無言だった、と答えるのが正しい
そして切望した彼らが水になり
その水が蔓延した時
無言だったわたしが溺れかけたのならば
それはわたしに相応しい
いっそこれは
ーhydrationー
ここで短い寓話
昔昔あるところで
天に向かって
『私は。』
と言うと、
同じ声が
『祝福します。』
と応えた
途端に天が割れた
天は私の内側で
私を祝福した私は
今をもって崩壊したのだった
私はやっと剥き出しになって
大気に触れた所から次々に
腐敗し始めた。
5.
再び金管が鳴れば
その時だけが合図でしょう
そうしたら透きとおる
輪郭を失って透きとおる
蜜柑の匂いはしないでしょう
それからは
もういないでしょう
もういないでしょう。
6.
ほどけてきたようです
頭のてっぺんから爪先まで
ぐるりとわたしを縁取っていた
てっぺんできっちり玉留めされていたそれが
ふいに、今
歯でもなく刃でもなく、ふつりと 切
れ
ましたか
聞きましたか
わたしがほどけた音は
綺麗な和音 だったでしょうか
そうであれば
願います
いっしんに