プロローグ
ちょいと息抜きにはじめてみました。
澄んだ秋の空の下、広場に散らばるまばらなテント達。
その中の一つは俺のものだ。
「思っていたより空いているな……ブームが落ち着いたからか」
ブラックな企業に勤めて30年。
何度も辞めようと考えたが、かといって辞めた後の就職先が……と決断を先延ばしていた結果、こんな年になってしまった。
久しぶりにとれた休日、買物に行った際にふとみかけた宝くじ売り場。
気が付くと俺は買った宝くじを財布にしまいこんでいた。
こんなの買ったところで当たるわけが無いと後で買ったことを少し後悔していたが……まさか本当に当たるとは思わなかった。
その後、今まで決断を先延ばしにしていたのが噓のように俺は即動いた。
どうせ辞められないんだろう? となめ腐った態度の上司に辞表を叩きつけ会社を退職。
今までやりたくてもやれなかった事をやるんだ! と、まずはキャンピングカーを購入し、キャンプ用品を買いあさり。
キャンプとついでに温泉、あとは海鮮でも食べようとネットで調べ……そして今に至る。
ちなみに宝くじはまだ換金していない。すぐに換金するとあいつ、宝くじが当たってやめたんじゃ? と感づかれそうな予感がしたからだ。
キャンピングカーなどの購入費用は今までの貯金で賄った。
「さて……」
目の前には良い感じに熾火となった炭とひっくり返した飯盒がある。
キャンプ自体は学生の頃にやったことはあったが、どうやら炭の起こし方は体が覚えていたようだ。
ただ飯盒で米を炊いた経験はないので、そちらが上手くいっているかは分からない。
「お、炊けてそうだな」
ひっくり返しておいた飯盒の蓋を開けると、焦げてもいないしおかゆ状態でもない、ちゃんとしたご飯の姿がそこにはあった。
「……意外と上手く行くもんだ」
見た目は大丈夫でも芯が残っていたりする可能性もあったが、一口食べてみると決してそんなことはなく。きっちり美味しく炊けたご飯になっていた。
「豚汁もできたし、ウィンナーもそろそろだ」
本当は卵焼きもつけたかったが、炭火でうまく焼く自信がなかったのでやめておいた。
カセットコンロやキャンピングカー備え付けのコンロを使えば勿論焼けるだろうが……そこは気分の問題だ。
炊き立てのご飯に熱々の豚汁、焼き立てのウィンナー……そこまで凝ったメニューという訳ではないが、キャンプで食べるならご馳走になる。
ウィンナーはキャンプ場近くの店で買ってきたもので、かなり評判も良かったので実に楽しみだ。
気が付けばあたりは大分暗くなっていた。
夕焼け空から星満天の夜空となり、キャンプの準備に夕食の準備で少し火照った体に風が気持ちよい。
風に揺れた草がカサカサガササっと……?
「ん?」
妙に草が揺れるなと視線を向けると、そこには草をかき分けるようにして出てきた熊の姿があった。
少し距離があるのではっきりとは分からないが、熊と聞いて想像するのより大分大きく見えた。
「でけえ……って、こっち来た!?」
そしてそんな俺のつぶやきが聞こえたのか、それとも匂いつられたのか熊はこちらを見ると急に駆け出した。
明らかに一直線にこちらに向かってくる熊をみて、俺は咄嗟にキャンピングカーに駆け込んだ。
荷物は外におきっぱなしだが、命には代えられない。
幸いなことに俺のキャンピングカーはトラックベースのオフロードタイプとかなりゴツイものだ。
たとえ熊に多少殴られたとて、傷がついたり凹んだりはしても壊されるまではいかないはず。
それが普通の熊ならばだが。
「でかすぎんだろ……」
熊は俺をターゲットに決めたようだ。
車の正面に立つその姿はデカ過ぎてその後ろ脚しか見えなかった。
フロントガラスに顔を寄せて上を見上げる。
腕を振り下ろした熊と目があった気がした。
「それで、どうする?」
「ぜひもなし」
そうして俺は転生トラックならぬ転生熊により、生まれ変わり別世界へと旅立つ事となった。
ちなみにあのでかい熊はこの女神様とやらが用意したやつだそうだ。
転生出来る人は条件が限られており、娯楽に飢えた神々が虎視眈々とその命を狙っていると……どう考えて悪神の類だ。
熊を差し向けたのが女神と聞いて聞いてふざけるな! と思わず怒鳴ってしまったが、どうも俺は熊に襲撃されずとも近いうちに死ぬ運命だったらしい……心不全で。
嘘だろうと言いたいが、色々と心当たりもあったので言えなかった。
それに女神から提示された条件は悪くない。
いわゆる無双できるようなチートこそ貰えなかったが、まず転生先での身の安全はとりあえず保障されている。
キャンプ含めやりたいことを長く楽しめるようにと若返らせてもくれるそうだ。
それに心残りだった宝くじの当選金も女神の好意により、いくつかの特典に変えて貰えることになった。
こうなってくると転生しないという選択肢は無くなるというもの。
最近はアニメで異世界転生ものをよく見かけるようになった。
俺自身も何度か見たことはあるが……まさか自分がその対象になるとは人生何があるか分からないものだ。
「それじゃ頑張って。やめたくなったら強く念じなさい、それで私に伝わるから」
しんどくなったらリタイアも可能……と。
割と良い女神なのかもしれない。悪神といったことは詫びよう。
そう思った直後には、辺りの景色が変わっていた。
周囲を木に囲まれた中、開けた広場にぽつんと佇む俺とキャンピングカー……周囲に人の気配はなく、人里の明かりも見えない。
色々とありすぎて頭がごっちゃになっているが……とりあえず今はご飯にしよう。
キャンプ行きたかったなあ……という思いからつい-⁽ -´꒳`⁾-




