第四話:念仏の濡れ衣
なし
お兼に肉を削られ、朱色の着物を血と脂で汚したお花が、産屋から引きずり出されたのは、まだ夜の湿り気が残る刻分だった。お花が泥濘に伏したまま、乱れた息を整える間もなく、次の「足音」が近づく。
帳付の佐兵衛である。彼は感情の欠落した瞳で、懐から一冊の帳面と、黒ずんだ竹製の「物差し」を取り出した。
「……名主様の資産に、余計な『遊び』があってはいけない。隅々まで帳尻を合わせさせてもらうよ」
佐兵衛はお花を「女」としては見ていなかった。彼は、お花を四つん這いにさせると、まるで検地の際に田畑の起伏を調べるように、執拗にその全身を撫で回し始めた。
「……背筋、一尺三寸五分。起伏に狂いなし」
佐兵衛の冷たい指先が、お花の脊椎の節を一つずつ、骨の数を数えるように押し潰していく。お花が屈辱に身を震わせれば、彼は物差しの角でその肌を鋭く叩いた。
「動くな。計算が狂う。……お前はもう、人間ではない。名主様の蔵に納められた『一等品の器』だ。器にどれほどの容量があり、どれほどの歪みがあるか……それを正確に記すのが、俺の理屈だ」
佐兵衛は、お花の四肢の関節を無理な角度に曲げ、その可動域を測り、さらには指先をお花の体内の最も深い場所にまで突き立てた。それは情欲ゆえの行為ではない。井戸の深さを測るように、ただ事務的に、無機質な「深さ」と「弾力」を確認するための蹂躙であった。
「……一分二厘の緩み。名主様の『御使用』に耐えうる回数は、余命にして三千四百回といったところか。……ふむ、皮の厚みが足りないな。ここをもう少し捏ねれば、価値が上がるか」
お花にとって、それは暴力よりも堪える絶望であった。自分の肉体が、ただの「数字の羅列」に置き換えられていく。隅から隅まで執拗に検分され、値打ちをつけられる。お花の尊厳は、佐兵衛の理屈という名の「定規」によって、根底から粉砕されていった。
その様子を、源三郎は縁側に腰を下ろしたまま、月明かりを背に眺めていた。彼は腰の**差金**を弄びながら、ボソリと独りごちた。
「……佐兵衛。お前の理屈じゃあ、その女の『心』は何文だ? 帳面には載らねえ端数として、切り捨てるつもりか」
佐兵衛は答えず、ただお花の腿の内側に筆を走らせ、細かな「数字」を書き込んでいった。
夜が明ける頃、お花は泥の中で完全に壊れていた。
「……南無……阿弥陀仏……南無……」
もはや叫ぶ力もなく、ただ狂女のように念仏を唱え続ける。その声は、自分を「モノ」へと変えた佐兵衛への呪詛か、あるいは壊れた自分への葬送か。
佐兵衛は満足げに帳面を閉じ、お花の背中を物差しで一打ちした。
「検分終了だ。……名主様には『極上品』と伝えておくよ」
お花は、衆人の前で裸にされ、測り尽くされた己の肉体を抱きしめ、泥の中に顔を埋めた。その指先が、佐兵衛の足跡がついた土を、静かに、深く、掻きむしっていた。
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