第六話:『四天王襲来、あるいは地獄のスタッフ研修』
魔王城周辺は、百年に一度と言われる大寒波に見舞われていた。 膝の高さまで積もった雪は、魔力をも凍てつかせ、進軍を阻む天然の要塞と化している。
「フハハハ! これほどの雪だ、勇者一行とて足止めを食らっているはず。雪が止むまでは、我が魔王城は絶対安泰よ!」
玉座の間で魔王が豪語する。だが、その足元では、四天王たちがソワソワと落ち着かない様子でいた。 彼らは、自分たちを「わからせた」あの掃除メイドの噂を聞いていた。……もし、彼女がここへ来たら? この散らかった城内を見たら、どうなる?
「……なあ、一応、少しは片付けておかないか? あの女、汚れていると本気でキレるぞ」
火炎の将が小声で提案し、四天王たちは慣れない「掃除」を試みることになった。 だが、それは悲劇の始まりだった。 火炎の将が熱で雪を溶かせば、床は泥水でベチャベチャになり、氷結の将がそれを固めようとすれば、廊下はスケートリンクのような凍結地獄と化す。風の将が埃を飛ばそうとすれば、城中の煤が舞い上がり、土の将がそれを抑えようとして、さらに土砂をぶちまける――。
「……くっ、余計に汚くなった気がするが……」 「気にするな。我ら魔族にとっては、この禍々しい汚れこそが『強さの証』、かっこよさの象徴なのだ……!(強がり)」
四天王たちが必死に自分たちを正当化していた、その時。
ドゴォォォォォン!!!
城門が、内側に向かって盛大にひしゃげた。
「な、なんだ!? 敵襲か!?」
吹雪の向こうから現れたのは、巨大な「岩」をフロントシェイパーのように構え、凄まじい熱気と共につき進んでくる一人の少女だった。
「邪魔です! 雪が積もっていたら、お年寄りが転ぶし、物資の流通が滞るでしょう!」
リリアである。 彼女は止まらなかった。猛吹雪で視界がゼロの中、「岩さん」を盾のように前に突き出し、重機のごときパワーで雪を左右に跳ね飛ばし続けていたのだ。
『おい小娘! 止まれ! 正面に何かあるぞ、ごちんと言うぞ!』
「止まりません! この先に、雪かきを待っている人たちがいるはずです!」
リリアの「除雪ハイ」は頂点に達していた。聖剣エクスが発する浄化の熱は、岩を通して巨大な「熱線ヒーター」と化し、通り過ぎた後には、まるで高速道路のように舗装され、乾燥しきった完璧なアスファルトの道が完成していた。
そして。
ゴチンッ!!!
猛スピードで突き進んだ岩の先端が、魔王城のメインゲートに激突。リリアの腕力と岩の質量、そして聖剣の魔力が合わさり、門はシールのように剥がれ飛んだ。
「……あら。行き止まりですか?」
リリアがひょいと顔を上げると、そこには泥水と煤と土砂にまみれた、世にも無様な姿の四天王たちが立っていた。
「よ、勇者……!? この猛吹雪の中、どうやって……いや、道ができているだと!?」
門の向こう側を覗き込んだ火炎の将は、絶句した。そこには、魔王城から王都まで続く、雪一つない真っ黒で美しい直線道路が横たわっていたからだ。
リリアの視線が、城内の惨状――四天王たちが「掃除しようとして失敗した」あの泥沼の廊下――に移る。 リリアの目が、スッと細くなった。
「……あなたたち。このお城、不衛生すぎませんか? 雪にかこつけて、手入れをサボっていたんですね?」
「ち、違う! これは……あえて汚しているのだ! 魔王軍の威厳のために、あえて、な!」
四天王たちの必死の強がりを、リリアは「(ニタァ……)」という冷徹な笑みで切り捨てた。
「言い訳は、その泥水を全部飲み干してからにしてください。……岩さん、準備はいいですね? まずはこの『大型不燃ゴミ』たちから片付けますよ」
『……ああ。覚悟はできている。こいつらを磨き抜いてやるのが、今の私の使命らしいからな……!』
除雪によって限界まで高まったリリアのテンションが、ついに四天王へと向けられた。 魔王城・大掃除決戦の幕開けである。
次回予告
第七話:『四天王の間、あるいは地獄のスタッフ研修』
「汚すなら、片付けられるようになってから汚せ……!」 リリアの説教と共に、岩(聖剣)が四天王を粉砕する。 しかしそれは、彼らを「最高の掃除道具」へと再教育する、恐怖のスタッフ研修の始まりだった!




