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聖剣抜去異世界ファンタジー 綺麗にしてください  作者: 白山月


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第四話:『城内の黒い影、あるいは隙間汚れの断罪』

 その夜、王宮の回廊には「静寂」という名の不穏が満ちていた。  魔王軍が放った精鋭、隠密暗殺部隊。彼らは「隠密虫ステルス・バグ」という魔虫を媒介にし、壁の影やわずかな隙間に溶け込む、文字通り「生きた影」だ。

「……フフ、この国の警備などこの程度か。もはや国王の首も同然」

 リーダー格の男が、影の中から壁伝いに玉座の間を目指す。だが、その足が止まった。  前方から、カチャ……カチャ……と、バケツの取っ手が鳴る音と、重苦しい地響きが近づいてきたからだ。

「あら。掃除したばかりなのに、壁の隅に……見たこともない黒いシミが」

 角を曲がってきたのは、リリアだった。背中には、例の「岩さん」を背負っている。

『おい、小娘。……気配がするぞ。闇に潜む、卑怯なネズミどもの匂いだ。これこそ聖剣である私の出番、さあ構えろ!』

「エクスさん、静かに。……見てください、あの巾木はばきの隙間。あんなところに、あんなに真っ黒な『隙間汚れ』が詰まっています。許せません」

 リリアの目は、暗殺者の魔力ではなく、壁と床の境界線に生じた「視覚的な違和感」を捉えていた。

「徹底的な駆除が必要です」

 リリアは背負っていた岩(聖剣)を、軽々と片手で持ち直した。

「ヒッ……!? な、なんだあのメイドは! 岩を、岩を片手で……!?」

 隠密部隊が動揺した瞬間、リリアが動いた。  彼女は岩の平らな面を壁に押し当て、恐るべき速度でスライドさせた。

「スクレイパー・エッジ、発動です!」

 ガガガガガッ!! という猛烈な削岩音が響く。  壁に潜んでいた暗殺者たちは、隠れ場所となっていた魔法の影ごと物理的に「削り取られ」、廊下の真ん中に無様に放り出された。

「ぐはぁっ!? バ、バカな、俺たちの隠密魔法が、物理的な圧力だけで剥がされるだと……!?」

『ははは! 見たか小娘! これが私の放つ聖なる波動……って、待て! 何を、何を狙っている!』

 リリアは倒れた暗殺者など見ていなかった。彼女の視線は、岩をスライドさせたことで露出した、壁の「深い亀裂」に注がれていた。そこにまだ、魔虫の残党が潜んでいる。

「あんな狭いところに……。普通なら手が届きませんが……。……ふふ」

 リリアの口角が、吊り上がった。  今まで見せたことのない、暗く、底知れない、そしてすべてを支配するような笑み。

「ニタァ……」

『……ひっ!?』

 聖剣が悲鳴を上げた。今の笑みは、明らかに「汚れを許さない清掃婦」の域を超えていた。

「エクスさん。あなたの先端……この隙間に、ジャストフィットしますよね?」

『よせ! やめろ! 私は伝説の魔王を貫くための剣だ! 壁の隙間の虫を掻き出すための耳かきではない!』

「嫌なら、もっと熱を出してください。隙間ごと焼き払えば、掻き出す手間が省けますから。……ね?(圧)」

『……わ、分かりました……やります、やればいいんだろう!』

 刹那、聖剣から最大級の浄化の光が放たれた。暗殺者たちを焼き、隠密虫を消滅させ、同時に壁の隙間のカビを一掃する――聖剣始まって以来の「全力の殺菌消毒」である。

 翌朝。  廊下に転がっていた「身元不明の不審者(暗殺者)」たちが騎士団に捕縛されたが、リリアの関心はすでに別のところにあった。

「エクスさん、昨日はお疲れ様でした。あなた、意外と恥ずかしがり屋さんなんですね」

『なっ……何を、何の話だ!』

「岩ごと戦う姿を騎士団に見られるとき、あなた、熱くなって震えてましたよね? あれ、摩擦熱じゃなくて『照れ』でしょう?」

 リリアは、昨夜の戦いの最中に感じた「聖剣の精神的な揺らぎ」を完璧に把握していた。  フラッシュバックするように、聖剣が「手柄は貴様のものだ」と謙虚に振る舞っていた不自然な態度を思い出し、すべてを理解する。

「……ふーん。伝説の聖剣様も、この『岩付き』のお姿は、お恥ずかしいんですね……?(ニタァ)」

『…………死にたい。私は、今すぐ錆びて砕け散りたい』

 リリアという「主」の恐ろしさを、聖剣が魂に刻んだ瞬間であった。



次回予告

第五話:『国内拠点攻略、あるいは頑固な蓋の引き剥がし』

魔王軍の拠点を叩くため、騎士団長と共に進軍するリリア。 立ちはだかるのは、鉄壁の魔法結界。 「……あー、こういう『剥がしにくいシール』みたいなの、本当にイライラします」 岩さんの角が、世界の理(結界)をベリベリと剥ぎ取っていく!

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