第四章 頑丈
第四章 頑丈
カウンターの女性は、困惑したように首をひねっていた。
「……おかしいのよね?」
マヤが持ち込んだコモドラゴンを、じっと見つめている。
ワニほどの大きさとはいえ、れっきとした魔物だ。
「あなたのスキルや等級じゃ、絶対に狩れないはずなのよ」
水晶玉のはめ込まれた虫眼鏡で、爪先から胴体、尻尾の先まで丹念に調べていく。
「市場で買った……なんてことはないわよね?
買い取り価格より高くなることはないし、普通はやらないけど」
背後の男が苛立った声を上げた。
「おい、こっちも並んでんだ。早くしろ」
「あっ、すいません」
女性は慌てて査定を終え、報酬袋を差し出した。
「はい、これが報酬ね」
マヤは静かに受け取る。
その直後――
「……一度、正式に実力を測ってみましょうか」
訓練場には、F級からB級までの剣士たちが並んでいた。
「誰と戦いたい?」
マヤは迷わず答える。
「一番強い人で」
制止する間もなく、前に出たのはB級冒険者――ハヤブサ。
周囲がざわめく。
「私は止めたからね……」
カウンターの女性が小さくつぶやく。
「ハヤブサのアニキ相手じゃ、おじょうちゃん手も足も出ねえぞ」
ハヤブサは静かに剣を構えた。
「――はじめ」
次の瞬間、地面を蹴り裂くような速度で突進する。
(早すぎる――止まらない!)
振り抜かれた剣が、一直線にマヤの肩へ吸い込まれた。
ドン――ッ!
地面が震えるほどの衝撃音。
「……やっちまったか」
ハヤブサは目を閉じ、舌打ちする。
だが恐る恐るまぶたを開くと――
そこにあったのは。
弓を引き絞り、矢を自分の眉間へ突きつける少女の姿だった。
「……これって、どういう状況だ?」
彼の全体重を乗せた一撃は、
マヤの鎧を裂き、肌にまで届いている。
それでも――
マヤは一歩も崩れていなかった。
呼吸も乱れず、静かに狙いを定めている。
周囲の冒険者たちが息を呑む。
「おじょうちゃん……痛くないのか?」
「……私は大丈夫です」
淡々とした返答。
ハヤブサは乾いた笑みを浮かべた。
「で、どっちの勝ちだ?」
カウンターの女性が静かに告げる。
「模擬試合なら――
先に攻撃を当てたハヤブサさんの勝ちでしょう」
一拍。
「でも、実戦なら――
あなたは今、死んでいました」
ざわめきが爆発する。
「おいおい……B級と互角かよ」
「いや、それより――」
誰かが震える声で言った。
「どんだけ頑丈なんだよ……」
視線の中心で、マヤだけが静かに立っていた。
まるで――
常識の外側にいる存在のように。




