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第一章 魔法道具屋

第一章 魔法道具屋


マヤは、魔法道具屋の娘である。

「今日もお客さん来ないね」

店主であり母でもあるマートは、肩をすくめて笑った。

「この店はね、夜にしかお客は来ないんだよ」

――それは、ちょうどマヤが眠っている時間だった。

店の前に広がる短い路地と、この小さな魔法道具屋。

それが、マヤにとって世界のすべてだった。

ある日、マヤが目を覚ますと、店の奥から奇妙な音が聞こえてきた。

そっと覗くと、白い霧でできた男が、ひとりの少年の足首をつかみ、

ナイルの水へ沈めては持ち上げる、という行為を繰り返している。

「……あの子、大丈夫なの?」

不安げに尋ねるマヤに、マートはあっさりと言った。

「大丈夫さ。たぶんだけどね。

 お前だって小さい頃、ナイルの水に浸けたんだから。

 ほら、元気に育ってるだろ?」

やがて霧の男は音もなく消え、少年は解放された。

マートは棚からスクロールを取り出し、次々と少年に魔法をかけていく。

使い終えたスクロールは無造作に床へ投げ捨てられ、足元に散乱していった。

その様子を、マヤは物陰から興味深そうに見つめていた。

「……私も、やってみたい」

しばらくして、マートは盾と少年を馬車に乗せ、どこかへ出て行った。

店内には、マヤひとりだけが残される。

「いたずらするチャンスね」

床に落ちたスクロールを拾い上げ、しばらく迷う。

「……私自身にかけるしかないのか」

震える指で、一枚、また一枚と魔法を自分に施す。

「……あの子と同じスクロールは、全部かけたわね」

そのとき、扉が開き、マートが戻ってきた。

散乱したスクロールと、青ざめたマヤを見て、目を見開く。

「……私は、こんなにあの子にスクロールを使ったのかい?」

そして低い声で言った。

「マヤ。お前は、こんな魔法を覚えるんじゃないよ。

 私みたいなのが強くなりすぎるとね、世間様はすぐ“魔女裁判”なんて言い出すんだから」

マヤの顔から、さっと血の気が引いた。

そこへ、ドルジおじさんが店にやって来た。

「ヘルメス教の会報です」

マートは無言で、金貨の入った袋を差し出す。

「これで、まともな研究施設が建てられるだろ?」

ドルジは深く頭を下げた。

「ヘルメス教発展のため、ご協力ありがとうございます」

「世界最先端の技術が、ヘルメス教にはあるからね」

ドルジは少し誇らしげに言う。

「なんせ未来では、国連本部の旗にまでヘルメスの紋章が――」

「その“国連ナントカ”ってのは何だい?」

「……い、いや、今のは言い間違いで。

 とにかく技術が集結している、という意味ですよ」

マートは呆れたように笑った。

「あんたは、たまに変なことを言うねえ。

 未来が分かるなら、この国の行く末はどうなるんだい?」

ドルジは肩をすくめる。

「そういうことは、さっぱりでして」

「やっぱり未来なんて、分からないじゃないか」

それだけ言うと、ドルジは静かに店を後にした。

――マヤの小さな世界は、

まだ何も知らないまま、静かに揺れ始めていた。


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