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女スパイ候補の中に放り込まれた俺、狼になる。人狼ゲーム的な意味で

作者: 梅上

「このクラスには実は男子が一人いる」


 と、女子高の教壇で担任はそう言い放った。

 瞬間、教室に走る激震。

 

 そわそわと、女スパイの卵たちが周囲を伺い始める。

 いずれも一年間、同学年のライバルを蹴落とし厳しい訓練を突破してきた才女達。

 

 人間も人外も問わずスパイとして送り出すための国立養成機関!

 彼女たちは国の未来を支えるエリートたち!

 

「男子を特定できた生徒は無条件で卒業条件達成だ。ライバルから一歩先んでるチャンスだな。では授業を始める」


 そうこれは、スパイとしての生き残りを賭けたデスゲーム……。

 

(えっ、ってことは男子を見つけたらハニトラ訓練でやったあんなことやこんなことを実践していいって事!?)


 ではなく! 欲求不満な女子の群れに放り込まれた男子が己の貞操の為、特定されないように立ち回る人狼ゲームである!

 エリートだって人間だもの。

 

(えーこわあ……なんかみんな目の色変わったんだけど)


 主に色欲的な意味で。

 空手一筋で生きてきた弾正小野子だんじょうおのこ。周りのこのテンションについていけない。

 所在なさげにポニーテールを弄る。

 

 授業が終わるなり、一人の女生徒が――この教室には見た目女生徒しかいないが――立ち上がった。

 クラスの他19人の視線が彼女に集まる。

 

「みんな落ち着こう。男子が誰かなんて疑心暗鬼になっても仕方ない」


 どこか王子様然とした凛々しさを美しさに変えた姿。


「先生の何時もの手だよ。去年ああいう偽装情報でどれだけ僕たちが踊らされてきたのか思い出そう」


 天王寺彩てんのうじあや

 

 正しい情報を得る。それはスパイの大原則。

 それを知らしめるために学園は定期的に偽情報をばらまく。

 

 彼女の言葉は一理ある物だった。

 その冷静さはクラスの方向性を定める物。

 いつもなら。

 

「あやしい」

「うん、怪しい」

「前々から下手な男子より男っぽいと思っていた」


 今向けられるのは疑念の眼。

 

(真っ当な事言ってるのにかわいそ……)


 小野子は一気に窮地に立たされた彩を憐れむ。

 正論が、人を救う事はあんまりないのだ。

 

「み、みんな?」


 獣めいた視線に彩は後退る。

 ハニトラの訓練を受けている以上、相手の感情を読むのは必須。

 

 盛り上がっているか居ないか。

 その判別はこのクラスにいる者なら誰でも出来る。

 

 だから彩にも分かった。その――欲に塗れた視線が。

 小野子も、ちょっと自分の視線に欲が混じっていないか心配になる。


「およしなさいな。皆さん」

御城みしろくん……」


 緩やかなウェーブのかかった金髪を揺らしながら、何故か教室に持ち込まれたティーセットで優雅にお茶を飲む少女。

 御城早苗。このクラスの委員長である。

 

(いっつも思うけど、あのティーセット自前で持ち込んでんのかな……)

「そんな風に一人を囲むのは淑女らしくありませんよ」

「でも御城さん……天王寺さんは怪しいですよ! 今までの王子様ムーブ……あれが全て男だったのなら説明が付きます」

(……つくかな?)


 小野子、首を傾げる。


 そんな事は無い。

 露骨な王子様ムーブなど出来る男はそうはいない。

 

 だが、一般的な男子をあまり知らないある意味純粋培養の彼女たちはそれに気づかなかった!

 

「ええ。私も天王寺さんには疑惑があります。だから……」


 にこっと高貴な笑みを浮かべながら。

 

「手っ取り早く脱がせて確かめましょう」

「淑女らしさは!?」


 彩の悲鳴のような声は無視して、不意を突いた数名が取り押さえにかかる。

 

 いざという時には障害を力づくで排除してでも情報は持ち帰るべし。

 その精神は彼女たちの中に根付いている。

 

 今がその時! 皆の心は一つになった。

 

 多分、その時ではない。

 

「あ、ちょっと! 下着! 下着は許して!」

「天王寺さん、往生際が悪いですよ。身体中の穴という穴に隠すすべを私たちは教わっているハズ。下着を残して脱走されたらどうするのですか」

「その穴があるか無いかを確かめるだけなら下着の上からでもいいだろう!?」


 あまりに赤裸々な会話は果たしてここが女の園だからか、それとも女スパイ養成の場という特殊環境からか。

 どちらにしても、一人男がいるというのを完全に忘れた会話である。

 

(恥ずかしくないんかな、みんな……)


 自分だったら異性に下着やその中身の話されてたら恥ずかしいんだけどな、と小野子は考える。

 何とか下着を死守した彩は散々に身体中をまさぐられて教室の隅でさめざめと涙。

 

「お嫁に行けない」

「元気出して。でも女スパイが嫁入りは多分無理じゃないかな?」

「ちゃんと最後まで励ましてよ弾正くーん」


 小野子が剥かれた彩を一応慰める。

 尚言っている事は厳しいが正論。

 何しろ、情報を得るためには偽の家族を作ることもあるのだから。

 

「さて、まあ分かっていましたが天王寺さんは違いましたね」


 何しろ彼女、王子様キャラでやっているくせにスタイルが良い。

 あれ偽物は無いだろ、というのは割と分かっていた。

 

 単に他のみんなが触りたかっただけである。


「分かってたのに脱がせたのかい!?」

「早めに潔白が明らかになりましたね。良かった。男だったら退学ですもの。友人が減らなくて嬉しいですわ」

「凄い高貴な感じのスマイルでごり押してる!」

「上流階級こわあ……」


 笑顔で反論を封殺。

 彩と小野子は二人慄く。

 

「本命はこちらの三名ですわ。安藤さん、諏訪さん、伴さん」


 早苗は三人をびしっと指さす。

 

「貴方達は去年、プールの授業で全て欠席しています。それはつまり、水着姿になれない理由があったのではなくて?」

「アノ御城サマ」

「あら、安藤さん。申し開きがありまして」

「ワタクシ、アンドロイドですので泳げません」


 腕を外して人外アピールをしてくる安藤心韻音あんどうろいね

 早苗の指先が力なく垂れ下がった。

 

「そ、そうでしたわね。あまりに人間然としていて忘れていましたわ。では諏訪さん! 貴方は!」

「私スライムだからプール入ったら溶けちゃうよー」


 どろんと、色を無くして半透明になって潰れながら諏訪いむりは無罪を主張。

 

「そ、そうでしたわね」

「今更だけどアンドロイドやスライムで性別って関係あるのかな……」


 小野子のボヤキに早苗が鋭い目を向けた。


「しっ、センシティブな話題ですわよ!」

「推理ガバくない?」


 自信満々に言い出した割に、精度の甘い推理。

 これが授業なら間違いなく落第である。

 彩の見る目も厳しくなろう。


「じゃ、じゃあ伴さん! 貴方は!?」

「私吸血鬼だから、水苦手なんだよね。だからプールは無理」


 伴羽衣音ばんはいねは気怠そうにそういうが

 その言葉に早苗は会心の笑みを浮かべる。

 

「ええ、ですがそれは男であることの否定にはならない……! 皆様剥いてしまいなさい!」

「淑女らしさを取り繕うことも放り投げたよ、このお嬢様」


 小野子、かわいそうな生き物を見る目。


「お黙りなさい!」

「待って、今日は服の下日焼け止め塗ってないから……あっ」


 じゅっと香ばしい匂いと共に、羽衣音は灰となった。

 

「伴さんが死んだ!」

「この人でなし!」


 彩と小野子が非難するが、早苗はどこ吹く風。


「裏庭に埋めておけば明日の夕方には復活してるでしょう。次は陽の無い時間に剥きますわ」

「吸血鬼よりも鬼だぞこいつ」


 冗談抜きで人でなしの発言だった。

 上流階級とはここまで違う生き物なのかと戦慄するクラス。


「というかこのクラス人外枠多いな?」

「問題児をまとめたって聞いたね僕は」

「なるほど?」


 身の潔白が証明されたのは僅か3名。

 

「さあ手早く剝いていきましょう。次はどなた?」


 全員の視線が早苗に向いた。

 

「な、なんですの貴方達その目は」

「いや、なんかこう場をリードしてるけどさ」

「うん。天王寺さんが男だったら自然に候補から外すよなって」


 人狼ゲームの鉄則がある。

 

「まず最初に確認すべきだったよね。天王寺さんが、女の子かどうか」

 

 それは――目立つと、狙われる。

 つまり剥かれる。

 

(かといって黙り過ぎも良くない。だからほどほどの位置にいるのが一番いいんだよね。脱ぐの、恥ずかしいし)

「み、みなさん。何故わたくしをそんな目で見ますの……!」

「ははは。おかしなことを言うね天王寺くん」


 彩がにっこりと笑顔を浮かべて言った。

 

「早めに潔白が明らかなった方が良いでしょう?」


 絹を裂くような悲鳴。

 因果応報天罰覿面。

 

 ここに悪は滅せられた。

 

 残り候補者――16名。

 

「あ、次小野子くんね」

「え?」

「さっき助けてくれなかったからね」


 キラキラの王子様スマイルを前に小野子は引きつった笑みを浮かべ……。

 

 脱兎のごとく逃走に移った。

 

「逃がしませんわよ!」


 まだ制服を着ていない早苗の長い脚が走り出そうとした小野子を引っ掛けて転ばせる。

 そのまま下着姿でマウントポジション。

 

「ちょっと天王寺さん!? 服着てよ!」


 小野子の悲鳴のような言葉に早苗は上品さをかなぐり捨てた笑みを浮かべた。


「一人だけ逃げようなんてそうはいかないですわよ!」

「うわ、死なば諸共だ」


 と彩が言うが、こいつにだけは言われたくないだろうな、とクラス全員(灰になった羽衣音除く)は思った。

 

「そんなに抵抗しないでくださる……ちょっと、興奮してしまいますので」

「だーれーかー。ここに変態が居ます!」

「大丈夫、ちょっと脱がすだけですから」


 押さえつけたまま、ゆっくりと上着を脱がそうとする早苗に怯えた目を向ける小野子。

 

「て、天王寺さん。何でそんなゆっくりじっくりと……?」

「直ぐに終わってしまっては詰まらないでしょう?」

「あの、その、えっと……」


 目がぐるぐるとあっちこっちに向いた小野子は最終的に。

 

「や、優しくしてください……」


 と顔を赤くして蚊の鳴くような声。

 

「やべえ、鼻血でそうですわ」

「お、ハニトラ訓練の成果出てるね」

(嬉しくない褒められ方……)

「勢い余って下着まで剝いでしまいそうですわ」


 最早貞操の危機! と小野子が本気で脱出しようとしたところで。

 

「よーし次の授業始めるぞー……おい天王寺。そういうのは見てないところでやれ見てないところで」

「い、いえしかし! これは大事な事なのです! 男子が誰かを特定するためにも!」

「お前何言ってんだ。卒業条件満たせるのは一人だけだからこんな衆人環視の中でやったら意味ねえだろ。馬鹿言ってないでさっさと席戻れバカ」


 解放された小野子は自分の席に戻りながら熱くなった頬に触れる。

 

(危なかった……天王寺さん、あんな格好で密着されたら流石にこっちも恥ずかしいというか……なんというか)


 言動がかなり残念寄りだが、女スパイとして容姿が優れたことも求められているので早苗の見た目はクラスでもトップクラスに良い。

 女の園では彩と並んで人気があった。お姉さまと呼びたいランキング2位らしい。


(それに、下着まで取られたら危なかった。コツカケしてるのがバレちゃうとこだったよ)


 琉球空手。コツカケ。

 睾丸を体内にしまう技である。

 つまり――。

 

(紳士……じゃなくて淑女協定として下着は脱がさないで上から確認する、くらいはこの流れなら提案できるかな。後二年、逃げ切らないと)


 ポニテ空手女子改め!

 女装空手男子、弾正小野子である!

 

(ところでなんで天王寺さんずっとこっち見てんだろう……疑われてる……?)


 小野子は知らない。

 そう、世の中には……。

 

(弾正さん……ふっふふ。先ほどの一時。大変心が躍りました。ええ、蒙が開けましたわ。ハニトラの実践……別に、同性でも行けますわね)


 同性でもオッケーという人がいるのだ。

 早苗の視線に、小野子は背筋を震わせた。

新作:余命宣告された義妹を救うため命懸けのダンジョン成り上がり

大分毛色が違いますが、こちらもよろしくお願いします。

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